図で見る環境白書 昭和60年


 1 安全で快適な都市の環境を築くために

 2 公害の現状と対策

  公害の範囲

  大気の汚染

  水質の汚濁

  その他の公害の現状と対策

 3 自然環境の現状と保全の動向

  自然環境の現状

  自然を守るしくみ

 4 都市化する社会と環境問題

  都市化社会の進展

  都市化に伴う環境問題

  都市化に伴う環境問題への取組

 5 安全でより快適な環境の実現を目指して

  環境影響評価実施要綱の閣議決定

  湖沼水質保全特別措置法の制定

  安全で安心できる環境の確保

  より質の高い環境をつくりあげるための幅広い取組

 6 地球的規模の環境問題

  国際的な環境問題

  地球的規模の環境保全と国際協力の推進

 用語解説




この本を読まれる方に


財団法人 日本環境協会
会長 和達清夫

 近年、経済成長の安定傾向が定着し、省資源・省エネルギー化が各方面で進むとともに環境政策も整備されてきました。こうしたことを背景として、今日産業活動に起因する環境汚染もかなりの改善をみせ、防除の目途もたってきました。一方、生活排水、一般廃棄物、交通騒音、近隣騒音など国民の日常生活に起因する環境汚染要因にも高い関心が払われるようになってきました。
 また、人びとの生活に関する価値観が多様化し、物質的な豊かさだけではなく、精神的なものをも含めた生活の豊かさ、快適さを求める声も高くなってきました。そのためには、現在の公害の防除にとどまらず、自然環境の保全を含めて、環境汚染の未然防止を一層推進する必要があります。
 人びとにとって何が快適な環境であるのか、またどの程度の費用、代償を払って、どのような快適な環境を創造していくのか、その判断は国民一人ひとりの価値観とその合意に委ねるべきものでしょう。
 これらのことを考える基礎としては、政府が毎年国会に提出する公害の状況に関する年次報告が、環境白書として刊行されています。しかし、環境白書が広く国民の各階層に読まれることは、望ましいことではありますが実際には困難です。そこで、その内容を、簡潔で、しかもグラフや写真を加えた、誰にでも理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この本が多くの方に読まれるとともに、次代を担う青少年の教材資料として活用されることによって、環境問題に関する理解が国民の間に広く深く浸透し、よりよい環境が生まれる基盤が培われることを願っております。
(巻末に用語解説を加えました。ご参照下さい。)




1 安全で快適な都市の環境を築くために


環境と人間
 環境は、私たち人間を含むすべての生き物を育ててくれる最も大切な基盤であり、さまざまな恵みをもたらしてくれます。
 しかし、環境が悪くなると、みんなが被害を受けることになります。我が国では、高度経済成長の過程で、四日市ぜん息1)水俣病2)のような深刻な公害問題が発生したり、良好な自然が破壊されたりしました。
 このようなことを二度と繰り返さないことはもちろん、一歩進んで、住みよい快適な環境を積極的につくりあげ、これを子や孫の世代に引き継いでいくことが私たちにとって重要な課題であると言えます。

人工衛星から見た東京(ランドサット5号による観測データをカラー合成したもの)
人工衛星から見た東京(ランドサット5号による観測データをカラー合成したもの)

都市化社会における環境問題
 高度経済成長期には、大都市に急激に人口が集中しました。近年はこの傾向はおさまっていますが、依然として人口の増加は続いています。一方、地方においては、中核都市を中心に人口が増加し、新たに都市圏が形成されつつあります。
 また、都市的な生活様式が地方都市や農村にまで普及してきています。
 このように、我が国はいまや全面的な都市化社会に移りつつあるといえます。
 都市に特徴的な環境問題としては、自動車排出ガス・騒音による道路交通公害問題、生活雑排水による水質汚濁やごみの量の増大、カラオケなどを原因とする近隣騒音、自然の改変による身近な自然とのふれあいの機会の減少などがあげられます。都市化の進展に伴い、今後これらの問題が広がるおそれが十分にあります。

都市の環境の改善に向けて
 以上のような都市的な環境問題は、自動車の走行や生活排水など、一つ一つの活動をとってみれば環境への影響はそれほど大きくはありませんが、たくさん集まることによって問題が生じています。
 このような問題を解決するためには、
 第1に、工場や自動車からできるだけ汚染物質を出さないように規制したり、下水道や廃棄物施設を効果的につくっていくことが重要です。
 第2に、都市の活動を適度に分散したり、工場や道路と住宅を離してつくるなど、都市の構造を公害の影響を受けにくいものにしていくことが重要です。
 第3に、私たち住民一人ひとりがごみの分別収集に協力したり、近所迷惑となる騒音をできるだけ出さないようにすることや、緑化やごみのない美しい街づくりの活動に、積極的に参加していくことが重要です。
 このような幅広い取り組みを行なってはじめて、私達は安全で快適な都市の環境を築いていくことができるのです。

2 公害の現状と対策


公害の範囲

 私たち人間は、豊かで快適な生活を送るために、いろいろな活動を行なっていますが、この活動が適切に行なわれないと、ほかの人々に被害を与えることがあります。このような被害の中で、環境の悪化を通じて起こるものが"公害"と呼ばれています。
 公害を防止するための基本となる事項を定めた「公害対策基本法」では、公害の範囲を次のとおり決めています。
 公害とは、
 1) 事業活動などの人の活動に伴い
 2) 相当の範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって
 3) 人の健康または生活環境に被害が生じること
 となっています。
 2)でいわれている「大気の汚染、水質の汚濁・・・悪臭」の7種類の公害は「典型7公害」と呼ばれています。
 ここでは、この典型7公害を中心として、環境の現状と対策を見ることにしましょう。

都市のスモッグ 昭和46年頃
都市のスモッグ 昭和46年頃

■公害対策基本法
■公害対策基本法

大気の汚染

 大気の汚染とは、大気中にいろいろな汚染物質があって、人の健康や生活環境に悪い影響が生じてくるような状態をいいます。
 汚染物質としては、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)などの硫黄酸化物、二酸化窒素などの窒素酸化物、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダントなどがあげられます。

環境基準
 大気汚染は主に肺などの呼吸器系に影響を及ぼし、濃度によっては人の健康を損なうことがあります。
 このような物質については、人の健康を守るために維持することが望ましい環境上の水準として、環境基準が定められています。

