環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第4節 地球規模の視野を持って行動する取組

第4節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 愛知目標の達成に向けた国際的取組への貢献

(1)生物多様性条約

 愛知目標や「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Access and Benefit-Sharing)に関する名古屋議定書(以下「名古屋議定書」という。)」を始めとするCOP10決定事項の実施に向けた取組を進めます。具体的には、生物多様性関係省庁連絡会議において平成27年度中に明らかにされた、愛知目標達成のために今後一層の加速の必要がある国家戦略の国別目標を踏まえ、関係省庁が取り組む具体的施策を生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議で取りまとめ、これを進めていきます。また、我が国は2016年(平成28年)12月にメキシコ・カンクンで開催されるCOP13までのビューロー国の立場も踏まえ、生物多様性の主流化を始めとするCOP13に向けた国際的な議論に積極的に貢献していきます。

 さらに、地球規模での愛知目標の達成や条約の実施に向け、途上国の能力養成等を目的とした「生物多様性日本基金」を通じた支援を行うなど、条約事務局及び関連する国際機関との協力の下に、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた国際的な取組に引き続き貢献していきます。

(2)名古屋議定書

 COP10において採択された名古屋議定書の早期締結及び国内措置の実施については、国家戦略の目標を踏まえ、可能な限り早期に、名古屋議定書を締結し、名古屋議定書に対応する国内措置の実施を目指します。また、国内措置の実施に向けて、引き続き、関係者の意見を踏まえつつ、関係省庁による検討を進め、取りまとめに向けた合意形成を行うとともに、名古屋議定書の実施に向けた国際的な議論に積極的に参加します。

(3)カルタヘナ議定書

 カルタヘナ議定書が適切に実施されるよう、開発途上国の体制整備を支援するとともに、引き続き名古屋・クアラルンプール補足議定書の早期締結に向けた検討を進めます。

2 自然資源の持続可能な利用・管理の国際的推進

(1)SATOYAMAイニシアティブ

 二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を推進する「SATOYAMAイニシアティブ」については、2017年(平成29年)にSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ第7回定例会合を開催するほか、現地支援活動であるSATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)の成果発表をトルコで実施するなど、積極的に国際パートナーシップの参加者と連携し、国内外の活動を促進します。

(2)ワシントン条約

 2016年(平成28年)9月に南アフリカで開催される、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の第17回締約国会議において、議論に貢献するとともに、条約の適切な執行に向けた取組を推進します。また、関係省庁、関連機関が連携・協力して、野生動植物の違法取引の防止及び摘発に努めます。

(3)保護地域に係る国際的な取組

 国立公園等の保護地域に関するアジアの連携のための枠組みである「アジア保護地域パートナーシップ」の下で、保護地域における協働型管理のためのワークショップ開催を含む具体的なプロジェクトを実施していきます。

3 生物多様性に関わる国際協力の推進

(1)ラムサール条約

 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)の決議等を参考にしながら関係する地方自治体やNGO等と連携しつつ、ラムサール情報票の更新を核とした条約湿地のモニタリング調査や、風土や文化をいかした各条約湿地の保全と賢明な利用を推進します。また、東南アジアにおける国際的に重要な湿地の保全のための協力を引き続き実施します。

(2)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

 東アジア・オーストラリア地域の渡り性水鳥及びその生息地の保全を目的とする国際的連携・協力のための枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)」を活用して、関係国政府や国際機関等と連携して、渡り性水鳥及びその生息地の保全活動の一層の推進に努めます。EAAFPの下に設置されている、渡り性水鳥重要生息地ネットワーク国内参加地における普及啓発や情報交換等を引き続き推進するとともに、渡り性水鳥の保全上重要な生息地についてはネットワークへの参加を推薦します。また、平成29年1月にシンガポールで開催予定のEAAFPの第9回パートナー会議において、我が国における取組等を踏まえて積極的に議論に貢献します。

(3)二国間渡り鳥条約・協定

 米国、ロシア、オーストラリア、中国及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、引き続きズグロカモメの渡り経路の共同調査等を実施するとともに、渡り鳥の保全施策や調査研究に関する意見や情報の交換を行います。

(4)国際的なサンゴ礁保全の取組

 国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)等の枠組みを活用し、「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」等に基づく国内取組について情報を共有するなど国際的なサンゴ礁保全の取組に積極的に貢献します。

(5)持続可能な森林経営と違法伐採対策

 森林原則声明や気候変動問題における森林の重要性等を踏まえ、世界の森林の保全と持続可能な経営の推進を目指し、国連森林フォーラム(UNFF)における森林に関する国際的な枠組みに関する議論、違法伐採及び関連する貿易に関する議論、国際熱帯木材機関(ITTO)、国連食糧農業機関(FAO)等の国際機関を通じた国際協力の推進等に努めます。

