環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第4章>第4節 水環境の保全対策

第4節 水環境の保全対策

1 環境基準の設定等

水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬等、公共用水域において27項目、地下水において28項目が設定されています。要監視項目(公共用水域26項目、地下水24項目)など、環境基準以外の項目について、水質測定や知見の集積を行いました。

生活環境項目については、BOD、COD、全窒素、全りん、全亜鉛等の基準が定められており、利水目的等から水域ごとに環境基準の類型指定を行っています。2016年3月に生活環境項目に追加された底層溶存酸素量(以下「底層DO」という。)については、国が類型指定を行うこととされている水域について、類型指定に向けた検討を行いました。

2 水環境の効率的・効果的な監視等の推進

水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)に基づき、国及び地方公共団体は環境基準に設定されている項目について、公共用水域及び地下水の水質の常時監視を行っています。また、要監視項目についても、都道府県等の地域の実情に応じ、公共用水域等において水質測定が行われています。

水質汚濁防止法が2013年に改正されたことを受けて、我が国は2014年度から全国の公共用水域及び地下水、それぞれ110地点において、放射性物質の常時監視を実施しています。モニタリング結果は、関係機関が実施している放射性物質モニタリングのうち、本常時監視の目的に合致するものの結果と併せて、専門家による評価を経て公表しました。

3 公共用水域における水環境の保全対策

(1)排水規制の実施

公共用水域の水質保全を図るため、水質汚濁防止法により特定事業場から公共用水域に排出される水については、全国一律の排水基準が設定されていますが、環境基準の達成のため、都道府県条例においてより厳しい上乗せ基準の設定が可能であり、全ての都道府県において上乗せ排水基準が設定されています。

カドミウムについては、一律排水基準を直ちに達成させることが困難であるとの理由により、これまで暫定排水基準が適用されていた業種の排水基準値について、それぞれ見直しの検討を行い、2017年12月1日から、一部の業種に一律排水基準が適用されました。

(2)湖沼

湖沼については、富栄養化対策として、水質汚濁防止法に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しており、水質汚濁防止法の規制のみでは水質保全が十分でない湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)によって、環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、湖沼水質保全計画を策定し(図4-4-1)、下水道整備、河川浄化等の水質の保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置等を推進しています。また、湖沼の底層DOと沿岸透明度の改善等の対策手法に関する検討を行いました。

図4-4-1 湖沼水質保全計画策定状況一覧(2017年度現在)

琵琶湖を健全で恵み豊かな湖として保全及び再生を図ることなどを目的に2015年9月に成立、施行された琵琶湖の保全及び再生に関する法律(平成27年法律第75号)第2条に基づき、関係省庁と連携して琵琶湖の保全及び再生に関する基本方針を2016年4月に策定するとともに、2017年3月には同法第3条に基づき、琵琶湖保全再生施策に関する計画が滋賀県により策定され、琵琶湖保全再生施策の推進に関する各種取組が行われています。

(3)閉鎖性海域
ア 栄養塩類の適正管理

閉鎖性が高く富栄養化のおそれのある海域として、全国で88の閉鎖性海域を対象に、水質汚濁防止法に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しています。

下水道終末処理場からの放流水に含まれる窒素・りんの削減目標量及び削減方法を定めた流域別下水道整備総合計画に基づき下水道の整備を推進するとともに、必要に応じて、窒素やりんの能動的管理に関する取組を進めました。

イ 水質総量削減

人口、産業等が集中した広域的な閉鎖性海域である東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に、COD、窒素含有量及びりん含有量を対象項目として、当該海域に流入する総量の削減を図る水質総量削減を実施しています。具体的には、一定規模以上の工場・事業場から排出される汚濁負荷量について、都府県知事が定める総量規制基準の遵守指導による産業排水対策を行うとともに、地域の実情に応じ、下水道、浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラント等の整備等による生活排水対策、合流式下水道の改善、その他の対策を引き続き推進しました。

これまでの取組の結果、陸域からの汚濁負荷量は着実に減少し、これらの閉鎖性海域の水質は改善傾向にありますが、COD、全窒素・全りんの環境基準達成率は海域ごとに異なり(図4-4-2)、赤潮や貧酸素水塊といった問題が依然として発生しています。また、「きれいで豊かな海」を目指す観点から、干潟・藻場の保全・再生等を通じた生物の多様性及び生産性の確保等の総合的な水環境改善対策の必要性が指摘されています。

