第2部 最近の環境汚染の状況と環境保全対策


49 大気汚染の現況と対策


 大気汚染のうちのいおう酸化物による汚染の状況は全般的には汚染の改善傾向が現われてきたとはいえ,大都市地域およびその他の一部地域においてはなお汚染状態が続いています。これに対しては,環境基準の強化改訂の作業が進められたほか,排出規制の強化などの措置が講じられました。
 次に,浮遊ふんじんの汚染状況は,全般的に44年頃からの汚染低下の傾向が最近に至るまで続いており,今後は,なお高濃度の汚染が生じているいくつかの地域における対策を強化していくことが必要です。
 窒素酸化物による汚染については,全般的に必ずしも汚染の状況が改善されておらず,しかも現在まで自動車以外のものについては,規制措置が行なわれていないため,物の燃焼に伴って発生するこの窒素酸化物は,燃料使用量の増加に伴い大気の汚染を進行させる傾向にあり,今後の大気汚染問題において最も重要なものとなっています。これに対しては,環境基準の設定のための作業が中央公害対策審議会において進められ,48年度の初めに基準の告示がなされることとなっています。
 一酸化炭素による汚染の傾向は,ほぼ横ばいであるといえます。
 また,光化学スモッグの一つの指標とされているオキシダントの濃度の年平均値は東京,大阪の国設の測定局においては減少の傾向にありますが,測定局の数がこれまで全国的に少なかったので全般的な傾向をつかむことはできません。また,光化学反応による健康被害の届出が依然として多い状況からすれば,光化学反応による大気汚染対策として,現在行なっている環境基準設定のための検討,固定発生源対策,自動車対策,調査研究の実施等の各種対策を大いに強化,推進していく必要があるといえましょう。

いおう酸化物にかかる環境基準の適否状況(昭和46年度)
いおう酸化物にかかる環境基準の適否状況(昭和46年度)
(備考)1.環境庁調べ
    2.○過去に環境基準に適合しなかったことがある都市で,46年度に環境基準に適合する都市(28都市)
    3.環境基準不適合都市のうち
     (1)◎年平均値0.05ppm以上の都市(7都市)
     (2)●(1)以外の都市(25都市)


発生源別大気汚染物質排出総量
発生源別大気汚染物質排出総量


50 自動車公害の現状と対策


 自動車の保有台数の増加に伴う大気汚染や騒音等の自動車公害は大きな社会問題となっているところですが,まず自動車排出ガスについてみますと,大都市における一酸化炭素や窒素酸化物の濃度は減少または横ばいの傾向にありますが地方都市における一酸化炭棄の濃度はかなり高くなっています。これは,自動車保有台数の増加にもかかわらず,交通渋滞による交通量の頭打ち又は減少傾向にある地域においては,自動車排出ガス規制の強化を反映して汚染の減少傾向がみられますが,いまだに道路容量に余裕があり,交通量が急増している地域においては依然として汚染が進行しつつあるためであると推定されます。
 環境庁の試算によれば,45年度における東京都,千葉県,神奈川県,埼玉県の1都3県における各発生源から出される大気汚染物質排出総量のうち自動車が排出するものの割合は,一酸化炭素93%,炭化水素57.3%,窒素酸化物39%となっており,自動車排出ガス問題の重要性がうかがえます。
 次に自動車騒音についてみますと,自動車交通量の増加,高速自動車道の建設などに伴って住民の苦情,陳情はますます増加しており,とくに交通量の多い幹線道路周辺の騒音レベルは相当高い状態となっています。
 これらの自動車公害に対しては,自動車そのものの構造を改善していく発生源対策と道路構造の改善,交通規制等の自動車環境対策の両面の対策を行なっていく必要があります。発生源対策としては,自動車排出ガスの量の許容限度の強化として50年以降の新車に対する規制強化が47年10月5日告示されたほか,中古車に対する規制も強化されています。自動車環境対策についても道路の立体交差化,交通規制等が行なわれたほか新交通システムについての研究が進められています。

