図で見る環境白書 1979


 環境問題を考える

  環境問題とは何か

  環境問題の歴史

   戦前の環境問題

   戦後経済復興期(昭和30年以前)

   高度成長と公害問題の発生(昭和30〜40年)

   公害対策基本法の制定(昭和40〜45年)

   環境政策の確立(昭和45年以降)

  環境問題の背景

   狭い国土で活発な生産活動

   環境汚染をもたらしやすい産業構造

   産業と人口の都市集中

   社会資本の不足

  環境問題と行政

   公害対策の体系

   環境基準

   自然環境保全行政の体系

  環境問題の国際性

   環境問題の国際性

   国際的な環境問題

 環境の現状と対策

  大気汚染の現状と対策

   大気汚染とは

   大気汚染の影響

   大気汚染による被害の例

   大気汚染対策の目標と現状

   大気汚染防止対策

   大気汚染の監視測定

  水質汚濁の現状と対策

   生活環境と水質汚濁

   水質の環境基準

   水質汚濁の現状

   水質汚濁防止対策

  その他の公害の現状と対策

   騒音及び振動

   悪臭

   廃棄物

   地盤沈下

   土壌汚染

  自然環境の現状と対策

   自然環境の現状

   自然環境保全対策

 環境保全の今後の課題

  環境問題と諸条件の変化

   経済と環境

   エネルギーと環境

   土地と水と環境

  環境汚染の未然防止

  快適な環境を求めて

   快適な環境への意識の高まり

   環境行政と快適な環境づくり

   快適な環境づくりの動き





この本を読まれる方に

財団法人 日本環境協会
会長 和達清夫

 昭和30年代の経済の高度成長にともなって表面化した環境問題は,40年代に入って次々とられてきた対策によって,危機的な状況の克服にはかなりの成果をあげることができました。このことは国際的にも高く評価されています。しかし,これをもって環境問題が全面的に解決されたとはいえません。むしろ環境問題はあらたな局面を迎えているといえるでしょう。
 今日産業活動に起因する環境汚染はかなりの改善をみせ,防除の目途もたってきました。一方,生活排水,一般廃棄物,交通騒音,近隣騒音など国民の日常生活に起因する環境汚染要因にも高い関心が払われるようになってきました。また,人びとの生活に関する価値観が多様化し,物質的な豊かさだけではなく,精神的なものをも含めた生活の豊かさ,快適さを求める声も高くなってきました。そのためには,現在の公害の防除にとどまらず,自然環境の保全を含めて,環境汚染の未然防止を一層推進する必要があります。
 人びとにとって何が快適な環境であるのか,またどの程度の費用,代償を払って,どのような快適な環境を創造していくのか,その判断は国民一人ひとりの価値観とその合意に委ねるべきものでしょう。これらのことを考える基礎としては,政府が毎年国会に提出する公害の状況に関する年次報告が環境白書として刊行されています。しかし,環境白書が広く国民の各階層に読まれることは望ましいことではありますが実際には困難です。そこでその内容を簡潔で しかもグラフや写真を加えた誰にでも理解しやすい形にして刊行することになりました。
 この本が多くの方に読まれるとともに,次代を担う青少年の教材資料として活用されることによって,環境問題に関する理解が国民の間に広く深く浸透し,よりよい環境が生まれる基盤が培われることを願っております。




環境問題を考える


●環境問題とは何か●環境問題の歴史●環境問題の背景●環境問題と行政●環境問題の国際性


環境問題とは何か



 清浄な空気や水,豊かな自然などは人間が健康に生きていく上で必要不可欠なものであることは言うまでもありません。しかし同時に人間は,様々なものを生産し,消費するために周囲の環境をある程度変えていかなければなりません。かつて人間の数が少く,また,その生産活動も農業などの一次産業が中心だったころには,人間の諸活動による環境の改変は,それほどの問題を引き起こすことはありませんでした。
 ところが,人間活動が環境にあたえる影響が強くなってきたことにより,今や我々はそれによって引き起こされる様々な環境問題に直面しなければならなくなって来ています。わが国では高度経済成長期に著しい公害が起こり,その反省に立って様々な環境保全対策がとられ一部の環境汚染因子の防除については大きな改善が見られましたが,人間の活動が今後とも進歩・拡大して行くとすれば,現在問題となっている汚染も一層悪化する可能性があるだけでなく,さらに現在では認識されていない新たな環境問題が生ずることは十分考えられます。また,今後は公害をなくすだけでなく,私達がそこに住んでゆとりや,うるおいを感じ,愛着のもてる快適な環境を積極的につくり出して行く努力が一層必要となっていくでしょう。
 環境問題を考えることは,人間と環境との相互関係の望ましいあり方を考えることであり,環境問題は今後人間活動の発展に伴い益々その重要性を深めていくと言えるでしょう。





環境問題の歴史



戦前の環境問題

 戦前にも足尾銅山鉱毒事件,別子銅山煙害事件や大阪アルカリ事件,浅野セメント降灰事件などのような,かなり深刻な公害問題がありました。
 しかし,戦前の公害問題は,鉱山活動によるものや単独の工場による環境汚染が中心で,その被害も特定の地域の主に農作物に対するものでした。
 これは,日本の産業も繊維,雑貨などの軽工業が中心で重化学工業が少なかったうえに,日本本土に居住する人口が7,400万人(昭和19年)と,戦後ほど過密でなかったことなどによるものです。

戦後経済復興期(昭和30年以前)

 第二次大戦によって,日本の生産設備の3割から4割が破壊されたといわれます。戦後の10年間は経済復興の期間でした。この間,環境問題は社会問題となるほどではありませんでしたが,東京,大阪などの大都市では,工場の生産活動による大気汚染,水質汚濁などが徐々にあらわれはじめました。
 そこで,工場の設置を許可制にすることなどを定める条例がつくられるようになりました。

高度成長と公害問題の発生(昭和30〜40年)

 “もはや戦後ではない”という言葉で始まったこの期間には,石炭から石油へとエネルギー源の転換が行われ,石油化学工業が花形産業として各地に建設されました。そして,重化学工業コンビナートを中核とする地域開発計画が太平洋ベルト地帯の各地で展開されました。
 このような産業の発展のあとを追うように熊本県の水俣病,四日市の呼吸器系疾患等の不幸な事件が発生してきました。
 このため,国でも公害問題への取組みが始められ,工業用水法,工場排水法,水質保全法,ばい煙規制法など多くの法律が制定されました。同時に環境の保全のためには,社会資本の整備が非常に重要であることが認識されるようになり,下水道のような生活環境施設の整備計画が策定されるようになりました。

公害対策基本法の制定(昭和40〜45年)

