環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~>第1節 生物多様性の現状と対策

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~

 第2章では、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組について記述します。はじめに、生物多様性の現状として、生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO2)、愛知目標の達成状況について紹介し、野生生物を取り巻く現状について記述します。続いて、「生物多様性国家戦略2012-2020(平成24年閣議決定、以下「国家戦略」という。)」の5つの基本戦略に沿って、それぞれに関連する取組を報告します。また、東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組について記述します。

第1節 生物多様性の現状と対策

1 生物多様性及び生態系サービスの総合評価

 平成26年度から27年度にかけて、環境省生物多様性及び生態系サービスの総合評価に関する検討会を開催し、我が国の過去50年間の生物多様性及び生態系サービスの変遷を総合的に評価を行い、JBO2として公表しました(表2-1-1表2-1-2)(http://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/(別ウィンドウ))。


表2-1-1 生物多様性の評価結果

表2-1-2 生態系サービスの評価結果

 JBO2の評価結果から得られた主要な結論については、第1部パート3第2章第1節1を参照。

2 数値から見る我が国の愛知目標の達成状況

 国家戦略の第2部では、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章における締約国会議(COP)は、生物多様性条約締約国会議を指す)において採択された愛知目標の達成に向けて我が国の国別目標を掲げているほか、それについて関連指標群を設定しています(表2-1-3)。


表2-1-3(1) 数値目標から見た基本戦略の達成状況(1)

表2-1-3(2) 数値目標から見た基本戦略の達成状況(2)

表2-1-3(3) 数値目標から見た基本戦略の達成状況(3)

表2-1-3(4) 数値目標から見た基本戦略の達成状況(4)

 また、関連指標群の状況と、国家戦略において平成27年度を期限としている取組の状況を基に、平成27年度、国家戦略の進捗状況の中間評価を実施しました。

3 野生生物を取り巻く状況

(1)鳥獣管理の推進

 近年、ニホンジカやイノシシ等の一部の鳥獣については、急速に生息数が増加するとともに生息域が拡大し、その結果、農林水産業等への被害が拡大・深刻化しています。

 その被害は農林水産業だけにとどまらず、生態系にも深刻な影響を及ぼしています。現在32ある国立公園のうち、20の国立公園では、高山帯のお花畑や森林内の下草が消失するなどのニホンジカによる被害が確認されています。また、鳥獣と列車・自動車との衝突事故が増加するなど、生活環境へも被害が拡大しつつあり、北海道の資料によると北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)管内におけるエゾシカが関係する列車支障発生件数は、平成24年までのおよそ20年間で約10倍に増えています。加えて、ニホンジカの採食圧による林床植生の劣化・消失が、森林の持つ水源涵(かん)養や国土保全等の公益的機能を低下させ、災害を誘発する懸念も指摘されています。

 これらの野生鳥獣による被害が深刻化している要因としては、鳥獣の生息域の拡大、個体数の増加等が考えられます。それらの主な原因として、農山漁村の過疎化、高齢化等により、里地里山等における人間活動が低下したこと、それに伴って鳥獣の隠れ家やえさ場となる耕作放棄地が増加したこと、地球温暖化に伴う少雪により、自然死が減少したこと、狩猟者の減少、高齢化等により、狩猟による捕獲圧が低下したことが指摘されています。

 環境省において、統計手法を用いて本州以南のニホンジカについての個体数推定及び将来予測を実施した結果、捕獲率が現状(平成23年度)と同等程度で推移した場合、平成35年には、中央値で平成23年度の生息数の1.7倍まで増加する可能性が示されました(図2-1-1)。


図2-1-1 ニホンジカの推定個体数(北海道※を除く)

 また、環境省が実施した分布調査によると、ニホンジカの生息域は、昭和53年から平成26年までの36年間に約2.5倍に拡大し(図2-1-2)、イノシシについても、約1.7倍に拡大していることが示されました(図2-1-3)。


図2-1-2 ニホンジカ分布域比較図

図2-1-3 イノシシ分布域比較図

 平成25年には、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、当面の捕獲目標として、ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(平成35年度)までに半減させることを目指すこととしました。

 これらを受け、平成26年5月、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)が改正され、平成27年5月に施行されました。これにより、法の目的に「鳥獣の管理(鳥獣の生息数を適正な水準に減らすこと)」が位置付けられ、法の題名が鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)に改められました。また、指定管理鳥獣捕獲等事業や認定鳥獣捕獲等事業者制度の創設等、「鳥獣の管理」のための新たな措置が導入されることとなりました。

 指定管理鳥獣捕獲等事業は、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして環境大臣が指定した指定管理鳥獣(ニホンジカ及びイノシシ)について、都道府県又は国の機関が捕獲等を行い、適正な管理を推進するものです。なお、国は指定管理鳥獣の捕獲等の強化を図るため、都道府県が事業に関する実施計画を定めて捕獲等をする取組に対し、交付金事業により支援を行うこととし、平成27年度においては、33道府県で当該事業が実施されました。