51 水質汚濁の現状と対策


 最近のわが国の水質汚濁の状況は,まず河川についてみますと,大都市またはその近郊を貫流する河川はかなり汚濁の進行しているものもありますが比較的早くから行なわれた排水規制等の効果が現われ,ようやく改善のきざしがみえ始めるものもあります。一方,都市内の中小河川は,河川流量が少ないことなども加わって全般的に汚濁は著しくなっています。また,地方の大河川の水質は,ほぼ横ばい状態あるいは部分的に改善のきざしが現われています。
 次に湖沼と内湾についてみますと湖沼は,全般的に汚濁が進行している傾向にあり,富栄養の進行もみられます。内湾は,汚濁防止対策が講じられているため汚濁の進行は鈍化している反面,赤潮の発生が続いている地域もあります。このほか,海洋の汚染状況も年々悪化してきています。
 以上のような水質汚濁によってもたらされている被害は水道原水に与える被害,工業用水の汚濁,農業・漁業に対する被害のほかレクレーション用地の被害など多岐に渡っています。
 これらの水質汚濁の現状に対してとられた対策は多方面に及んでおり,その効果によって一部では汚濁が改善してきていますが,今後一層の対策の拡充強化が必要とされています。とられた対策の主なものをあげてみますと,第1は環境基準の設定が推進されたことです。47年度末までに環境基準の水域類型の指定は200水域について完了しています。第2に規制措置の強化として上乗せ排水基準設定の促進,規制対象・規制項目の拡大追加の措置が講じられました。第3に監視測定体制の整備が行なわれ,第4に下水道整備が促進されました。

主要河川の水質汚濁状況(BOD値)(昭和47年)
主要河川の水質汚濁状況(BOD値)(昭和47年)

表層におけるC.O.D水平分布の状況(昭和47年度)
表層におけるC.O.D水平分布の状況(昭和47年度)

52 瀬戸内海の汚濁の現況と対策


 瀬戸内海の全般的な水質汚濁の現状については,47年度に環境庁で瀬戸内海水質汚濁総合調査が実施されましたが,これまでの中間報告によれば次のようなことが指摘できます。第1に赤潮を発生させる富栄養化の原因をなす栄養塩類の一つである硝酸態窒素(NO3−N)の濃度は,豊後水道や紀伊水道のように貧栄養の黒潮水の影響を強くうける海域で低く,大阪湾東部および山口県宇部市附近の海域では相当高濃度を示しています。第2にCODの濃度については,大阪湾のほぼ全域と播磨灘の中央部が3ppm以上であるほか各工業地帯,都市の地先海面に3ppm以上の海域がみられます。
 瀬戸内海は,極めて閉鎖的な内海であり海水の交換になかなか行なわれ難くなっているといわれますが,このような内海に一日当たりどの程度の汚濁物質が流入しているかについても実態調査が行なわれました。
 それによりますと,1日当たり,COD1483.5t,富栄養化の原因となるアンモニア態窒素,亜硝酸態窒素,硝酸態窒素,リン酸態リンがそれぞれ180.9t,5.7t,29.8t,8.9tとなっています。

怒りの漁民海上デモ
怒りの漁民海上デモ

 このような瀬戸内海の汚濁に対して講じられた対策としては,環境基準の水域類型の指定,上乗せ排水基準の設定,総合的な公害防止対策を実施するための公害防止計画の推進,下水道整備の促進,48年4月1日以降におけるし尿の瀬戸内海における投棄禁止,廃油処理施設整備の促進,海洋汚染の取締りの強化等があります。しかしながら,瀬戸内海の汚濁を改善し,赤潮などによる被害を無くすためには,以上の諸対策をさらに拡充するほか,赤潮防除技術の開発等の調査研究を進めていく必要があります。

東京都内の環境騒音(中央値,昼間)
東京都内の環境騒音(中央値,昼間)

53 騒音振動の現況と対策


 騒音振動公害は,近年の産業開発,都市の膨張などに伴って全国各地で起こっており,公害に関する苦情のうちで最も多数を占めています。
 騒音の発生源にはいろいろなものがありますが,苦情件数でみますと工場騒音が最も多く,次いで建設騒音,深夜騒音の順となっています。また,最近では,交通輸送機関の発展に伴って,地域によっては,新幹線等の鉄道騒音,航空機の騒音などが問題になってきています。
 一方,地域ごとに環境騒音の状況をみますと,道路とくに幹線道路に面する地域においては,レベルが高く,また,準工業地域,工業地域においても,自動車騒音による影響が大きいことが注目されます。
 こうした騒音公害の拡大に対して,47年度においては,各都道府県において騒音規制法に基づく地域指定の作業が進められ,指定地域は,47年4月1日現在で366市114町31村23特別区に及んでいます。また,従来法の一部適用が猶予されていた地域についても,改善勧告または改善命令が発動され生活環境の改善が図られるとともに,騒音に係る環境基準の地域類型のあてはめも進められています。