 この時期は,経済の高度成長が続き地域開発が一層進展し,日本経済が飛躍的に拡大した高度経済成長期です。経済の高度成長は国民の生活水準を向上させ,敗戦時には想像もできなかったほど,豊かな生活を可能にしました。しかし,世の中よいことばかりではありません。環境汚染が全国的にみられるようになり,大きな社会問題となってきたのもこの時期です。第2水俣病といわれる阿賀野川の水銀汚染事件,イタイイタイ病などが相ついであらわれました。このような事情を背景として,42年に公害対策を総合的,計画的に推進するために,公害対策基本法が制定され,また騒音規制法,大気汚染防止法,航空機騒音障害防止法,旧海水汚濁防止法,公害健康被害者救済特別措置法(旧法)等の公害関係の法律が定められました。自動車の排気ガス対策も取り上げられました。

環境政策の確立(昭和45年以降)

 45年末の国会は,公害問題の議論が沸騰し,「公害国会」といわれたほどですが,この国会で公害対策基本法の改正を柱とする法体系の抜本的な整備改正が行われ,環境行政は飛躍的な前進を遂げました。特に46年には環境庁が新設され,それまでばらばらに行われてきた環境行政が,総合的,積極的かつ強力に推進されることになりました。

●公害年表
●公害年表


環境問題の背景



狭い国土で活発な生産活動

 我が国の国土面積は約38万平方キロメートルでアメリカの20分の1ですが,このうち市街地,農地などの可住地面積は,全国土の約22%にすぎません。この狭い国土に1億1千万人の国民が住み,世界第2位の国民総生産(GNP)を誇っています。
 その結果,世界にも例をみない高密度な経済社会が形成されています。これが一部に「公害先進国」といわれるほどの環境汚染を生み出した原因の一つとなっています。

●主要国可住地面積当り人口(1975年)
●主要国可住地面積当り人口(1975年)
(人/平方キロメートル)(備考)OECD調べ

●主要国可住地面積当り国民総生産(1975年)
●主要国可住地面積当り国民総生産(1975年)
(万米ドル/平方キロメートル)(備考)OECD資料等より作成

環境汚染をもたらしやすい産業構造

 天然資源に恵まれない日本が,経済を発展させ豊かな国民生活を可能にしていくためには貿易の拡大を図る以外に道はありません。外貨の獲得,国際競争力の強化のため日本産業が選んだ道は重化学工業化の推進でした。
 そして,重化学工業の占める割合は著しく高まり,経済大国に成長し,国民生活は豊かになりましたが,このことが同時に環境汚染を拡大させることにつながりました。

産業と人口の都市集中

 戦後のコンビナートといわれる新しい工業地帯は,太平洋ベルト地帯を中心として建設されました。そして,人口は,農村漁村から経済,文化,情報などの集まっている東京,大阪,名古屋等の大都市へ異常な程に集中してきました。三大都市圏の人口は,35年に全国人口の37%でしたが,15年後の50年には45%に増加しています。
 このような経済活動,人口の大都市集中によって,交通騒音,自動車の排ガス,建設騒音,家庭排水,廃棄物などの都市公害と産業公害が重複して発生し,都市の環境問題を一層複雑で深刻なものとしました。

社会資本の不足

 下水道のような国民生活に関連のある施設(社会資本)を整備することは,環境汚染を防止するうえで大きな役割を果たします。日本の社会資本は,戦前から欧米の先進国に比較して整備が遅れていたのですが,戦後の経済の非常な発展,人口の都市への急速な集中というような現象は,ますます社会資本の整備を立遅れ気味としてしまいました。このことも環境問題を深刻化させた一つの要因となっています。

●3大都市圏人口の比率
●3大都市圏人口の比率


環境問題と行政



公害対策の体系

 公害対策基本法(昭和42年制定,同45年改正)は,公害の範囲として,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下及び悪臭をあげ,事業者,国,地方公共団体,住民が果たすべき責務を明らかにしています。そして,これに基づいて,公害を防ぐためのいろいろな法律が整えられています。

●主な公害関係法の体系
●主な公害関係法の体系

環境基準

 人の健康を守り,生活環境を保全する上で,大気,水質,静けさなどについて維持されることが望ましい基準が環境基準です。この意味で,環境基準は,その基準を越えて環境が汚染されているとただちに健康が損われるというような性格を持っているものではありません。
 現在,環境基準として次のものが定められています。

大気汚染{二酸化硫黄,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,二酸化窒素,光化学オキシダント

水質汚濁{カドミウム,シアン,アルキル水銀等9項目(健康項目),生物化学的酸素要求量(BOD),浮遊粒子状物質(SS),溶存酸素量(DO)等(生活環境項目)

騒音{一般騒音(工場,事業場,道路交通等),航空機騒音,新幹線騒音

●環境汚染を測る指標
●環境汚染を測る指標

自然環境保全行政の体系

 自然環境保全法(昭和47年制定)は,自然環境保全の基本理念を定め,国,地方公共団体,事業者及び住民の果たすべき責務を明らかにするとともに,自然環境保全基礎調査の実施,自然環境保全基本方針等の策定等について規定しています。そして,これに基づき,自然を守り,適正に利用するためのいろいろな法律が整えられています。

●自然環境保全制度体系図
●自然環境保全制度体系図


環境問題の国際性



環境問題の国際性

 環境問題は極めて地域的な問題であるという側面をもっていますが,他方では,「環境に国境はない」と言われるように国際的な側面を持っています。例えば,多くの国が国境を接しているヨーロッパなどでは,国境を越えて起こる,いわゆる越境汚染の問題の解決が大きな課題となっています。日本は,島国であるために今のところ越境汚染の問題はありませんが,それでも海洋汚染や,渡り鳥の保護の問題などの国際的な協力がなくしては解決が出来ない問題に直面しています。
 また,日本や欧米の先進諸国では,日本と同様に1960年代から1970年代にかけて大気の汚染や水質の汚濁などによる深刻な環境汚染に直面し,環境問題が国際的に共通の課題となりました。そのため各国の国内的な環境問題に対応するに当たっても,同様な課題に直面する他国と国際的な情報・技術の交換などの国際協力が極めて大事になって来ています。
 これらの国際的な課題に対応するため,国際的には,国連環境計画(UNEP)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が様々な研究活動,情報交換を行っているほか,海洋汚染の防止や野生動物の保護などの分野で多くの多国間条約が結ばれています。
 わが国においては,UNEPの活動のための「環境基金」の一割を負担していますし,OECDの活動についてもメンバーの一員として積極的な寄与を行っています。また米国や西ドイツとの情報・技術の交換をはじめ,二国間の協力も進めています。
 空気も水も大きな目で見れば地球という限られた範囲のなかで人類全体が共有している有限な資源です。「宇宙船地球号」という言葉がよく言われますが,限られた資源を共有する仲間同士として,国際的な環境問題への協力は今後ともますます重要なものになっていくでしょう。



