環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組

第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組

1 生物多様性に関する広報の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2016年の国際生物多様性の日のテーマは「生物多様性の主流化:人々や暮らしの支え」でした。2016年度は、国際生物多様性の日を記念するとともに、森里川海の恵みを将来にわたって享受した安全で豊かな国づくりを目指し、2016年5月21日に、東京・青山の国連大学において「国際生物多様性の日シンポジウム 生物多様性の主流化-人々と暮らしを支える森里川海」を開催しました。そのほか、生物多様性の重要性を一般の方々に知っていただくとともに、生物多様性に配慮した事業活動や消費活動を促進するため、様々な活動とのタイアップによる広報活動、生物多様性に関するイベントの開催、全国各地で開催される環境関係の展示会への出展等を実施しました。次項で紹介する国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)の各種取組のほか、「みどりとふれあうフェスティバル」、「エコライフ・フェア」、「グリーンチャレンジデー」など、様々なイベントの開催・出展等を通じ、普及啓発を進めています。

2 多様な主体の連携の促進

(1)国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)による取組

2011年から2020年までの10年間は、国連の定めた「国連生物多様性の10年」です。2010年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章における締約国会議(COP)は、生物多様性条約締約国会議を指す。)において採択された「愛知目標」の達成に貢献するため、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組む10年とされています。

我が国においては、あらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため、UNDB-Jは、生物多様性に関する理解や普及啓発に資する取組として、国民一人一人が自分の生活の中で生物多様性との関わりを捉えることができる5つのアクション「MY行動宣言」の呼び掛け、全国各地で行われている5つのアクションに取り組む団体・個人を表彰する「生物多様性アクション大賞」、子供向け推薦図書(「生物多様性の本箱」~みんなが生きものとつながる100冊~)の全国の図書館での展示の呼び掛け等の取組を行いました。また、国際自然保護連合日本委員会が行う「にじゅうまるプロジェクト」への登録を呼び掛けるとともに、優良事例についてはUNDB-Jが推奨する連携事業として認定(2017年3月時点で累計102件)し、広く紹介しています。また、各セクター間の意見・情報交換の場として、2016年10月に岐阜県岐阜市において全国ミーティングを開催するなど、あらゆるセクターの連携の強化とネットワークの拡大を進めています。

さらに、これらの活動状況を発表するオフィシャルウェブサイト(http://undb.jp/(別ウィンドウ))やFacebook等のソーシャルネットワーキングサービス、ポータルサイト「生物多様性.com」(http://tayousei.com/(別ウィンドウ))の開設を通じて、普及啓発を促進しています。

2016年10月には、愛知目標の達成期限である2020年に向けて、更なる取組の強化を行うため、UNDB-J及び各構成団体の目標と具体的な取組をまとめた「ロードマップ」を策定しました。また、12月にメキシコ・カンクンで開催された、COP13において、UNDB-Jの取組を国際社会へ広く発信しました。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2016年12月末現在、39都道府県、71市町村等で策定されています(http://www.env.go.jp/nature/biodic/lbsap.html(別ウィンドウ))。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2017年3月末現在、155自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国22か所の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づき、2017年3月末現在、13地域が地域連携保全活動計画を作成済みであり、12自治体が同法に基づく地域連携保全活動支援センターを設置しています(図2-2-1表2-2-1)。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制優遇措置、普及啓発等を実施しました。

また、利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得等、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とし、2015年4月1日に施行された地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(地域自然資産法)(平成26年法律第85号)の運用を進めました。

3 生物多様性に配慮した事業者の取組の推進

愛知目標4「ビジネス界を含めたあらゆる関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」を受け、生物多様性の保全及び持続可能な利用等、生物多様性条約の実施に関する民間の参画を促進するため、「生物多様性民間参画ガイドライン」や「生物多様性に関する民間参画に向けた日本の取組」の普及広報など様々な取組を行っています。

2016年度は、事業者の民間参画を促進するため、策定から7年を経過する「生物多様性民間参画ガイドライン」について、有識者や事業者等の意見を聴き、改訂に向けた検討を行いました。また、2016年5月に「生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた事業者団体向け手引き(案)」を公表しました。

さらに、経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画パートナーシップ」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」と連携・協力しました。

4 生物多様性に関する教育・学習・体験の充実

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

第1節2(2)を参照。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)、自然に親しむ運動(7月21日~8月20日)、全国・自然歩道を歩こう月間(10月1日~10月31日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、指定から80周年を迎えた十和田八幡平国立公園の十和田八甲田地域と60周年を迎えた八幡平地域、70周年を迎えた伊勢志摩国立公園において、記念式典等の行事を開催したほか、2016年より8月11日が山の日として国民の祝日となったことを記念し、中部山岳国立公園上高地(長野県松本市)において記念式典が開催されました。

また、国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員及びパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

さらに、サンゴ礁や干潟の生き物観察など、子供たちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。

国立公園を楽しむためのモデルコース等を紹介したウェブサイト「国立公園へ出かけよう!」(http://www.env.go.jp/park/guide/index.html(別ウィンドウ))の情報追加・充実を行ったほか、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成等を行いました。さらに、あらゆる人に国立公園を快適に利用していただくために、ビジターセンターにコミュニケーション支援ボードを設置したほか、ビジターセンターの職員等に対するユニバーサルマナー研修を実施しました。

