環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第1章>第2節 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

第2節 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

1 気候変動枠組条約に基づく取組

(1)気候変動枠組条約(1992年採択)及び京都議定書(1997年採択)

気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。

この条約の下で1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章におけるCOPは、気候変動枠組条約締約国会議を指す)で採択された京都議定書は、先進国に対して法的拘束力のある温室効果ガス削減の数値目標を設定し、また柔軟性措置としての京都メカニズム等について定めています。2008年から2012年までの第一約束期間においては、日本は基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)加盟国全体では同8%等の削減目標が課されました。これに対し、同期間の日本の温室効果ガスの総排出量は5か年平均で12億7,800万トンCO2であり、森林等吸収源や海外から調達した京都メカニズムクレジットを償却することで京都議定書の削減目標(基準年比6%減)を達成しました。

2012年に行われた京都議定書第8回締約国会議(CMP8。以下、京都議定書締約国会議を「CMP」という。)においては、2013年から2020年までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、近年の新興国の排出増加等により、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1にすぎないことなどから我が国は参加せず、全ての主要排出国が参加する新たな枠組みの構築を目指して国際交渉が進められてきました(図1-2-1)。

図1-2-1 世界のエネルギー起源二酸化炭素の国別排出量(2014年)
(2)パリ協定の発効及び日本の締結
ア パリ協定採択までの経緯

2011年のCOP17及びCMP7では、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することとし、そのための交渉を行う場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設置することに合意しました。

また、2013年のCOP19及びCMP9では、全ての国に対し、自国が決定する貢献案(INDC)のための国内準備を開始しCOP21に十分先立ちINDCを示すことを招請することなどが決定されました。

さらに、2014年のCOP20及びCMP10では、INDCに含まれるべき情報について決定されました。また、各国が提出したINDCを基に、気候変動枠組条約事務局が2015年11月1日までに総計した効果についての統合報告書を作成することなどが決定されました。

そして、2015年11月30日から12月13日まで、フランス・パリにおいて、COP21及びCMP11が行われ、全ての国が参加する2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されました。また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務づけられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、5年ごとに世界全体としての実施状況の検討(グローバルストックテイク)を行うこと、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。その他、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応の長期目標の設定及び各国の適応計画プロセスと行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

パリ協定の採択を受けて、ADPは作業を終了し、パリ協定の実施に向けた検討を行うための新たな作業部会である「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」を設置することなども合意されました。

イ パリ協定の発効

2016年4月22日にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。これは、一つの国際条約に対する一日の署名国数としては、異例のものです。5月には我が国でG7伊勢志摩サミットが開催され、同協定の年内発効という目標が首脳宣言に盛り込まれました。9月には米中両国が協定を同時締結したほか、国連主催のパリ協定早期発効促進イベントが開催されるなど、早期発効に向けた国際社会の機運が大きく高まりました。そして10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、COP22開催直前の11月4日、パリ協定が発効しました。なお、我が国は11月8日に締結しました。

ウ COP22におけるパリ協定実施に向けた交渉

2016年11月7日から11月18日まで、モロッコ・マラケシュにおいて、COP22及びCMP12が行われました。また、11月4日にパリ協定が発効したことを受けて、15日から18日までパリ協定第1回締約国会合(CMA1)が行われました。COP22は、パリ協定によって生み出された機運を更に高め、各国が連携して行動を取ることを示す重要な会議となりました。また、パリ協定を実効的に運用するために必要な実施指針の策定について、議論を進展させることが主要な課題でした。我が国も、協定の締結・未締結にかかわらず全ての国が実施指針等の検討に参加する包摂性を確保すること、2018年までの指針等の策定に向けて速やかに技術的な作業を進めることなどを主張するなど、議論に積極的に参加しました。その結果、パリ協定の実施指針等に関するCMA1開催後の交渉の進め方については、引き続き全ての国が参加する形で行うこと、2017年5月に開催される次回会合までに行う具体的な作業を決定したほか、同年にCMA1を一度再開し、作業の現状確認を行うこと、実施指針を2018年までに策定すること等が決定されました。

さらに、今回は「行動のCOP」という位置付けの下で、企業、自治体、市民社会等による行動を後押ししていくため、様々なイベントが開催されました。例えば、「グローバルな気候行動に関するハイレベルイベント」では、更なる取組強化を目指し、「マラケシュ・パートナーシップ」の設立が発表されました。また、温室効果ガスネットゼロで、気候変動に強靱かつ、持続可能な開発に向けた移行を目指す「2050年道筋プラットフォーム」が新たに設立され、日本政府に加え、自治体、企業が参画しました。山本環境大臣からは、JCMや「アジア太平洋適応情報プラットフォーム」等、気候変動分野における日本の主な途上国支援を取りまとめ、分かりやすく示した「日本の気候変動対策支援イニシアティブ」を発表しました。なお、次回のCOP23ではフィジーが議長国となり、ドイツ・ボンで開催されることになりました。

2 モントリオール議定書に基づく取組

2016年10月10日から10月14日まで、ルワンダ・キガリにおいて、モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催されました。このMOP28において、HFCの生産及び消費量の段階的削減を求める議定書の改正が採択されました。

