平成2年版
図で見る環境白書


 この本を読まれる方に

 第1節 地球環境問題の広がり

  1 地球環境問題をめぐる動向

  2 広がる地球環境問題

   (1)地球温暖化

   (2)オゾン層の破壊

   (3)森林、特に熱帯林の減少

   (4)その他の地球環境問題

 第2節 エネルギーと環境

  1 エネルギーの利用に伴う環境問題

  2 エネルギー消費と二酸化炭素の排出

  3 エネルギーの利用に伴う環境問題への取組

   (1)ばいじん、硫黄酸化物及び窒素酸化物の対策

   (2)省エネルギーの推進

  4 環境保全型のエネルギー利用への転換

 第3節 森林資源と環境

  1 森林の持つ多様な価値

  2 我が国と森林資源のかかわり

  3 森林の適切な管理に向けた取組

  4 森林資源の持続的利用に向けて

 第4節 地球にやさしい足元からの行動に向けて

  1 総合的政策対応の指導力の発揮―国の役割

  2 地球から地球へ―地方公共団体の取組

  3 民間企業の責任と貢献

  4 草の根行動―地球市民の役割

  5 持続可能な開発のための開発途上国援助

 第5節 環境の現状

  1 公害の状況

   (1)大気汚染の状況

   (2)水質汚濁の状況

   (3)その他の公害の状況

  2 自然環境の現状







この本を読まれる方に



 我が国の社会経済活動は、地域の環境のみならず地球環境に大きなかかわりを持っています。中でも、化石燃料を中心とするエネルギーの利用は、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素や、窒素酸化物の排出と深く結びついており、環境への万全の配慮が常に必要となっています。また、森林は地球の生態系の重要な要素ですが、熱帯林等の減少は地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすのではないかと危惧されています。
 一方、ここ一、二年の間の地球環境問題に対する世界的な関心の高まりは目覚しく、人々が自らの生活態度、ライフスタイルを見直したり、国や地方政府の政策、民間企業等の事業活動のあり方をも変えていこうという、具体的な行動の段階に移りつつあります。
 それで、これらのことを考えるために「公害の状況に関する年次報告―環境白書―」の内容を、写真を主体とした理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この冊子が多くの方に読まれ、活用されることによって、国内の環境問題や地球環境問題の理解が広まり、よりよい環境が生まれるようになることを願っています。



第1節 地球環境問題の広がり


1 地球環境問題をめぐる動向


 産業革命以来の人間活動の拡大、特に第二次世界大戦以後の世界経済の飛躍的拡大と人口の増加は、地球の環境に大きな負荷を与えてきており、既に人間社会の存続そのものが脅かされてきているといっても過言ではありません。したがって、地球環境問題の解決に向けて世界の人々が一致協力して行動を開始すべきだという認識が広まってきており、国際的な合意形成に向けて相次いで協議が行われています。
 一九八九年七月のアルシュ・サミットにおいては、地球環境問題が中心的な課題の一つとして取り上げられ、我が国は今後三年間に環境分野における援助を三千億円を目途に拡充強化に努めることを国際的に表明しました。また、一九八九年十一月のオランダにおけるノールトヴェイク会合では、二酸化炭素などの温室効果ガスを安定化させる必要があることなどを盛り込んだ宣言が採択されました。
 我が国政府は、平成元年五月に地球環境問題への対策の効果的かつ総合的な推進を図るため、「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し、随時開催することとしました。また、「地球環境問題担当大臣」を置くこととし、それ以来、環境庁長官が指名されています。さらに平成二年十月、我が国の二酸化炭素排出量を二〇〇〇年以降一九九〇年のレベルで安定化させることを目標とする「地球温暖化防止行動計画」が、閣僚会議で決定されました。

モントリオール議定書第2回締約国会議(中央写真)
モントリオール議定書第2回締約国会議(中央写真)