新幹線の騒音レベル
新幹線の騒音レベル

 また,航空機騒音対策については,環境庁長官の勧告をうけて,東京,大阪両国際空港において,深夜の運航規制および航行方法の指定などの強化措置が実施されたほか,空港周辺の一般住宅の防音工事助成のための実態調査などが行なわれました。新幹線騒音対策についても,当面の措置を講ずる場合における指針が設定され,対策が進められました。
 一方,近年急激に増加している振動公害に対しては,47年度から工場振動,建設振動,自動車振動,鉄道振動に関する総合的な実態調査が行なわれるとともに,振動公害における測定方法などについての調査研究が進められました。

54 地盤沈下の現況と対策


 地盤沈下の原因については,これまで多数の説が出されてきましたが,現在では,無視できる程度の自然的な地殻変動等によるものを除けば,地下水を採取しすぎたために起こる現象であることが明らかになっています。
 わが国の地盤沈下地域は,戦前には東京,大阪およびそれらの周辺地域に限られていましたが,最近では,程度の差こそあれ全国的に多数分布しており,その地域は,31都道府県46地域にも及んでいます。
 これら地域のうち,地盤沈下の進行程度が比較的激しく,すでに各種の被害を生じている地域としては,首都圏南部,濃尾平野,青森平野,七尾などの地域があります。かつて著しい沈下を経験した阪神および新潟平野においては,地下水や水溶性天然ガスの採取規制等の効果が現われ,最近では一部地区を除いて沈下が終息しつつあります。その他の地域においては,まだ地盤沈下の進行が初期の段階にあり,被害も軽微であるか認められない程度ですが,今後激化する恐れがあり十分な警戒が必要です。
 こうした地盤沈下に対処するため,工業用水法および建築物用地下水の採取の規制に関する法律に基づく指定地域においては,工業用,冷暖房用,水洗便所用等の地下水採取の規制が行なわれています。この他地方公共団体が条例を設けて独自に地下水採取の規制を行なっている場合もあります。
 このほか,工業用水道の建設に対しては,国庫補助金を交付することによってその促進を図るとともに,工業用水転換施設について固定資産税を非課税とする措置を講じています。47年度末現在25の地盤沈下対策工業用水道が完成し,または建設中であり,沈下の防止に効果をあげています。
 さらに,すでに著しく沈下している地域については,被害を受けた施設の効用復旧や防災のための各種事業が行なわれています。

全国の地盤沈下地帯
全国の地盤沈下地帯
(備考)環境庁資料により作成。


代表的な悪臭物質と主要発生源事業場
代表的な悪臭物質と主要発生源事業場

55 悪臭の現況と対策


 悪臭は,嗅覚という人の感覚に直接知覚されるものだけに,古くから多くの地域で社会問題となってきましたが,近年において悪臭公害が広く問題にされるようになってきたのは,各種企業の大規模化に伴う汚染の広域化,都市の近郊,郊外へのスプロールに伴う住居の悪臭発生事業場への接近,さらに住民の快適な生活環境への関心の高まり等を反映したものとみられます。
 このような事情を背景に地方公共団体が受理した悪臭に関する苦情は毎年増加の一途をたどっており,46年度における受理件数は17,746件(対前年比18%増)に及び,公害に関する苦情のうち約23%を占めています。
 悪臭の原因となる物質については様々のものがありますが,悪臭原因物質を発生する事業場についてみてみますと,養鶏養豚業,へい獣処理場,石油化学等による悪臭公害件数が多くなっています。

業種別悪臭公害件数(昭和46年)
業種別悪臭公害件数(昭和46年)

 このように増大を続けている悪臭公害に対処するため,悪臭防止法が制定され,47年5月31日から施行されました。悪臭防止法は,悪臭の原因となる悪臭物質を政令で定め,それらの悪臭物質の排出を規制するため,都道府県知事が規制地域の指定,規制基準の設定を行なうとともに,規制基準に適合しない悪臭物質を排出している事業場に対しては,改善勧告,改善命令を発動して是正措置を講ずることにより悪臭公害を防止していくこととしています。
 現在,悪臭原因物質として,1)アンモニア,2)メチルカプタン,3)硫化水素,4)硫化メチル,5)トリメチルアミンの5物質が指定されており,48年3月現在悪臭物質の排出を規制する地域として青森,秋田など7県において地域指定が行なわれています。都道府県知事は,これら地域について悪臭物質の種類ごとに悪臭物質の感覚に対する刺激の強度と大気中の濃度との関係を基礎に基準を定めています。

