平成3年版
図で見る環境白書


 第1節 環境の現状

  1.地球環境問題の現状

  2.国内の環境問題の現状

 第2節 地球とともに生きる人類社会

  1.生存と共存のための環境政策

  2.1972年国連人間環境会議から1992年国連環境開発会議へ

  3.経済社会の変化

 第3節 行動の段階に入った地球環境問題

  1.国際的取組

  2.国内の取組

 第4節

  1.自動車と環境問題

  2.さまざまな交通手段の利用による二酸化炭素の排出抑制

  3.いろいろな自動車の導入による窒素酸化物の減少

 第5節 自然への人のかかわり

  1.国際協力の強化によって地球の生態系をまもる

  2.自然とのふれあいの推進






この本を読まれる方に

 環境問題への関心が、再び世界中で高まっています。1972年にスウェーデンのストックホルムで国連人間環境会議が開催されてから20年がたち、1992年6月にはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「環境と開発に関する国連会議(国連環境開発会議)」が開催されます。毎週のように開催されている環境に関する国際会議の成果は、この国連環境開発会議に集約されようとしています。
 世界が今日直面している環境問題は、この20年の間に地球的規模で拡大し、深刻さを増してきました。これに対処していくには、国際協力を一層強化するとともに、国内及び国際社会の経済社会構造にまで踏み込んで経済社会活動自体を環境にやさしいものに変えていくことが必要です。
 こうしたことを考える基礎としては、政府が毎年国会に提出する公害の状況に関する年次報告「環境白書」があります。しかし、環境白書が広く国民の各階各層に読まれることは、望ましいことではありますが実際には困難です。そこで、その内容を簡潔で、しかもグラフや写真を加えた、誰にでも理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この本が多くの方に読まれ、活用されることによって、環境問題に対する理解が広まり、よりよい環境が生まれるようになることを願っています。


第1節 環境の現状


1.地球環境問題の現状


オゾン層の破壊

 成層圏のオゾン層は、有害な紫外線を太陽光線から吸収して、地球の生物を保護する宇宙服の役割を果たしています。有害な紫外線が増加すると、人々の体に皮膚ガンや白内症等の健康被害が生じるだけでなく、植物やプランクトンの成長にも悪い影響を与えます。
 しかし、現在成層圏オゾン層の破壊が明らかになっています。南極上空では、春先に広い範囲にわたって急激なオゾンの減少(オゾンホール)が観測され、北半球の中高緯度地域でも1970年代からオゾン量が減少する傾向にあります。日本でも、札幌市などで減少が記録されました。
 オゾン層を破壊するフロン等の物質は、大気中に放出されてから長く残ることから、国際的な約束(モントリオール議定書)に従って2000年にフロンが出されなくなっても、オゾン層の破壊は続くことになります。

オゾン全量分布(1990年3月)
オゾン全量分布(1990年3月)
11年平均値(1979~1989年)からの偏差(単位:%)
(備考)米国宇宙航空局(NASA)のデータに気象庁がドブソン分光光度計による補正を加え作成したもの。


地球温暖化

 地球温暖化は、人間の活動による二酸化炭素などの「温室効果ガス」の放出で、気温が上昇することをいいます。
 国際機関の報告書によれば、気温は過去100年間に0.3~0.6℃上昇しており、海面も10~20cm上昇しています。このまま対策がとられなければ2025年までに気温は1℃上がり、2030年までに海面は約20cm上がると推計されています。
 1988年には、世界で約58.9億トン(炭素換算)の二酸化炭素が排出されており、排出量の半分以上が米国、ソ連、中国によって占められ、日本は世界第4位(4.7%)です。
 日本では、主にエネルギーの利用によって二酸化炭素が排出されており、エネルギー利用による二酸化炭素排出量をみると、産業部門が約3割を占めています。

1980年代における人間活動の地球温暖化への温室効果ガス別寄与
1980年代における人間活動の地球温暖化への温室効果ガス別寄与

1980年代における人間活動の地球温暖化への部門別寄与
1980年代における人間活動の地球温暖化への部門別寄与
(備考) IPCC報告書より。


酸性雨

 酸性雨は、化石燃料等が燃えるときに発生する硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質が混ざった通常pH(水素イオン濃度)5.6以下の雨をいいます。
 欧米では、酸性雨は、木を枯らしたり、湖や川に魚を住めなくするなど大きな被害をあたえています。日本でも、欧米と同じくらいの酸性度の雨が観測され、影響が心配されます。
 また、酸性雨は、周囲の国に被害をもたらすおそれもあり、国を越えた取組が必要となっています。中国、韓国でも一部取組が始まっており、東アジア地域における酸性雨の観測や研究協力をしていくことが必要です。

地域別の二酸化炭素排出量の将来予測
地域別の二酸化炭素排出量の将来予測
(備考)1.IPCC報告書より。
    2.エネルギー起源の排出量のみ。

欧州における酸性雨による森林被害(提供:静岡県)
欧州における酸性雨による森林被害(提供:静岡県)