国際的な環境問題

 環境問題が広く世界の人々に認識されるようになった大きな契機の1つとして,1972年6月5日〜14日スウェーデンのストックホルムで開催された「国連人間環境会議」を忘れることはできません。
 この会議では世界の取り組まねばならない環境問題としては,大きく次の3点が取りあげられました。
 1)1960年代に入り産業活動は飛躍的に拡大した結果,その活動に伴う排ガス,廃水,廃棄物も急増しました。これらは最終的に,かっては無限と考えられていた大気や海洋に投棄されていましたが,大気や水などの環境が受容し,浄化しうる能力を超えるほど多量になり,地球の環境には限界があることが明らかになったこと。
 2)今,地球上では人口が急増している。将来急増する人口を支える基盤である農地も,エネルギー源としての鉱物資源も有限であって,枯渇と不足が予想される。さらに,地球全体は生態系(エコシステム)という複雑にからみあった微妙なバランスから成り立っており,人間が限界を超えた略奪を行えば地球全体が破滅することが明らかになったこと。
 3)地球上の70%以上もの人々が発展途上地域に住み,その日の生活にもこと欠くような劣悪な状況下に置かれている。これらの人々は,工業による環境の汚染ではなく,人口の急増,低い栄養,質の悪い住宅,教育施設の不足,自然災害,疫病などに悩んでいる。人間が人間らしい生活を送るために必要な環境を確保することが環境問題に対する基本的な考え方であり,発展途上国における環境問題の多くは,低開発と貧困から生じていることが広く認識されたこと。
 この会議では,上記の環境汚染問題,資源問題,低開発に起因する生活環境問題のほか,自然環境の保護,野生生物の保護及びこれらに関する教育的側面等幅広く討議され,その結果が「人間環境宣言」と109の勧告としてとりまとめられました。
 宣言や勧告の中に盛られた環境問題は上記のとおり幅広い概念を持つもので,私たち日本人が考えている大気汚染や水質汚濁,自動車や飛行機の騒音などの狭い意味の環境問題の範囲を大きく超えています。




●UNEPの活動 ―UNEPは,「国連人間環境会議」の結果に基づいて設置された国連の機関です。
●UNEPの活動 ―UNEPは,「国連人間環境会議」の結果に基づいて設置された国連の機関です。





環境の現状と対策


●大気汚染の現状と対策●水質汚濁の現状と対策●その他の公害の現状と対策●自然環境の現状と対策


大気汚染の現状と対策



大気汚染とは

 大気汚染とは,大気中にいろいろな汚染物質があって,そのままでは人の健康や生活環境によくない影響が生じてくるとみられるような状態をいいます。
 このような状態には,火山の噴火によるばい煙の発生など,自然活動に起因するものも含まれますが,今日の汚染は,その主要部分が工場,事業場の活動など人為的に発生したものによっていますから,法律では,これらを「大気汚染」としてとりあげ,規制を行っています。
 代表的な大気汚染物質としては,(1)硫黄酸化物(二酸化硫黄,三酸化硫黄),(2)窒素酸化物(一酸化窒素,二酸化窒素),(3)一酸化炭素,(4)浮遊粒子状物質(粉じん,ばいじん),(5)光化学オキシダント(オゾン,パーオキシアシルナイトレート(PAN)など)があげられます。

大気汚染の影響

 人は大量の空気を呼吸していますが,この空気が汚れていると,汚染物質は呼吸器へ直接影響し,また,呼吸器を通じて体内にとりこまれ,それぞれ汚染物質の性質に応じて,体内の細胞,組織,器官に異なった影響を与えます。
 大気汚染物質のうち,硫黄酸化物,粉じんなどの人体に対する影響としては,慢性気管支炎,ぜん急性気管支炎,肺気しゅ,これらの続発症などがあげられます。
 光化学オキシダントは,眼のチカチカや,のどの痛みなどの症状が中心となっています。
 また,一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結びついて体内の酸素交換を妨げます。粉じん中には発がん性があるといわれるベンツピレンや有害な重金属などが含まれることもあります。
 植物に対する影響としては,農作物の生育障害,収穫量の減少,品質の低下などがあげられます。

●大気汚染に係る環境基準
●大気汚染に係る環境基準

大気汚染による被害の例

 大気汚染によって生じた被害の例としては,ロンドン(イギリス),ロサンゼルス(アメリカ),ミューズ(ベルギー),四日市(三重県)などの事例があります。
 ロンドンでは,冬,暖房のために石炭を燃やしたために発生した粉じんと二酸化硫黄(亜硫酸ガス)によるスモッグが発生していました。特に,1952年12月5日からの5日間は無風状態で逆転層が発生していたため,汚染状態が続き,以後3週間ほどの間に平時よりも4,000人も多い死亡者がでました。
 また,アメリカ合衆国の西海岸にあるロサンゼルスでは,1940年代より,晴れた暑い日に,白いもやがかかって遠くが見通せなくなる状態が生じ,目やのどに対する刺激や植物の被害,ゴムのひび割れなどの影響が見られました。これは光化学スモッグと呼ばれます。
 日本での代表的な汚染の例は,昭和30年代後半に四日市で発生した呼吸器系疾患の多発です。これは,主に隣接する火力発電所や石油コンビナートから多量に排出された硫黄酸化物などの悪い影響によるものでした。
 この例にみられるように,日本では昭和40年代前後に著しい大気汚染を経験しました。その結果現在では公害健康被害補償法により41の地域が指定されており,大気汚染系疾病の認定患者数は,54年1月末で71,190人となっています。
 今後は,二度とこのような健康被害をくり返さないよう,未然防止に万全を期していかなければなりません。また,1日も早く,このような補償法が必要とされない日がくるようにしなければなりません。

大気汚染対策の目標と現状

 大気汚染に関する環境基準は前ページ上の表のとおりに定められており,この基準を達成することを目標として,様々な大気汚染防止対策が進められています。
 主要な大気汚染の汚染物質ごとの現状を見ると,二酸化硫黄による汚染は,排煙脱硫装置の設置等の諸対策が進められた結果,着実に改善されてきています。代表的な大気汚染地区に設置されている15測定局における二酸化硫黄の年間平均濃度は,42年度の0.059ppmをピークに年々減少し,51年度0.020ppm,52年度0.018ppmと著しく改善されてきていますし,また,環境基準を達成している測定局も年々増加し,全体に対する割合も51年度87.6%,52年度93.0%と着実に増加しています。
 窒素酸化物は,硫黄酸化物と異なり,工場等の固定発生源に加えて自動車等の移動発生源のウエイトも大きい。15測定局における二酸窒素の年間平均濃度は,48年まで漸増傾向にあったが,49年度以降ほぼ横ばいとなっています。なお,52年度における測定結果について,53年7月改定後の新環境基準との対応状況を見ると,新環境基準の上限を超える高濃度測定局は,「一般環境大気測定局では4.6%であって,これら高濃度測定局は大都市地域に集中していること,また,道路際の自動車排出ガス測定局では36.3%であって,高濃度測定局の割合が高いことが認められます。
 一酸化炭素は,44年頃までは増加する傾向にありましたが,その後自動車排出ガスの規制が逐次強化された結果,着実に減少してきています。「一般環境大気測定局は全て環境基準を達成しており,また,自動車排出ガス測定局も93.4%の測定局が環境基準を達成しています。
 光化学大気汚染については,オキシダント注意報等の発令日数が49年に減少に転じ,53年は168日と52年と同レベルであり,また,被害届出人数も50年当時に比べ大きく減少しています。しかし,51,52年発令のなかった警報が53年には3日発令されています。