2 広がる地球環境問題



(1)地球温暖化

 大気中に存在する二酸化炭素やメタンなどの微量ガスは、地表面からの熱を大気にとどめ気温を適切に保つ「温室効果」と呼ばれる役割を持っています。しかし、産業革命以来の石炭や石油などの化石燃料の大量使用や森林の減少などを背景に、二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度は次第に上昇してきており、今後数十年の間に急激に気温が上昇するおそれが強まってきています。気温が上昇すると、南極の氷がとけたり、海水が膨張したりして海水面が上昇し、沿岸地方で浸水被害が発生し、また、気候と密接な関係にある動植物の生態系に多大な影響が及ぶことになります。このような影響の大きさについては、まだ良く分かっていない点もありますが、その影響が明白に認識されるようになった時点で初めて対策を取っても、大気中の温室効果ガスを急に減少させることは著しく困難であることから、今から対策を取っていかないと将来取り返しがつかない事態をもたらすことになると考えられます。

温室効果による地球の温暖化
温室効果による地球の温暖化



(2)オゾン層の破壊

 成層圏にあるオゾン層は、太陽から放射される生物に有害な紫外線を吸収する非常に大切な役割を果たしていますが、このオゾン層が洗浄剤や冷媒などに使われているフロンによって急速に破壊される恐れが強まっています。オゾン層が破壊され地上に降り注ぐ紫外線の量が増加すると、皮膚がんや白内障が増加し、また農作物等の成育が悪化するなど地球的規模で深刻な影響をもたらします。このため、遅くとも今世紀末までに特定フロンを全廃することが国際的に合意されています。

南極のオゾンホール
南極のオゾンホール
(単位:ドブソン単位)
(備考)●は南極昭和基地、緯度円は外側から30S、60S。点線は南極大陸。緑色の部分はオゾン濃度の低い部分(オゾンホール)


(3)森林、特に熱帯林の減少

 熱帯林は、世界全体の生物種の約半分が生息し、地球規模での気候緩和に役立つなど貴重な存在ですが、急速に減少してきており、そのスピードも速まっていると考えられています。熱帯林の減少の原因としては、自然回復力を無視した焼畑移動耕作が最大の要因であると言われており、この他にも地方によっては、薪炭材の採取、過放牧、商業用伐採なども要因となっています。


(4)その他の地球環境問題

 ヨーロッパや北米では酸性雨により、森林の枯死、湖沼や河川の酸性化による魚の減少などの被害が生じています。さらに、五百~一千万種あるといわれている野生生物の種は減少の一途をたどっており、二〇〇〇年までに五十~百万種程度の種が絶滅すると予想されています。その他に、砂漠化、海洋及び国際河川の汚染、有害廃棄物の越境移動、開発途上国の環境汚染も深刻な状況となっています。

上段 熱帯林の減少 下段 開発途上国における環境汚染
上段 熱帯林の減少 下段 開発途上国における環境汚染


第2節 エネルギーと環境


1 エネルギーの利用に伴う環境問題

東京大手町における年平均温度の変化(ヒートアイランド現象)
東京大手町における年平均温度の変化(ヒートアイランド現象)
(備考)移動平均(11年)年平均気温(気象庁観測結果)


地球温暖化に寄与する人間活動
地球温暖化に寄与する人間活動
(備考)1.1980年代における温室効果への寄与割合を示したもの。
    2.米国 EPA“POLICY OPTIONS FOR STABILIZING GLOBAL CLIMATE”(1989.2)による。


 エネルギーは、人類の活動の基盤をなしていますが、同時に全ての生物の生存の基盤を構成する環境に対して様々な負荷を与えています。特に、石油、石炭などの化石燃料は、その燃焼に伴って二酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん等の大気汚染物質を排出し、地球温暖化、酸性雨さらに地域的な大気汚染など様々な環境汚染の原因となっています。
 まず地域的な大気汚染に関しては、高度経済成長期に石油消費を中心とするエネルギー需要の増大に伴い、硫黄酸化物を中心とする深刻な大気汚染にみまわれましたが、昭和四三年の大気汚染防止法の制定などにより現在はかなり改善されました。しかし、窒素酸化物による汚染の改善は進まず、その対策が重要な課題となっています。
 酸性雨は、大気汚染物質が雨に溶けて生じると考えられており、我が国でも欧米かそれ以上の酸性降下物量が観測されています。
 また、都市では、エネルギーが高い密度で利用されている上に、アスファルトやコンクリートに覆われているため、郊外に比較して気温が高い「ヒートアイランド現象」が発生しています。
 さらに、地球温暖化の大きな要因となっている二酸化炭素の排出量の増加の大部分は、エネルギー需要の増加に伴って生じていると考えられており、その排出抑制が重大な問題となっています。


