環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第4章>第7節 大気環境の保全

第7節 大気環境の保全

1 窒素酸化物・光化学オキシダント・PM2.5等に係る対策

大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)に基づく固定発生源対策及び移動発生源対策等を引き続き適切に実施するとともに、光化学オキシダント及びPM2.5の原因物質となり得る前駆物質(窒素酸化物、揮発性有機化合物(VOC))について、排出実態や科学的知見、排出抑制技術(対策効果の定量的予測・評価を可能とするシミュレーションの高度化を含む)の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、対策を進めます。

(1)ばい煙に係る固定発生源対策

大気汚染防止法に基づく排出規制の状況、科学的知見や排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、追加的な排出抑制策の可能性を検討します。

(2)移動発生源対策

自動車排出ガス規制(オフロード特殊自動車も含む)及び自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)に基づく車種規制を引き続き実施するとともに、環境性能に優れた低公害車の普及等を引き続き促進します。また、大気環境保全の観点から、自動車排出ガス低減技術の進展を見据えつつ、国内の大気環境、走行実態及び国際基準への調和等を考慮した許容限度の見直しに資する検討を進めます。

ETC2.0サービスや高度化光ビーコン等を活用した道路交通情報の内容・精度の改善・充実、信号機の改良、公共車両優先システム(PTPS)の整備等のITSの推進、総合的な駐車対策の効果的実施等の交通流の円滑化対策を推進します。

これらの対策に加え、エコドライブの普及啓発を実施するとともに、公共交通機関の利用等の自動車利用の低公害化・低炭素化を促進します。

(3)VOC対策

VOCの排出量の実態把握を進めることなどによりVOC排出抑制対策の検討を行うとともに、大気汚染防止法による規制と自主的取組のベストミックスによる排出抑制対策を引き続き進めます。

(4)監視・観測、調査研究

大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、大気汚染防止法に基づいて国や都道府県等では常時監視を行っています。引き続き、リアルタイムに収集したデータ(速報値)を「大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)」により、国民に分かりやすく情報提供を行います。そのほか、酸性雨や黄砂、越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的としたモニタリングや放射性物質モニタリングを引き続き実施します。また、PM2.5と光化学オキシダントは発生源や原因物質において共通するものが多いことに鑑み、両者の総合的対策に向け科学的知見の充実を図ります。

(5)その他の対策

スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律(平成2年法律第55号)に基づき、スパイクタイヤ粉じんの発生防止対策を推進します。

2 アジアにおける大気汚染対策

アジア地域におけるPM2.5、光化学オキシダント等の大気汚染の改善に向け、コベネフィット(共通便益)・アプローチも活用しながら、様々な二国間・多国間協力を通じて大気汚染対策を推進します。

(1)二国間協力

中国等とのPM2.5の発生源解析等に関する共同研究による科学的知見の集積、PM2.5原因物質削減技術のモデル事業等を通じて、日本の知見やノウハウを相手国に提供するとともに、日本の技術の海外展開等を図ります。

(2)日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)の下の協力

日中韓三カ国間の大気汚染に関する政策対話、黄砂に関する共同研究等において、最新情報の共有や意見交換を実施することで、三カ国の政策や技術の向上を図ります。

(3)多国間協力

アジア地域規模での広域的な大気環境管理を目指し、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)、アジア太平洋クリーン・エア・パートナーシップ(APCAP)等の既存の枠組みにおける活動を推進します。

3 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)アスベスト対策

アスベストが使用されている建築物等の解体等工事については、今後増加が見込まれることから、解体等工事の発注者に工事の届出等の飛散防止対策の責任があることについて普及啓発を進めるとともに、施工業者等に事前調査の実施や作業基準の遵守を徹底させることにより、大気汚染防止法の確実な施行を図ります。また、特定建築材料以外のアスベスト含有建材の除去に係る対策等の課題について検討し対策を進めます。

(2)水銀大気排出対策

水銀に関する水俣条約を踏まえて改正された大気汚染防止法(2018年4月施行)に基づく水銀大気排出規制の着実な実施に努めます。また、水銀大気排出インベントリの作成や、自主的取組の実施が求められる要排出抑制施設のフォローアップなど、自治体や関係団体等と連携して水銀大気排出規制の取組状況に関する情報を収集・整理し、必要に応じて新たな措置を検討するなど、水銀大気排出抑制対策を推進します。

(3)有害大気汚染物質対策等

大気汚染防止法に基づく有害大気汚染物質対策を引き続き適切に実施し、排出削減を図るとともに、新たな情報の収集に努め、必要に応じて更なる対策について検討します。さらに、環境目標値の設定・再評価や健康被害の未然防止に効果的な対策の在り方について検討するため、残留性有機汚染物質(POPs)等の新たな化学物質も含め、健康影響、大気中濃度、発生源、抑制技術等に係る知見を引き続き収集します。

4 地域の生活環境保全に関する取組

(1)騒音・振動対策
ア 自動車交通騒音・振動対策

車両の低騒音化、道路構造対策、交通流対策等の対策や、住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、沿道に新たな住居等が立地される前に騒音状況を情報提供するなどにより、騒音問題の未然防止を図ります。また、自動車騒音低減技術の進展を見据えつつ、自動車交通騒音への影響や、国内の走行実態及び国際基準への調和等を考慮した許容限度の見直しに資する検討を進めます。

イ 鉄道騒音・振動、航空機騒音対策

鉄道騒音・振動、航空機騒音の状況把握や予測・評価手法の検討を進めるとともに、車両の低騒音化等の発生源対策や住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、騒音状況の情報提供等により騒音問題の未然防止を図ります。

ウ 工場・事業場及び建設作業の騒音・振動対策

最新の知見の収集・分析等を行い、騒音・振動の評価方法等についての検討を行います。また、従来の規制的手法による対策に加え、最新の技術動向等を踏まえ、情報的手法及び自主的取組手法を活用した発生源側の取組を促進します。

エ 低周波音その他の対策

従来の環境基準や規制を必ずしも適用できない新しい騒音問題について対策を検討するために必要な科学的知見を集積します。風力発電施設や家庭用機器等から発生する騒音・低周波音については、その発生・伝搬状況や周辺住民の健康影響との因果関係、わずらわしさを感じさせやすいと言われている純音性成分など、未解明な部分について引き続き調査研究を進めます。

(2)悪臭対策

最新の知見を踏まえた分析手法の見直しを検討するとともに、排出規制、技術支援及び普及啓発を進めます。

(3)ヒートアイランド対策

近年の暑熱環境の状況や今後の見通しを踏まえ、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善、人の健康への影響等を軽減する適応策の推進を柱とするヒートアイランド対策を推進します。また、暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)等の熱中症予防情報の提供を実施します。

(4)光害(ひかりがい)対策等

技術開発の状況や諸外国の動向を把握するとともに、必要に応じ光害(ひかりがい)対策ガイドラインを見直し、普及啓発を図ります。また、星空観察の推進を図り、より一層大気環境保全に関心を深められるよう取組を推進します。

(5)効果的な公害防止の取組の促進

2010年1月の中央環境審議会答申「今後の効果的な公害防止の取組促進方策の在り方について」を踏まえ、事業者や地方公共団体が公害防止を促進するための方策等を引き続き検討・実施します。