森林、特に熱帯林の減少

 世界の森林面積の推移をみると、開発途上国が多い南米、アフリカなどでは減少しています。
 1981年の国際機関の調査結果では、世界で毎年、本州のほぼ半分の面積(1,130万ha)の森林が失われているとされていましたが、1990年4月の報告では、その減少の程度は更に著しくなり、日本のほぼ半分の面積(1,700万ha)の森林が毎年失われています。
 森林は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収してくれるだけではなく、災害を防止したり水の供給などにも役立ち、特に熱帯林は、多くの生物種のすみかとしても重要です。しかし、開発途上国では、急激な人口増加とそれによる農地の拡大、生活のための薪の利用などが原因で森林の管理が遅れています。

世界の森林面積の推移
世界の森林面積の推移
(備考) 1.FAO「生産統計1989」より作成。
     2.1973年を100とした。


その他


 そのほかにも地球環境問題には様々なものがあります。地球上の生物種は、2000年までに50~100万種が絶滅すると予測されており、1968年のサハラ南縁のサヘル地帯の干ばつで有名な砂漠化の問題もあります。有害廃棄物の越境移動による環境汚染や湾岸戦争での原油の流出のような海洋汚染も地球的規模の環境問題です。さらに、開発途上国では、首都圏などで経済の発展による公害が発生しており、また、大気汚染などの都市・生活型公害にも悩まされています。このため、開発途上国に、公害を発生させないような経済協力を行うとともに、直接公害問題の解決に役立つ協力もしていく必要があります。

2000年までの野生生物絶滅予測
2000年までの野生生物絶滅予測
(備考)1.米国政府特別調査報告書「西暦2000年の地球」より。
    2.森林減少率最低位のケース。


熱帯林の破壊(提供:WWF) バンコクの大気汚染(提供:UNEP)
熱帯林の破壊(提供:WWF) バンコクの大気汚染(提供:UNEP)


2.国内の環境問題の現状


大気汚染

 大気汚染についてみると、二酸化炭素の濃度は、昭和61年度から悪化しており、平成元年度も高い濃度が続いています。
 二酸化硫黄、一酸化炭素についてはほとんどの地点で環境基準(人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい基準)が達成されていますが、光化学スモッグ注意報発令日数は年により大きく変化し、平成2年は元年に比ベて多くなっています。
 浮遊粒子状物質についての環境基準の達成率は依然として低く、浮遊粒子状物質の2~4割はディーゼル車からの黒煙が原因になっています。

二酸化窒素濃度の推移(昭和45~平成元年度)
二酸化窒素濃度の推移(昭和45~平成元年度)

二酸化硫黄濃度の推移(昭和40~平成元年度)
二酸化硫黄濃度の推移(昭和40~平成元年度)
(備考)環境庁調べ。


浮遊粒子状物質の濃度の推移(昭和49~平成元年度)
浮遊粒子状物質の濃度の推移(昭和49~平成元年度)
(備考)環境庁調べ。


水質汚濁

 水質汚濁についてみると、健康項目については、ほぼ環境基準を達成していますが、生活環境項目に係る環境基準の達成状況は全体で74%、水域別でみると河川で74%、湖沼で46%、海域で82%です。また、湖沼、内湾の閉鎖性水域は依然として低い状態となっています。
 このため、第3次水質総量規制及び改正水質汚濁防止法に基づく生活排水対策を推進しています。

生活環境項目に係る水質環境基準の達成率の推移(昭和49~平成元年度)
生活環境項目に係る水質環境基準の達成率の推移(昭和49~平成元年度)
(備考)1.環境庁調べ。
    2.達成率は、(環境基準達成水域数÷環境基準当てはめ水域数)×100(%)
    3.生活環境項目に係る環境基準は、利用目的に応じ河川については6類型、湖沼については4類型、海域については3類型設けられている。


手賀沼、印旛沼、東京湾の発生源別汚濁負荷量の割合
手賀沼、印旛沼、東京湾の発生源別汚濁負荷量の割合
(備考)環境庁調べ。


その他の環境汚染

 騒音に対する苦情件数は公害の中で最も多く、自動車の騒音についても改善されていません。
 廃棄物の排出量は毎年増えてきており、最終処分場の確保や適正な処理が困難な廃棄物の処分が問題になってきています。
 また、ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の心配などが社会的な問題となっており、環境庁は地方公共団体の参考として「ゴルフ場使用農薬に係る暫定指導指針」を定めました。

大雪山国立公園
大雪山国立公園

自然環境の現状

 日本は豐かな自然に恵まれていますが、その自然は、人間活動との関わりの中で大きく変化しています。全国の植生の状況を見ると、森林の割合は国土の約7割と世界的にみても高い割合を保っていますが、自然林の割合は国土の19%にとどまっています。
 日本の動植物種のうち、絶滅のおそれのある動物の種の数は、600を超えています。日本の野生生物が急速に減ったのは、過去には乱獲も影響していましたが、現在では、開発により環境が変化したため、営巣地や産卵地の消滅、行動圏の縮少、エサとなる小動物の減少などが主な原因と考えられます。