2 エネルギー消費と二酸化炭素の排出


二酸化炭素排出量の比較(1987年)
二酸化炭素排出量の比較(1987年)
(備考)1.二酸化炭素は、化石燃料の燃焼によるもので、炭素換算
    2.国連統計、世界銀行統計等より作成


世界地域別二酸化炭素排出量の推移(1950~87年)
世界地域別二酸化炭素排出量の推移(1950~87年)
(備考)1.炭素換算
    2.化石燃料の消費による二酸化炭素排出量のみ集計
    3.国連統計等より作成


 世界のエネルギー消費量は、石油危機の一時期を除き、第二次世界大戦後一貫して増加を続けています。現在は、人口の占める割合が二四%に過ぎない先進国が七五%のエネルギーを消費していますが、今後は、人口増加や工業化の進展を背景として開発途上国のエネルギー消費の増大が予想されています。
 このエネルギーの消費に伴い二酸化炭素の排出量も同様に戦後一貫して増加しています。国内総生産当たりの二酸化炭素排出量をみてみると、我が国は主要先進国のなかでは最も低くなっています。人口一人当たりでは生産活動の活発な先進国で大きくなっています。
 我が国のエネルギー消費は、石炭から石油へのエネルギー転換を伴いつつ経済成長率を上回る率で増大してきましたが、二度にわたる石油危機の際に省エネルギーが著しく進展し、その後は年によって増減はあるもののほぼ横ばいで推移しています。これは、他の先進国に比較して、エネルギー消費に占める割合が高い産業部門において、省エネルギーが大きく進展したことによるものです。
 しかし、我が国のエネルギー需要は、最近になって、昭和六二年度五・〇%、六三年度五・四%と大幅に増加しています。これは、石油価格が低迷していることと、内需拡大を背景に景気拡大が持続していることによるもので、このような傾向が続けば、それに伴う環境負荷の増加が懸念されます。

3 エネルギーの利用に伴う環境問題への取組



(1)ばいじん、硫黄酸化物及び窒素酸化物の対策


 大気汚染防止法の制定以来、降下ばいじんや硫黄酸化物に関しては大きく改善していますが、窒素酸化物に関しては一層の対策が必要であり、窒素酸化物排出量が相対的に多いディーゼル車への対策を検討する際には、ガソリンと軽油の価格差など経済的要素についても検討するなど新たな考え方に立った対策を検討する必要があります。


(2)省エネルギーの推進


 省エネルギーは、硫黄酸化物、窒素酸化物の排出低減に資するとともに二酸化炭素の排出抑制策として有力な手段です。我が国の一次エネルギー投入量のうち有効に利用されているのは三五%に過ぎず六五%は排熱の形で捨てられていますが、このロスを小さくしていくことが重要です。
 そのためには、燃焼によって得られる熱を高温から低温まで何回も使う段階的利用を進めることが必要です。このエネルギーの多段階利用を行う設備としてコージェネレーションがあります。これは、燃焼によって発生する熱の高温部から電力を、電力が作られる際の排熱等から熱を同時に取り出すものであり、電力需要と熱需要が適切に組み合わされた場合には全体としてのエネルギー効率は七〇~八○%にまで向上します。ただし、燃焼温度が高いことから窒素酸化物が多く発生し、これに対する適切な対策が必要です。社会全体のエネルギーロスの縮小のためには、エネルギー効率の向上につながる形でのコージェネレーションの普及の促進を図ることが必要であり、先に述べた環境問題の他にその導入のさまたげとなっている、運転の安定性、料金負担の公平性、既存の電力システムとの整合性などの課題を解決すべくシステム作り、技術開発等をさらに進める必要があります。エネルギーの多段階利用のための設備には、この他にガスの膨脹力を利用して発電するとともにその排ガスで蒸気を作り再度発電するコンバインドサイクル発電、ヒートポンプによる排熱の汲み上げなどがあります。

