環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第5節 野生生物の適切な保護管理と外来種対策の強化

第5節 野生生物の適切な保護管理と外来種対策の強化

1 絶滅のおそれのある種の保存

(1)レッドリストとレッドデータブック

2020年3月に第4次レッドリストの第5回改訂版となる「レッドリスト2020」を公表し、我が国の絶滅危惧種は3,716種となりました。このことから、海洋生物レッドリスト(2017年3月公表)における絶滅危惧種56種を加えると、我が国の絶滅危惧種の総数は3,772種となりました。

なお、2012年度に公表した第4次レッドリスト掲載種の分布や生態、減少要因等を紹介した「レッドデータブック2014」を2014年度に取りまとめています。

(2)希少野生動植物種の保存

2017年5月に絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第51号)が成立、6月に公布され、2018年6月から施行されました。本改正法においては、商業目的での捕獲等のみを規制することができる特定第二種国内希少野生動植物種制度の創設、国際希少野生動植物種の流通管理の強化等が行われました。

種の保存法に基づく国内希少野生動植物種については、2020年2月に、ほ乳類3種、鳥類5種、爬虫類3種、両生類1種、汽水・淡水魚類3種、昆虫類4種、貝類11種、植物33種の計63種を指定しました。このうち3種は特定第二種国内希少野生動植物種として初めて指定しました。2020年3月時点で356種の国内希少野生動植物種について、捕獲や譲渡し等の規制を行っています。そのうち64種について51の保護増殖事業計画を策定し、生息地の整備や個体の繁殖等の保護増殖事業を行っています(図2-5-1)。また、同法に基づき指定している全国9か所の生息地等保護区において、保護区内の国内希少野生動植物種の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。

図2-5-1 主な保護増殖事業の概要

ワシントン条約及び二国間渡り鳥条約等に基づき、国際的に協力して種の保存を図るべき802分類を国際希少野生動植物種に指定しています。

絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターを、2019年3月末時点で8か所で設置しています。

トキについては、2019年に野生下において推定95羽が巣立ち、2019年12月時点で推定429羽の生存が確認されました。また、佐渡島において2019年6月、9月及び10月に合計37羽を放鳥しました。

ライチョウについては、2015年から乗鞍岳で採取した卵を用いて飼育・繁殖技術確立のための取組を6施設で行い、繁殖に成功しています。また、特に生息環境の悪化している南アルプスの北岳において、ヒナの生存率を高めるため、ケージでの保護や捕食者の捕獲等の対策を継続するとともに、過去にライチョウが生息していた中央アルプスでの野生復帰に向けた卵の移植試験を実施しました。

そのほか、猛禽(きん)類の採餌環境の改善にも資する間伐の実施等、効果的な森林の整備・保全を行いました。

沖縄島周辺海域に生息するジュゴンについては、漁業関係者等との情報交換を進めるとともに、過去にジュゴンの目撃情報のあった先島諸島等におけるジュゴンの喰み跡のモニタリング調査やジュゴンの目撃情報等の収集を実施しました。

(3)生息域外保全

トキ、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナ、ライチョウなど、絶滅の危険性が極めて高く、本来の生息域内における保全施策のみでは近い将来種を存続させることが困難となるおそれがある種について、飼育下繁殖を実施するなど生息域外保全の取組を進めています。

2014年に公益社団法人日本動物園水族館協会と環境省との間で締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」に基づき、引き続き、ツシマヤマネコ、ライチョウ、アマミトゲネズミ、ミヤコカナヘビ等の生息域外保全に取り組んでいます。個別の動物園ではなく協会全体として取り組んでもらうことで、動物園間のネットワークを活用した一つの大きな飼育個体群として捉えて計画的な飼育繁殖を推進することが可能となっています。

絶滅危惧植物についても、2015年に公益社団法人日本植物園協会との間で締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」に基づき、生息域外保全や野生復帰等の取組について、一層の連携を図っています。さらに、新宿御苑においては、絶滅危惧植物の種子保存を実施しています。