公害の種類別苦情構成比 (平成元年度)(%)
公害の種類別苦情構成比 (平成元年度)(%)
(備考)1.公害等調整委員会事務局「平成元年度公害苦情件数調査結果報告書」による。
    2.図中の数値は構成比(%)。


第2節 地球とともに生きる人類社会


 環境問題は、1972年に国連人間環境会議が開催されて以来、この20年の間に大きく変化してきました。この節では、1992年に開催される「環境と開発に関する国連会議(国連環境開発会議)」にむけて、まず、今日の環境問題の特徴を整理し、次いで、様々な環境問題の背景となっている人口、都市、経済、エネルギーの状況について考えてみましょう。


1.生存と共存のための環境政策


地球概念の定着

 この20年の間に、1)地球環境問題をはじめとした環境問題の深刻化、2)東西冷戦が終わって核戦争の脅威が減少し、地球環境問題が人類共通の脅威として浮かび上がってきたこと、3)地球科学や情報通信手段の発達、などの大きな変化により、人々の心に「地球」という概念が定着し、身近な環境問題と地球環境問題とを一つのものと考え、行動することが可能となってきました。

南北間と世代間の利害調整

 地球環境問題に対処するために国際協力を進めていくには、貧困問題など開発途上国の抱える問題を解決し、先進国の人々と開発途上国の人々との共存を図っていかなければなりません。
 また、現在の世代が環境資源を使い果たし、多くの廃棄物を地球に排出すれば、将来の世代が利用できる環境資源は少なくなります。現在発言する機会を持っていない将来の世代の利益も考慮していかなければなりません。

紛争と環境

 湾岸危機においてイラクが起こしたペルシャ湾への原油流出は、史上最大の原油による海洋汚染であり、国際法に違反する環境に対する犯罪行為として国際的に強く非難されています。
 また、イラクにより引き起こされたクウェイト領内の油井炎上により、大量のばい煙や硫黄酸化物などの有害物質が発生し、健康被害、酸性雨、気温低下などの影響を生じることが懸念されています。
 紛争は様々な形で環境に大きな影響をもたらします。「環境破壊行為を戦闘の手段として用いるべきではない」との国際的合意の形成と、紛争に至らないよう平和へのたゆまぬ努力が必要です。

原油の海での海鳥の救出(提供:読売新聞社)
原油の海での海鳥の救出(提供:読売新聞社)



地球環境問題と国内環境問題への同時的対応

 地球環境問題は、国際機関が解決してくれるのではなく、対策はそれぞれの国の中で実行されなければなりません。したがって、地球環境問題と国内環境問題のいずれにも対応できるような環境政策や環境行政組織が作られなければなりません。

日本のリーダーシップ

 我が国には、地球環境問題に対して明確なビジョンを示して国際協力体制を構築していくことが期待されています。具体的には、環境問題に関する経験や対策技術、資金力を活かした環境協力の強化、リーダーシップの発揮、国際機関との協力の強化などが求められています。


2.1972年国連人間環境会議から1992年国連環境開発会議へ


 1972年国連人間環境会議から1992年国連環境開発会議へと至る今日までの経過を、南北関係に焦点を当てて振り返ってみます。

1972年国連人間環境会議

 国連人間環境会議は、1972年にスウェーデンのストックホルムで開催され、「かけがえのない地球(Only One Earth)」のために「人間環境宣言」などが採択されました。この会議では、開発が環境汚染や自然破壊を引き起こすことを強調する先進国と、未開発・貧困などが最も重要な人間環境の問題であると主張する開発途上国とが鋭く対立をしました。

環境と開発に関する世界委員会

 「環境と開発に関する世界委員会」は、日本の提案に基づいて国連に設置され、1987年に報告書「われら共有の未来(OUR COMMON FUTURE)」を国連総会に提出しました。この報告書で打ち出された「持続可能な開発」(将来の世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすような節度ある開発)の概念は、世界的な共通認識となっています。

1992年国連環境開発会議の課題

 1992年6月1日からブラジルのリオデジャネイロで開催予定の国連環境開発会議では、科学、政治、行政、産業、国民生活のあらゆる分野の人々が協力して地球規模での環境問題に対応するため、経済と環境の統合(エコ産業革命)を達成するためのシステムづくりが大きな課題となるといわれています。
 具体的な成果としては、1)気候変動に関する枠組み条約、生物学的多様性保全条約、森林に関する国際的取決め又は合意等の採択、2)環境と開発についての人と国家の行動の基本原則を定める「地球憲章」の採択、3)21世紀に向けて実施すべき具体的行動を定めた行動計画「アジェンダ21」の策定等が検討されています。

1972年国連人間環境会議(提供:時事通信)
1972年国連人間環境会議(提供:時事通信)


3.経済社会の変化


 環境問題は、人口、都市、経済、エネルギーと密接な関係を持っています。これらの問題の現状と環境との関係をみてみます。

人口の増大

 人口は、一人当たりの環境への影響の大きさと並ぶ環境問題の基本的要素で、人口政策は環境政策と密接な関連があります。
 開発途上国の人口の増加は、貧困とあいまって、過度の焼畑による熱帯林の減少、砂漠化の進行等の環境問題を深刻化させています。
 世界の人口は、産業革命以来増加を続けており、現在53億人、今世紀末には62億5,100万人、2025年には84億6,700万人となると推計されています。また、新たに増加する人口のうち、先進国は5%に満たず、95%以上は開発途上国です。

