環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第4章>第7節 海洋環境の保全

第7節 海洋環境の保全

1 海洋汚染の防止等

ロンドン条約1996年議定書を国内担保するため、海洋汚染等防止法を2004年に改正し、 海洋投入処分の許可制度等を導入するとともに、廃棄物の海底下廃棄を原則禁止した上で二酸化炭素の海底下廃棄に係る許可制度を導入するため、海洋汚染等防止法を2007年に改正しており、これらの許可制度の適切な運用を図っています。苫小牧沖海底下CCS実証試験事業(経済産業省事業)について、2016年3月に環境大臣の許可処分を行いました。海底下への二酸化炭素回収・貯留(以下「海底下CCS」という。)事業の適正な実施のため、2011年度から、海底下CCSの実証試験が予定されている海域における海洋生態系及び海水の炭酸系指標に係る化学的性状について調査し、その結果は当該許可に当たっての審査に活用しました。さらに、船舶から排出されるバラスト水を適切に管理し、バラスト水を介した有害水生生物及び病原体の移動を防止することを目的として、2004年2月にIMOにおいて採択された船舶バラスト水規制管理条約(2017年9月発効予定)を国内担保するため、2014年6月に海洋汚染等防止法を改正し、同年10月に同条約を締結しました。また、改正した海洋汚染等防止法に基づき、バラスト水処理装置の審査等を着実に実施しました。

中国、韓国、ロシアと我が国の4か国による北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)に基づき、当該海域の状況を把握するための、人工衛星を利用したリモートセンシング技術による海洋環境モニタリング手法に係る研究等を進めています。また、ウェブからの解析データ提供を目的とした環日本海海洋環境ウォッチシステムを構築し、水温、植物プランクトン濃度等の観測データを取りまとめました。NOWPAPの枠組みにおいて、これらのデータの活用を推進するために解析トレーニング研修を実施しており、有害赤潮など海洋環境に影響を与える現象の原因究明に係る研究に利用されました。

船舶によりばら積み輸送される有害液体物質等に関し、MARPOL条約附属書IIが改正され、2007年1月から汚染分類が変更となりました。新基準に基づき、環境大臣は海洋環境保全の見地から有害性の査定がなされていない液体物質(未査定液体物質)の査定を行っています。

2 排出油等防除体制の整備

1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約及び2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書に基づき、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を策定しており、環境保全の観点から油等汚染事件に的確に対応するため、「排出油等防除計画」の見直しを実施したほか、緊急措置の手引書の備付けの義務付け並びに沿岸海域環境保全情報の整備、脆(ぜい)弱沿岸海域図の公表、関係地方公共団体等に対する傷病鳥獣の救護及び事件発生時対応の在り方に対する研修・訓練を実施しました。

3 海洋環境保全のための監視・調査

日本周辺海域の海洋環境の現状把握のため、海洋基本計画(2013年4月閣議決定)に基づき、領海・排他的経済水域における海洋環境の状況の評価・監視のため、水質、底質等の状況に係る海洋環境モニタリングを行いました。

また、東京湾・伊勢湾・大阪湾における海域環境の観測システムを強化するため、各湾でモニタリングポスト(自動連続観測装置)により、水質の連続観測を行いました。

4 監視取締りの現状

海上環境事犯の一掃を図るため、沿岸調査や情報収集の強化、巡視船艇・航空機の効果的な運用等により、日本周辺海域及び沿岸の監視取締りを行っています。また、潜在化している廃棄物・廃船の不法投棄事犯や船舶からの油不法排出事犯等、悪質な海上環境事犯の徹底的な取締りを実施しました。最近5か年の海上環境関係法令違反送致件数は図4-7-1のとおりで、2016年は625件を送致しています。

図4-7-1 海上環境関係法令違反送致件数の推移

5 海洋ごみ(漂流・漂着・海底ごみ)対策

海洋ごみ(漂流・漂着・海底ごみ)は、生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、景観への悪影響、船舶航行の障害、漁業への被害等、様々な問題を引き起こしています。このため、2009年7月に、美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(平成21年法律第82号)が成立し、2010年3月には、同法に基づく基本方針が閣議決定されました。また近年、マイクロプラスチックという微細なプラスチック海洋ごみが、沿岸及び海洋の生態系に悪影響を与えるものであり、ひいては人間の健康にも潜在的に影響を及ぼす可能性がある海洋環境問題として、世界的な課題となっています。これらの問題に対し、以下の海洋ごみ対策を実施しています。

まず、海洋ごみの回収・処理や発生抑制対策の推進のため、地方自治体への財政支援を行いました。2015年度からは漂着ごみに加え、漂流・海底ごみの回収・処理についても新たに補助対象としています。さらに、異常に堆積した海岸漂着ごみや流木等が海岸保全施設の機能を阻害することとなる場合には、その処理をするため、災害関連緊急大規模漂着流木等処理対策事業による支援も行っています。

また、漂流ごみについては、船舶航行の安全を確保し、海域環境の保全を図るため、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海及び有明海・八代海等の閉鎖性海域において、海域に漂流する流木等のごみの回収等を行いました。また、2016年の台風16号の影響により鹿児島湾内で大量に発生した漂流木等により、定期船等の航行に支障が及ぶ恐れがあったため、海上保安庁及び鹿児島県からの流木回収要請に基づき海洋環境整備船を緊急出動させ、現場海域での回収作業を実施しました。

加えて、海岸や沿岸、沖合海域において、近年、生態系を含めた海洋環境へ与える影響が懸念されているマイクロプラスチックを含む海洋ごみの組成や分布密度等を定量的に把握するため、モニタリングを実施しました。そのうち、マイクロプラスチックについては、日本近海に加え、日本から南極に至る広範な海域において、分布調査や、マイクロプラスチックに吸着しているPCB等の有害化学物質の量を把握するための調査を実施しました。また、日本沿岸海域においてはマイクロビーズ(マイクロプラスチックのうちマイクロサイズで製造されたプラスチックでビーズ状のもの)の分布調査も行いました。なお、2016年3月、化粧品製造業界団体においては、自主的な取組として会員企業に対して洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロビーズの使用中止を促すなどの取組が行われています。

さらに、日本の沿岸域に深刻な被害をもたらしている外国由来の海洋ごみ問題への対応への強化を含め、海洋ごみ問題に関する国際協力を推進しました。

G7伊勢志摩サミット及びG7富山環境大臣会合(2016年5月)においては海洋ごみが議題として取り上げられ、とりわけG7富山環境大臣会合においては、前年のエルマウ・サミットで合意された首脳宣言附属書の「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」及びその効率的な実施の重要性について再確認するとともに、G7として、各国の状況に応じ、優先的施策の実施にコミットすること、またG7として、ベスト・プラクティスを共有し、G7以外の国に対するアウトリーチ活動を促進するため、定期的なフォローアップにコミットすることについて合意されました。

第18回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM18)(2016年4月)においては、海洋ごみに関するワークショップと実務者会合を毎年開催し、各国の政策及び三カ国の研究成果に係る情報交換を促進することに合意するとともに、科学者主導によるワークショップの必要性が認識されました。

第6回日中高級事務レベル海洋協議(2016年12月)においても、日中海洋ごみ協力に関する専門家による対話プラットフォームの会合を行い、海洋ごみモニタリングおよびマイクロプラスチックの毒性等の分野の協力研究について議論することで一致すると共に、関係分野の専門家の相互訪問及び技術交流の促進、並びに同年に関連のワークショップを行うことで一致しました。