■大気保全の現況
■大気保全の現況

大気汚染の現状
 二酸化硫黄による大気汚染は、毎年着実に改善されてきています。
 二酸化窒素による大気汚染は、昭和48年ごろから濃度はほぼ横ばいで推移してきましたが、ここ数年、やや減る傾向にあります。しかし、一部ではまだ改善が進まず、環境基準の上限値0.06ppmを超える測定局は東京都、大阪府、神奈川県などの大都市地域に集中しています。
 浮遊粒子状物質については、環境基準の達成状況をみると、良くなってはいるものの、依然として低い水準にあります。
 一酸化炭素については、自動車排出ガス規制の効果もあり、環境基準は、昭和58年度にはじめてすべての測定局で達成されました。
 光化学オキシダントによる大気汚染のため注意報が発令されますが、被害の届出人数は、昭和59年には5,822人となり、昭和51年以後では最高の人数となりました。
 さらに、近年、積雪寒冷地におけるスパイクタイヤの使用に伴う、粉じんなども問題になっています。

■主な大気汚染因子の推移
■主な大気汚染因子の推移
(備考) 1. 環境庁調べ。
     2. 二酸化窒素は、ザルツマン係数=0.84の値。


大気汚染防止対策
 大気汚染を防止し、環境基準を達成するために必要なことは、それぞれの地域において、さまざまな発生源から大気中に排出される汚染物質の量を減らすことです。主な発生源としては、工場・事業場と自動車があげられ、「大気汚染防止法」では、こうした発生源ごとに汚染物質の排出を規制しており、昭和60年6月には、ビル暖房、学校、病院などで広く使用されている小型ボイラーに対する規制が追加されました。
 また、大気汚染による被害者の救済のため、事業活動に伴う汚染物質の排出によって健康被害を生じさせた場合には、意図して排出したとか、過って排出したとかを問わず、たとえ過失でやったのではなくても、事業者が賠償責任を負う(無過失賠償責任という)制度が設けられています。

■二酸化窒素に係る環境基準との対応状況
■二酸化窒素に係る環境基準との対応状況
(備考)環境庁調べ。


■光化学オキシダント注意報発令延日数・被害届出人数の推移
■光化学オキシダント注意報発令延日数・被害届出人数の推移

スパイクタイヤによる粉じん(仙台市)(初冬)
スパイクタイヤによる粉じん(仙台市)(初冬)

(初春)
(初春)

水質の汚濁

 水質の汚濁とは、川、湖、海など私たちの生活に密接な関係がある水に有毒な物質が含まれたり、水の状態が悪化したりすることをいいます。
 カドミウム、水銀などによる水質汚濁が起こると、人の健康に被害が生じます。
 また、これ以外に水質の悪化により、飲み水の異臭味、農作物や魚介類への被害など、利水上の問題が生じることがあります。

環境基準
 このようなことから水質の環境基準は、人の健康を守るために維持することが望ましい基準として定められる健康項目と、生活環境を守るために維持することが望ましい基準として定められる生活環境項目の2つから成り立っています。
 健康項目は、カドミウム、シアンなど9項目について、河川、湖沼、海域で一律に定められています。
 また、生活環境項目はBOD(又はCOD)など9項目について、利用目的に応じて分けた水域類型ごとに定められています。

■水質保全の現状(人の健康の保護に関する環境基準の面から)
■水質保全の現状(人の健康の保護に関する環境基準の面から)

水質汚濁の現状
 水質汚濁の状況を健康項目についてみますと、かなりよくなっており、全国の総測定数のうち環境基準に合っていない測定数の割合(不適合率)は、昭和58年度で0.03パーセントです。
 一方、生活環境項目については、環境基準に達していない水域が多く残されています。環境基準の達成状況をBOD(またはCOD)でみますと、環境基準に達している水域は昭和58年度において67.7パーセントとなっています。これを水域別に見ますと、河川65.9パーセント、湖沼40.3パーセント、海域79.8パーセントで、特に湖沼では達成率が低くなっています。都市を流れる中小河川では、一時の深刻な状況は脱したものの、環境基準の達成率は依然低い状態にあります。
 また、地下水汚染実態調査で、トリクロロエチレンなどによる地下水の広い範囲の汚染が判明したため、昭和58年度に追跡調査を行いました。その結果、大部分の井戸で汚染が続いていることが確認されています。

■生活環境に係る環境基準の例(河川)
■生活環境に係る環境基準の例(河川)
(注) 1.自然環境保全:自然探勝等の環境保全
    2.水 道 1 級:ろ過等による簡易な浄水操作を行なうもの
     水 道 2 級:沈殿ろ過等による通常の浄水操作を行なうもの
     水 道 3 級:前処理等を伴う高度の浄水操作を行なうもの
    3.水 産 1 級:ヤマメ、イワナ等貧腐水性水域の水産生物用ならびに水産2級および水産3級の水産生物用
     水 産 2 級:サケ科魚類およびアユ等貧腐水性水域の水産生物用および水産3級の水産生物用
     水 産 3 級:コイ、フナ等、β−中腐水性水域の水産生物用
    4.工業用水1 級:沈殿等による通常の浄水操作を行なうもの
     工業用水2 級:薬品注入等による高度の浄水操作を行なうもの
     工業用水3 級:特殊の浄水操作を行なうもの
    5.環 境 保 全 :国民の日常生活(沿岸の遊歩等を含む)において不快感を生じない限度
(備考)1.農業用利水点については、水素イオン濃度6.0以上7.5以下、溶存酸素量5mg/l以上とする
(図の見方)各段は同一の水質で、右横の基準値によりAA、Aなどの類型に区分され、上の段の類型ほど水質は良好である。各類型は、利用目的ごとに適応できる水準(注)が定められている。上位の類型は、下位の類型の利用目的の水準にも適応が可能である。


水質汚濁防止対策
 水質の汚濁を防止し、環境基準を達成するため、「水質汚濁防止法」などの法律が定められ、さまざまな対策がとられています。
 「水質汚濁防止法」では、汚水を排水する施設を設置する工場や事業場に対して排水基準が定められています。この基準は、健康項目(9項目)と生活環境項目(12項目)のそれぞれの項目ごとに一定の濃度などで示されていましたが、湖沼などの富栄養化の要因となっている窒素、りんについても昭和60年5月に排水基準が定められました。工場や事業場は、排水口でこの基準に適合した排水を行わなければならないことになっています。
 排水基準には、国が全国一律に定めている一律基準と、都道府県がそれぞれの水域の状況に応じて、一律基準よりも厳しく定めている上乗せ基準とがあります。また一部の地域では総量規制基準を設けて規制しています。
 「水質汚濁防止法」では、こうした規制に違反した場合、都道府県知事によって改善命令が出されたり、罰則がかけられることもあります。このほか、水質汚濁による被害者の救済のため、大気汚染の場合と同じように、無過失賠償責任という制度が設けられています。
 また、近年、湖沼の水質汚濁防止対策の強化を図るため、昭和59年7月「湖沼水質保全特別措置法」が制定されるとともに、昭和60年7月から水質汚濁防止法に基づき窒素、燐の排水規制が実施されることとなりました。