2020年3月時点で6施設が認定希少種保全動植物園等として認定されています。

2 野生鳥獣の保護管理

我が国には多様な野生鳥獣が生息しており、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護管理法」という。)に基づき、その保護及び管理が図られています。長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護及び管理を促し、都道府県における鳥獣保護管理行政の基本的な事項を定めた、鳥獣保護管理法に基づく「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」(以下「基本指針」という。)を2016年10月に第12次基本指針として策定しました。この第12次基本指針に基づき、鳥獣の管理の強化に伴う懸念への対応として、鉛製銃弾の使用による鳥類の鉛中毒症例を科学的に把握するために必要な情報収集や効果的なモニタリング体制の構築に取り組みました。また、捕獲情報等を収集する体制整備として、捕獲される全ての鳥獣種の捕獲情報を収集する情報システムの整備と運用を実施し、さらに2021年度の次期システムへの更新に向け、システムの機能強化等に向けた検討を行いました。

都道府県における第一種特定鳥獣保護計画及び第二種特定鳥獣管理計画の作成促進や鳥獣の保護及び管理のより効果的な実施を図るため、特定鳥獣5種(イノシシ、ニホンジカ、クマ類、ニホンザル、カワウ)の保護及び管理に関する技術的な検討を行うとともに、都道府県職員等を対象とした研修会を開催しました。

都道府県による科学的・計画的な鳥獣の管理を支援するため、統計手法を用いて、ニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び将来予測を実施しました。

鳥獣の広域的な保護管理のため、東北、関東、中部近畿、中国四国の各地域において、カワウ広域協議会を開催し、関係者間の情報の共有等を行いました。また、関東山地におけるニホンジカ広域協議会では、広域保護管理指針及び実施計画(中期・年次)に基づき、関係機関の連携の下、各種対策を推進しました。絶滅のおそれのある地域個体群である四国山地のツキノワグマについては、広域協議会による情報共有が進みました。

渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーション等における鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査等を実施しました。また、出水平野(鹿児島県)に集中的に飛来するナベヅル、マナヅル等の保護対策として、生息環境の保全、整備等の事業を実施しました。

希少鳥獣でありながらも漁業被害をもたらす北海道えりも地域のゼニガタアザラシについて、個体群管理や被害対策防除を進め個体群動態に係るモニタリング等の手法を確立することを目的として、「えりも地域ゼニガタアザラシ特定希少鳥獣管理計画(第2期)」の取りまとめを行いました。

悪化した鳥獣の生息環境や生息地の保護及び整備を図るため、5か所の国指定鳥獣保護区において保全事業を実施しました。

野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間(毎年5月10日から5月16日)行事の一環として東京都において第73回愛鳥週間「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、第54回目となる小・中学校及び高等学校等を対象として野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

(1)野生鳥獣の管理の強化

近年、ニホンジカやイノシシ等の一部の鳥獣については、急速に生息数が増加するとともに生息域が拡大し、その結果、自然生態系や農林水産業等への被害が拡大・深刻化しています。こうした状況を踏まえ、2013年に、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、当面の捕獲目標として、ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(2023年度)までに2011年度と比較して半減させることを目指すこととしました。

2015年5月に施行された鳥獣保護管理法においては、都道府県が捕獲を行う指定管理鳥獣捕獲等事業や捕獲の担い手の確保・育成に向けた認定鳥獣捕獲等事業者制度の創設など、「鳥獣の管理」のための新たな措置が導入されました。

指定管理鳥獣捕獲等事業は、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして環境大臣が指定した指定管理鳥獣(ニホンジカ及びイノシシ)について、都道府県又は国の機関が捕獲等を行い、適正な管理を推進するものです。国は指定管理鳥獣の捕獲等の強化を図るため、都道府県が実施する指定管理鳥獣捕獲等事業に対し、交付金により支援を行っており、2019年度においては、42道府県等で当該事業が実施されました。

認定鳥獣捕獲等事業者制度は、鳥獣保護管理法に基づき、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や従事者の技能・知識が一定の基準に適合し、安全を確保して適切かつ効果的に鳥獣の捕獲等を実施できる事業者を都道府県が認定するものです。鳥獣捕獲等事業者の捕獲従事者及び事業管理責任者等に修了が義務付けられている安全管理講習及び技能知識講習並びに夜間銃猟を含む認定を受けるために必要な夜間銃猟安全管理講習を政府が実施しており、各都道府県において認定鳥獣捕獲等事業者(2020年3月末時点:42都道府県、146団体)の認定が進んでいます。