し尿処理の状況
し尿処理の状況

56 廃棄物の現況と対策


 近年における生活水準の向上,産業活動の進展は,廃棄物の質の多様化と量の加速度的な増加をもたらしています。廃棄物は,し尿,ごみ等人の日常生活に伴って生ずる「一般廃棄物」と事業活動に伴って生ずる「産業廃棄物」に大別されますが,このうち一般廃棄物の処理は市町村が清掃事業として行なっています。し尿の処理については,し尿処理施設または下水道終末処理施設に運んで処理する方法を合わせて衛生的処理といっていますが,し尿の衛生的処理率は,41年度当時は55%であったものが45年度には71%とかなり向上してきていますが,今後さらに衛生的処理を高める必要があります。
 水洗化人口は年々増加していますが,欧米と比してわが国の下水道の普及が著しく立ち遅れているため,し尿浄化そうによる水洗化の伸びに依存している状況にあります。ごみの排出量も40年以降年平均6%ずつ伸びており,とくに粗大ごみの増加とプラスチックの混入率の上昇が問題となってきています。

ごみ処理の状況
ごみ処理の状況

 産業廃棄物の処理は原則として事業者が行なうべきこととされていますが,実際には,事業者自らによる処理は必ずしも適正に行なわれているとはいえない状況にあり,今後収集,運搬部門に集中している処理業者の処分部門への進出,最終処分地,産業廃棄物処理施設建設用地などの確保が必要となってきているといえましょう。
 このように廃棄物問題は,超過密下での経済社会に伴う新しい課題であり,これに即応した処理体制の確立が必要となっています。
 このため,厚生省では,47年度から廃棄物処理システムに関するフィールド調査研究を実施するとともに,通商産業省においても産業廃棄物の収集,運搬,資源化,処理に関する最終処理システムの策定および産業廃棄物処理技術指導書の作成などの施策を講じているところです。

57 土壌汚染の現況と対策


 近年,産業活動の進展に伴い,大気の汚染,水質汚濁等の公害が各地に発生していますが,これら大気の汚染,水質の汚濁等を媒体としたカドミウム等による農用地の土壌の汚染も各地で問題になっています。また,重金属類によって汚染されている農用地およびそのおそれのある農用地面積は,おおむね37万haと推定されています。現在このような土壌汚染に対処するため,「農用地の土壌汚染防止等に関する法律」が制定されており,特定有害物質としてカドミウムおよびその化合物を指定するとともに,カドミウムおよびその化合物に係る農用地土壌汚染対策地域の指定要件を米に含まれるカドミウム量が1.0ppm以上であると認められる地域およびそのおそれが著しい地域としていましたが,47年10月には,特定有害物質として銅およびその化合物が追加され,これに関する農用地土壌汚染対策地域の指定要件が定められました。
 上記法律に基づく特定有害物質としてカドミウムおよびその化合物が指定されたことに伴って,46年からカドミウムによる汚染地域および汚染のおそれのある地域について,汚染の実態を把握するための土壌汚染防止対策細密調査を35都道府県117地域約11,700haについて行なったほか,銅およびひ素に係る土壌汚染の調査等を実施しています。
 このほか,46年度における土壌汚染防止対策細密調査の結果等によってカドミウム1.0ppm以上を含む汚染米が検出された地域については,農用地土壌汚染対策地域の指定の促進を図っており,現在までに8地域が指定され,指定総農用地面積は水田292ha,畑16haとなっています。また,農用地土壌汚染対策計画策定地域である2地域においては,排土,客土,水源転換等を内容とする公害防除特別土地改良事業を実施したほか,対策地域の指定の促進を図っています。

昭和46年度細密調査による玄米中カドミウム濃度1.0ppm以上検出地域一覧
昭和46年度細密調査による玄米中カドミウム濃度1.0ppm以上検出地域一覧
(備考)環境庁調べ。