都市内中小河川
都市内中小河川

■主要湖沼・内湾の水質汚濁状況(58年度)
■主要湖沼・内湾の水質汚濁状況(58年度)

その他の公害の現状と対策


騒音
 騒音は、公害の中でも日常生活にもっとも関係が深く、その発生源にもさまざまなものがあります。このため、例年、公害に関する苦情のうちで件数がもっとも多くなっています。
 発生源の内訳を苦情件数でみると、工場・事業場の騒音、建設作業の騒音に関するものが全体の約半数を占めていますが、これらは減ってきています。最近では、深夜のカラオケの音、ピアノ、クーラーの音などに関する苦情が多くなっています。
 騒音についての環境基準は、「公害対策基本法」に基づき、住居地域、商業地域などの地域の特性、道路の車線数、騒音発生源の周辺の状況、昼、夜の時間といった区分などに応じた基準値が定められていて、都道府県知事が、それぞれの地域に応じて環境基準を当てはめることになっています。
 騒音対策としては、工場や建設作業の騒音について「騒音規制法」に基づく対策が進められています。カラオケなどの深夜営業騒音に対しては、条例による規制を新設したり、強化したりしています。エアコンや換気扇などについては製造者側で騒音を下げるための努力が続けられています。

振動
 振動は騒音とともに日常生活と深いつながりを持つ問題で、「振動規制法」などに基づいて対策が進められています。その発生源の主なものは、工場・事業所、建設作業、交通ですが、そのほか、橋やトンネルなどから発生する、人の耳には聴きとりにくい低周波数の空気振動についても調査が行なわれています。

■公害の種類別苦情件数及び構成比の推移
■公害の種類別苦情件数及び構成比の推移
(備考)公害等調整委員会「昭和58年度公害苦情件数調査結果報告書」による。


悪臭
 悪臭は生活環境を損なう感覚公害で、苦情件数は近年減ってはいるものの、騒音の次に多くなっています。このため、「悪臭防止法」に基づき、アンモニア、硫化水素などの8物質が悪臭物質として定められ、47都道府県、10大都市などで、規制地域の指定、規制基準の設定が行なわれています。

土壌汚染
 土壌汚染とは、大気の汚染、水質の汚濁などを通じてカドミウム、銅、ひ素などの有害物質が土壌に蓄積し、農作物が育たなくなったり、汚染されたりすることです。昭和58年度までに6,710ヘクタールの農用地が何らかの対策を必要とする地域として指定されています。
 指定された地域では、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づいて、かんがい排水施設の設置、客土などの事業が実施されています。

地盤沈下
 地盤沈下は大都市ばかりでなく、全国各地で認められ、現在、主な地域だけでも36都道府県60地域に上っています。その主な原因は、地下水の過剰な汲み上げによるものですが、地域の地形、地質、土地利用などの状況によって、沈下の現われ方がたいへん異なり、きわめて地域的特性の強い公害です。その対策として、「工業用水法」などにより地下水の汲み上げを規制し、あわせて、水の使用の合理化、水道の整備、ゼロメートル地帯などでの高潮対策などを実施しています。また、地盤沈下防止対策要綱の策定や法制の整備などの検討がされています。

廃棄物と空き缶(かん)問題
●廃棄物
 廃棄物は、生産、流通、消費活動などに伴って発生します。このうち、日常生活に伴って生じるごみの量は、昭和48年の第1次石油危機の後、減少しましたが、最近また増加の傾向にあります。
 廃棄物処理対策としては、現在、「第5次廃棄物処理施設整備計画」(昭和56〜60年度)に基づいて、ごみ処理施設などを整備しています。また、産業廃棄物については、事業者が自ら処理することが原則ですが、国においても、処理対策を確立するための調査をしています。
●空き缶(かん)
 手軽で便利な缶(かん)入り飲み物は、現在多くの人に利用され、年間100億個にもなるとみられています。しかし、空き缶(かん)を投げ捨てる人が多いため、各地に空き缶(かん)が散乱しているのがみられます。
 そこで、地方公共団体では、条例の制定、清掃活動の推進、広報活動などを通じて、空き缶(かん)対策を活発に進めており、収集かごの設置、投げ捨て禁止の呼びかけなどをしています。国も、環境庁など11省庁で「空き缶(かん)問題連絡協議会」を設置し、投げ捨て防止についてのPR、キャンペーンなどをしています。

清掃活動によって収集された空き缶
清掃活動によって収集された空き缶

■日常生活に伴って生ずるごみの排出量
■日常生活に伴って生ずるごみの排出量
(備考)厚生省調べ。


化学物質
 化学物質は、その用途・種類が多岐・多様であり、現在工業的に生産されているものだけでも数万点に及ぶといわれています。これらの中には、製造、流通、使用、廃棄物のさまざまな過程で環境中に排出され、しかも分解されにくいなどの性質を持つことから、環境中に残留し、環境汚染の原因となるものもあります。
 こうしたことから、環境庁では、化学物質の環境における安全性を評価するため、水質、底質などの汚染実態を明らかにするための環境調査を行なっています。このうち環境中の濃度レベルの推移を長期的にみていくことが必要なものについては、魚介類などを指標生物とした生物モニタリング調査を続けています。
 昭和57年度の環境調査で、白アリ駆除剤として使用されているクロルデン類が底質や一部の魚から検出され、昭和58年度からは生物モニタリング調査を行っています。この結果、大部分の調査地域の対象生物種から検出されており、昭和59年度以降も引き続き監視しています。
 また、近年、トリクロロエチレンなどによる地下水汚染が明らかにされたり、ごみ焼却灰から検出されたダイオキシンや使用済み乾電池に含まれる水銀によって、将来汚染の問題が発生する可能性が指摘されるなどの状況にあります。こうしたことから、化学物質による環境汚染の動向に注意しなければなりません。