なお、狩猟者については、約53万人(1970年度)から2012年度に約18万人まで減少し、2016年度には約20万人 と持ち直してはいるものの、2008年度以降は60歳以上の狩猟者が全体の6割を超えており、依然として高齢化が進んでいることから、引き続き捕獲等を行う鳥獣保護管理の担い手の育成が求められています。このため、政府において、狩猟免許の取得年齢の引下げ、狩猟の魅力を紹介する「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」の開催、鳥獣保護管理に係る専門的な人材を登録し紹介する事業など、様々な取組を行いました。

農林水産業への被害防止等の観点から、侵入防止柵の設置、捕獲活動や追払い等の地域ぐるみの被害防止活動、捕獲鳥獣の食肉(ジビエ)利用の取組等の対策を進めるとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施しました。また、シカによる森林被害が深刻な地域において、広域かつ計画的な捕獲のモデル的な実施等に対して支援しました。さらに、トドによる漁業被害防止対策として、出現状況等の調査や改良漁具の実証試験等を行いました。

これらの取組の実施により、ニホンジカ及びイノシシの捕獲数は増加し、2014年度以降、推定生息個体数は減少傾向となっています(図2-5-2、図2-5-3)。

図2-5-2 ニホンジカの捕獲数の推移
図2-5-3 ニホンジカの推定個体数(本州以南)
(2)感染症等への対応

2004年以降、野鳥及び家禽(きん)において、高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認されていることから、「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」(以下「マニュアル」という。)に基づき、渡り鳥等を対象として、ウイルス保有状況調査を全国で実施し、その結果を公表しました。なお、上記マニュアルは、2016年11月から2017年3月にかけて、野鳥における高病原性鳥インフルエンザの確認件数が過去最大となったことを受け、監視体制の効率化も踏まえた高病原性鳥インフルエンザウイルスの早期発見等を目的として、2017年10月に改訂を実施しました。2018年4月以降、国内の野鳥において、高病原性鳥インフルエンザウイルスは確認されていません(2020年1月6日時点)が、早期発見・早期対応を目的としたサーベイランス(調査)を都道府県と協力しながら実施し、高病原性鳥インフルエンザが発生した場合の監視体制を維持しました。

人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査や国指定鳥獣保護区等への渡り鳥の飛来状況について環境省ウェブサイトを通じた情報提供等の対策を実施しました。

2018年9月には岐阜県の農場において、国内で26年ぶりとなるCSF(豚熱)が発生しました。その後、野生イノシシにおいても感染が拡大しています。こうした事態を受け、各都道府県鳥獣部局に対して、農林水産省からの通知に基づき各都道府県が実施する野生動物の感染確認検査に協力を依頼したほか、捕獲従事者や狩猟者等に対してCSF及びASF(アフリカ豚熱)の効果的な防疫措置の実施を図るため、農林水産省と共同で「CSF・ASF対策としての野生イノシシの捕獲等に関する防疫措置の手引き」を公表しました。さらに、CSFの感染拡大防止を図るため、野生イノシシの捕獲強化に向けた取組を実施しました。

その他の野生鳥獣が関わる感染症について情報収集、発生時の対応の検討等を行いました。

3 外来種対策

外来種とは、人によって本来の生息・生育地からそれ以外の地域に持ち込まれた生物のことです。そのような外来種の中には、我が国の在来の生物を食べたり、すみかや食べ物を奪ったりして、生物多様性を脅かす侵略的なものがおり、地域ごとに独自の生物相や生態系が形成されている我が国の生物多様性を保全する上で、大きな問題となっています。国内の絶滅危惧種のうち、爬虫類の7割以上、両生類の5割以上の減少要因として外来種が挙げられています。更には食害等による農林水産業への被害、咬(こう)傷等による人の生命や身体への被害や、文化財の汚損、悪臭の発生、景観・構造物の汚損など、様々な被害が及ぶ事例が見られます。