コージェネレーション(発電設備・排熱ボイラー)
コージェネレーション(発電設備・排熱ボイラー)

コージェネレーションと従来のシステムのエネルギー効率比較例
コージェネレーションと従来のシステムのエネルギー効率比較例
(備考)コージェネレーションについて電力需要と熱需要が適切に組み合わされ、両方を使いつくした場合の例


 さらに、この他にも一層の省エネルギーのために、自工場で使いきれない排エネルギーを熱又は電力の形で社会全体で利用、ゴミ焼却場の排熱など都市の未利用エネルギーの利用、既存の省エネルギー技術の普及、大量交通機関の活用など交通システムの合理化等の交通対策、サマータイム制度など二酸化炭素の排出抑制に資する社会制度の導入などを推進していく必要があります。
 また、一人ひとりが個人の行動のレベルで身近なところから省エネルギーに心がけることが重要であり、その積み重ねによって社会全体として大きなエネルギーの節約をすることが出来ます。過剰冷房や過剰暖房をやめ、使っていない電灯をこまめに消すことなどを実践していき、私たちのライフスタイルを環境保全に役立つものに変えていく必要があります。





4 環境保全型のエネルギー利用への転換






 環境問題とエネルギーには密接な関係があることから、環境保全の観点を考慮したエネルギーの利用を行う必要があります。
 まず、環境保全に様々な面で資する省エネルギーを抜本的に強化し、省エネルギー型の社会を構築していく必要があります。そのためには、先に述べたコージェネレーションなどの導入を推進するとともに、家電製品や自動車などのエネルギー効率の向上を進め、さらに国民一人ひとりの省エネルギーへの意識を高めていく必要があります。
 また、より環境負荷の少ないエネルギーの導入を進めることが重要であり、化石燃料のなかでは天然ガスの導入が望まれます。原子力については、安全性の確保を前提として二酸化炭素等の排出削減に寄与する代替エネルギーとして認識されています。さらに、太陽エネルギーはクリーンなエネルギーとして一層の利用の促進を図り、風力エネルギーや海洋エネルギーなど新エネルギーも開発導入が期待されています。
 また、より高度な省エネルギー技術、新エネルギー技術などの開発を促進する必要があり、なかでも電気自動車、メタノール車など低公害車開発が喫緊の課題となっています。さらに、我が国の進んだ環境保全技術や省エネルギー技術を、開発途上国を中心とした海外に普及することは、地球環境保全の観点から極めて有効です。


第3節 森林資源と環境



1 森林の持つ多様な価値


多種多様な生物を育む豊かな森林
多種多様な生物を育む豊かな森林

 森林の存在は、地球上の熱収支や水収支に大きく影響するとともに、地球上の炭素循環へのかかわりも大きく、地球が生物の生息に適した環境を保っていく上で不可欠な役割を果たしています。また、森林からは木材が産出され、建築材料や家具の材料、紙の原料、そして開発途上国においては重要なエネルギーの供給源となっています。さらに、森林は豊富な植物相を有し、多種多様な野生生物の生息の場となっています。その他にも、水源かん養の働き、山地災害を防ぐ働き、気象緩和の働き、大気汚染物質を吸収する働きを果たすとともに、生活に安らぎ、うるおいを与えています。
 この様な重要な役割を担っている森林、特に熱帯林が今急激に減少してきています。熱帯林の急激な減少により、何万という生物の種とその遺伝子が十分な研究もなされないまま地球上から消えているのです。また、巨大な二酸化炭素の吸収源である森林の喪失により、二酸化炭素濃度を増加させ、地球温暖化を加速させることが懸念されています。一部の国では森林の減少が土砂崩れや洪水等の災害を引き起こし、多大な被害を生じさせています。さらに、開発途上国においては木材資源が枯渇し、薪材の不足などの問題が生じています。


2 我が国と森林資源のかかわり


適切な管理が行われていない森林
適切な管理が行われていない森林

世界の熱帯広葉樹丸太の主要な輸出国、輸入国(1987年)(計2,868万立法メートル)
世界の熱帯広葉樹丸太の主要な輸出国、輸入国(1987年)(計2,868万立法メートル)
(備考)FAO「林産物統計年鑑」より作成。