農薬の毒性別生産額割合の推移
農薬の毒性別生産額割合の推移

58 農薬汚染の現況と対策


 現在,わが国で使用されている農薬は,有効成分の種類にして300以上あり,登録銘柄数は5,000以上にのぼっています。その主なものは,有機りん系,カーバメート系,有機塩素系化合物等の殺虫剤,有機硫黄等の殺菌剤で,そのほかにも除草剤,殺そ剤,植物成長調節剤などがあります。このうち食品や環境を汚染することにより,国民の健康に被害を生ずるおそれがあると指摘された主な農薬は,有機塩素系殺虫剤です。これまでに消費された有機塩素系殺虫剤としては,BHCが最も多く,DDT,アルドリンがこれに続いています。
 汚染問題が生じたのは,これら農薬が長期間食品や環境中に残留する性質を有するためで,有機塩素系以外の農薬についても,食品を通じて人体に蓄積し,慢性毒性を及ぼすおそれが考えられ,また,水産動植物等生活環境への被害が考えられるなど,個々の農薬についての安全性評価が強く要求されているところです。

農薬の有効成分の種類別割合の推移
農薬の有効成分の種類別割合の推移

 このような農薬汚染に対処するため,46年に農薬取締法が改正され,農薬の登録検査および使用規制の強化が行なわれました。また,農薬の使用規制については,農作物等または土壌への残留性があり,これらを汚染することによってさらに人畜に被害を生じさせるおそれのある農薬を作物残留性農薬または土壌残留性農薬に指定して,使用基準を定めて使用方法を規制しているとともに,水質汚濁性のある農薬についても,水質汚濁性農薬に指定して同様の使用規制を行なうこととしています。
 また,食品,添加物等の規格基準として定められていた農薬の残留基準についても,48年1月よりその範囲が拡大されました。
 さらに水産動物に強い毒性を示すCVP,トリアジン,PCP等45種類の農薬については,「水産動物の被害の防止に関する安全使用基準」が定められています。

現在までのPCBの国内における総生産量および総輸入量
現在までのPCBの国内における総生産量および総輸入量
(備考)1.通商産業省調べ。2.一部推定を含む。


59 PCB汚染の現況と対策


 1966年以降スウェーデン各地の魚類やワシをはじめ,世界各地の魚類や鳥類の体内からPCBが検出され,PCBの汚染が地球全体に及んでいることが明らかになりました。わが国でも1968年夏から翌春にかけて発生したカネミ油症事件以来,PCBについての国民の関心も高まっています。
 PCBとは,ポリ塩化ビフェニールの略称でビフェニールの水素が塩素で置換されたものの総称をいい,理論的には210種類の化合物が存在しうるものですが,普通3〜6塩素化合物を中心とした混合物のことをいいます。このPCBは,水に溶けず,有機薬剤に安定,不燃性,絶縁性が良いといった幅広い性質からその用途は多岐にわたっていますが,最大の用途は,コンデンサやトランス用の絶縁油であり,その他にも熱交換器等の熱媒体,感圧複写紙,可塑剤等に用いられてきました。

母乳中のPCBの全乳あたり濃度別分布
母乳中のPCBの全乳あたり濃度別分布
(備考)厚生省調べ。


 わが国においてPCBの生産が開始されたのは,昭和29年であり,45年には年産11,000トン程度となりましたが,46年には環境汚染問題が表面化し6,800トン程度になり,47年には生産が中止されています。
 このようなPCB汚染対策としては,PCB汚染対策推進会議が,47年4月に設置され,PCBおよびPCB使用製品の生産,使用規制が行なわれた他,工場排水等からのPCB排出に対しても「PCBの排出等にかかる暫定的指導方針」が定められ,行政指導を行なうとともに,PCB使用製品の回収を促進しています。
 また,PCB汚染に対しては,水質,底質,土壌,農作物,魚介類の汚染実態調査が行なわれるとともに,汚染メカニズムの解明のための調査が行なわれました。さらに,PCBの人体影響対策として,食品中に残留するPCBについての暫定規制値が設定されるなどの対策が進められました。