3 エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)

エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)は、クリーンエネルギー大臣会合及び国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の下、最先端の省エネルギー・低炭素技術の発展・普及に関する日米共同イニシアティブとして2010年に設立されました。日本が議長を務めるセクター別ワーキンググループ(WG)のうち、電力WGでは、2014年11月のG20ブリスベンサミットで合意された「省エネ行動計画」のうち発電分野の活動推進のため、2015年5月にトルコにて高効率低排出(HELE)に資するクリーンコール技術についての知見の共有を図るワークショップを開催しました。また、2015年7月にはトルコにてHELE発電技術促進に関するベストプラクティスの共有を図るワークショップを開催するとともに、石炭火力発電所における省エネ診断を実施しました。これらの成果は2015年10月のG20エネルギー大臣会合に報告され、活動の進捗が歓迎されました。鉄鋼WGでは、2016年2月に東京にて会合を開催し、参加各国の官民によるエネルギー管理に関する知見について記載されたブックレットを作成・採択を行い、併せて当該WGの活動終了を決定しました。

4 短寿命気候汚染物質に関する取組

ブラックカーボン等の短寿命気候汚染物質については、その削減が短期的な気候変動防止と大気汚染防止の双方に効果があるとして国際的に注目されており、2012年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質(SLCP)削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、2012年4月に我が国も参加を表明しました。2016年11月にはCOP22の場でCCAC閣僚級会合が開催され、SLCP対策の重要性を再確認したマラケシュコミュニケが採択されました。

5 開発途上国への支援の取組

途上国においては、大気汚染や水質汚濁等の深刻な環境汚染問題を抱えているため、地球温暖化対策と環境汚染対策とを同時に実現することのできるコベネフィット・アプローチが有効です。我が国においては、2007年12月の中国及びインドネシア両国の大臣との間で合意した内容に基づき、本アプローチに係る具体的なプロジェクトの発掘・形成や共同研究等を進めてきました。2015年7月には日インドネシア間で、2016年4月には日中間で、それぞれの協力の継続に係る文書に署名し、引き続き協力を実施しています。また、アジア地域におけるコベネフィット・アプローチの推進・普及を目的とした「アジア・コベネフィット・パートナーシップ」の活動を支援するとともに、定期会合やウェブサイト(http://www.cobenefit.org/(別ウィンドウ))等を通じて、本アプローチの普及啓発に取り組みました。

途上国が“一足飛び(リープフロッグ)”に低炭素社会へ移行できるよう、JCMを通じて、都市間連携を活用し、日本の自治体が持つ経験を基に、制度・ノウハウ等を含め優れた低炭素技術を途上国に大規模に展開するための支援や、アジア開発銀行(ADB)等と連携したプロジェクトへの資金支援を実施しました。

加えて、気候変動による影響に脆(ぜい)弱である島嶼(しょ)国に対し、気候変動への適応・エネルギー・水・廃棄物分野への対応に関する支援や、研究者によるネットワーク設立に向けた支援等、様々な環境問題を支援する取組を行っています。

6 JCMの推進に関する取組

環境性能に優れた先進的な低炭素技術・製品の多くは、一般的に導入コストが高く、途上国への普及に困難が伴うという課題があります。このため、途上国への優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するJCMを構築・実施してきました。こうした取組を通じ、途上国の負担を下げながら、優れた低炭素技術の普及を促進しました。2017年1月末までに、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピンの17か国とJCMを構築しています。

これまでにクレジットの獲得を目指す93件の環境省JCM資金支援事業のほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証事業を実施しました。これらの事業のうち、3か国(インドネシア、モンゴル、パラオ)における5件のJCMプロジェクトから合計で493 トンCO2のJCMクレジットが発行されました。また、4か国(インドネシア、パラオ、モンゴル、ベトナム)で16件がJCMプロジェクトとして登録され、11か国(インドネシア、ベトナム、モンゴル、タイ、パラオ、モルディブ、ケニア、バングラデシュ、カンボジア、エチオピア、ラオス)で35件のJCM方法論が承認されました。

7 気候変動枠組条約の究極的な目標の達成に資する科学的知見の収集等

世界の政策決定者に対し、正確でバランスの取れた科学的情報を提供し、気候変動枠組条約の活動を支援してきたIPCCは、2014年11月の第5次評価報告書の公表をもって第5次評価サイクルが完了したことを受け、2015年より第6次評価サイクルを始動させました。我が国は、第6次評価報告書作成プロセスに向けた議論への参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行いました。さらに、我が国の提案により地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリ・タスクフォース(TFI)の技術支援ユニットの活動を支援し、各国の適切なインベントリ作成に貢献しています。第6次評価サイクルにおいても、我が国はTFIの共同議長を引き続き務めています。

また、本条約の目標を達成するための我が国の取組の一つとして、環境研究総合推進費による「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究(S-10)」、「SLCPの環境影響評価と削減パスの探索による気候変動対策の推進(S-12)」及び「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究(S-14)」等の研究を2016年度にも引き続き実施し、科学的知見の収集・解析等を行いました。これらの研究により明らかとなった知見は、IPCC等にインプットされることになります。