3 自然環境の現状と保全の動向


自然環境の現状


動植物の状況
 わが国の国土は、四面を海に囲まれ、南北に細長い形をしています。気候的には、亜熱帯から亜寒帯まで広がり、地形が複雑なこともあって、いろいろな動物や植物が生息しています。また、四季を通じて雨量に恵まれているため、森林が広い範囲に広がっています。
 植物の分布状況を見るとその種類はきわめて多く、北海道、本州、四国、九州には約990属4,000種の種子植物と約400のシダ植物がみられます。さらに沖縄諸島では約1,500種の種子植物と約400種のシダ植物、小笠原諸島では約180種の種子植物と80種のシダ植物が知られています。これらの中には、スギ、ヒノキなど、日本にしか見られない植物も多数あります。

吉野熊野国立公園 串本海中公園地区(テーブルサンゴとカゴカキダイ)
吉野熊野国立公園 串本海中公園地区(テーブルサンゴとカゴカキダイ)

 動物もほ乳類、鳥類、両生類、は虫類、昆虫類、魚類などそれぞれ数多く生育しています。ほ乳類については、帰化種を含めて日本産のものは122種あり、単位面積当りでみると、とても豊富だといえます。ちなみに、わが国と面積がほぼ等しいイギリスのほ乳類は67種にすぎません。
 こうした動植物の生育状況をはじめ、自然環境の保全の状況については、環境庁ではいわゆる「緑の国勢調査」3)を実施して調べています。第1回目は昭和48年度、第2回目は昭和53、54年度に実施されました。これらの結果は整理されて、植生図や全国の自然環境の状況が一目でわかる「自然環境アトラス」として公表されています。昭和58年度からは、第3回調査を実施しています。
 また、昭和59年度には北海道の遠首別(おんねべつ)岳周辺で、自然環境の現状をくわしく知るための学術調査が行われました。
 ここは、ハイマツを中心にした高山植物が分布する原生状態の地域であり、国の遺産として後代に伝えるべき重要な地域です。今回の調査の結果、知床半島固有のシレトコスミレが群生しており、秋期を中心としたヒグマの活動の跡が確認されるなど、貴重な自然環境の状況が残されていることが改めて明らかとなりました。

原生自然環境保全地域(遠音別岳)
原生自然環境保全地域(遠音別岳)




人間活動と自然
 我が国は、豊かな自然に恵まれていますが、照葉樹林、湿原、干潟など人間活動の影響を受けて減ってきている自然も少なくありません。
 照葉樹林は、シイ、カシ、タブなどを中心とする常緑広葉樹林で、我が国では古くから親しまれていたものですが、人の生活の場の近くにあるため、人の活動による改変が進んできたところです。
 湿原に生育する植物は、生活力が弱く、水分の多い微妙な環境に生きています。このため人間の影響には敏感で、近年は、踏み荒らしなどにより湿原の生態系が損われているところがあります。
 干潟は、潮の干満によって水没したり現れたりし、シギやチドリが戯れるなど生物にとって貴重な生息の場ですが、埋め立てや干拓の対象となりやすく、昭和20年から現在までに35%がなくなっています。
 これらのかけがえのない自然の保全を図っていくことは今後も大切です。




自然を守るしくみ

 自然を守るためのしくみは、昭和47年に制定された「自然環境保全法」が基本となっています。この法律は、自然環境を適正に保全するための総合的な政策を展開することによって、国民の健康で文化的な生活に役立てることを目的としています。また、自然環境保全の基本となる考え方や、国、地方公共団体、事業者や住民が自然環境の保全のために果たすべき責務などを明らかにしています。
 この法律のほか、「自然公園法」、「都市緑地保全法」、「森林法」、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」など、関連する法律によって自然を守るために取り組んでいます。

自然環境保全地域
 ほとんど人の手が加わっていない原生の状態が保たれている地域やそれに準ずる自然のままの状態が保たれている地域については、程度に応じて、原生自然環境保全地域、自然環境保全地城、もしくは都道府県自然環境保全地域として指定し、自然の状態を保つように努力しています。
 今までに、原生自然環境保全地域は5ヵ所、自然環境保全地域は9ヵ所、都道府県自然環境保全地域は486ヵ所指定されています。

■自然環境保全制度体系図
■自然環境保全制度体系図

自然公園
 わが国を代表するすばらしい自然の風景が見られる所やそれに準ずる所については、それぞれ、国立公園と国定公園に指定し、また、都道府県を代表するすばらしい風景が見られる所は、都道府県立自然公園に指定しています。
 全国で国立公園は27ヵ所、国定公園は54ヵ所、都道府県立自然公園は298ヵ所あり、その総面積は国土面積の約14パーセントを占めています。
 また、美しい海中公園地区が全国で57ヵ所指定されています。これらの公園では、自然の保護が図られるとともに、野外レクリエーションの場として活用されています。
 自然公園を適正に管理するために規制があります。例えば、公園内に建物を建てる場合には、許可を受けたり、届出をしたりしなければならないことになっています。
 このように公園の中における行為は厳しい規制を受けますが、民有地のままでは保護が徹底できない国立公園内の土地を対象として、昭和47年から買い上げの制度もできました。この制度は、昭和50年から国定公園に、昭和51年から鳥獣保護区にも適用されています。

利尻礼文サロベツ国立公園(礼文島よりみた利尻島)
利尻礼文サロベツ国立公園(礼文島よりみた利尻島)

■国立公園、国定公園および自然環境保全地域配置図
■国立公園、国定公園および自然環境保全地域配置図

■原生自然環境保全地域
■原生自然環境保全地域

■自然環境保全地域
■自然環境保全地域

■国立公園
■国立公園

■国定公園
■国定公園
(備考)1.環境庁調べ 2.指定年月日の年号は昭和


都市や森林での自然環境の保全と緑化の推進
 都市やその周辺の水辺や緑を守ることは、生活にうるおいを持たせ、レクリエーションの場を提供するだけでなく、公害の抑制や、火災の拡大の防止、災害時の避難にも役立ちます。このため、緑地保全地区の指定や都市公園などを整備して都市における水辺と緑の確保を図っています。
 都市公園の面積は、人口1人当り4.5平方メートルですが、これはヨーロッパやアメリカと比較して小さく、その整備を促進していくことが必要です。
 国土の7割を占める森林は、水を保ち、大気をきれいにし、保健や休養の場となるなど重要な役目を果たしています。こうした森林を守り育てるため、森林計画に基づき、健全な森林を造成、維持しています。
 さらに、国は、昭和58年3月、緑化推進連絡会議を設け、「小鳥がさえずる森づくり」などの各種の森づくり事業を進めるなど、国土緑化のための総合的な施策を行なっています。