4 世界的に重要な地域の保全管理の推進

(1)世界遺産条約

 屋久島、白神山地、知床及び小笠原諸島は、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づき、自然遺産として世界遺産一覧表に記載されています。これらの自然遺産について、地元の意見と科学的な知見を管理に反映させるための管理体制と保全施策の充実を図るとともに、関係省庁、地方公共団体、地元関係者及び専門家の連携により、適正な保全・管理を進めます。

 世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」については、関係省庁及び関係地方公共団体等が連携し改訂を行った「富士山包括的保存管理計画」に基づき、適切な保全管理の取組を進めます。世界自然遺産の国内候補地である奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島については、世界的に優れた自然環境の価値を保全するために必要な方策の検討、保全管理体制の整備及び保全の推進等の取組を、関係省庁、地方公共団体、地元関係者及び専門家の連携により進め、早期の遺産登録を目指します。

(2)生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)

 「生物圏保存地域(Biosphere Reserves、以下「BR」という。)」は、ユネスコの「人間と生物圏(Man and the Biosphere(MAB))計画」の枠組みに基づいて国際的に認定された地域で、生態系の保全と持続可能な地域資源の利活用の調和を目的としています。なお、「ユネスコエコパーク」は、我が国での通称です。

 BRは、「保存機能(生物多様性の保全)」、「学術的研究支援」及び「経済と社会の発展」の三つの機能を発揮するため、ゾーニングとして、法律等に基づいて厳格に保護される「核心地域」、核心地域を保護するための緩衝的な機能を有し、保全目標と両立する活動のみ行える「緩衝地域」、及び持続可能な地域資源の利活用が展開・促進される「移行地域」の設定が求められており、核心地域と緩衝地域については、国立・国定公園や国有林の保護林等として保全されています。

 現在の登録総数は、120か国、669地域(平成28年3月現在)で、国内では計7地域が登録されています。

 地域コミュニティを主体とした持続可能な地域づくりを後押しするBRについて、その仕組みを活用した新たな施策、協働の取組等を、引き続き自治体を含む関係者と連携して検討・実施します。また、新規登録を目指す自治体に対する情報提供、助言等を行います。

(3)ユネスコ世界ジオパーク

 ユネスコ世界ジオパークは、国際的重要性を持つ地質学的遺産を有し、これらの遺産を地域社会の持続可能な発展に活用している地域を、ユネスコが認定するものです。我が国では現在、8地域がユネスコ世界ジオパークに認定されています。これらの8地域全てに国立・国定公園の区域が含まれており、自然公園法に基づく国立・国定公園の適正な保護は、ジオパークの地形・地質の保護において重要な役割を果たしています。また、ジオパークの核となる地形・地質は生物の生育・生息地の「土台」として重要な役割を果たしています。

 そのため、国立公園における地形・地質等の保護、ジオパークと連携した標識等の整備を推進するとともに、ジオパークの利活用を推進する機関と連携したエコツアーの実施、環境教育のプログラム作り等を行い、ユネスコ世界ジオパークに関係する取組を支援します。

(4)世界農業遺産

 世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形作られてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性等が一体となった世界的に重要な農林水産業システムをFAOが認定するものであり、我が国では現在、8地域が認定されています。これらの地域では、保全計画に基づき、農林水産業システムに関わる生物多様性の保全等に取り組んでいます。今後、世界農業遺産の拡大に向けた取組を推進するとともに、こうした取組を更に盛り上げていくため、世界農業遺産の国内版として日本農業遺産の創設を検討します。

(5)砂漠化への対処

 砂漠化対処条約(UNCCD)に関する国際的動向を踏まえつつ、同条約に基づく取組を推進します。具体的には、同条約への科学技術面からの貢献を念頭に、砂漠化対処のための技術の活用に関する調査等を進めます。また、二国間協力や、民間団体の活動支援等による国際協力の推進に努めます。

(6)南極地域の環境の保護

 南極地域の環境保護の促進を図るため、観測、観光、冒険旅行、取材等に対する確認制度等を運用し、南極地域の環境保護に関する普及啓発を行うなど、「環境保護に関する南極条約議定書(以下「南極条約環境保護議定書」という。)」及びその国内担保法である南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)の適正な施行を推進します。また、2005年(平成17年)6月の南極条約協議国会議で採択された環境上の緊急事態に対する責任について定めた南極条約環境保護議定書附属書について、引き続き対応を検討します。また、毎年開催される「南極条約協議国会議」に参加し、南極特別保護地区等の管理計画や気候変動に関する対応方法等、南極における環境の保護の方策について議論を行います。さらに、政府の職員が第58次南極地域観測隊に同行し、基地活動による南極地域の環境への影響を調べ、今後の活動の内容等について検討します。

5 生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

 平成27年度に閣議決定された「気候変動の影響への適応計画」のほか、それに先立ち公表した「生物多様性分野における気候変動への適応の基本的考え方」や「当面の具体的な取組」に基づき、気候変動による生態系サービスへの影響に関する研究や適応策を進めるための情報収集を推進します。