世界人口の先進国・開発途上国別予想
世界人口の先進国・開発途上国別予想
(備考) 国連、World Population Prospects(1988)より作成。


都市化の進展

 都市が急速に拡大し、都市の経済社会活動の拡大に環境対策が追いつかなかったために、生活排水による水質汚濁や自動車による大気汚染など都市・生活型の公害が大きな問題となり、また、都市から身近な自然が急速に消えてきています。
 国連の統計によれば、人口1,000万人をこえる都市は1985年現在11都市あり、このうち7都市が開発途上国にあります。これが、2000年には世界全体で24都市、開発途上国で18都市になると予測されており、特に開発途上国の大都市の人口の伸びが著しくなっています。開発途上国の都市では、農村地域から押し出されてくる人々や都市内で増加する人々を吸収しきれず、スラム街が膨脹して劣悪な環境の中に多くの人々が居住しています。

世界巨大都市の人口増加
世界巨大都市の人口増加
(備考) 国連「Population Division」より。


開発途上国のスラム(提供:PANA通信社)
開発途上国のスラム(提供:PANA通信社)

経済成長

 増加していく世界の人々の暮らしを成り立たせるために、経済の安定的成長は必要です。しかし、環境の価値を適切に反映しないまま経済の成長が続いていけば、地域的な環境問題と地球環境問題とが深刻になり、世界経済の成長を阻むおそれもあります。
 世界経済は、第二次世界大戦後、2度にわたる石油ショックを乗り越えて成長していますが、先進工業国と開発途上国の間の格差はますます拡大しています。世界人口の17%の豊かな国々の人々が82%の所得を得、約61%の貧しい国の人々は世界の所得の5%しか得ていません。

先進国・開発途上国別の人口一人当たりGDPの推移の比較
先進国・開発途上国別の人ロー人当たりGDPの推移の比較
(備考) IMF「1989 International Financial Statistics」等より作成。

GNPと人口の分布
GNPと人口の分布
(備考)1.世銀「World Development Report 1990」より作成。
    2.低所得国・・・1人当たりGNP(1988年)が480米ドル以下。
      中所得国・・・1人当たりGNP(1988年)が481~5,999米ドル。
      高所得国・・・1人当たりGNP(1988年)が6,000米ドル以上。

エネルギー

 化石燃料の利用は、二酸化炭素、窒素酸化物などを排出し、再生の限度を超えた薪炭の過剰な利用は森林の減少や砂漠化を招くなど、エネルギー利用の拡大と環境破壊には密接な関係があります。人口の増加や持続可能な開発に対応していくため、必要なエネルギー需要を満たしていかなければなりませんが、エネルギーの利用効率の向上により必要なエネルギーを少なくすることができます。省エネルギー、代替エネルギー、公害防止等の技術を開発するとともに、経済や社会の仕組みを環境に与える負荷が少ないものへと変革することが必要です。
 世界のエネルギー消費は、戦後の経済の拡大とともに増加してきましたが、石油ショック後、先進国は省エネルギー型経済構造への転換を進めました。しかし、1980年代後半の原油価格の低迷と経済活動の好調によって、再び先進国のエネルギー消費が拡大してきています。一方、開発途上国では一貫してエネルギー消費が増加してきています。

地域別の一次エネルギーの消費量の推移
地域別の一次エネルギーの消費量の推移
(備考) 経済企画庁「平成2年度世界経済白書」より。



第3節 行動の段階に入った地球環境問題


 地球環境問題は、「議論の段階」から「行動の段階」に入り、世界の国々や人々は今できることを実行し始めました。以下、地球環境問題を巡る内外の取組をみていきます。


1.国際的取組


オゾン層の保護

 オゾン層の保護については、「オゾン層の保護に関するウイーン条約」(1985年)と、具体的な規制を講じるための「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)に基づいて国際的な取組が進められてきました。
 1990年6月、ロンドンで、モントリオール議定書第2回締約国会議が開催され、2000年までに特定フロンを全廃すること等の規制強化や開発途上国がフロン規制に参加しやすい条件を整えるための基金の設立等について合意がなされました。

地球温暖化防止

 1990年度は、地球温暖化防止のための国際的取組が大きく前進した年でした。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が地球温暖化のもたらす影響などに関して科学的知見を取りまとめました。我が国の「地球温暖化防止行動計画」をはじめ多くの先進国が二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出量の安定化や削減の目標設定を行いました。11月には第2回世界気候会議に137か国もの多数の国が参加して、立場の違いを超えて協力して地球温暖化の防止に取り組んでいくべきことに合意した閣僚宣言が取りまとめられました。