新宿御苑
新宿御苑

鳥獣保護
 開発が進んでいく中で、私たちの周辺から姿を消しつつある野生鳥獣については、鳥獣保護事業計画を策定したり、鳥獣保護区を設定するなど、その保護に努めています。
 鳥獣保護区は現在のところ全国で、3,205ヵ所、313万ヘクタールが設定されており、これは、関東地方(1都6県)の広さにあたります。
 また、特に絶滅のおそれのある鳥については、特殊鳥類に指定し、譲り渡しを禁止するなどしてその種の保存を図っています。
 現在、アホウドリ、コウノトリ、トキなどの特殊鳥類は35種類です。
 トキについては、すべて捕獲し、現在3羽で人工増殖を図っていますが、トキの保護を一歩進めるため、昭和60年5月、中国からオスのトキを1羽借り受けることが決まりました。また、イリオモテヤマネコやタンチョウについても生息状況の調査などを行ないました。
 また、わが国は渡り鳥の繁殖地、経由地、渡来地として重要であり、国内で観察される鳥類の4分の3は渡り鳥です。
 渡り鳥については、国際的に保護する必要があるため、アメリカ、オーストラリア、中国との間で条約を結んでいます。




4 都市化する社会と環境問題


都市化社会の進展


近年の人口分布の動向
 東京圏、大阪圏などの大都市圏では、高度経済成長期にみられた急激な人口流入はおさまっていますが、自然増を中心に依然として人口が増加し、周辺部の市街化が進んでいます。
 一方、地方圏では、産業の地方分散などを背景に、人口の定着化がみられ、県庁所在地などの地方中核都市では人口の増加率が高くなっています。

都市的生活様式の普及
 都市においては、食料、衣料などの生活に必要な物やいろいろなサービスをお金で買うことによって、高度の消費活動が行なわれています。また、これに伴い排出されるごみなどを市役所などの公共部門が処理するという生活が営まれています。このような都市的な生活様式は、以前は大都市圏ほどよくみられましたが、近年では、大都市圏と地方圏との所得格差が縮まり、また、農家の所得も上昇してきています。このため、地方都市ばかりか農村社会にまで、都市的な生活様式が普及しつつあります。
 たとえば、自家用車の保有台数をみると、昔は大都市圏の方が多かったのですが、近年は地方圏で増加率が高くなっています。
 このような地方都市への都市的な生活様式の普及に伴って、道路交通公害問題や生活排水による水質汚濁など、これまで主に大都市圏でみられた、さまざまな環境問題が地方圏でも広がるおそれがあります。

■自家用乗用車保有台数の推移
■自家用乗用車保有台数の推移
(備考)運輸省調査により作成


都市化に伴う環境問題

 近年、都市では、交通問題、ごみの処理・処分問題など都市における生活のあり方とも深く関連し、また、多角的な取り組みが必要な環境問題の比重が高まっています。

都市生活を支える交通と環境問題
 交通は都市のいろいろな活動を支えていますが、大規模な道路や飛行場の周辺地域などでは、騒音、振動、大気汚染などの問題が生じています。
(1)道路交通公害
 交通量の多い幹線道路沿道などで、自動車の騒音、排出ガスによる道路交通公害問題が増えています。その背景としては、自動車交通量が急速に増大し、しかも大型車の割合が高まっていることと、幹線道路周辺に住宅が密集していることがあげられます。
 このような問題に対処するには、これまでも進められてきた自動車1台当りの騒音や排出ガスの規制、遮音壁の設置などのほか、地域の特性に応じた対策が必要となっています。すなわち、大都市地域では、1)トラックターミナルを適正に配置したり、共同輸送を進めることで都市内の交通総量を少なくすること、2)幹線道路沿いには事務所、倉庫など交通公害の影響を受けにくい施設をつくることなどです。またそれ以外の地域の幹線道路沿いでは、3)大型車の高速自動車道の利用を進めたり、環状道路を整備することによって、大型車ができるだけ都市内を通過しないようにすることが重要です。
(2)航空機騒音及び新幹線鉄道騒音・振動
 都市間を結ぶ航空輸送網や新幹線鉄道網は、我が国の発展に大きく寄与してきましたが、他方で騒音などの重大な環境問題を起こしています。
 このような問題に対して、これまで飛行機の騒音を減らしたり、住宅の防音工事などを行い、環境はよくなってきてはいますが、さらに改善が必要です。このため、これまでの施策に加えて、飛行場や新幹線鉄道周辺の土地利用対策を充実していく必要があります。

幹線道路の交通渋滞
幹線道路の交通渋滞

都市と水環境
 都市化に伴って、水質汚濁も重要な問題となっています。
 都市内を流れる河川をみると、一時の深刻な状況は脱しましたが、水質は依然として悪く、また、大都市圏周辺都市、地方都市では人口の増加に比べて下水道整備が遅れている所もあり、河川、湖沼の汚濁が進んでいます。
 一方、河川、湖沼などの汚濁が原因となり、水道水の異臭味が問題となっている所もあり、国民の間では、近年、おいしい水への関心が高まっています。
 このような、都市化に伴う水質汚濁の要因としては、生活雑排水の占める割合が高くなっています。
 さらに、都市化に伴い河川水量が減少したり、コンクリート護岸や暗きょ化が進み、人々と水辺とのふれあいの機会が減ってきました。
 そこで、近年、身近な水辺の大切さを見直し、人々が水に親しめるような快適な水辺環境を取り戻そうとする動きが、各地で活発になっています。
 台所排水や洗濯排水などの生活雑排水対策としては、下水道の整備が基本ですが、下水道の整備には多くの時間と金額を要し、また、農村部での下水道設置については困難な面もありますので、地域の特性に応じて、地域し尿処理施設など、各種の生活排水処理施設を的確に組み合わせていくことが必要です。

下水処理水を利用した親水公園(大阪市)
下水処理水を利用した親水公園(大阪市)