 我が国の木材消費量は、製材でみると米国、ソ連に次いで多く、合板や紙の消費量は米国に次いで多くなっています。また、我が国の木材自給率は、昭和六三年には三〇%を割り、産業用丸太の輸入量でみると世界全体の四〇%近くを占め、世界有数の木材輸入国となっています。熱帯林との関係をみると、世界全体の熱帯広葉樹丸太の輸出量の約五〇%を輸入しており、主にコンクリート型枠、天井板用などの合板として用いられています。
 このように、世界の森林資源と密接な関係にある我が国では、環境問題に対する国民の関心が高まる中で、日常生活における木材資源のリサイクル利用の途を探る動きが高まってきています。その一つは古紙再生紙の使用で、オフィスで大量に使用されるコピー用紙などを再生紙に代えていく取組が拡大しています。また、割箸についても、関心の高まりを契機として、使用のあり方を考える必要があります。
 ここで我が国の森林の状況をみると、森林率では世界でも有数の森林国でありますが、自然林、二次林が減少し植林地が増加しており、また、都市近郊林も減少しています。森林資源の蓄積は人工林を中心に着実に増加していますが、林業生産活動は近年停滞状態にあり、間伐や枝打ちなどの保育作業が十分に行われないことにより、林産物の生産への支障や害虫の蔓延、火災発生、山崩れの危険を高めることなどが懸念されています。


3 森林の適切な管理に向けた取組


マングローブの植林(フィリピン、ネブロス島)
マングローブの植林(フィリピン、ネブロス島)

 熱帯林を中心とする森林資源の保全は全世界の関心事項となっており、様々な国際的取組が行われています。まず、先進国や国連機関等が協調して熱帯林の保全と適正な開発の推進を図るための枠組みとして「熱帯林行動計画」が策定されており、また、熱帯の森林及び木材流通について生産国、消費国間の国際的な協力を進めることを目的とする国際機関として「国際熱帯木材機関」が設立されています。
 さらに、開発途上国においても自ら多様な政策展開を行っており、例えば、農業と林業を複合的に経営するアグロフォレストリーの普及促進、焼畑跡地への植林、森林保護区の設定などの他、林産業を育成するために丸太や加工度の低い製品の輸出を規制する動きも見られます。
 我が国においても、熱帯林保全のための調査研究や海外林業協力を展開しており、「熱帯林行動計画」の推進や「国際熱帯木材機関」の活動に積極的に寄与しています。
 国内の森林保全のためには、自然環境保全法、自然公園法、森林法等に基づいて、森林の適正な保全が図られています。さらに、政府の策定する諸計画においても、国土の保全や自然保護といった森林の公益的機能についての認識の高まりに応じて、森林資源が有する多面的な機能を総合的かつ高度に発揮させることが目標とされるようになっています。


4 森林資源の持続的利用に向けて


 我が国は、森林の持続可能な利用に向けて国際的な合意形成に率先的な役割を果たしていく必要があります。
 まず、「熱帯林行動計画」や「国際熱帯木材機関」の国際的な取組への貢献を一層積極的に行うとともに、開発途上国における林産業を開発・振興するための投資の促進が望まれています。貿易、投資、援助等に際して熱帯林の持続可能な利用と保全に配慮していく取組を一層進めていくことが必要です。
 また、国内においては、木材資源の節度を保った利用とリサイクルの促進が望まれており、古紙の分別回収や上質紙から再生紙への代替、過剰包装の自粛、フリーマーケットにおける家具の斡旋といった取組を一層進める必要があります。
 さらに、国内の森林の保全・整備に努めなければなりません。都市化が進む中で国民の生活から切り離されることが多くなった森林を国民生活に密着したものに取り戻していくことが必要になっています。都市内の緑を保全・創出していくために、例えば「東京都緑の倍増計画」のように目標を掲げた計画的な緑の整備に向けた取組を広げていくことが重要です。また、熱帯木材の最大の輸入国である我が国は、従来の木材消費、木材貿易のあり方を見直し、国産材の利用を拡大していく必要にも迫られています。