先進国・アジア地域の取組

 1990年のヒューストンサミットでは、気候変動に関する枠組み条約を1992年までに策定すること等を含む経済宣言が策定されました。また、1991年1月にパリで開かれた第4回OECD環境委員会閣僚レベル会合では、環境政策と経済政策の統合等を内容とするコミュニケが採択されました。
 アジア地域でも、1990年10月にバンコクでESCAP環境大臣会合が開かれるなど活発な取組が行われました。

環境分野の政府開発援助(環境ODA)の拡充・強化

 我が国の環境分野の政府開発援助(環境ODA)は、1989年から3年間に3,000億円程度を目標として拡充することを表明し、着実に実施しています。また、政府開発援助によって開発途上国の環境に悪影響を及ぼすことがないよう、環境への配慮を充実する体制を整備しています。

環境協力「植林事業」(提供:国際協力事業団)
環境協力「植林事業」(提供:国際協力事業団)

温室効果ガス目標設定に関する各国の動向
温室効果ガス目標設定に関する各国の動向


2.国内の取組


政府における対策の推進

 地球環境保全に関する関係閣僚会議は、平成2年10月23日に、「地球温暖化防止行動計画」を決定しました。行動計画は、1991年から2010年までを計画期間とし、2000年以降概ね1990年レベルで一人当り二酸化炭素排出量を安定化させるとともに、排出総量についても安定化に努めることを目標としています。この目標を達成するために、都市・地域構造、交通体系、生産構造、エネルギー供給構造、ライフスタイルのすべてにわたって二酸化炭素排出の少ないものへと変革していくことを定めています。
 また、地球環境を保全し、持続可能な開発を実現するためには、廃棄より再使用、再生利用を第一に考え、新たな資源の投入をできるだけ抑えて、環境中に戻す排出物を最小限にする「リサイクル社会」の実現をめざしていかなければなりません。リサイクルについては「再生資源の利用の促進に関する法律」が平成3年4月に成立しました。

エコライフフェア(環境にやさしい暮らし展)
エコライフフェア(環境にやさしい暮らし展)

地方公共団体の取組

 「地球環境問題への取組は地域から」という考え方が定着するにつれて、地方公共団体の取組も活発化しています。日本の地方公共団体の経済力は外国一国分のGDPに匹敵するところが少なくなく、また、地域住民の環境保全への関心も高まっているため、住民に密着した行政を行っている地方公共団体が地球環境問題に取り組むことは非常に重要です。

企業の取組

 経済団体が地球環境問題に対する基本的見解をとりまとめたり、個別企業において地球環境室などを設置するなど、企業においても地球環境問題への取組が進んできています。こうした企業の環境志向が定着していけば、善意により環境保全活動を行っている人々の大きな助けとなり、さらに企業の事業行動そのものが環境にやさしいものに転換していくことによって、「環境保全型社会」が形成されていくことになります。

地方公共団体の県内総生産と主な国のGDPの比較
地方公共団体の県内総生産と主な国のGDPの比較
(備考) 1.「国民経済計画年報(平成2年版)」、「県民経済計算年報(平成2年版)」、世界銀行「World Bank Atlas 1990」
     2.1ドル=138.33円に換算。
     3.各国は1989年、都府県は昭和62年度(1987年度)。

地域住民の取組

 国民一人ひとりの地球環境問題に対する認識も深まってきており、地域での活動も活発になってきています。6月5日の国連「世界環境の日」に関連して、各地で多くの民間団体が参加し、講演会やリサイクル市、美化清掃活動等が行われています。
 我が国では、国際的な活動を行う非営利の民間団体(NGO)が育っていないといわれますが、リサイクルのための分別回収を行うボランティア団体など、地域における活動を行う非営利の民間団体(CBO)の活動は活発であり、我が国にしっかり根をはったNGOが大きく育つことも期待できます。


環境教育

 環境教育は、国民自身による自己啓発としての学習や住民相互の啓発などを通じた意識変革の作業であって、人間と環境とのかかわりについて理解と認識を深め、責任ある行動がとれるよう国民の学習を推進することです。
 環境教育活動は、リサイクル、美化清掃活動、自然観察会等の実践活動等、民間団体においても広がりをみせています。
 また、環境保全に役立つ商品にマークをつけて国民に推奨する「エコラベル」制度も、環境教育に貢献しています。(財)日本環境協会による日本の「エコマーク」をはじめ、既に、ドイツ、カナダ、北欧諸国で「エコラベル」制度が発足しています。
 学校教育においては、政府によって環境教育に当たる教師のための指導資料が作成されたり、地方公共団体によって環境教育副読本が作成されるなどの取組が行われています。

リサイクルの一例(提供:目黒区)
リサイクルの一例(提供:目黒区)

ドイツ、日本、カナダ、北欧諸国のエコラベル
ドイツ、日本、カナダ、北欧諸国のエコラベル

いろいろなエコマーク商品
いろいろなエコマーク商品



第4節 環境にやさしい交通運輸


 交通手段の発達は、私たちの生活を豊かで、たいへん便利なものとしました。その一方で大気汚染や騒音問題などの環境問題を引き起こしました。また、地球の温暖化、酸性雨など地球的規模の環境問題とも深い関わりをもっています。この節では、環境への負担が少ない交通運輸のあり方を考えてみたいと思います。