都市とごみの処理・処分
 1人当りのごみの排出量は、人口の多い都市ほど、大量消費型の生活が営まれるために増える傾向があります。また、ごみの質については、プラスチックの占める割合が増えてきています。
 このため、都市のごみの処理・処分には、埋立処分地の確保をはじめとして、さまざまな問題が生じています。
 このような問題に対しては、ごみの排出量を減らしたり、有効利用を進めることによって、処分するごみの量を減らすことなどが重要です。その際、一人ひとりがごみの分別をして出すなど、国民の協力が不可欠です。

近隣騒音
 近年、騒音についての苦情のうち、カラオケなどの深夜営業騒音、ピアノ、クーラーのような生活騒音などのいわゆる近隣騒音の苦情の割合が高まっています。
 このような近隣騒音は、都市規模が大きいほど問題となっています。
 その背景としては、都市では、住居や飲食店などが密集しており、また、お互いに迷惑をかけないように生活するという社会慣習が、十分にできていないことがあげられます。
 近隣騒音をなくす対策として、地方公共団体が公害防止条例などにより、カラオケの音量や使用時間を規制していますが、国民一人ひとりの意識の向上を図ることが必要です。

■騒音苦情件数の推移
■騒音苦情件数の推移
(備考)環境庁調べ。


身近な自然とのふれあい
 都市化が進むにつれ、田畑、草地、平地林などの緑地が宅地になったり、生息する動物の種類が少なくなったりしています。
 こういった環境の下で、都市住民の中に身近な自然とのふれあいを求め、積極的に自然保護活動に参加しようとする動きが見られます。
 また、都市の身近な自然を保全するため、全国各地で自然の保全・創出の取り組みが行なわれています。

■身の回りの自然に対する認識
■身の回りの自然に対する認識
(備考)総理府「自然保護に関する世論調査」(56年6月調査)による。


野火止用水 昭和38年頃(東村山市)
野火止用水 昭和38年頃(東村山市)

昭和59年(小平市)
昭和59年(小平市)

都市における快適環境の創造
 都市では、うるおいややすらぎのある快適な環境が失われてきたことや、価値観の多様化などを背景に、快適な環境づくりへの関心が高まっています。
 都市の中で快適な環境を創造するためには、公害を防止し、身近な自然の保全・創出に配慮するとともに、地域の歴史的な遺産や文化を生かして、個性ある街づくりを行うことが重要です。
 さらに、都市公園、道路、河川改修などの社会資本を整備する場合に、快適な都市生活空間を積極的につくりあげていく視点が重要です。

桜橋(隅田川)
桜橋(隅田川)

都市化に伴う環境問題への取組

 以上みてきたような、都市化に伴う環境問題への取り組みを行なうためには、次の3つが重要です。
 第1は、工場や自動車など発生源の対策と、下水道などの社会資本の整備を進めることです。
 発生源対策では、都市活動の密度に合わせて適切な規制を行うことや、行政区画を超えた、広域的な対策が必要です。
 一方、下水道、廃棄物処理施設などの社会資本の整備は、地域特性に応じ、市街化が進むより前に先行的、計画的に整備する必要があります。

上)下水道整備(東京都) 下)環境保全に配慮した通路整備(常盤自動車道)
上)下水道整備(東京都) 下)環境保全に配慮した通路整備(常盤自動車道)

 第2は、公害の生じにくい都市構造をつくることです。
 そのためには、人口・産業の地方分散を進めたり、物資輸送を効率化するなど、効率的な都市活動システムを形成することが必要です。また、生産や輪送の行なわれるところと住居を離すことも必要です。
 このほか、近年活発に行なわれている都市再開発は、快適な都市・生活空間をつくるうえで重要な役割を果たすことができるものであり、環境への影響に配慮して進めることが望まれています。
 第3は、よりよい都市環境を守り、つくりあげていくため、都市住民の参加を広げていくことです。
 都市では、人口が集中していることから、生活雑排水や都市ごみの問題のように、一人ひとりでみれば小さな問題でも、全体では環境に大きな影響を与えている場合があります。このため、都市の環境問題の解決には、身近なところで、環境に対する影響をなるべく小さくする生活・行動のルールをつくることや、よりよい環境の保全、創出活動への住民の参加を広げていくことが大切です。

■都市規模別の住民の環境保全活動への参加・協力経験及び参加・協力意向
■都市規模別の住民の環境保全活動への参加・協力経験及び参加・協力意向
(備考)総理府「環境問題に関する世論調査」(59年6月)による。


5 安全でより快適な環境の実現を目指して


 昭和59年度は、環境汚染の未然防止のため、「環境影響評価4)実施要綱」が定められ、また、湖沼の水質改善のため、「湖沼水質保全特別措置法」が成立するなど、環境行政が新たな展開をみた年でした。こうした成果の下に、安全でより快適な環境を目指して、環境政策の着実な展開を図っていくことが重要です。

環境影響評価実施要綱の閣議決定

 一度壊された環境は、なかなか元には戻りません。公害や自然破壊は、それがおきる前に防止することが最も大切です。
 環境アセスメントは、環境汚染の未然防止のための有力な手段の一つです。環境にいちじるしい影響をおよぼすおそれのある事業が実施される場合には、それが環境におよぼす影響について事前に調査し、予測し、評価を行ないます。そして、その結果を公表し、地域の住民などの意見を聞き、それを十分に反映させた形で、公害防止などの対策を講じるようにします。このように、環境アセスメントは非常に重要であることから、政府は昭和59年8月に「環境影響評価の実施について」の閣議決定を行ないました。

みなとみらい21計画地(横浜市)
みなとみらい21計画地(横浜市)

湖沼水質保全特別措置法の制定

 湖沼は、水道水源になるなど水資源を確保するために重要な役割りを果たしています。また、野外レクリエーションの場となるなど、さまざまな恵みをもたらしています。しかし、近年、湖沼の水質汚濁が進み、従来の「水質汚濁防止法」などによる対策だけでは不十分となってきています。このため、昭和59年7月「湖沼水質保全特別措置法」、いわゆる湖沼法が制定されました。

湖沼法の概要
 湖沼法では、
 1)国は湖沼の水質保全のための基本方針を定めること
 2)内閣総理大臣は、特に汚れのひどい湖沼を指定するとともに、その周辺地域を指定地域とすること
 3)都道府県知事は、指定湖沼の水質保全計画を策定すること
 4)この計画に基づいて、下水道、し尿処理施設の整備などの水質保全のための事業の推進を図るとともに、各種の汚濁源対策を講じ、さらに湖沼の自然環境の保護などにも努めることとされています。

