環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第2節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

第2節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

1 里地里山及び里海の保全・活用に向けた取組の推進

里地里山の保全活用の効果的な促進及び全国各地への展開に向け、生物多様性保全の観点から特に保全の必要性が高い地域として選定した「生物多様性保全上重要な里地里山」、地域や活動団体の参考となる里地里山保全の特徴的な取組事例、都市住民等のボランティア活動への参加促進に向けた活動場所や専門家の紹介等をウェブサイト等により情報発信します。

特別緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地方公共団体等との管理協定の締結による持続的な管理や、市民への公開等の取組を推進します。

里海に係る取組は、第4章第3節3を参照。

2 野生鳥獣の保護及び管理の推進

(1)鳥獣の管理の強化

都道府県が実施する指定管理鳥獣捕獲等事業による一層の捕獲の強化に向けて、事業実施段階における都道府県と市町村等との連携をこれまで以上に推進するほか、認定鳥獣捕獲等事業者の育成の強化を図ることにより、指定管理鳥獣(ニホンジカ及びイノシシ)の管理を推進します。また、全国的な指定管理鳥獣の管理を促進するため、都道府県による捕獲事業等の評価や、効率的な捕獲技術及び迅速な捕獲情報収集システムの開発等を行います。

(2)科学的・計画的な保護及び管理

2016年10月に改定した「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、科学的で計画的な鳥獣の保護管理、人材の育成等を総合的に進めます。

鳥獣保護管理の担い手を育成するため、都道府県と連携した狩猟免許取得者の増加及び能力向上に向けた取組や、鳥獣保護管理に係る専門的技術者の人材登録事業を実施します。また、ウェブサイト等を活用して鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号、以下「鳥獣保護管理法」という。)に基づく認定鳥獣捕獲等事業者制度の普及、鳥獣捕獲等事業者の捕獲従事者や事業管理責任者に修了することが義務付けられている安全管理講習等を実施します。

都道府県における第一種特定鳥獣保護計画及び第二種特定鳥獣管理計画の作成や鳥獣の保護及び管理のより効果的な実施のための検討を行うとともに、技術研修会を開催します。

渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーション等における鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査等を実施します。

愛鳥週間(毎年5月10日から5月16日)行事の一環として静岡県熱海市において第71回愛鳥週間「全国野鳥保護のつどい」を開催するほか、小・中学校、高等学校等における実践活動を発表する行事等を開催し、野生生物保護についての普及啓発を推進します。

(3)鳥獣被害対策

農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な中、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)に基づき市町村が作成する被害防止計画により、生息環境管理、被害防除、捕獲を一体的に地域ぐるみで取り組む対策を総合的に支援し、鳥獣被害対策を進めます。特に、捕獲活動を重点的に推進するとともに、捕獲鳥獣の食肉(ジビエ)等への利活用を推進するための取組を支援します。

また、造林樹種等の着実な成長を確保するため、防護柵等の鳥獣害防止施設の整備や野生鳥獣の捕獲の支援等を行います。特に、野生鳥獣による被害が発生している森林等については、2016年5月に改正された森林法(昭和26年法律第249号)に基づく市町村森林整備計画等における鳥獣害防止森林区域の設定を通じた被害防除対策を推進します。このほか、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を推進します。

さらに、トドによる漁業被害防止対策として、出現状況等の調査や実証試験等を行います。

(4)鳥インフルエンザ等感染症対策

「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」に基づき、全国で高病原性鳥インフルエンザウイルス保有状況調査を実施するとともに、関係省庁と協力して野鳥の監視を強化します。さらに、人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査を継続するとともに、国指定鳥獣保護区への渡り鳥の飛来状況についてウェブサイト等を通じて情報提供を行います。また、その他の感染症について情報把握・分析等を行います。

3 生物多様性の保全に貢献する農林水産業の推進

国家戦略及び「農林水産省生物多様性戦略」(2012年2月改定)に基づき、[1]田園地域・里地里山の保全(環境保全型農業直接支払による生物多様性保全に効果の高い営農活動に対する直接支援等)、[2]森林の保全(適切な間伐等)、[3]里海・海洋の保全(生態系全体の生産力の底上げを目指した漁場の整備等)など、農林水産分野における生物多様性の保全や持続可能な利用を推進します。

また、企業等による生物多様性保全活動への支援等について取りまとめた農林漁業者及び企業等向け手引及びパンフレットを活用し、農林水産分野における生物多様性保全活動を推進します。

(1)農業

水田や水路、ため池等の水と生態系のネットワークの保全のため、地域住民の理解・参画を得ながら、生物多様性保全の視点を取り入れた農業生産基盤の整備を推進します。また、生態系の保全に配慮しながら生活環境の整備等を総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進します。さらに、農村地域の生物や生息環境の情報を調査・地理情報化し、生態系に配慮した水田や水路等の整備手法を構築するなど、生物多様性を確保するための取組を進めます。