大気汚染防止対策

 大気汚染を防止するために必要なことは,ある地域において様々の発生源から排出される汚染物質の量を減らすことです。汚染物質の発生源として主なものは,工場・事業場と自動車です。
 このうち工場・事業場に対しては大気汚染防止法により,各々の汚染物質について排出の規制が行われています。規制のし方としてはボイラーなどのばい煙を発生する施設に対し排出口での濃度などを基準値以下にするという方式が主なものですが,硫黄酸化物については,地域全体の汚染状態を考慮して,工場からの総排出量を基準値以下にするという方式(総量規制)も実施されています。
 自動車の排出ガスについては,大気汚染防止法に基づいて,排出量の許容限度が定められ,これをうけて具体的な規制基準が定められています。

●大気汚染防止法体系図
●大気汚染防止法体系図
(注)直罰とは,基準を遵守しない者に対して,改善命令などを経ることなく,直ちに罰則をかけることをいいます。


 これらの規制に対応して,工場・事業場では,1)燃料の転換や低硫黄化 2)重油の脱硫(燃料から硫黄分を除去する方法) 3)燃焼技術の改善(低Nox燃焼技術など) 4)排煙脱硫装置や集じん装置の取り付けなどの様々な防止対策がとられています。また,自動車についても,規制基準に適合するようなエンジンの改良が進められ,特に乗用車については,世界で最も厳しいといわれた昭和53年度規制を満足する自動車の開発に,総てのメーカーが成功しました。

●自動車排出ガス規制効果の経緯(新型車)(NOx排出量の平均値)
●自動車排出ガス規制効果の経緯(新型車)(NOx排出量の平均値)

大気汚染の監視測定

 これまで国や地方自治体が行っている大気汚染防止対策を見てきました。その主な内容は工場や自動車などの発生源に対していろいろな規制を行い汚染物質の排出を少なくすることでした。この努力は今後も続けなければなりません。また,人体や生物に有害な物質なのに規制対象となっていないものについても検討を進め,その排出を防ぐことも必要です。このような規制の強化などを行う必要性を知り対策の効果を明らかにし,あるいは警報を出したり,工場に一時的に汚染物質の排出量を更に削減させたりするためには各地の大気の汚染を測定することが重要です。このために大気測定局が全国に設けられています。また,工場の煙突ごとに煙の汚れ具合を調べる装置をとりつけ地方自治体に設けられたテレメーターにより一日中監視し続けることも行われています。こういった監視測定は大気保全行政の必要条件であって,この努力がさまざまな対策を支えているのです。





水質汚濁の現状と対策



生活環境と水質汚濁

 水は,人の生活に欠くことのできない役割を果たしています。
 炊事,洗濯などの日常生活に直接必要であるばかりでなく,農業用のかんがい,工業製品の生産,更に水力発電所など,水の利用は多方面にわたっています。
 しかし,水と人の生活との関係は,このような水をいわば資源として考える水利用だけに限りません。川辺や海岸などは,住民の散策,水浴その他のレクリエーションや憩いの場であり,また広い水域は水産資源などの生育の場でもあります。
 従って,水の環境問題は,単なる水だけでなくその水のある水域全体をとらえて,人の生活と係りの深い広い意味での生活環境の問題として考える必要があります。
 水は,このように人の生活環境に極めて重要な位置を占めながら,水を利用する人の活動が逆に水を汚し,水質汚濁という公害問題をもたらしました。かつて清浄で豊かな水に恵まれていた所でも,産業排水や生活排水によって汚濁が進み,今日では,必要な水を近くに求めることは困難になっています。
 また,大都市やその周辺などでは,水面の埋立てや水質の悪化によって,水浴などのレクリエーションの場が失われ,魚介類の生息などにも適さないようになってきています。
 水質汚濁がもたらす環境悪化は,健康被害の面で,水俣病やイタイイタイ病などの悲惨な公害問題を発生させ,企業責任の追及と公害対策への反省を強く促しました。このような有害物質による汚染は,水道などの利用を困難にし,農作物や魚介類などの食品を汚染して危害を与えます。特に水銀PCBなどでは,いわゆる生物濃縮を通じて,魚介類などに高濃度に含まれるという危険があります。このため,このような有害物質が含まれる工場排水などに対して,環境中への排出を厳しく規制する措置がとられるようになっています。
 また,有害物質以外の有機物などによる水質汚濁も深刻な問題となっており,水道や農業用水などの利用にも障害が生じ,沿岸海域などにおいては,汚水の流入や赤潮の発生によって,魚介類のへい死などの問題が生じています。このため,工場排水の規制と並んで,下水道の整備による生活排水の処理など各種の対策が必要になっています。




水質の環境基準

 水質の環境基準は,公害対策基本法第9条の規定に基づいて定められたものであり,達成し維持することが望ましい基準とされています。この基準は,水質汚濁防止法を中心とする水質保全対策を実施していく上での行政目標になるものですが,また公共用水域の水質汚濁の状況を判断する上での尺度ともなっています。
 水質の環境基準は,人の健康の保護に関する基準(健康項目)と,生活環境の保全に関する基準(生活環境項目)とがあります。健康項目は,カドミウム,シアンなど9項目について,公共用水域の全体を対象に一律に定められています。また,生活環境項目は,BOD,CODなど7項目について,河川,湖沼,海域の別に,利用目的などに応じた基準値による水域類型(河川では6類型,湖沼では4類型,海域では3類型)を設けており,個別の水域について水域類型の中からひとつの類型を選択することにより,環境基準が定まることになっています。


豆知識
BOD(生物化学的酸素要求量)
 水中の有機物が微生物の働きによって分解されるときに消費される酸素の量で,河川の有機汚濁を測る代表的な指標。
COD(化学的酸素要求量)
 水中の有機物を酸化剤で化学的に分解した際に消費される酸素の量で,湖沼,海域の有機汚濁を測る代表的な指標。
DO(溶存酸素)
 水中に溶け込んでいる酸素の量
 BODやCODでは数値が高いほど汚濁が進んでいることを示すが,DOは逆に数値が高いほど環境条件はよい。
汚濁負荷量
 BODやCODは,単位体積当りの水の消費酸素量として表され,水中の有機物の濃度の尺度に使われていますが,これに水量を乗じて有機物の量としたものを汚濁負荷量といいます。


●人の健康の保護に関する環境基準
●人の健康の保護に関する環境基準

●生活環境に係る環境基準

●河川
●河川
 1)自然環境保全:自然探勝等の環境保全
 2)水 道 1 級:ろ過等による簡易な浄水操作
   〃   2 級:沈殿ろ過等による通常の浄水操作
   〃   3 級:前処理等を伴う高度の浄水操作
 3)水 産 1 級:ヤマメ,イワナ等の水産生物用
   〃   2 級:サケ科魚類,アユ等の水産生物用
   水 産 3 級:コイ,フナ等の水産生物用
 4)工業用水1 級:沈殿等による通常の浄水操作
   〃   2 級:薬品注入等による高度の浄化操作
   〃   3 級:特殊の浄化操作
 5)環 境 保 全 :国民の日常生活(沿岸の遊歩等)で不快感を生じない限度。