1.自動車と環境問題


生活との関わりが深まっていく自動車

 世界の自動車の生産台数は、約5,000万台です。世界の主要な国について自動車の普及状況をみると、米国が最も多く、4人に3台の割合で自動車をもっています。日本の自動車保有台数は平成元年には5,500万台にまで増え、世帯数を超えました。普及率も他の主要国なみに、5人に2台の割合となっています。

渋滞する自動車
渋滞する自動車

自動車と環境問題

1)二酸化炭素の排出
 交通運輸活動に伴って、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素が排出されています。日本では、全体の4分の1弱が運輸部門から排出されており、その量は、戦後一貫して増加しています。運輸部門の中では、自動車が85%を占めています。
2)窒素酸化物
 窒素酸化物の多くが、自動車から排出されています。東京の特別区を中心とする地域では67%を占めています。
3)その他の環境問題
 自動車やオートバイによる騒音や振動、スパイクタイヤによる粉じん問題などが起きています。また、路上に乗り捨てられる自動車が多くなって、社会問題となりつつあります。

主要国運輸部門別交通機関別二酸化炭素排出割合 (1987年)
主要国運輸部門別交通機関別二酸化炭素排出割合 (1987年)
(備考)環境庁調べ。


2.さまざまな交通手段の利用による二酸化炭素の排出抑制


 交通運輸活動に伴い出される二酸化炭素排出量を少なくするため、様々な努力が行われています。

一台ごとの二酸化炭素排出量の減少

 交通機関からの二酸化炭素排出の大部分を占めているのは自動車ですから、自動車一台ごとの排出量を減少させていくことが、最重要課題です。このため、自動車の車体を軽くすることなどによって燃料消費量を減らす努力をしています。また、天然ガスなど二酸化炭素排出量の少ないエネルギーを利用する自動車も導入されています。

さまざまな交通手段の利用

1)交通手段別のエネルギー消費量、二酸化炭素排出量の比較
 旅客一人を1km運ぶのに鉄道に比べて、バスは1.7倍、自家用車では5倍以上のエネルギーが必要です。また、1トンの貨物を運ぶために、内航海運と鉄道はほぼ同量のエネルギーを使っていますが、営利用自動車はその5倍、自家用自動車は17倍のエネルギーを使っています。
 また、二酸化炭素の排出でみると、1トンの貨物を1km運ぶのに、トラックは内航海運の10倍、鉄道の15倍以上の二酸化炭素を排出しています。

交通機関別輸送シェアとエネルギー消費比率(昭和63年度)
交通機関別輸送シェアとエネルギー消費比率(昭和63年度)
(備考) 運輸省「運輸関係エネルギー要覧」より。


2)貨物輸送における交通機関の間の連携
 貨物輸送量(貨物量×輸送距離)の交通手段別の割合をみると、トラックが半分以上を占め、内航海運が44%、鉄道が5%となっています。また、45年度から63年度の間に、トラックによる輸送量は1.8倍、内航海運は1.4倍に増えましたが、鉄道は3分の1まで減少しました。
 今後、できるだけ二酸化炭素の排出を減らしていくためには、ある程度距離の離れた拠点間で貨物輸送を行う場合には、鉄道や内航海運などを積極的に使うこと(モーダルシフト)が必要です。
3)旅客輸送における交通機関の間の連携
 旅客の輸送量(運んだ人数×輸送距離)の各交通手段別の割合は、昭和45年度には、鉄道が半分を占め、乗用車が3割、バスが2割でした。63年度には乗用車が5割を占め、鉄道が3割、バスが1割となっています。
 旅客輸送については、鉄道、バス、新交通システムなどの公共の輸送機関の利用を進めるため、路線の整備をしたり、サービスを向上させることなどが必要です。また、日常の身近な距離の移動には、二酸化炭素も窒素酸化物も排出しない自転車を利用することも大切です。

交通機関別貨物輸送量の推移
交通機関別貨物輸送量の推移
(備考)運輸省「陸運統計要覧」より。


効率の良い輸送となめらかな車の流れ

 トラックには自家用トラックと営業用トラックがあります。このうち自家用トラックは持ち主の都合に応じた活動ができるという良い面もありますが、複数の荷主の貨物を積みあわせることができず、片道輸送がほとんどとなってしまいます。このため、営業用トラックによって往復輸送が行われるよう、帰りに積む荷についての情報が得られるようなシステムが必要です。
 また、1日の平均渋滞時間は5年前と比較して、東京都では13%、大阪府では23%も増加しています。道路を立体交差にしたり、交差点を改良することなどによって渋滞時間を減らし、車の流れを良くする工夫も必要です。