大気汚染系地域の地域人口に対する認定患者率の推移
大気汚染系地域の地域人口に対する認定患者率の推移
(備考)環境庁調べ。


60 健康被害の現状と対策


1)水俣病
 最初の水俣病患者の発生が報告された31年から17年を経過した現在までに不知火海沿岸地域および阿賀野川流域の両地域において総計781名が公害病患者として認定されており,認定申請中の者は現在700余名に達しています。
 水俣病については,解明すべき点が少なからず残されているので,こうした問題点を解明する一方,水俣病患者の健康管理,保健対策等に万全を期する体制が急がれています。この一つの試みとして,47年12月には,水俣病患者の収容,授産を行なうことを目的としたコロニーが建設されました。
2)イタイイタイ病とカドミウム汚染
 神通川流域ではイタイイタイ病要観察者が142人確認されていますが,この要観察者については富山県において年2回の管理検診を行なって経過を観察しています。神通川地域以外の地域においてはイタイイタイ病患者の発生はみられませんが,宮城県鉛川,二迫川流域など7地域を要観察地域として,毎年住民の健康調査を実施し,未然防止の見地から経過観察を続けています。
3)大気汚染による健康被害
 大気汚染系疾病の認定患者は年々継続的に増え続け,48年3月末では8,103名となっており,疾病別ではぜん息性気管支炎がもっとも多くなっています。
4)休廃止鉱山周辺の健康被害
 宮崎県土呂久地区では,精密検診の結果,土呂久鉱山の操業に伴って発生した三酸化ひ素に暴露したことによる慢性ひ素中毒と思われる皮膚所見が地元住民7名に認められました。このため,環境庁は48年2月土呂久地区を慢性ひ素中毒症の救済地域として指定する等の救済措置を講じました。
 この他,島根県笹ケ谷鉱山など現に住民の健康影響上のおそれが予想されている一部の鉱山については,関係県において調査を実施中です。
5)その他の健康被害
 光化学反応による大気汚染の増大に鑑み,国としては光化学スモッグを含めた複合大気汚染の健康への影響についての調査研究を行なっています。また,排煙中の弗化物による地域住民の健康影響に関する調査を実施しているほか,鉛,PCB,クロム等の健康影響調査を進めています。
6)健康被害対策
 47年度においては,医療手当額等の引き上げと支給要件の緩和,指定地域の追加,指定疾病として慢性ひ素中毒症追加等の健康被害救済制度の充実を図ったほか,健康被害診断基準の設定,各種の健康診断,調査研究を行ないました。

61 自然環境保全の概況


 都市への人口集中等により,居住環境は過密化,高層化し,身近な自然も減少しており,加えて,近年の宅地造成やゴルフ場造成等の活発化により,ただでさえ緑の少ない都市周辺部においてまとまった森林などの緑地が次々と姿を消しています。さらに,こうした都市を脱出して訪れた自然公園等の風景地においても都会並みの混雑が続き生活の便利さの向上に比べ生活環境,自然環境の状況はむしろ悪化しているといっても過言でない状況にあるといえましょう。
 このような環境悪化の中で,国民の自然環境保全に対する認識も急速に高まり,地方公共団体においても地域の実情に応じた各種の施策の実施,検討が進められており,自然環境保護条例の制定ないしは自然保護を主管する行政機構の整備がなされています。
 特に大都市周辺の市では,自然環境の保全あるいは土地利用規制に関する条例を制定する動きが活発となっています。また条例ではなく行政指導により緑化に努めているところも多くみられます。例えば横浜市の三保市民の森は50haの山林を所有者の協力のもとに一般市民に提供し,28kmの散策歩道は野鳥,水生生物が生息し市民の憩いの場として親しまれています。このほか,宅地造成やゴルフ場造成等の大規模開発を抑制するため,既に半数以上の都道府県において大規模開発事業指導要綱やゴルフ場等造成事業要綱等に基づく各種の行政指導による自然環境保全努力がなされています。
 一方,国においても,環境庁の発足を一つの契機に,自然保護行政は,現実に引き起こされている自然破壊に対して臨床的な措置を講ずる努力を払いながらも全体としては,「自然環境保全法」の制定にみられるように,今後の施策を推進するための法制度の整備あるいは行政体制の確立等いわば基礎的な体制の整備に重点が置かれてきており,今後は整備されたこれらの体制の上にたって,具体的な施策を推進していく必要があります。
 今後,自然環境保全の施策を総合的かつ具体的に推進していくに当たっては,1)自然の状態を科学的に把握し,最大の収獲が得られるよう自然系をコントロールしていくこと,2)学術的価値をもつ自然物,稀少あるいは貴重な自然物,脆弱な自然物等を含む自然環境をあらゆる人為を排して保存すること,3)すでに失われたり,破壊されたりした自然環境を修復し,創造し,機能を回復させること等の点に十分配慮し,自然のもつさまざまな価値と機能を正しく認識し,無秩序,無制約な開発が行なわれないよう,保存と利用との調整を図りながらこれを適正に管理していくことが必要であり,このような基本的認識のもとに積極的な施策の展開が要請されているものといえましょう。