生物多様性等の豊かな地域資源をいかし、農山漁村を教育、観光等の場として活用する集落ぐるみの取組を支援します。

持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の普及推進を図るとともに、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)に基づく有機農業の推進に関する基本的な方針の下で、栽培技術の体系化の取組等の支援、産地の販売企画力、生産技術力強化、販路拡大、施設の整備に関する支援を行います。

(2)森林・林業

第3節2を参照。

(3)水産業

第3節5を参照。

4 絶滅のおそれのある野生生物種の保全

絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略(2016年4月)及び絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存につき講ずべき措置について(2017年1月中央環境審議会答申)に基づき、絶滅危惧種の保全に関する様々な施策を幅広く推進していきます。

(1)レッドリストとレッドデータブック

レッドリストについては、2015年度以降、生息状況の悪化等によりカテゴリーの再検討が必要な種については必要に応じて個別に見直しを行うこととしており、引き続き、現地調査や科学的知見の集積等を進め、必要に応じてレッドリストを改訂いたします。また、これまで評価対象としていなかった海洋生物については、2017年3月に最初のレッドリストを公表し、次回の見直しに向けて検討を進めます。

(2)希少野生動植物種の保存

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づき、希少野生動植物種を指定し、個体の捕獲・譲渡等の規制、器官・加工品の譲渡等の規制を引き続き実施します。国内希少野生動植物種については、2020年までに300種の新規指定に向けた作業や、生息地等保護区の指定及び保護増殖事業計画の策定を推進します。また、野生生物保護センター等を中心として、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナ等の生息環境の改善・整備や繁殖の促進のための事業を進めます。トキについては、2015年度に策定した「トキ野生復帰ロードマップ2020」により、新たな野生復帰の目標に向けて取り組むとともに、人とトキが共生できる社会づくりを地域の方々と共に進めます。ライチョウについては、引き続き生息域外保全や野外におけるヒナの緊急保護対策等を進めます。さらに、猛禽(きん)類の採餌環境の創出のための間伐の実施等、効果的な森林の整備・保全を行います。

(3)生息域外保全

絶滅危惧種の生息域外保全については、動物園、水族館及び植物園等との連携を深め、特に公益社団法人日本動物園水族館協会及び公益社団法人日本植物園協会と締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」に基づく取組等を一層進めるとともに、「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」等に沿って飼育下繁殖の実施等を進めます。

5 外来種等への対応

(1)外来種対策

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)に基づく特定外来生物の輸入、飼養等の規制、防除事業を引き続き実施します。また、2015年3月に「外来種被害防止行動計画」や「生態系被害防止外来種リスト」を策定したことを踏まえ、外来種被害予防三原則を始めとした外来種問題への認識と理解の促進、侵略的外来種の効果的・効率的な防除の推進、特定外来生物の追加指定、外来種の適正な管理の促進等の対策やウェブサイト(http://www.env.go.jp/nature/intro/(別ウィンドウ))等での普及啓発を進めます。

(2)遺伝子組換え生物への対応

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づき、遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講じ、生物の多様性の確保を図ります。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウス(http://www.biodic.go.jp/bch/(別ウィンドウ))を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行うほか、遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査等を行います。

6 遺伝資源等の持続可能な利用

(1)遺伝資源の利用と保存

農林水産分野では、農業生物資源ジーンバンク事業等により、関係機関が連携して、国内外の遺伝資源の収集、保存、評価等を行っており、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行います。

また、海外から研究者を受け入れ、遺伝資源の取引・運用制度に関する理解促進や保護と利用のための研修等支援を行います。国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得するために必要な情報の収集・提供や、相手国等との意見調整の支援を行うとともに、途上国に対して遺伝資源の取引・運用制度に関する理解促進や遺伝資源の探索及び機能解析等に関する能力向上の取組を支援します。

(2)微生物資源の利用と保存

独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との生物多様性条約の精神にのっとった国際的取組の実施等により、資源保有国への技術移転、海外の微生物資源の利用機会の提供等を行います。

また、当該機関において微生物資源の収集・保存・提供等を行うとともに、これらに関する遺伝子機能等の情報を整備します。

7 動物の愛護と適正な管理

動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(平成18年環境省告示第140号)に基づき、2023年度までの犬猫の引取数の75%減(2004年度比)や殺処分率の更なる減少等を目指し、適正飼養に関する普及啓発、収容動物の返還・譲渡促進の支援等を進めます。また、幼齢の犬猫を親等から引き離す理想的な時期に関する調査研究、販売される犬猫へのマイクロチップ装着の義務化に向けた検討を行うとともに、熊本地震の経験を今後の大規模災害での被災動物対策にいかすため、「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」の改定を行います。

また、関係府省や関係団体等と連携し、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成20年法律第83号)の適正な執行に努めます。