アオコ発生の事例
アオコ発生の事例

■湖沼水質保全特別措置法の体系
■湖沼水質保全特別措置法の体系

安全で安心できる環境の確保

 安全で安心できる環境を確保するためには、人の健康を保護し、生活環境を保全するため、公害対策を着実に進めていくことが基本です。このため、「公害対策基本法」に基づき、環境基準の設定、公害防止計画の作成をはじめとして、さまざまな施策が実施されています。

環境測定体制の整備
 公害対策を適切に実施するためには、環境の状況を正確に把握する必要があります。このため、監視測定体制の整備が進められています。

公害防止のための助成
 中小企業などが公害防止のための設備を設けるには、資金や技術面などで難しいことがあります。このため、事業者が公害防止のための措置をとりやすいように、公害防止事業団などでは、公害防止施設の建設や譲渡、資金の貸付けなどを行なっています。

緩衡緑地
緩衡緑地

より質の高い環境をつくりあげるための幅広い取組


環境の健全な利用
 環境を損なわない形で、地域の総合的な発展を図っていくためには、土地、水、大気などの限りある環境資源を計画的に保全しながら適正に利用すること、つまり環境の健全な利用を図るということが重要になります。
 そのためには、まず地域の自然環境や大気、水などの状況を科学的に調査し、客観的なデータをわかりやすく整備していくことが必要です。これによって、環境を利用する時に配慮することが望ましい事項が明らかになり、その地域の環境の利用が適正に進められることになります。
 このため環境庁としても、このような趣旨に基づいて、特に必要な地域について環境情報を体系的に整備するため、昭和59年度から「環境利用ガイド事業」を進めています。




地域における環境管理の推進
 地方公共団体では、これまで述べたような施策を含めて、環境保全のためのいろいろな施策を総合的、計画的に行なうため、地域環境管理計画の策定が進められています。
 このような地方公共団体の取り組みをさらに発展させていくためには、地域環境管理計画を策定する手引きの作成や、全国的な規模の他の計画との整合性、地方公共団体間の調整などの課題に取り組む必要があります。

■都道府県・政令指定都市における地域環境管理計画策定状況
■都道府県・政令指定都市における地域環境管理計画策定状況
環境庁調べ


■都道府県・政令指定都市における地域環境管理計画の検討状況
■都道府県・政令指定都市における地域環境管理計画の検討状況
(注)図中の数字は団体数である。
   昭和58年12月環境庁調べ。


快適な環境づくり
 豊かな緑や清らかな水辺、美しい街並みや歴史的な雰囲気といった快適な環境(アメニティ)は、私たちの生活にうるおいとやすらぎをもたらします。国民の生活環境に対するニーズが高まっている今日では、公害の防止や自然環境の保全にとどまらず、快適な環境を積極的に創造していくことがますます重要となっています。
 環境の快適性を高める施策を分類すると、
 1)緑や水といった快適な環境に親しむための施設の整備
 2)身の回りにある樹林地や水辺など良好な自然の保全
 3)道路や街並みの景観など快適な都市・生活空間の創出
 4)日常生活において、人々の環境に配慮した生活・行動ルールを確保するための施策
 5)環境の質を高める歴史的・文化的事物の保存
 などさまざまなものが考えられます。
 快適環境づくりは、行政、住民、企業などが役割を分担しながら、地域の自然、文化、歴史に応じて施策を進めることが大切です。
 環境庁では昭和59年度より、市町村において創意工夫をいかしたアメニティ・タウンづくりを総合的に進めていくための計画づくりを助成しています。

歴史的街並みの保存(高山市)
歴史的街並みの保存(高山市)

水辺のプロムナード(柳川市)
水辺のプロムナード(柳川市)

自治体の補助による生垣整備(出雲市)
自治体の補助による生垣整備(出雲市)

国民一人ひとりの手による環境保全
 最近の環境問題の特徴の一つに、国民が公害の被害者になるばかりでなく、知らず知らずのうちに自らも加害者となっていることがあります。このため、国民一人ひとりが環境保全に配慮した行動を心がけていくことが重要となっています。
 たとえば、台所から出る排水をきれいにするため、流しに置かれるストレーナー(こし器)を、目の径の小さいものに換えるなどの工夫が望まれます。また、浄化槽の維持管理を適切に行なえば、放流水の水質はかなり改善されます。また、近隣騒音の低減、空き缶(かん)の散乱防止、緑豊かな環境の創造も、住民の努力なしではできません。
 国民の主体的な参加・協力を得て環境保全を進めるには、まず、国民が環境問題を理解し、協力していくことが必要です。このため、環境教育や広報啓発活動を充実していくことが大切です。
 次に、国民が環境保全のための行動に参加できるような機会を設けることです。
 このため、昭和58年度以来「環境美化行動の日」を設け、国民がこぞって環境の美化に取り組むことを呼びかけています。
 また、広く国民から寄せられる資金によって、豊かな自然の土地を買い取り、管理しようとする民間の運動「国民環境基金(ナショナル・トラスト)活動」について、国としても税制上の優遇措置を講じることとしています。このほか、環境庁では、自然保護教育などを行う民間ボランティアを育成・活用する方策を検討しています。

河川の清掃(広島県)
河川の清掃(広島県)

■維持管理の有無によるし尿浄化
■維持管理の有無によるし尿浄化
(備考) 1. 堺市の調査事例(52〜55年)による。
     2. 処理対象人員500人以下の浄化槽のBOD値に関する構造基準は90ppm以下である。


■空き缶のポイ捨て理由
■空き缶のポイ捨て理由
(備考)環境庁「空カン散乱の実態と散乱防止対策等について」(56年1月)による。


6 地球的規模の環境問題


国際的な環境問題

 世界的な人口の増加、経済活動の拡大などに伴って、環境問題はいまや一国内の問題にとどまらず、国際的な広がりをみせています。

国境を越える環境問題
 石油などの化石燃料の消費によって大気中に放出される硫黄酸化物や窒素酸化物は、発生源から数千キロも離れた所に降下し、国境を越えた問題となることがあります。特に欧州や北米においては、酸性雨5)は大きな社会問題となっており、西ドイツでは、森林全体の約3分の1が酸性雨によるとみられる被害を受けています。

西ドイツにおける森林被害(58年)
西ドイツにおける森林被害(58年)
備考:西ドイツ「ドイツ連邦共和国における森林被害1983」より
   酸性雨被害の事例(西ドイツ)