自然保護は人類の重大な責務に
自然保護は人類の重大な責務に

62 自然環境保全に関して講じた施策


 47年度においては,基本的な自然保護法制としての自然環境保全法の制定,特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律の制定など,自然環境の適正な保全の推進のための新しい制度が具体化されました。また,地方公共団体においても自然保護条例が47年度に新たに20都府県において制定され,24都府県において自然保護行政を主管する自然保護課の設置など行政機構の整備が進められました。
 その他,自然環境保全に関しては,次のような施策が講じられました。
1)自然保護のための行政規制・・・47年度の国立公園特別地域,特別保護区における環境庁長官の行為許可件数は,道路建設,別荘分譲地の造成などを中心に724件となっています。
2)自然公園の指定,区域拡張・・・国立公園では,小笠原,足摺宇和海,西表の指定が行なわれ,国定公園については沖縄海岸,沖縄戦跡,北九州国定公園が指定されました。海中公園としては,沖縄海岸国定公園中の沖縄海岸海中公園,小笠原国立公園小笠原地区など7カ所,足摺宇和海国立公園の2カ所が指定されました。
3)国立公園内の民有地買上げ・・・阿蘇国立公園の土地でシラカシなど暖帯性植物を主とした原生林を約17ha,富士箱根伊豆国立公園のうち「タイロ藻」の繁殖している大路池周辺の土地0.3haが買上げられました。
4)鳥獣保護対策の拡充・・・鳥獣保護区の設定,鳥獣保護対策調査の実施,「野鳥の森」の設置などが行なわれました。
5)休養施設の整備・・・国民宿舎が21カ所設置され,国民休暇村,国民保養センターなどが拡充されたほか,国民保養温泉地,自然休養林,少年自然の家,青少年旅行村などの指定,設置,整備がなされました。
6)都市公園の整備・・・47年度には整備五カ年計画の初年度として国費約120億円(補正後約180億円)をもって,基幹公園,緩衝緑地,大規模公園,国営公園などを重点として,公園事業の推進が図られました。このほか,首都圏,近畿圏,中部圏の近郊緑地整備促進のため,近郊緑地保全地域の指定拡大等が行なわれました。




7)その他の対策・・・都市計画法による風致地区拡大が奈良市,大津市などにおいて行なわれるとともに,古都の歴史的風土保存のため47年度においては,約16haの土地の買上げが行なわれました。史跡等の買上げについては86件,史跡の環境整備67件について補助が行なわれました。歴史的風土を形成している地域を一体的に保存する「風土記の丘」の建設は8カ所の整備が完了しました。また,飛鳥遺跡,平城宮跡についての民有地の買上げも前年度に引続き行なわれました。
 この他,名勝,天然記念物の指定,保護も引続き行なわれています。

63 環境保全に関する調査研究


(1)調査研究の総合調整
 環境保全にかかる科学技術研究の総合的推進を図るため,環境庁では各省庁の環境保全関係経費についての見積り方針の調整を行なうとともに,公害防止を主目的とする各省庁の試験研究機関の経費および各省庁の試験研究委託費について予算の一括計上を行ない(47年度計上額1,959百万円),調査研究の総合調整を図りました。また,総合調整後に生じる予想できない情勢の変化に対処するため環境保全総合調査研究促進調整費(予算額350百万円)を設け総合調整の補完,強化を図りました。本調整費により,PCB汚染防止に関する総合調整研究等30の調査研究を実施しました。
(2)調査研究の実施
 1)大気汚染に関しては,窒素酸化物の防除技術に関する研究,自動車排出ガスに関する研究,電気自動車に関する研究,光化学スモッグ発生機構の解明,測定技術開発研究,光化学スモッグの生物影響に関する研究,大気汚染物質の環境濃度等の予測手法に関する研究等を行ないました。
 2)水質汚濁に関しては,処理技術の開発研究,処理水の再利用,有用物質の回収技術の研究,排水処理のシステム化およびクローズドシステム化研究,大型水理模型を使用しての瀬戸内海環境保全に関する研究およびこれと関連して瀬戸内海水質汚濁水質調査を行ないました。
 3)騒音,振動については,発生伝播機構の解明,日常生活環境における騒音の解析,その防止技術の開発が行なわれ,悪臭については基礎的研究のほか脱臭装置の開発が行なわれました。
 4)土壌汚染については,土壌作物中における汚染物質の挙動の解明研究,農薬汚染対策としては天敵利用方法等の研究,無公害農薬の開発等が行なわれました。
 5)地盤沈下については濃尾平野を対象に地盤沈下と地域構造との相関関係についての解析等が行なわれました。
 6)廃棄物処理に関しては中小都市の廃棄物処理システムの設計研究,プラスチック廃棄物処理システムの設計研究,鉱さい,赤泥,製紙スラッジ等の相互利用による資源化に関する調査等が実施されました。
 7)自然環境保護に関しては,自然生態系の解明と環境汚染の生態系に与える影響の研究が行なわれたほか,各種環境下における生物の生態遺伝的変化に関する総合研究,国立公園などすぐれた自然地域の保全に関する研究等を実施しました。
 8)その他の環境保全に関する調査研究としては,公害による健康影響の調査研究,産業公害総合事前調査,測定機器,測定方法の調査研究等を行ないました。
(3)国立公害研究所および公害研修所
 急速に増大している複雑な公害問題に対処するためには,公害に関する研究の促進は緊急の課題であります。特に関連諸分野との有機的連けいをもたせつつ,環境汚染の及ぼす影響,公害監視測定方法等の公害研究について中心的な役割を担う研究機関が必要であり,この中核的研究機関として国立公害研究所の設立準備が進められてきました。
 一方,研修機関としては,自然保護,公害行政担当職員の研修を実施する中央機関である公害研修所は48年3月1日所長以下8名をもって発足しました。なお,47年度には公害関係630名,自然保護関係130名の研修が実施されました。