図4-4-2 広域的な閉鎖性海域における環境基準達成率の推移(全窒素・全りん)

このような状況を踏まえ、2016年9月に策定した第8次となる総量削減基本方針に基づき、2017年7月までに、関係都府県において総量削減計画及び総量規制基準が策定されました。

ウ 瀬戸内海の環境保全

瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)に基づき、瀬戸内海の有する多面的な価値及び機能が最大限に発揮された「豊かな海」を目指し、水環境等と生物多様性・生物生産性の関係に係る検討、気候変動による影響把握及び適応策の検討、藻場・干潟分布状況調査等の各種調査・検討を進めています。2015年度から3か年で実施してきた藻場・干潟分布状況調査については瀬戸内海全域での調査が終了しました。

瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき、瀬戸内海における埋立て等については、海域環境、自然環境及び水産資源保全上の見地等から特別な配慮を求めています。同法施行以降、2017年11月1日までの間に埋立ての免許又は承認がなされた公有水面は、4,967件、1万3,543.3ha(うち2016年11月2日以降の一年間に6件、265.2ha)になります。

エ 有明海及び八代海等の環境の保全及び改善

有明海及び八代海等においては、有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律(平成14年法律第120号)に基づき設置された有明海・八代海等総合調査評価委員会(以下「評価委員会」という。)が2017年3月に取りまとめた報告を踏まえ、赤潮・貧酸素水塊の発生や底質環境、魚類等の生態系回復に関する調査等を実施しました。

オ 里海の創生の推進

里海づくりの手引書や全国の里海づくり活動の取組状況等について、ウェブサイト「里海ネット」で情報発信を行っています。また、2016年度・2017年度には、閉鎖性海域における水環境改善のための手引きを作成することを目的に、全国の閉鎖性海域から選定したモデル海域において水環境改善技術の効果を定量的に評価し、ケーススタディとして取りまとめる「海辺の再生・創出調査」を実施しました。

(4)汚水処理施設の整備

汚水処理施設整備については、現在、2014年1月に国土交通省、農林水産省、環境省の3省で取りまとめた「持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想策定マニュアル」を参考に、都道府県において、早期に汚水処理施設の整備を概成することを目指し、また中長期的には汚水処理施設の改築・更新等の運営管理の観点で、汚水処理に係る総合的な整備計画である「都道府県構想」の見直しが進められています。2016年度末で汚水処理人口普及率は90.4%となりましたが、残り約1,200万人の未普及人口の解消に向け(図4-4-3)、「都道府県構想」に基づき、浄化槽、下水道、農業等集落排水施設、コミュニティ・プラント等の各種汚水処理施設の整備を推進しています。

図4-4-3 汚水処理人口普及率の推移

浄化槽については、「循環型社会形成推進地域計画」等に基づく市町村の浄化槽整備事業に対する国庫助成により、整備を推進しました。特に、環境配慮型の浄化槽の設置や単独処理浄化槽の転換等を促進する市町村の浄化槽整備事業に対しては、助成率を引き上げるなど、浄化槽整備事業に対する一層の支援を行っています。2016年度においては、全国約1,700の市町村のうち約1,200の市町村で浄化槽の整備が進められました。

下水道整備については、「社会資本整備重点計画」に基づき、人口が集中している地区等の整備効果の高い区域において重点的下水道整備を行うとともに、閉鎖性水域における水質保全のため、既存施設の一部改造や運転管理の工夫による段階的な高度処理も含め、下水道における高度処理を推進しました。

合流式下水道については、合流式下水道緊急改善事業等を活用し、緊急的・総合的に合流式下水道の改善を推進しました。

下水道の未普及対策や改築対策として、「下水道クイックプロジェクト」を実施し、従来の技術基準に捉われず地域の実状に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備及び改築が可能な新たな手法の積極的導入を推進しており、施工が完了した地域では大幅なコスト縮減や工期短縮等の効果を実現しました。

農業集落排水事業については、農業集落におけるし尿、生活雑排水等を処理する農業集落排水施設の整備又は改築を251地区で実施するとともに、既存施設について、長寿命化や老朽化対策を適時・適切に進めるための地方公共団体による機能診断等の取組を支援しました。

水質汚濁防止法では生活排水対策の計画的推進等が規定されており、同法に基づき都道府県知事が重点地域の指定を行っています。2017年3月末時点で、41都府県、208地域、333市町村が指定されており、生活排水対策推進計画による生活排水対策が推進されました。