地球的規模の環境問題
 燃料などの使用に伴って発生する二酸化炭素の量は、20世紀後半以降急速に増大しています。それにつれて、大気中の二酸化炭素濃度も、ハワイのマウナロア山の観測では、昭和30年代から年平均1ppmの割合で上昇しています。このような状態が続けば、21世紀の半ばには大気中の二酸化炭素濃度は現在の2倍になり、気温は、温室効果6)のため中緯度地方で2〜3度、極地地方で10度程度上昇するともいわれています。
 また、石油などによる海洋汚染が多くの海域で起きています。海洋に流入する石油系炭化水素の量は、毎年611万トンと推定されています。
 さらに、焼畑移動耕作や伐採によって熱帯林が減少しています。熱帯林は熱帯地方の開発途上国に住む人々の生活基盤となっているばかりでなく、生物種の豊庫であり、大気の浄化、土壌の保護、気候の緩和の面で、人類を含め全生物の生存のために極めて大きな役割を持つもので、このように貴重な熱帯林の減少はさまざまな影響をもたらすことになります。
 このほか、乾燥、半乾燥の熱帯地方においては、過度の放牧が行われたり、残り少ない樹林が燃料として利用されたりするため、毎年600万ヘクタールに及ぶ土地が不毛の砂漠に化しているといわれています。

■東南アジア諸国における森林の減少状況
■東南アジア諸国における森林の減少状況
(備考)ESCAP「アジア太平洋地域の環境の状況」(60年)による。


地球的規模の環境保全と国際協力の推進

 環境問題の国際的広がりや地球的規模の環境問題に対応するため、国際協力の必要性が高まっています。

国連環境特別委員会の発足
 我が国がかねてより設立を提案していた国連環境特別委員会が、昭和59年5月に発足しました。この委員会は、21世紀の地球環境の理想像を模索し、その実現を検討することを任務としており、2年以内に検討結果を報告書にまとめることになっています。

国際機関への参加、協力
 我が国は、国連環境計画(UNEP)7)、経済協力開発機構(OECD)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)などの国際機関の場を通じて、環境分野の国際協力に積極的に取り組んでいます。特に、我が国は自由世界第2位の経済力を有することから、UNEPの環境基金に対して、全体の約14パーセントを拠出しています。
 また昭和60年6月には、パリでOECD環境大臣会議が開催され「環境:次世代のための資源」という提言が行なわれました。我が国からは石本環境庁長官が出席しました。

国際会議(国連環境特別委員会 昭和59年10月)
国際会議(国連環境特別委員会 昭和59年10月)

国際条約等の締結
 多国間にまたがる問題については、条約や協定が結ばれています。
 野生動植物の保護を図るため、その国際的取り引きを規制することを目的とした「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)があります。我が国も昭和55年に条約に加盟していますが、条約の効果的な実施を確保するため、昭和59年に関係省庁連絡会議を設置しています。

海外の環境保全への援助
 我が国は、環境汚染の対策について他国に例をみない深い経験をもつことから、この分野の国際協力について各国から大きな期待を寄せられています。また、国際的な経済活動を通じて、他国の環境問題とも深い関係をもつ我が国にとって、環境保全を含む広範な領域において、国際協力を進めていくことが、良好で安定した国際関係の樹立につながるものといえましょう。
 このような国際協力の例として、トルコ政府からの要請にこたえて、環境庁では国際協力事業団に協力し、アンカラ市の大気汚染対策調査を実施しています。また、昭和60年5月には環境庁代表団が中国を訪れ、今後日中間で環境行政交流を進めていくことが合意されました。このほか、開発途上国からの環境保全にたずさわる人材養成のための研修員を受け入れたり、専門家を派遣したりするなど、環境保全に関する援助、協力に努めています。

国際的な環境保全技術協力(トルコ・アンカラ市の大気汚染対策調査)
国際的な環境保全技術協力(トルコ・アンカラ市の大気汚染対策調査)



用語解説



1)四日市ぜんそく
大気汚染による公害のひとつ。三重県四日市市では石油コンビナートから排出されるばい煙の影響で、昭和36年ごろから住民の間にぜんそくが多発しました。これを四日市ぜんそくと呼んでいます。

2)水俣病
 工業排水に汚染された魚介類を食べた人が、魚介類に含まれていた有機水銀の中毒症になる病気。症状としては、四肢末端のしびれ、運動失調、言語障害、難聴などがあります。
 昭和31年には熊本県の水俣湾周辺で、また、40年には新潟県の阿賀野川流域で発見されました。原因となった有機水銀を排出したのは、それぞれチッソ(株)水俣工場、昭和電工(株)鹿瀬工場であることがわかっています。

3)緑の国勢調査
 自然環境保全基礎調査の略称。この調査は自然環境保全法第5条の規定に基づいて、おおむね5年に1度、地形、地質、植生および野生動物その他について行う基礎調査で、昭和48年に第1回目、昭和53、54両年度に第2回目の調査が行われ、現在第3回目の調査が行われています。

4)環境影響評価
 公害及び自然環境の破壊を未然に防ぐため、環境に影響を及ぼすおそれのある事業の実施に先立って、その環境への影響の調査、予測及び評価を行い、その結果を公表し、地元の人々からの意見を聞くなどの手続を行うことを環境影響評価といいます。この手続を統一したルールにより確実に行うため、その制度の確立が重要な課題となっています。

5)酸性雨
 大気中の硫黄酸化物などの影響で、酸性を帯びた雨。
 日本では、酸性雨によると考えられる目の刺激や皮膚の痛みを訴える事例が生じたことがあります。そのほか、陸水や土壌を酸性化することで水生生物に大きな影響を与えることも知られています。ヨーロッパなどでは、こうした問題が国境を越え、広域化した問題となっています。

6)温室効果
 大気中の二酸化炭素は、地球に降りそそぐ太陽エネルギーは通すが、地球から放出される長波エネルギーは通さないという性質を持っています。このため、二酸化炭素濃度が高くなると、ちょうど温室と同じように大気の温度が上がると考えられており、これを温室効果と呼んでいます。

7)国連環境計画(UNEP)
 国際協力を通じて、地球の環境を保全していくために、国連総会が設置した機関。1982年5月には、ケニアのナイロビに130ヵ国の代表を集めて国連環境計画特別会議が開かれました。ここでは、砂漠化の進行等地球的規模の環境問題について緊急に取り組む必要があることが訴えられ、ナイロビ宣言が採択されました。