第4節 地球にやさしい足元からの行動に向けて



1 総合的政策対応と指導力の発揮―国の役割


 地球環境問題に対する国の役割としては、まず、基本的な戦略を確立し、それに基づく施策を総合的に推進していくことです。「地球環境保全に関する関係閣僚会議」の申し合わせを基本方針として、これをさらに発展させ、長期的な内政・外交上の重要課題として明確に位置付けていくことが必要です。
 特に、地球温暖化の危機に率先して取り組むため、省エネルギー・省資源対策を抜本的に強化していく必要があり、排熱として捨てられている膨大な量のエネルギーを有効利用するなどあらゆる効率化、高度利用の可能性を探り、各般の省エネルギー対策を強力に推進していくとともに、廃棄物の減量化、輸入資源の減量化等に資するよう資源の有効利用とリサイクルを促進することが重要です。
 また、経済運営、エネルギー利用、資源管理等の施策や制度・体制が持続可能な開発の理念に沿うものか検討し、経済政策に環境保全を統合することが重要です。
 さらに、国民の意識啓発と「環境倫理」の確立が重要であり、そのためには、新しい「環境倫理」に立脚した企業や国民の行動原則を明らかにし、具体的実践の方策を示していくなど、企業や国民が認識を高め、活動に参加していくための政策的誘導を行っていくことが必要なのです。

エコライフ・フェア(環境にやさしい暮らし展)の開催
エコライフ・フェア(環境にやさしい暮らし展)の開催


2 地域から地球へ―地方公共団体の取組


 地方公共団体としては、まず、コージェネレーションや地域冷暖房の導入、ゴミ焼却施設の排熱利用を進めること等により都市全体としての資源・エネルギーの利用効率を向上させるとともに、都市内の自然の保全に努めることにより、環境にやさしいまちづくりを推進することが重要です。
 また、自らの行う行政・事業活動の中で環境に影響を与えているものを洗いだすとともに、古紙の分別回収や再生紙の利用、低公害車の導入、太陽エネルギーの活用等出来るだけ負荷を小さくしていく努力を率先して行い、民間企業や一般の市民、家庭でも同様の行動がとられるよう誘導策を講じていくことが重要です。
 さらに、地球環境問題に関する国際的な調査研究、観測・監視活動に積極的に参加し、協力していくことが望まれています。また、環境行政に関する専門家の派遣、研修生の受け入れ等の活動が行われていますが、開発途上国の環境行政やそのための技術開発、人材の育成等について地方公共団体が果たし得る役割は大きいといえます。
 住民に対する情報提供と意識の啓発や民間団体への支援も重要な役割です。普段から住民に直接的に接している地方公共団体が、地域環境保全基金等を活用しつつ、より細かな広報活動や意識の啓発を行うとともに、学校教育や地域活動の場を通じて環境教育を推進していくことが望まれます。

神戸エコポリス計画
神戸エコポリス計画


3 民間企業の責任と貢献


 民間企業が果たすべき役割も非常に大きなものがあります。まず大事な点は、自らの事業活動が地球環境にどのような影響を与えるか、変化する地球環境からどのような影響を受けるかについて正確に把握することが必要です。
 自らの事業活動や製品・技術が地球環境へ与える負荷を軽減することが大切であり、生産ラインにおける熱管理の徹底、コージェネレーションの採用を進めるとともに、廃棄物になる段階で回収・再生されやすい製品を開発し、使い捨て商品の製造・販売や過剰包装を控えるなど「地球にやさしい」製品やサービスの提供に努める必要があります。
 また、より進んだ或いは革新的な公害防止技術、省資源・省エネルギー技術など環境保全型の技術や製品の開発に努める必要があります。
 海外に進出する際や貿易を行う際に、相手国や地球の環境に配慮することが必要です。有害物質の管理については日本国内並の基準を適用し、我が国では使用禁止になっているものは輸出しないなどの方針を確立する必要があります。
 さらに、地球環境の保全に積極的に貢献する活動を行うことが重要であり、地球的規模での造林計画や地域における緑化運動等に参加したり、環境保全活動を行っている民間団体や公益法人を支援したりすることを通じて地域や地球の環境保全に積極的に貢献していく必要があります。

