環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 気候変動問題をはじめとした地球環境の危機>第1節 気候変動をはじめとした地球環境の危機と2020年

第1章 気候変動問題をはじめとした地球環境の危機

現代の私たちの生活や経済・社会システムは安定的で豊かな環境の基盤の上に成立しています。しかしながら人間活動の増大は、地球環境へ大きな負荷をかけており、気候変動問題や海洋プラスチックごみ汚染、生物多様性の損失などの様々な形で地球環境の危機をもたらしています。

これらの環境問題は、気候変動が生物多様性の損失の原因となるなど個々の環境問題がそれぞれ関連すると同時に、経済・社会活動に大きな影響を与えています。また、グローバルな課題であると同時に私たちの生活とも密接に関係するローカルな課題でもあります。

2020年はこうした地球環境の危機的な状況に対応する節目の年と言えます。気候変動問題に関しては、全ての国が参加する新たな国際的な枠組みであるパリ協定の本格的な運用が始まる年です。また、海洋プラスチックごみ問題の関係では2019年6月に開催されたG20大阪サミットで共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を踏まえた施策が本格展開されていきます。生物多様性については、2021年以降の国際的目標(ポスト2020生物多様性枠組)を議論する年でもあります。

今を生きる私たちの世代のニーズを満たしつつ、将来の世代が豊かに生きていける社会を実現するためには、後述するように従来型の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済・社会システムや日常生活を見直し、環境、経済、社会を統合的に向上する社会へ変革していくことが不可欠です。本章では、まず気候変動をはじめとした環境をめぐる危機的状況と主な国際的な動向について紹介します。

第1節 気候変動をはじめとした地球環境の危機と2020年

今日における世界的な環境問題としては、気候変動、海洋プラスチックごみ汚染をはじめとした資源の不適正な管理、生物多様性の損失が挙げられます。これらの問題は、私たちの日常生活や経済・社会活動に多大な影響を与えています。例えば、気候変動については、洪水等の気象災害等により人命に関わる影響に加え、食料生産などにも影響を与えています。

これらの問題は、いずれも私たち一人一人の生活や今日の経済・社会システムと深く関わっているのが特徴です。私たちが日常便利に利用しているモノやサービスは、資源の採掘、運搬、生産、加工、使用等の長いサプライチェーンを通じて地球環境に影響を与えています。気候変動の原因の一つと言われているCO2の多くは化石燃料の利用に伴い排出されるもので、現代の私たちの生活のありとあらゆるところから排出されています。プラスチックについても素材としての価値の高さから、日常生活や社会・経済活動の中で様々な用途に使用されています。大規模な土地改変や生物の採取等を通じた生物多様性の損失についても、私たちの消費生活における選択及びそれらを支えるグローバルな経済活動とも深く関わっていることが指摘されています。

このように私たち一人一人が世界的な環境問題の原因の一端を担っている一方、日常生活や経済・社会活動の中で、このことを強く意識することは希です。個々の環境負荷を与える行為はそれぞれの地域で行われていますが、環境負荷の結果がその地域ですぐに顕在化するとは限らず、遠く離れた地で現れる、又は環境負荷の蓄積等により一定の時間を経過して、表面化する可能性があるためです。このように環境負荷とその影響が相互に見えにくいという点も特色です。

また、これらの問題は相互に関連しています。気候変動は、種の絶滅・生育域の移動、減少、消滅などによる生物多様性の損失につながる可能性があります。気候変動により、有機資源の量の減少や洪水等気象災害による災害廃棄物の増大につながる可能性があります。プラスチックは、原材料の石油の採掘・輸送から、精製、生産に係る過程でのエネルギー利用に伴うCO2の排出に加え、焼却によるCO2の排出により気候変動の一因になっています。また、鯨の胃から大量のビニール袋が発見されるなどのケースが報告されており、海洋プラスチックごみによる海洋生態系への影響が懸念されています。

一方、私たちの生活や現代の経済・社会システムは、あくまで豊かな環境基盤の上に成り立つものです。豊かな環境は、水、食やエネルギーなどの私たちの生活や経済・社会活動に必要な資源を提供するとともに、人間活動で生じたCO2の私たちの生存に必要な酸素への転換、汚染物質の浄化等により、私たちの生活に必要不可欠な多様なサービスを提供しています。

人間活動に必要な環境の基盤が気候変動等により失われると、その上に成り立つ経済・社会活動や私たちの生活はたちまち困難になります。私たち自らによって作り出した気候変動、資源の不適正な管理、生物多様性の損失といった問題は、私たちにとって最適な環境の基盤を破壊し、経済・社会システムや生活にも悪影響を及ぼしつつあります(図1-1-1)。

図1-1-1 人間活動、社会・経済システム、環境基盤の相互関係のイメージ

こうした背景の下で2020年は環境問題にとって節目の年と言えます。気候変動問題の文脈で言えば、パリ協定の運用が本格的に始まる年であり、交渉についても残された議題である市場メカニズムの実施指針に合意できるかが重要な論点です。海洋プラスチックごみ汚染の文脈からは、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを踏まえた施策が本格展開される年です。生物多様性の視点で言えば生物多様性の2021年以降の国際枠組みを議論する年です。

20世紀末に気候変動枠組条約や生物多様性条約が国連で採択され、地球環境問題に国際的に立ち向かう枠組みが出来上がり、かつて「21世紀は環境の世紀」とも言われました。21世紀の当初10年から20年の間には、気候変動に関しては、先進国に温室効果ガスの削減目標を課した京都議定書等に基づく取組が進められました。また、生物多様性の分野では、2020年までに生物多様性保全のための実効性のある行動を求める愛知目標が設定されました。このような国際的な枠組みの下、世界各地で取組が展開されてきました。これらの取組は一定の成果はあったものの、地球環境の悪化が続き、私たちの生活や経済・社会活動に深刻な影響を与える状況になっています。調査研究が進展するとともに、後述のIPCCやIPBESの活動等により、科学的知見が集約され、地球環境をめぐる深刻な状況が明らかになってきました。

こうした地球環境の危機に対処するため、国際社会として世界全体で協力して社会変革を図っていく必要があることから、2020年が改めて地球環境問題への取組を強化する節目になったと言えます。

次節以降、気候変動問題を中心に個々の問題の状況や国際的な動向を詳しく見ていきます。