●湖沼
●湖沼
●海域
●海域
※類型による利用目的の適応性の内容は,湖沼,海域では河川と若干異る。


水質汚濁の現状

 公共用水域の水質汚濁の状況は,最近では全般的に改善の傾向を示しており,特にかつて問題とされたカドミウムやシアンなどの有害物質(健康項目)による汚濁は,全国的にほぼ問題のない状況にまでなってきています。
 しかし,様々な利水上の障害をもたらす有機汚濁(生活環境項目)については,一部の湖沼や内海,内湾,都市内の河川などで水質改善がなかなか進まず,なお高い汚濁の状況にあります。その状況を各項目について全体としてみると,環境基準値に適合する検体数の調査総検体数に対する割合は,河川では80%,湖沼では65%,海域では82%の検体数が環境基準に適合していますが,有機汚濁の代表的な指標であるBOD,CODについて各水域が環境基準を達成しているかどうかをみると,環境基準を達成している水域の環境基準類型指定水域の総数に対する割合は河川では59%,湖沼では35%,海域では77%が達成しているにすぎないという状況です。このような水質汚濁の現状をふまえ,生活環境項目については一般に汚濁発生源が多岐にわたることを考慮すると,環境基準を早急に達成することは困難であり,今後更に一層の水質改善の努力を進めていくことが必要であるということができます。




 特に今後の水質保全対策を進めていく上で問題となるのは,瀬戸内海や東京湾,伊勢湾などのいわゆる広域的な閉鎖性水域です。これらの水域では,外洋との水の交換が悪く,汚濁物質が滞留しやすいという条件がある一方,後背地にある大都市や大工業地帯から大量の生活排水や産業排水が流入しているため,水質汚濁が進行し,環境基準の達成は非常に困難な状況にあります。
 さらに,これら広域的閉鎖性水域をはじめとして,湖沼,内海,内湾などの閉鎖性水域においては,水交換が悪いために,リン,窒素などの栄養塩瀬の流入によって水中生物が急激に増殖し,水質が累進的に悪化するいわゆる富栄養化の問題が顕著になっています。富栄養化は,アオコや赤潮などを発生させ,水道や漁業などに障害をもたらしており,これら水域の水質汚濁の大きな要因ともなっています。
 また,水質汚濁の場合,特に過去の汚染によって汚濁物質がたい積している水域では,これを除去しない限り,汚染が長期間続くといういわゆる蓄積性汚染の問題があります。水銀,PCBなどの有害物質が含まれるヘドロについては,全国的に除去事業が進められていますが,そのためには二次汚染の防止のための安全な工法と多額の費用が必要とされます。また,鉱山では,閉山後も坑内水などが流出し続け,それに有害物質が含まれることが多いため,長期間の排水処理対策が必要になっています。

●有害物質による水質汚濁の改善状況(環境基準不適合率の推移)
●有害物質による水質汚濁の改善状況(環境基準不適合率の推移)
(備考)
1.環境庁調べ
2.アルキル水銀については46年度から,有機リンについては47年度から,6価クロムについては50年度から0となっている。
2.総水銀については,49年9月から各地点における年間平均値で評価されることとなったが,それ以降は基準を超える地点はない。
4.全項目は,総水銀を除く8物質について求めたものである。


●生活環境項目に係る水質汚濁の改善状況(環境基準不適合率の推移)
●生活環境項目に係る水質汚濁の改善状況(環境基準不適合率の推移)
(備考)環境庁調べ


●水質汚濁の経年変化 BOD(湖沼,海域はCOD)
●水質汚濁の経年変化 BOD(湖沼,海域はCOD)
(備考)建設省及び都道府県調べ


●主要河川の水質汚濁状況
●主要河川の水質汚濁状況
(備考)1.環境庁調べ 2. BOD値である。単位:ppm 3.比謝川の左欄は47年


●主要湖沼・内湾の水質汚濁状況
●主要湖沼・内湾の水質汚濁状況
(備考)1.環境庁調べ 2. COD値である。単位:ppm 3.金武湾の左欄は47年


水質汚濁防止対策

 公共用水域の水質汚濁を防止し,環境基準を達成するためのもっとも重要な対策は,水質汚濁防止法による排水規制の制度です。
 水質汚濁防止法では,汚水を排出する施設(特定施設)を設置する工場や事業場(特定事業場)に対して排水基準が定められています。排水基準は,健康項目(9項目)と生活環境項目(14項目)のそれぞれの項目ごとに一定の濃度などで示されており,規制を受ける特定事業場は,公共用水域への排水口でこの基準に適合した排水を行わなければならないことになっています。排水基準には,国が全国一律に定めている一律基準と,都道府県がそれぞれの水域の状況に応じて一律基準よりも厳しく定めている上乗せ基準とがあります。
 これらの排水基準を守らせるために,水質汚濁防止法においては,特定施設を設置する際の届出,都道県知事による計画変更命令,改善命令,排水基準違反に対する罰則などの措置を定めています。このような排水規制が全国的に行われた結果,現在ではほとんどの工場や事業場(排水量が少いものなどは別として)で,排水処理施設の設置などによって汚水を処理し,問題のない排水を行なうようになっています。
 さらに,人口や産業の集中によって大量の生活排水力流入する広域的な閉鎖性水域(湖沼や内海,内湾)で個々の排出源を規制するだけでは,環境基準の達成が困難である水域については昭和53年に総量規制の制度が導入されました。
 総量規制制度は,上乗せ基準を含めた現行の排水基準では環境基準を達成維持することが困難な水域(指定水域)を対象にします。指定水域としては,特別措置法によって法律上総量規制が実施される瀬戸内海のほかに,東京湾と伊勢湾が指定されています。
 規制などの負荷量削減対策が行われる地域は,指定水域に流入する汚濁負荷量が発生する地域(指定地域)であり,瀬戸内海では臨海の11府県のほかに京都府と奈良県,東京湾では,東京都,千葉県,神奈川県と埼玉県,伊勢湾では愛知県,三重県と岐阜県のそれぞれの関係地域が対象になります。