主要業種におけるエネルギー原単位の推移
主要業種におけるエネルギー原単位の推移
(備考)1.石油化学については、52年度=100として指示。
    2.鉄鋼業については48年度の生産条件に補正した実質原単位、他は名目原単位。
     通産省調べ。


家庭ゴミ中の紙・プラスチック類の細組成
家庭ゴミ中の紙・プラスチック類の細組成
(備考)京都市「家庭ごみ組成調査報告書(昭和62年)」


4 草の根の行動―地球市民の役割


上段 市民による湖岸の清掃活動(長野県諏訪湖) 下段 市民による空カン・空ビン回収(岩手県盛岡市)
上段 市民による湖岸の清掃活動(長野県諏訪湖) 下段 市民による空カン・空ビン回収(岩手県盛岡市)

 まず何より、出来るだけ多くの人々が、自らの日常生活と地球環境がいかに深くかかわっているかを認識する必要があります。環境問題に関する講演会、セミナー、展示会、リサイクル商品交換会、環境教育キャンプ等の催しに積極的に参加したり、新聞・書籍等を通じて得られた知識、経験を積極的に自らの生活の中に取り入れるとともに、友人、家族、子供にも広く伝えることによって、職場や地域社会全体が常にその地域のみならず地球環境にも配慮するような態度が自然に備わっていくことが望まれます。
 また、日常生活における環境への負荷を軽減することを心掛けることが重要であり、節電・節水に努めること、使い捨て商品は使わないこと、「地球にやさしい」商品を買うこと、中古品はリサイクルに回すなどゴミの減量化に努めること、空き缶、空き瓶、古紙の回収に積極的に参加すること、台所から出る廃油や生ゴミはそのまま下水に流さないこと、下水道未整備地域においては合併処理浄化槽を設置すること、断熱材の使用を進めること、太陽熱・光等の自然エネルギーの利用を進めること、なるべく公共の交通機関を利用することなどを実践していくことが必要です。
 さらに、地域ぐるみの環境保全のための活動、例えば、生活雑排水対策、河川浄化や沿道の植栽・美化清掃運動、ゴミの集団回収・リサイクル活動などに積極的に参加することも重要です。


5 持続可能な開発のための開発途上国援助


 我が国の政府開発援助はアメリカに次いで世界第二位となっていますが、環境問題との関連では、環境保全分野への協力を質・量ともに強化していくこと、援助に当たっての環境配慮を徹底すること、「要請主義」を弾力的に運営し環境保全の重要性について啓発すること等が必要です。我が国は、平成元年のアルシュ・サミットの際に、今後三年間に環境分野に対する援助を三千億円程度を目途に拡充強化に努めることとし、地球環境問題への一層の貢献を図る旨表明しました。
 今後の政府ベースの環境協力においては、地球環境の保全に焦点を当てた援助内容の拡充、途上国のニーズに合った適正な技術の開発・移転と人材開発の重視、政府対話の継続・拡充と途上国の参加の確保、我が国における環境協力体制の整備などに特に配慮して進めていく必要があります。
 地方公共団体が培ってきた公害防止、環境保全に関する能力は数々の政府開発援助事業を通じて発揮されています。また、地方自治体が開発途上国の地方政府や都市と技術協力のための取り決めを結び、技術者を派遣したり、地方自治体が直接に外国の地方政府や都市との間で国際環境協力を行うケースも増えてきています。
 民間ベースの環境協力としては、技術者の交流、研修生の受け入れに加え、環境保全対策にかかわる技術移転のための直接投資などいろいろな形で進めていくことが効果的です。


上・下 熱帯林技術者研修施設(フィリピン、ミンダナオ島)
上・下 熱帯林技術者研修施設(フィリピン、ミンダナオ島)


第5節 環境の現状



1 公害の状況



(1)大気汚染の状況


 二酸化窒素の濃度は、昭和五四年度以降改善の傾向がみられていましたが、昭和六一、六二年度と一転して悪化の傾向を示し、昭和六三年度も横ばいで推移しました。大都市を中心とする二酸化窒素による大気汚染は、依然として高い濃度であるため一層の対策が必要とされています。
 二酸化硫黄、一酸化炭素については、ほとんどの観測地点で環境基準が達成されていますが、浮遊粒子状物質については環境基準の達成率が依然として低い状況が続いています。
 また、近年は積雪寒冷地におけるスパイクタイヤの使用に伴う粉じんが問題となっています。
 さらに、酸性雨については年平均値でpH四・四~五・五程度の雨が全国的に観測されており、また、欧米並かそれ以上の酸性降下物量が観測されています。