旅客の交通機関別輸送量の推移
旅客の交通機関別輸送量の推移
(備考) 運輸省「陸運統計要覧」より。


3.いろいろな自動車の導入による窒素酸化物の減少


ガソリン車とディーゼル車

 日本では、一台ごとの自動車に対する排出ガス濃度の規制は、年々、厳しくされ、世界でも最も厳しいレベルの規制が行われています。ところが、自動車台数が増え、自動車の中でもガソリン車に比べて排出ガス濃度を減らすことが難しいディーゼル車の比率が増えているために、窒素酸化物による大気汚染はなかなかよくなりません。
 ディーゼル車が増えている背景には、ディーゼル車の方が燃料消費量が少なくて済み、燃料の値段も安いといったことがあります。
 このため、一台ごとの排出ガス規制についても、ディーゼル車に重点を置いてきびしい規制に合格した車へと変えていくことが必要です。

モーダルシフトの担い手
モーダルシフトの担い手
コンテナ船(提供:(株)日本マリン)
上:ピギーバック輸送(トラックを貨車に積んで輸送する)
下:スライド・バンボディ・システム(SVS)(トラックの荷台部分をコンテナ貨車に積み替える)(提供:(株)日本貨物鉄道)



低公害車の選択

 現在は、ガソリンと軽油を燃料とする自動車がほとんどですが、今後は、いろいろなエネルギーを使って走る車の利用も進めるべきです。
 1)電気でモーターを回転させて走る電気自動車は、走るときに全く排出ガスを出さず、騒音も小さいものです。英国では早朝の牛乳配達車として3万台が使われていますし、フランスではごみ収集車として300台が使われています。日本でも定まった路線を走る地方公共団体のごみ収集車などに使われています。
 2)メタノールを燃料とする自動車は、黒煙をほとんど排出せず、窒素酸化物も大幅に減らすことができます。メタノールの性質はガソリンに近いことから、すでにあるエンジンに手を加えることによって作ることができます。
 3)天然ガス自動車は、都市ガスの主原料である天然ガスを燃料とする自動車であり、黒煙を全く出さず、二酸化炭素の排出量も小さく、ディーゼル車に比べで窒素酸化物の排出量を大幅に少なくすることができます。既に天然ガスでもガソリンでも走れる自動車が実用化されています。諸外国では、イタリアの27万台をはじめとして60万台以上が使われています。
 4)このほか、ディーゼル・電気ハイブリッド自動車、太陽エネルギーを利用するソーラーカーなどが実用化に向けて研究中です。

自動車から排出される窒素酸化物の総量抑制

 今後、ディーゼル車を中心に自動車排出ガス規制を一層強化していくこととしていますが、開発計画がたくさん予定されている大都市地域では、交通量がさらに増加すること、ディーゼル車の割合も増えていくことが予想されます。このため、窒素酸化物による大気汚染問題を改善するには、自動車交通量を増やすような物流のしくみを改めたり、自動車に頼らなくても良いまちづくりを進めること、さらには、特定の地域で排出される自動車排出ガスの総量を抑える方策についての検討も必要となっています。






第5節 自然への人のかかわり


 多くの生き物がお互いに関係しあって成り立っている地球の生態系が、私たち人類の活発な活動によってほころびをみせ、存続の脅威にさらされています。
 地球の生態系をまもるためには、国際協力が必要です。また、自然とふれあう機会を増やすことによって、自然を慈しむ心を養うことが大切です。


1.国際協力の強化によって地球の生態系をまもる


貴重な森林の生態系をまもる

 多様な生き物のすみかであり、地球全体を温和な気候に保つことに重要な役割を果たすなど様々な面で貴重な役割を果たしている熱帯林は、年々急激な早さで減少しています。
 森林地域の開発と森林生態系の保全の関係については、国立公園などに指定し、原則として人の手を加えることなく、生態系をありのままの姿で残す「保護」の措置を講じたり、生態系が壊れないように気配りをして開発を行う「持続的開発」を行うことが必要です。このような開発が行われるように、国際連合の専門の機関などによって、「熱帯林行動計画」という計画がつくられ、各国で実施されています。また、国際熱帯木材機関という国際機関では、生態系がまもられるよう気配りがされた森林開発によって切り出された熱帯木材しか貿易の対象にしないという目標を掲げて、具体的な実行方法を考えています。

野生生物をまもる

 野生生物をまもるために「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)という取り決めができています。日本もこの条約に加盟していますが、一部の野生生物については、この条約の例外としています。1992年3月には、京都でワシントン条約の会議が開かれることになっており、こうした例外を早くなくしていく努力が求められています。

熱帯林の破壊 (提供:WWF)
熱帯林の破壊 (提供:WWF)


2.自然とのふれあいの推進


薄くなっていく自然環境と暮らしのかかわり

 地球の生態系をまもるためには、人と地球生態系の関係を、正しく理解することとともに、驚きや恐れといった感性を通じて交流することができるよう、自然とのふれあいの機会を増やして、人々の心の中に自然をいつくしむ心を育てていくことが必要です。
 ところが、日本は戦後、都市のまわりの雑木林を切り開いて都市を拡大させてきました。このため、野生生物がすみかを追われ、オオカミのように絶滅した種もあります。また、遠浅の海は埋め立てられて工場団地などがつくられ、人々が海岸線に出て海と接することができる場所が少なくなりました。
 最近では、豊かな自然の中にゴルフ場など大規模なレジャー施設が盛んにつくられていますが、これが広い面積の森林を切り倒し、野生生物を含めた生態系や景観に大きな影響を与えています。
 その一方で、私たちの生活と自然との関係は薄くなってきています。小学生を対象とした調査によれば、花や草を摘んで遊んだことのない子どもが73%、蛙や虫を捕まえたことのない子どもが59%となっています。自然との関係が薄くなったことにより、子どもたちの心だけでなく、身体にまで影響を与えているおそれがあり、飛び降りる、転ぶといった状況の変化に対してとっさの身構えができなくなったために子どもの骨折が増えているのではないかと心配されています。