 規制対象となる水質汚濁項目としては,海域における有機汚濁の代表的な指標であるCODが指定されています。
 総量規制を実施に移すには,汚濁負荷量の削減の目標や目標年度などを具体的に定める必要がありますが,これらの事項は,内閣総理大臣が国の公害対策に関係する各閣僚で構成する公害対策会議の議を経て定める総量削減基本方針で示されます。
 具体的な負荷量削減対策は,基本方針に基づいて都道府県知事が総量削減計画を定め,これに基づいて実施します。総量削減計画においては,その都道府県内の発生源別の削減目標量,目標量を達成するための方途などの事項が定められます。
 総量削減計画に基づく負荷量削減対策の中心をなすのは,総量規制基準による規制です。総量規制基準は,1日当たりの排水量が50立方メートル以上の特定事業場に適用され,事業場ごとに排水量に一定の濃度を乗じて得た汚濁負荷量の値を許容限度とするようになっています。総量規制基準を定めるのは都道府県知事ですが,その設定方法については,中央公害対策審議会で専門的な立場から審議され,現実的に対応可能な範囲で定める必要があるとの基本的な考え方の下に,許容限度の算定方法や業種ごとの濃度の幅などを示した答申が行われ,この答申の内容に沿った方法が定められています。

●水質汚濁防止法の体系
●水質汚濁防止法の体系

●水質総量規制指定水域及び指定地域
●水質総量規制指定水域及び指定地域


その他の公害の現状と対策



騒音及び振動

 騒音及び振動は,各種公害のなかでも日常生活に最も関係の深いものであり,また,その発生源も多種多様であることから,これらに関する苦情は例年公害に関する苦情のうちでも最も多くなっています。
 工場,建設作業の騒音については,騒音規制法に基づく対策が進められています。また,いわゆる近隣騒音問題については,騒音防止に関する知識の普及・啓蒙を図るとともに,機器の低騒音化や建築物の遮音化等の対策が必要となっています。
 工場,建設作業の振動については,振動規制法に基づいて対策が進められており,また,低周波空気振動については,具体的な対策事例の収集を主体とした防止対策に関する調査等が進められています。
 自動車騒音・道路交通振動については,自動車本体から出る騒音の低減化,道路構造の改善,周辺対策等の各種対策が講じられています。
 航空機騒音については,発生源対策,空港構造の改良,空港周辺対策が進められており,また,53年4月には空港周辺における住宅等の建築制限を含む土地利用制度を確立することを目的とする「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」が制定・公布され,同年10月特定空港として新東京国際空港が指定されました。
 新幹線鉄道の騒音・振動については,国鉄において音源対策及び民家防音工事の助成・移転補償等の障害防止対策を行っています。また,在来鉄道の騒音・振動については,環境庁において対策技術評価調査が行われています。

●騒音・振動防止対策技術の概念図
●騒音・振動防止対策技術の概念図




●騒音に係る苦情の内訳
●騒音に係る苦情の内訳
(備考)環境庁調べ


悪臭

 悪臭は,騒音・振動に次いで苦情件数が多い公害です。このため悪臭防止法に基づきアンモニア等8物質が悪臭物質として指定され,都道府県及び9指定都市において規制地域の指定,規制基準の設定が進められています。

廃棄物

 ごみ,し尿などの廃棄物対策としては,「廃棄物処理施設整備緊急措置法」に基づき,55年度を最終年度とする廃棄物処理施設整備計画が策定され,処理施設の整備が図られています。また,53年8月には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」を改正し,し尿浄化槽の維持管理状態の検査制度を55年1月から実施することとしました。産業廃棄物については,その処理対策の確立を期すために,処理状況の実態調査や処理施設の整備等が行われています。

●悪臭苦情の業種別内訳
●悪臭苦情の業種別内訳

地盤沈下

 地盤沈下は,30年以降大都市ばかりでなく,濃尾平野など農村でも認められ,現在34都道府県58地域で地盤沈下が観測されています。地盤沈下は,地下水の過剰な採取のほか水溶性天然ガスを溶存する地下水及び温泉水の採取によって生ずることが明らかになっているため,工業用水法等により地下水採取の規制が行われています。更に防止の徹底を図るためには,水使用の合理化,代替水源の確保等を図る必要があるため,これらの観点から法制の整備等が検討されています。

●全国の地盤沈下の状況   ●環境庁調べ
●全国の地盤沈下の状況

土壌汚染

 土壌汚染については,農用地の土壌汚染防止対策細密調査等により基準値を超える量のカドミウム,銅又は砒素が検出された地域について対策地域の指定,対策計画の策定等が進められ,所要の土地改良事業等が実施されています。また,金属鉱業等における公害防止対策も進められています。
 農薬汚染については,農薬取締法により残留性,毒性等の審査基準の設定作業が進められるとともに,農薬使用規制が推進されています。


自然環境の現状と対策



自然環境の現状


植生自然度の現状
 植生自然度とは,人間の開発行為によって自然がどの程度改変されているかを植生の状況によって分類し,客観的に国土の自然環境の現況を表したものです。
 環境庁で行った第1回自然環境保全基礎調査では,この植生自然度を人間の手の入ったところから,原始的なところまで1〜10の10段階に区分しています。
 これによると,名古屋と福井とを結ぶ線から西南の地域について見ると,この地域本来の自然植生は,いわゆる照葉樹林といわれる植生ですが,この自然植生はほとんど見当たらず,あっても点として散在している程度であり,この地域においては,本来の自然植生が既にほとんど姿を消してしまったことを示しています。これと対照的なのは名古屋と福井を結ぶ線から東北の地域で本来の自然植生が不連続ながらもある程度塊状にまとまって,奥羽山脈や北アルプスなどやや日本海側に片寄りつつ残っています。ただし,それらは,照葉樹林ではなく落葉広葉樹林や針葉樹林です。そしてこれらの自然植生の地域を取り囲むように人の手が入ったあとにできる二次林の地域が広がっています。一方,北海道地域には本来の自然植生がかなり残っています。また,人工林の多いのは東海,九州,四国,中国地方及び紀伊半島などで,更に,緑のない都市砂漠は東京から大阪まで大平洋岸を帯のように広がっています。

●照葉樹林―照葉樹林とは,シイ,カシ,クスノキなど葉が厚く光沢のある常緑広葉樹を主体とする森林です。
●照葉樹林


●植生自然度区分概要及び全国集計
●植生自然度区分概要及び全国集計


●植生自然度10.9(自然度の高い天然林・自然草原)比率図(都道府県別)
●植生自然度10.9(自然度の高い天然林・自然草原)比率図(都道府県別)

国土利用から見た自然環境の現状
 自然環境の保全に関連の深い原野,森林,農用地等の国土利用の状況を見てみると,森林の面積は最近12年間で若干増加しているものの農用地,原野などは最近かなり減少しています。森林は,国土の3分の2を占め,自然環境の保全,野鳥の保護,大気の浄化等環境保全上の機能も多く,環境を守る上で重要な地域です。
 また2次的な自然としての農用地は,国土の約15%を占め,その緑地空間としての環境保全上持つ意義は,特に人口が集中し原野,森林の少ない大都市地域では大きいものがあります。したがって農地の減少,特に大都市圏でのそれは,環境保全の立場からも十分にその意味を考える必要があるでしょう。

●国土利用の変化
●国士利用の変化
備考 1.40年の数値は,国土庁「公共施設用地調査」,52年の数値は,国土庁「都道府県の地目別現況調」による。
   2.道路は,一般道路及び農林道の合計である。