このほか、自然界に存在し、人体に有用な影響を与えると言われている、40kHz以上の複雑に変化する超高周波成分を含む環境音(ハイパーソニック・サウンド)を自然の中楽しむ体験プログラムを実施し、生物多様性が人に与える新たな魅力として、ホームページ等での普及を行いました。

国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、学校等による体験・学習活動の場である「遊々の森」や、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」の設定・活用を推進しました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)エコツーリズム

エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づき、エコツーリズムに取り組む地域への支援、全体構想の認定・周知、技術的助言、情報の収集、普及啓発、広報活動等を総合的に実施しました。同法に基づくエコツーリズム全体構想については、2016年11月に北海道弟子屈町、2017年2月に富山県上市町、愛媛県西条市・久万高原町、宮崎県串間市、鹿児島県奄美市ほか11町村を新たに認定し、全国で合計12件となりました。また、全国のエコツーリズムに関連する活動の向上や関係者の連帯感の醸成を図ることを目的として、第12回エコツーリズム大賞により取組の優れた団体への表彰を実施し、谷川岳エコツーリズム推進協議会が大賞を受賞しました。

また、エコツーリズムに取り組む地域への支援として、10の地域協議会に対して交付金を交付し、魅力あるプログラムの開発、ルール作り、推進体制の構築等を支援するとともに、有識者をアドバイザーとして地域に派遣したほか、地域におけるガイドやコーディネーター等の人材育成事業等を実施しました。

さらに、エコツーリズムの推進・普及を図るため、全体構想認定地域や関係省庁等エコツーリズムに取り組む地域や関係者が、自主財源の確保やガイド等担い手の育成等をテーマとする意見交換を行い、課題や解決方法等を共有しました。加えて、外国人も惹きつける魅力あるエコツアープログラムを開発するため、日韓両国のエコツーリズムの法制度の比較やエコツアーに関するニーズ調査等を実施しました。

(4)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を環境省の直轄事業とし、国立公園バリューアップ事業による自然資源を活用した観光の促進と地域の活性化の推進、集団施設地区等における景観再生、多くの利用者が訪れる地区及びフィールドにおける人と自然の共生を目指した整備、関係省庁共同でシカ等による影響を受けた自然生態系を維持回復させるための施設整備、ユニバーサルデザインの導入等を重点的に進めました。国立・国定公園及び長距離自然歩道等については、44都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。長距離自然歩道の計画総延長は約2万7,000kmに及んでおり、2014年には約7,250万人が長距離自然歩道を利用しました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の普及を図りました。国有林野においては、自然休養林等のレクリエーションの森において、民間活力をいかしつつ利用者のニーズに対応した森林及び施設の整備等を行いました。加えて、国有林野を活用した森林環境教育の一層の推進を図るため、農山漁村における体験活動とも連携し、フィールドの整備及び学習・体験プログラムの作成を実施しました。

(5)都市と農山漁村の交流

子供の農山漁村宿泊体験活動を一層推進し、子供の豊かな心を育むとともに、自然の恩恵等を理解する機会の促進を図りました。

地域資源を活用した交流拠点の整備、都市と農村の多様な主体が参加した取組等を総合的に推進し、グリーン・ツーリズム等の普及を進め、農山漁村地域の豊かな自然とのふれあい等を通じて自然環境に対する理解の増進を図りました。

(6)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2015年度には、温泉掘削許可243件、増掘許可17件、動力装置許可160件、採取許可80件、濃度確認203件、浴用又は飲用許可1,496件が行われました。

また、環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については、2016年5月に二岐・岩瀬湯本・天栄温泉(福島県岩瀬郡天栄村)及び五頭温泉郷(新潟県阿賀野市)を新たに指定し、2017年3月末現在、94か所を指定しています。

さらに、2016年5月に、第1回全国温泉地サミットを開催するなど、我が国の豊かな自然と温泉資源を活用した国民の健康増進や飛躍的に増加している訪日観光客の温泉地への誘導等による地域活性化を目指した施策を行いました。

5 生物多様性が有する経済的価値の評価の推進

「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」では、生態系や生物多様性の価値を様々な主体の意思決定に反映させていくためには、その価値を経済的に評価し「見える化」していくことが有効な手段の一つであるという考え方が示されています。こうした考え方を踏まえ、我が国でも愛知目標の達成や、世界銀行が進める「生態系価値評価パートナーシップ(WAVES)」への貢献を視野に、生物多様性の経済的価値の評価に関する情報収集や政策研究を実施しました。

また、企業による生物多様性保全活動を対象に、生態系や生物多様性の経済的価値の評価を試行しました。

6 生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みとして、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

このため、環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、木材・木材製品については、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、政府調達の対象となる製品の合法性、持続可能性は各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすこととしています。国は、木材・木材製品の供給者が合法性、持続可能性の証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等を「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」として公表しており、合法証明の信頼性・透明性の向上や合法証明された製品の消費者への普及を図っています。