64 公害防止計画の策定


 公害対策基本法第19条に定める手続きに従って,1)現に公害が著しく,かつ,公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域,2)人口および産業の急速な集中等により公害が著しくなるおそれがあり,かつ,公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難になると認められる地域,について,これまで第1次地域から第4次地域までの20地域の公害防止計画策定指示を行ない,このうち15地域について計画の承認を行なってきました。さらに,昭和47年度には,第5次地域として11県10地域について基礎調査を行ないました。
 45年度に計画が承認された第1次地域(千葉・市原地域,四日市地域,水島地域)に加えて,47年度は第2次地域(東京,神奈川,大阪,埼玉県荒川水系地域,千葉県江戸川流域,京都府淀川流域,奈良県大和川流域),第3次地域(鹿島,名古屋等,兵庫県東部,北九州,大分)に係る公害防止計画の承認が行なわれ12地域が新たに計画承認地域となったわけですが,これら12地域は,全国人口の約4割,工業出荷額のうえでは全国の約5割を占めており,公害が多様化かつ深刻化しているわが国の大都市のほとんどを網羅しているほか,公害の未然防止を図る地域として大分,鹿島のコンビナート地域を含んでいます。これらの計画地域の計画目標は,47年度から56年度までの10年間(千葉県江戸川流域にあっては50年度までの4年間,鹿島地域,大分地域にあっては51年度)に目標値(原則として環境基準値)の範囲内に汚染物等の程度を引き下げようとするものです。

公害防止計画策定地域図
公害防止計画策定地域図
(備考)環境庁資料による。


65 その他の環境行政の進展


 これまでみてきたもののほか,47年度には以下のような環境行政の進展がみられました。
(1)公害紛争処理
 中央公害審査委員会に代わって公害等調整委員会が設置され,調停の受諾の勧告の制度や委員会の判断に一種の強制力を持たせ紛争の迅速適正な解決を図る裁定制度が新設されるなど公害等紛争処理制度の充実強化が図られました。
(2)融資,助成,税制措置等
 公害防止事業団の47年度の事業規模は追加分も含めて700億円,資金規模は630億円となりました。対象施設としては,悪臭防止施設および産業廃棄物処理施設が追加されました。
 その他の政府関係機関によるものとしては,中小企業設備近代化資金,中小企業金融公庫,国民金融公庫,中小企業振興事業団,日本開発銀行による融資,公害防止機器リース制度による公害防止用設備設置等への助成が行なわれました。
 税制上の措置としては,特別償却制度の対象範囲の拡大,公害防止準備金制度の創設,公害防止用施設に対する非課税の範囲の拡大等を行ないました。
(3)工業立地政策
 公害問題の解決のため工業立地政策としては,47年6月工業再配置促進法および産炭地域振興事業団の一部を改正する法律が制定され工業再配置施策の推進が図られましたが,その計画にあたっては環境保全の観点からの審査が行なわれることになっています。また,首都圏整備法に基づき定められた工業等制限区域について,工場等の立地制限の強化が行なわれました。
 このほか,公害地域における児童生徒の健康対策,大学における公害対策関連学部,学科,研究所等の新設,拡充をはじめ教育関係における公害対策等各種の環境行政の進展がみられました。
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