鳥類の生息状況
 我が国で生息が記録された,鳥類は約500種で,鳥相は比較的豊かな方であり,そのうち約6割が季節的に移動を行う「渡り鳥」であり,渡り鳥の保護が,日本の鳥類の保護において占める役割の大きさがよくわかります。
 42年以来全国300か所で統一的手法により行っている定点調査によると,都市化の進行とともに森林及び水辺の鳥類は生息域を狭められている一方,ヒヨドリ,ムクドリ等の都市型の鳥類が増加していることがわかっています。このことからも,環境の変化が野生動物に与えている影響が大きいことがわかります。

●標識鳥回収一覧国外分(39〜44年)―日本で標識を付けた渡り鳥がどこで回収(捕獲)されたかを示しています。
●標識鳥回収一覧国外分(39〜44年)


自然環境保全対策


 我々が住んでいる日本列島は,火山活動をはじめ,種々の自然活動が組み合され,世界でも稀に見る変化に富んだ地形を呈しています。さらに亜熱帯地方から亜寒帯地方に至る細長い国土や散在する島々は,モンスーン地帯に属するため気候は地較的暖かく,年間降雨量も多く,この湿潤な気候は約6,000種にも及ぶ多様な植物を生み,約500種もの野鳥を生息させています。このような立地条件が渓谷・湖水及び滝などに豊かな水を供給し,地形とあいまってそこに繊細な美しい多様な景色を形作っています。
 一方,市街地,農地などの可住地面積は,全国土面積約38万平方キロメートルの約22%に過ぎません。この狭い国土に約1億1千万人が生活し,かつ自由世界第2位の国民総生産を挙げる高度経済成長を進めて来た我が国の経済活動は,自然に対する種々の形でのインパクトを増大し,いわゆる自然破壊という現象が見られるようになりました。この様な無秩序,無定見な開発行為に対する反省が起り,昭和47年6月に「自然環境保全法」が制定され,同法の規定に基づき同48年10月に「自然環境保全基本方針」が閣議決定されるに至りました。

自然環境保全地域
 自然環境の保全を図るため,これまでに上記基本方針にのっとり,環境庁長官は,昭和50年5月から,4ケ所の原生自然環境保全地域(自然環境が人の活動によって影響されることなく原生の状態を維持している区域であってその自然環境を保全することが特に必要な区域)及び4ケ所の自然環境保全地域(原生自然環境保全地域以外の区域のうち,自然的社会的諸条件から見て自然環境を保全することが特に必要な区域)を指定しました。
 なお,都道府県知事により指定された都道府県自然環境保全地域は約400ケ所に及んでいます。

自然公園
 自然公園法により,環境庁長官が我が国を代表する傑出した自然の風景地27ケ所を国立公園に,国立公園に準ずるすぐれた風景地51ケ所を国定公園として指定しています。このほか,都道府県の風景を代表する風景地291ケ所を都道府県立自然公園として知事が指定しています。また,昭和45年には「海のお花畑」といわれるような美しい海中の景観を維持するため,環境庁長官が国立公園及び国定公園の海面内に海中公園地区を指定できることになり,現在までに57ヶ所(国立公園内に27ヶ所,国定公園内に30ヶ所)が指定されています。
 このようにして指定された自然公園を適正に管理し国民の利用に供するために,公園内では建物を新築するというような風致景観を損なうおそれのある一定の行為は,許可を受けたり届け出をしなければ行うことができないこととされています。国立公園には,10ケ所に管理事務所が置かれ,その他の地域にも管理員を配置し,指導監督等現地管理にあたっています。
 昭和47年から国立公園の特別保護地区,第1種特別地域の民有地で公的に保護しなければ保護が図れないものを買い上げるという途が開かれました。国定公園においても昭和50年から,この制度が適用されています。

●国立公園,国定公園および自然環境保全地域配置図
●国立公園,国定公園および自然環境保全地域配置図



●原生自然環境保全地域
●原生自然環境保全地域

●自然環境保全地域
●自然環境保全地域

●国立公園
●国立公園
●備考:指定年月日の年号は昭和です。


●国定公園
●国定公園
●備考:指定年月日の年号は昭和です。


鳥獣保護
 各種の開発により,我々の周辺から鳥獣の姿が消えつつあり,国民の間でも野生鳥獣の保護に対する関心が急速に高まってきており,環境庁としても「野鳥の森」の整備などにより,鳥獣保護思想の普及啓もうを図っています。
 野生鳥獣は,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律によりその捕獲を禁止しまたは制限するとともに,生息環境の保全を図ることとしています。このため,鳥獣保護区を指定し,特別保護地区を設けることにより水面の埋立,干拓などを規制の対象とし,生息環境の保全を図っています。また,絶滅のおそれのある鳥類については,特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律により厳しい規制が行われています。
 渡り鳥については,国際間の協力が重要です。既に米国,ソ連,オーストラリアの三国との間に渡り鳥等保護条約が締結されています。今後はこれら二国間の協力及び多国間の協力を一層進めていくことが期待されています。

都市・森林の自然環境の保全
 都市における自然環境の保全のために,都市公園整備5カ年計画に基づき都市公園の整備が進められています。また都市緑地保全法に基づく緑地保全地区などいくつかの都市の自然を守るための地域を指定する制度が整備されており,指定された地域では工作物の新築や樹木の伐採などの行為が制限されています。
 また,国土の7割近くを占め,自然環境の保全の上からも大きな意味を持つ森林の保全のために,森林法に基づき開発許可の制度や保安林の指定が行われています。







環境保全の今後の課題


●環境問題と諸条件の変化●環境汚染の未然防止●快適な環境を求めて


環境問題と諸条件の変化



 既に見て来たように,環境問題は経済活動やエネルギー構造,水や土地の利用のされ方などと深くかかわりを持っています。したがって今後の環境問題の課題を考えるに当たっては,これら経済活動等の環境問題に関連する諸条件の変化が,環境にどのような影響を与えるのかを考える必要があります。

経済と環境

 わが国の経済は,高度成長期から昭和48年の第1次オイル・ショックを経て安定成長期に移ったと言われています。高度成長期に比べて低成長の時期には,汚染負荷量(硫黄酸化物の排出量や水質汚濁の原因物質の排出量など)の急激な増大はなくなるわけですが,しかし低いとはいえ成長が続く限り,汚染負荷量は増大するのですから公害防止施策は強化されなければなりません。ところが,低成長下では,企業は公害防止投資を行うことが困難になりますし,国や地方公共団体においても財政が苦しくなりますから,環境面での支出もある程度抑制しなければならなくなっていきます。そのため,今後はより一層効率的な環境保全対策が要求されることとなりましょう。