オオカミ(提供:国立科学博物館)
オオカミ(提供:国立科学博物館)

農地、林地の都市的用途への転換

(1)森林からの用途別土地利用転換の状況 (用途別林地開発許可面積)
(1)森林からの用途別土地利用転換の状況 (用途別林地開発許可面積)
(備考) 1.林野庁調べにより、国土庁作成。
     2.地域森林計画の対象民有林(保安林を除く。)において林地開発許可制度により許可された開発行為及び許可制の適用を受けない国、地方公共団体等が行う開発行為について連絡調整された面積。

(2)農地からの用途別土地利用転換の状況
(2)農地からの用途別土地利用転換の状況
(備考) 1.「国土の利用に関する年次報告(昭和53年度版~昭和63年度版)」及び「土地の動向に関する年次報告(平成元年度版)」をもとに国土庁作成。
    (数値は国土庁、農林水産省、運輸省及び建設省の資料に基づき、国土庁で推計。)
     2.農地から公共用地への転換面積については、農道、農業用用排水路等農業的土地利用が一部含まれている。


人と自然とのふれあい

 自然と人の活動との関係については、自然環境を生かしながら、地元の人々の生活を豊かにしていく方法を考える、自然環境をまもるための費用は、利用者や社会全体が負担するといった考え方をしていくことが必要です。
 現在、身近な自然をまもるために、お金を集めて貴重な自然を土地ごと買いあげるナショナル・トラスト活動や「ふるさといきものふれあいの里」づくりなどが進められています。また、都市公園を増やす努力も続けられています。
 さらに、自然とのふれあいを深めていくために、旅のあり方も考え直してはどうでしょうか。休みの日には自然にふれてゆったりすごしたいという希望は国民の間に高まってきていますが、旅行会社の商品である旅をみてみると、自然の中でゆったり過ごすだけの旅はあまりありません。世界各地では自然とのふれあいを目的とする「エコツーリズム」と呼ばれる旅が国立公園を活動の場として盛んになってきました。中米のコスタリカを訪れる人の3分の1以上は、この地を選んだ理由として、多様な動植物とふれあえることを挙げています。ケニヤやルワンダなどでも国立公園における野生生物の保護や有能なガイドの養成などに力を入れて、エコツーリズムによる地域の発展を図っています。

自然とのふれあいの場としての国立公園の整備

 国立公園は欧米にみられるように、自然保護運動の強化に役立ち、一人一人の生活の仕方にも影響を与えるといった重要な働きが期待されています。

人と自然とのふれあい(提供:WWF)
人と自然とのふれあい(提供:WWF)

 日本の国立公園を欧米の国立公園と比較してみると、土地全体を国が所有する営造物公園ではなく、民有地も含めて地域指定をして行為を規制したりする地域制を採っています。しかし、知床国立公園のように国有地や公有地が国立公園の大部分を占めているところでは、国民からみれば米国やカナダと同じ条件で整備ができるように思えます。また、国土の広さに占める面積の割合は欧米なみですが、国民一人あたりでみた自然に親しむためのサービスを提供してくれる管理員の数や管理運営のためにかけている費用は、欧米より一けた二もけたも少ないものです。
 特に、米国などの国立公園では、自然について説明してくれるだけでなく、自然の中での遊びやレクリエーションについても指導をしてくれる「インタープリテーション」と呼ばれる活動が行われています。ところが、日本ではインタープリテーションを行おうとしても人材が全く足りません。今後は、質の高いインタープリテーションを行うための研修の充実や人材を必要とするところにすぐ派遣できるシステムづくりなどが必要となっています。


国立公園の国有地・公有地の割合
国立公園の国有地・公有地の割合
(備考)環境庁調べ。

各国の国立公園の比較
各国の国立公園の比較
(備考)1.環境庁調べ。
    2.対象 カナダ:国立公園+国立公園保存地域、1989年。
         米 国:国立公園、1985年。
         日 本:国立公園、1989年。
    3.管理員数 カナダ:1988年度。人・年での集計。
            公園管理及び公園新規指定、施設更新等に携わる職員数。
           米 国:1989年度。national park serviceの常勤職員数。
           日 本:1989年。
    4.費用 カナダ:カナダ公園局の予算額。1989年度。
         米 国:1982年度。一般予算のほか入園料、基金を含む。
         日 本:1990年度。自然公園等維持管理費、施設整備費及び交付公債による特定民有地買上費から、国民公園に係る管理費及び施設整備費を引いたもの。