環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第7節 国際的取組

第7節 国際的取組

1 生物多様性の保全に関する世界目標の達成に向けた貢献

愛知目標の達成を含め、生物多様性条約に基づく取組を地球規模で推進していくためには、途上国への資金供与や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されています。このため、我が国は、愛知目標の達成に向けた途上国の能力養成等を支援するため、「生物多様性日本基金」に拠出しており、条約事務局において本基金により、愛知目標の達成に向けて生物多様性国家戦略の実施を支援する事業が進められました。また、条約関連の各種会合において、愛知目標の達成や次期生物多様性国際枠組に向けた議論等に積極的に参加しました。

2 生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策のインターフェースの強化

2019年2月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の「侵略的外来種に関するテーマ別評価技術支援機関(TSU-IAS)」の作業を支援しました。また、IPBES総会第7回会合の結果報告会及び、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を2019年5月、シンポジウム「自然共生社会の実現に向けた社会変革~IPBES地球規模評価を踏まえて次期生物多様性世界目標を考える~」を2019年12月に開催しました。このほか、IPBESによる評価作業への知見提供等により国際的な科学と政策の結び付き強化に貢献することを目的として、環境研究総合推進費による研究「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」を実施しています。

3 二次的自然環境における生物多様性の保全と持続可能な利用・管理の促進

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を目標とした「SATOYAMAイニシアティブ」を推進するため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援するとともに、その運営に参加しました。環境省及びIPSI事務局(国連大学サステイナビリティ高等研究所)は、2019年9月3日~9月6日に熊本市において「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)第8回定例会合」及び「ポスト2020目標に向けたランドスケープアプローチに関する専門家テーマ別ワークショップ」を熊本県等と共催し、ワークショップでは、SATOYAMAイニシアティブが推進しているランドスケープアプローチの成果をまとめ、ポスト2020目標にインプットする内容について議論しました。なお、IPSIの会員は、1か国の政府機関を含む18団体が2019年度に新たに加入し、2020年3月時点で21か国の22政府機関を含む258団体となりました。

SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロダクツ2019」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2019年1月時点で53地方自治体を含む115団体となりました。

4 アジア保護地域パートナーシップの推進

2013年11月に仙台市で開催した第1回アジア国立公園会議を契機に日本が主導して設立された「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」の取組の一環として2019年10月にマレーシアのコタキナバルにおいて開催された「持続可能なツーリズム」に関するワークショップに参画し、アジア各国の保護区の管理水準の向上に向けた情報共有等を進めています。同パートナーシップの参加国は2019年12月時点で、17か国となりました。

5 森林の保全と持続可能な経営の推進

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。植林等による増加分を差し引いた森林減少の面積は、2010年から2015年までの5年間では、1990年代に比べて約半分に低下しているものの、依然として森林減少が続いています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。

国連森林フォーラム(UNFF)において採択された国連森林戦略計画2017-2030は、2017年4月に国連総会において決議され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第55回理事会が2019年12月にトーゴ共和国・ロメで開催され、持続可能な森林経営と熱帯木材の適正な貿易の推進に向け、運営や予算の議論が行われたほか、ITTOが実施するプロジェクト資金の調達等に係る検討が行われました。

6 砂漠化対策の推進

1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は、砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされており、我が国は先進締約国として、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しています。2019年度は、9月にニューデリーで開催されたUNCCD第14回締約国会議及び同科学技術委員会等に参画し、議論に貢献したほか、モンゴルにおける住民参加による持続可能な牧草地利用等検討事業のフォローアップを実施しました。

7 南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境影響の増大が懸念されています。南極の環境保護に関しては、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進のため南極条約(1961年発効)及び南極の環境や生態系の保護を目的とする「環境保護に関する南極条約議定書」(1998年発効)による国際的な取組が進められています。

我が国は、南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)に基づき、南極地域における観測、観光、取材等に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、拠出金により南極条約活動を支援しているほか、2019年5月にプラハで開催された第42回南極条約協議国会議において、南極特別管理地区及び南極特別保護地区の管理計画の改訂など、南極における環境の保護の方策について議論を行いました。

8 サンゴ礁の保全

2019年6月に、マレーシアのバチョで第4回地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)東アジア会合を開催するなどして、東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析を進めました。また、2019年12月にオーストラリアで開催されたICRI第34回総会等を通じて、情報収集を行いました。

9 生物多様性関連諸条約の実施

(1)生物多様性条約

愛知目標の達成に向け、我が国では国家戦略を策定し必要な取組を行っています。例えば、2019年4月には、自然環境保全法の一部を改正し、排他的経済水域を含む沖合の区域について新たな海洋保護区制度を創設しました。今後海洋保護区の拡大を進めるなど、愛知目標の達成に向けた取組を関係省庁と連携して進めています。

「生物多様性戦略計画2011-2020」及び愛知目標の中間評価(2014年のCOP12で実施)の結果等も踏まえつつ、引き続き関係省庁間で緊密な連携を図り、愛知目標や「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けて取り組みました。

(2)名古屋議定書

COP10において採択された名古屋議定書について我が国は2017年8月に締約国となり、国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を施行し、名古屋議定書の適切な実施に努めています。

我が国はCOP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用した13件のプロジェクトが承認され、2018年12月時点で既に完了した3件を除く10件のプロジェクトにより、フィジー、ガボン、コスタリカ、ブータン等において、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動が行われています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的とした遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第18号。以下「改正カルタヘナ法」という。)が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。また、補足議定書については、2017年5月にその締結について国会で承認され、同年12月に受諾書を国際連合事務総長に寄託し、我が国は補足議定書の締結国となりました。同補足議定書は発効要件が満たされたことから、2018年3月に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。

(4)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。また、2019年8月に開催されたワシントン条約第18回締約国会議において、条約の適切な執行のための議論とともに、附属書改正提案等の審議に貢献しました。加えて、関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底に向けて、官民協議会を中心に取組を進めました。

(5)ラムサール条約

ラムサール条約に関しては、2018年10月に二つの湿地を登録し、これにより国内のラムサール条約湿地は現在52か所となっています。また、ラムサール条約湿地における普及啓発活動をラムサール条約登録湿地関係市町村会議等の関係者と共に進めたほか、ベトナムに対してラムサール条約湿地を始めとした湿地の重要性についての普及啓発、及びモニタリング能力向上に向けた協力を行いました。

(6)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

東アジア・オーストラリア地域の渡り性水鳥及びその生息地の保全を目的とする国際的連携・協力のための枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)」の下に設置されている渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地のうち、北海道の参加地を対象として関係自治体・団体の担当者のための研修会を行いました。

(7)二国間渡り鳥条約・協定

ロシアとの二国間渡り鳥等保護条約に基づき、2020年1月に宮城県栗原市において、ロシアとの二国間渡り鳥等保護条約に関する会議を開催しました。会議では、渡り鳥の保全施策等に関する意見・情報交換を行い、渡り鳥保全のための協力を推進することを確認しました。また、この会議に合わせて、小型シギ・チドリ類に関する保護協力について検討するワークショップが開催されました。