近年、より一層貿易量が増えるとともに、輸入品に付着することにより非意図的に国内に侵入する生物が増加しています。2017年6月に国内で初確認された南米原産のヒアリについて、確認件数は、2020年3月までに15都道府県で48事例に上りました。環境省では、地元自治体や関係行政機関等と協力して発見された個体は全て駆除するとともに、リスクの高い港湾においてモニタリング調査を実施するなど、ヒアリの定着を阻止するための対策を実施しています。2019年10月に東京湾青海ふ頭で多数の女王アリが確認されたため、周辺地域を含め重点的な調査・防除を行うとともに、全国の港湾の調査状況を点検し、必要に応じて追加調査を行いました。外来種の導入経路の一つである生きている動物(ペット等)の輸入量は、1990年代をピークに減少傾向にありますが、これまで輸入されなかった種類の生物が新たに輸入されるなど、新たなリスクが存在していると言えます。

このような外来種の脅威に対応するため、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)(平成16年法律第78号)に基づき、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種を特定外来生物として指定し、輸入、飼養等を規制しています。

2020年3月時点で特定外来生物は合計148種類(3科、15属、122種、8交雑種)となっています(図2-5-4)。

図2-5-4 特定外来生物の種類数

外来種被害予防三原則(「入れない」、「捨てない」、「拡げない」)について、多くの人に理解を深めてもらえるよう、主にペット・観賞魚業界等を対象にした普及啓発や、外来種問題に関するパネルやウェブサイト等を活用した普及啓発を実施しています。

マングースやアライグマ、オオクチバス等の既に国内に侵入し、地域の生態系へ悪影響を及ぼしている外来種の防除や、ヒアリやツマアカスズメバチ、オオバナミズキンバイ等の近年国内に侵入した外来種の緊急的な防除を行いました。加えて、全国に分布するアカミミガメについての防除手法の検討等を進めました。

4 遺伝子組換え生物対策

生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき、2020年3月末時点で437件の遺伝子組換え生物の環境中での使用が承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウス(ウェブサイト)を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な三つの輸入港周辺の河川敷において遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査等を行いました。ゲノム編集技術の利用により得られた生物について、カルタヘナ法上の整理を行うとともに、2019年2月に同法の規制対象外とした生物の取扱方針を定めました。

5 動物の愛護及び適正な管理

動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「動物愛護管理法」という。)に基づき、ペットショップ等の事業者に対する規制を行うとともに、動物の飼養に関する幅広い普及啓発を展開することで、動物の愛護と適正な管理の推進を図ってきました。2019年6月の議員立法による改正動物愛護管理法には、動物取扱業の更なる適正化と動物の不適切な取扱いへの対応強化の観点から、犬猫へのマイクロチップ装着の義務化や愛護動物を虐待した場合の罰則の強化等が盛り込まれました。

都道府県等に引き取られる犬猫の数は動物愛護管理法に基づいて定める、動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(平成18年環境省告示第140号)で目標に定めた2004年度比75%減となるおおむね10万頭を下回る9.2万頭となりました。引き取られた犬猫の返還・譲渡率も50%を超え、殺処分数は約3.8万頭(2004年度比約89%減)まで減少しました(図2-5-5)。

図2-5-5 全国の犬猫の引取数の推移

都道府県等が引き取った収容動物の譲渡及び返還を促進するため、都道府県等の収容・譲渡施設の整備に係る費用の補助を行いました。また、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)(平成20年法律第83号)について普及啓発を行いました。

広く国民に動物の愛護と適正な飼養について啓発するため、関係行政機関や団体との協力の下、「共に生きる~シニアペットとシルバー世代~」をテーマに、上野恩賜公園等で動物愛護週間中央行事を開催したほか、多くの関係行政機関等においても様々な行事が実施されました。

災害対策については、令和元年台風第19号を始めとする台風、大雨災害において、自治体、地方獣医師会等との連携の下でのペット連れ被災者への支援等を行ったほか、岡山県、奈良県で広域支援・受援体制整備に係る図上訓練を行いました。

2019年6月には愛玩動物看護師を国家資格として定める愛玩動物看護師法(令和元年法律第50号)が議員立法により制定され、試験の実施に関する検討等、国家資格制度の運用に向けた準備を進めました。