エネルギーと環境

 最近石油の需給構造のひっ迫を契機として,世界的にエネルギーの節約と,石油代替エネルギーの開発利用が大きな問題となって来ました。エネルギーの節約は,汚染負荷量の減少につながる訳ですから,環境面からも基本的には推進すべきことです。一方石油代替エネルギーの開発利用ですが,これについては,原子力,石炭,LNG,新エネルギーなどのエネルギーが今後有望と言われています。しかしながら代替エネルギーのうちには,環境に大きな影響を与える恐れのあるものもあり,その開発利用にあたっては,環境面に十分な配慮が払われる必要があり,今後は環境保全技術開発が,大きな課題となるでしょう。

●わが国の一次エネルギー供給量の推移
●わが国の一次エネルギー供給量の推移

土地と水と環境

 土地と水は,環境を構成する基礎的な要素であると共にあらゆる人間活動に必要な限られた資源です。わが国においては,狭い国土で極めて高密度の人間活動が行われているため,現在でも土地や水を限界に近いまでに利用していますが,土地や水に対する需要は,今後ともますます増大して行くと思われます。仮にこのまま無計画な都市化の進行や水の使用量の増大が続けば大きな環境問題を引き起こすのではないかと心配されます。一例を水の使用にとると,河川の流量はほぼ一定ですから水の使用量の増大は,そのまま,使用済みのいわば汚れた水の流水の中で占める割合が多くなることになり,当然に水質の悪化が起こることになるでしょう。
 土地や水の利用については,このような環境面の配慮を加えた実効性のある長期的,計画的な利用を行っていくことが今後より一層必要となってきています。


環境汚染の未然防止



環境汚染の未然防止

 公害や自然破壊はひとたび起こってしまってからではなかなか解決できません。
 住みやすい社会を造り,豊かな暮らしをしていくためには,鉄道をひいたり,道路をよくしたり,産業をおこしたりすることも必要ですが,その結果公害被害がでたり,美しい自然が無惨に損なわれるのは困ります。
 これまで,このような開発が行われる際に,地域の気象,地形,自然環境,周辺の居住状況などについての調査や開発にともなって排出される汚染物質による環境への影響の予測などが,必ずしも十分行われなかったきらいがあります。このため被害が発生してからようやく対策が行われるというような例が多く見られました。
 このような環境破壊は未然に防止されなければなりません。このため開発等に先立って,それが環境にどのような影響を及ぼすか予測,評価を行い,更にその結果を公表し,地域の人々の意見を聴くことなどにより必要な対策を樹てることが行われるようになってきています。
 このような手続を環境影響評価といいます。
 国では,昭和47年の閣議了解で各種の公共事業を行うに当たって環境保全対策を行うことを決めてから各省庁で環境影響評価が行われるようになりました。建設省,運輸省や通産省では,その所管する公共事業や電源立地について通達を出し,関係地域の住民や関係行政機関の意見をも聴いて事業の実施が環境に及ぼす影響を明らかにし,必要な環境保全上の措置を講じています。特に本州四国連絡橋の建設,新幹線鉄道の整備や関西新空港の建設等の国家的事業では,先ず環境影響評価を行うことが不可欠の条件となっています。
 地方公共団体でも,北海道,川崎市をはじめ12の地方公共団体が条例等を定めて管内の事業について環境影響評価を行っています。
 このように,国や地方公共団体での実績がつみ重ねられてきていますが,これまでの経験をふまえ,環境影響評価を更に効果的なものとするために,国における環境影響評価の法制度化が検討されてます。
 また,今日私達の生活の中で欠くことの出来ない大きな役割を担っている化学物質による環境汚染も,今後注意を払っていかなければならない重要な分野です。そのため,国においては「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」を中心に,化学物質による環境汚染を未然に防止するため他の先進工業諸外国とも協力しつつケミカルアセスメントの体制の整備に努めています。





快適な環境を求めて



快適な環境への意識の高まり

 近年,各地で美しく住みよい町づくり,村づくりへの関心が高まっており,その主たる担い手である地方公共団体,地域住民が快適な環境を求めて河川の浄化・清掃,道路・広場等の緑化などを行っています。
 快適な環境への関心が高まっている主な背景として,第一に急速な経済成長期を通じて,緑や水辺,静けさなど快適な環境を構成する諸要素が急速に失われたこと,第二に,所得水準が高まり余暇が増大するなど,生活全般にわたって著しい改善が進むにつれて,住宅及びそれを取り巻く生活環境が相対的に低水準にあることが自覚されてきたこと,第三に,従来,環境問題の中で大きな部分を占めてきた公害対策が相当の成果を収めてきた結果,より広い視野から環境問題に取り組んでいくことの必要性が認識されてきたことなどが考えられます。

●快適な環境とはどんなものか
●快適な環境とはどんなものか

環境行政と快適な環境づくり

 これまでのわが国の環境行政は,激化していた公害を防除し,あるいは,急速に失われつつあったすぐれた自然環境を保護することに全力を挙げて来ました。そのため既に見て来たように,大気中の硫黄配化物(SOx)や水質における有害物質などの汚染因子には大幅な改善が見られ,かっての危機的な状況の克服にはかなりの成果をあげることができました。しかし,望ましい環境とは,単に病気の危険がない程度のものであるだけでいいというものではありません。人が本当の意味で健康で文化的な生活をするためには,うるおいのある快適な環境が必要です。そして環境行政も,今後は環境を守ることから更に進んで積極的に人間にとってよりよい環境を作り出すことをしなければならないと考えられます。
 このような意味で快適な環境づくりは,環境行政の今後の大きな課題であると言えるでしょう。

快適な環境づくりの動き

 快適な環境をつくる活動を例示して見ると,以下に述べるような動きがあります。

1)自然環境の保全
 市街地の緑の確保や河川など水辺環境の保全は,公害・災害等の防止のみならず,自然との触れ合いの場を確保し,また美しい景観の形成に資するものとしても重要です。この分野の例としては,郡山市等の緑化推進事業や仙台市の広瀬川の水辺環境の保全などがあります。
 また,道路や鉄道の沿道における美しい景観とか,年に数回でも優れた自然景観に接する機会が確保されていることも,生活の中の快適さを高めるものとなります。この例としては,宮崎県の沿道修景の制度があります。




2)歴史的環境の保全
 歴史的環境は,人々がその地域社会に愛着を感じ定住指向を高めていくための一つの要素となっています。現在,「古都保存法」によって奈良市等8つの都市における歴史的風土が,また,「文化財保護法」によって城下町・門前町などの伝統的建造物群と周囲の環境が保存されていますし,各地方公共団体で歴史的環境の保全の動きが高まっています。




3)町並み景観の保全
 市街地においては,人工物の占めるウェイトが高く,それらの形成する景観も快適な環境の重要な要素の一つとなっています。例えば神戸市などでは「景観条例」を制定して建築物等の形態,デザイン,高さ,色彩等の変更に関する規制が行われています。

4)野外レクリエーション施設
 健康を維持し,自然との触れ合いを深める場としての野外レクリエーション施設・地区等が身近に整備されていることは,生活にうるおいを与え,日々の生活の快適性を高める上で重要な要素です。国においては国民休暇村,長距離自然歩道等を,地方公共団体でも県民の森,ふるさと村等の整備を進めています。