主な大気汚染因子の推移
主な大気汚染因子の推移
(備考)環境庁調べ。


(2)水質汚濁の状況


 水質環境基準の達成率を見ると、健康項目についてはほぼ環境基準を達成するに至っていますが、生活環境項目にかかわる環境基準の達成率は七四%となっています。
 水の交換が少なく、汚濁物質が蓄積しやすい湖沼、内海、内湾等の閉鎖性水域では依然として環境基準の達成率が低くなっており、中でも後背地に大きな汚濁源がある水域では水質保全のための条件は厳しくなっています。
 また、都市河川についても汚染の水準が高く改善が進んでおらず、汚濁の著しい河川の八一%は都市河川であり、地域別にみると大都市及びその周辺に七八%以上が集中しています。

3海域の発生源別汚濁負荷量の割合(昭和61年度)
3 海域の発生源別汚濁負荷量の割合(昭和61年度)
(備考)環境庁調べ。


生活環境項目に係る水質環境基準達成率の推移(昭和54~63年度)
生活環境項目に係る水質環境基準達成率の推移(昭和54~63年度)
(備考)1.環境庁調べ。
    2.達成率は、(環境基準達成水域数/環境基準あてはめ水域数)×100%
    3.生活環境項目に係る環境基準は、利用目的に応じ河川については6類型、湖沼については4類型、海域については3類型設けられている。


(3)その他の公害の状況


 騒音にかかわる苦情件数は各種公害の中で最も多く、昭和六三年度では全体の二七・七%を占めています。自動車騒音についても環境基準の達成状況は低い水準となっており、改善が見られない状況にあります。
 人の日常生活に伴って生ずるゴミの排出量は、近年一貫して増加傾向にあります。さらに、近年の消費活動の拡大・多様化に伴って排出される廃棄物も多様化しており、また、オフィスのOA化等に伴って紙類のゴミが急激に増加しています。
 このため最終処分場の確保が問題となってきており、特に大都市地域においては深刻な問題となっています。
 化学物質の中には様々な過程で環境中に排出され、残留し、環境汚染の原因となるものもあります。有機スズ化合物やダイオキシン類などは、現時点では直ちに危険な状況にあるとは考えられないものの、環境中から検出されています。



2 自然環境の現状






 全国の植生の状況をみると、森林の割合は国土の六八%と世界的にみても高い割合を保っていますが、その内訳をみると、スギ、カラマツなどの植林地や薪炭材採取など人為的影響を受けて成立した二次林が多くを占めており、自然林の割合は国土の一八%にとどまっています。国土の二四・六%と多くの割合を占める二次林は、人間活動の影響を受けて成立した森林でありますが、核となる自然林とともに良好な動物生息環境を形成するものや、それ自体に特有の動植物種を育むものもあるなど生物種の多様性を維持する上で、様々なタイプの自然林とともにその適切な保全が必要と言えます。
 豊かな自然の代表ともいえる巨樹・巨木林に関する全国レベルの調査が初めて行われ、幹周三メートル以上の巨木の総数は十万本近くあることがわかりました。樹種としては、クスノキ、スギ、ケヤキ、イチョウが多く、ベスト十のうち九本をクスノキが占めています。地域的には、クスノキが近畿以南、ケヤキ、イチョウは東日本に集中し、スギは全国広範囲に広がっています。
 また、野生生物の現状をみますと、開発や産業活動に伴い、かつては身近にみられた野生生物の多くの種が姿を消しつつあり、絶滅の危機に瀕しているものも少なくありません。さらに、日本産の動植物種のうち、絶滅のおそれのある動物の種の数は六百を越えています。



エコマークとは「私たちの手で、地球を、環境を守ろう」という気持ちを表した、環境保全に役立つ商品につけられるシンボルマークです。
エコマークの「エコ」とは私たち人間や生物が生きていけるよい環境という意味です。