(5)生物を用いた水環境の評価・管理手法に関する検討

多種多様な化学物質による水環境への影響を低減するための新たな手法として、生物を用いた水環境の評価・管理手法に着目し、2016年度から引き続き、学識経験者や関係者から構成される検討会を開催して、本手法を用いる場合の有効性や課題も含めた活用の在り方等について、検討を進めました。

4 地下水の保全対策

水質汚濁防止法に基づいて、地下水の水質の常時監視、有害物質の地下浸透制限、事故時の措置、汚染された地下水の浄化等の措置が取られています(図4-4-4)。また、2011年6月に水質汚濁防止法が改正され、地下水汚染の未然防止を図るための制度が創設されました。改正後の水質汚濁防止法においては、届出義務の対象となる施設の拡大、施設の構造等に関する基準の遵守義務、定期点検の義務等に関する規定が新たに設けられました。制度の円滑な施行のため、構造等に関する基準及び定期点検についてのマニュアルや、対象施設からの有害物質を含む水の地下浸透の有無を確認できる検知技術についての事例集等を作成・周知し、地下水汚染の未然防止施策を推進しました。

図4-4-4 水質汚濁防止法の地下水の規制等の概要

地下水の水質調査により井戸水の汚染が発見された場合、井戸所有者に対して飲用指導を行うとともに、周辺の汚染状況調査を実施し、汚染源が特定されたときは、指導等により適切な地下水浄化対策等が行われています。

環境基準超過率が最も高い硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染対策については、過剰施肥、不適正な家畜排せつ物及び生活排水処理等が主な汚染原因であると見られることから、地下水保全のための硝酸性窒素等地域総合対策の推進のため、地域における取組の支援を行うとともに、負荷低減対策の促進方策について調査・検討を行いました。

5 健全な水循環の維持又は回復

(1)流域マネジメントの推進等

水循環基本計画(平成27年7月閣議決定)に基づき「流域マネジメント」の推進を図るため、2017年度には、「先進的な流域マネジメントに関するモデル調査」として6団体の取組の実態調査や活動支援を実施しました。また、健全な水循環の維持又は回復に取り組む各地域の計画について2017年度より取りまとめを開始し、2018年1月時点で、「流域水循環計画」として合計29計画を公表しました。新たな取組としては、水循環政策本部が主催する初めてのシンポジウム「水循環シンポジウム2017」を11月に開催し、全国の水循環に関わる組織・担当者に対する提言を取りまとめました。国際的な取組としては、12月にミャンマーで開催された第3回アジア・太平洋水サミット(APWS)に石井水循環政策担当大臣が参加、「ヤンゴン宣言」が取りまとめられ、我が国が発信した健全な水循環の重要性等が盛り込まれました。

(2)環境保全上健全な水循環の確保

水循環基本法(平成26年法律第16号)の施行を受け、広く国民に向けた情報発信等を目的とした官民連携プロジェクト「ウォータープロジェクト」の取組として、2017年度は、シンポジウム「「見えない水」と「食べ物」のヒミツ!~水を大切にする暮らしを考えよう~」を開催したほか、「CDP 2017 気候変動・水・森林コモディティ 日本報告会」においてウォータープロジェクトの取組について講演を実施するなど、水循環の維持又は回復に関する取組と情報発信を促進しました。

流域別下水道整備総合計画等の水質保全に資する計画の策定の推進に加え、下水道法施行令等の規定や、下水処理水の再利用の際の水質基準等マニュアルに基づき、適切な下水処理水等の有効利用を進めるとともに、雨水の貯留浸透や再利用を推進しました。また、汚濁の著しい河川等における水質浄化等を推進しました。

(3)水環境に親しむ基盤づくり

河口から水源地まで様々な姿を見せる河川とそれにつながるまちを活性化するため、地域の景観、歴史、文化及び観光基盤等の「資源」や地域の創意に富んだ「知恵」を活かし、市町村、民間事業者及び地元住民と河川管理者の連携の下、河川空間とまち空間が融合した良好な空間形成を目指す「かわまちづくり」を推進しました。

関係機関の協力の下、全国水生生物調査(水生生物による水質調査)を実施しました。また、約750の市民団体等により全国の約6,100地点で実施された「第14回身近な水環境の全国一斉調査」の支援に加え、住民との協働による河川水質調査を実施しました。さらに、子供たちの水環境保全活動を促進するため、全国から取組を募集し表彰する「こどもホタレンジャー」事業を実施しました。