 また、狩猟者人口は、約53万人(昭和45年度)から約18.5万人(平成25年度)まで減少しています。さらに平成25年度において60歳以上の狩猟者が全体の約3分の2を占めるなど高齢化が進んでいることから、個体群管理のための捕獲等を行う鳥獣保護管理の担い手の育成が求められているため、環境省において様々な取組を行いました。

 平成27年5月から鳥獣保護管理法に基づき、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や従事者の技能・知識が一定の基準に適合し、安全を確保して適切かつ効果的に鳥獣の捕獲等を実施できる事業者を都道府県が認定する認定鳥獣捕獲等事業者制度が始まりました。認定の基準として、鳥獣捕獲等事業者の捕獲従事者及び事業管理責任者等に修了が義務付けられている「安全管理講習」及び「技能知識講習」を全国8会場で、夜間銃猟を含む認定を受けるために必要な「安全管理講習」を全国5会場で開催したところであり、各都道府県で認定鳥獣捕獲等事業者の認定が進んでいます。

 また、狩猟免許(網猟及びわな猟のみ)の取得年齢が20歳から18歳以上に引き下げられました。これは、地域の捕獲体制の強化を図るため、高校卒業後に就農した方や、鳥獣被害対策を担当する自治体職員など若い方が、早期に狩猟免許を取得できるようにしたものです。また、将来の鳥獣保護管理の担い手を確保するため、全国で「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」を開催しています。このフォーラムでは、若手ハンターによる体験談や狩猟免許取得の相談コーナー、猟具の展示、ジビエの試食等を通じて、多くの人に狩猟の魅力と社会的役割を知ってもらい、狩猟を始めるきっかけを提供しています。平成27年度末までに26都道府県で計27回開催し、6,300人以上の方が参加しました。このほか、鳥獣保護管理に係る専門的な人材を登録して、登録者の情報を紹介する人材登録事業を継続して実施しました。このような取組を進め、近年、新たに狩猟免許を取得する方が増加傾向にあります(図2-1-4)。


図2-1-4 狩猟免許試験合格者数の推移

(2)日本の絶滅危惧種

 日本の野生生物の現状について、政府では平成3年に「日本の絶滅のおそれのある野生生物」を発行して以降、定期的にレッドリストの見直しを実施しており、平成27年9月にレッドリスト2015を公表しました。絶滅のおそれのある種としてレッドリスト2015に掲載された種数は、10分類群合計で3,596種であり、平成18年度~平成19年度に公表した第3次レッドリストから441種増加しました。その要因として、平成24年度に公表した第4次レッドリストにおいて干潟の貝類を初めて評価の対象に加えた等の事情はありますが、我が国の野生生物は依然として厳しい状況に置かれていることが分かります。

 分類群ごとに絶滅危惧種の分布情報と植生自然度を集計した結果、絶滅危惧種のうち、両生類の69%、魚類の70%、昆虫類の78%は、里地里山等の二次的自然(農耕地(水田・畑)/緑の多い住宅地、農耕地(樹林地)、二次草原(背の低い草原)、二次草原(背の高い草原)、植林地、二次林)に生息していることが明らかとなっています。また、維管束植物についても57%が、貝類についても62%が二次的自然に生息、生育しています。なお、絶滅危惧種の生息・生育環境の情報は不足しているのが現状であり、本集計結果は、あくまでも絶滅危惧種の生息・生育場所と植生自然度の関係の傾向の概略を見るためのものとなっています(図2-1-5)。


図2-1-5 絶滅危惧種分布データの植生自然度区分別記録割合(昆虫類)

 絶滅危惧種の減少要因は多岐にわたりますが、代表的な減少要因として、開発、捕獲・採取、管理放棄や遷移進行、過剰利用、水質汚濁、外来種の影響等が見られます。例えば、多くの絶滅危惧種が二次的自然に分布する昆虫類については、開発や捕獲のほか、水質汚濁、外来種による捕食、管理放棄や遷移進行・植生変化が大きな減少要因となっています。また、魚類についても、絶滅危惧種の多くを占める淡水魚が、里地里山やその地域にある河川や湿原のほか、水田、水路、ため池等、人間活動によって維持されている二次的自然に依存しており、土地利用や人間活動の急激な変化等が、その生息環境を劣化・減少させた要因と考えられます(図2-1-6)。


図2-1-6 絶滅危惧種の減少要因(昆虫類)

 このように、里地里山等の二次的自然の保全・維持管理や外来種の防除等の生息・生育地の減少又は劣化への対策が、絶滅危惧種の保全上、重要であることが分かります。特に、湧水性のハリヨや森林性のキセルガイ類等のように個体の移動範囲が地域的に限られ特定の環境に依存している種や、カエル類やチョウ類等のように増殖率が高く環境の改善により速やかに回復が見込まれる特性を持つ種については、生息・生育地の減少又は劣化への対策が有効であることが多いと考えられます。

(3)侵略的外来種への対応

 日本の生物多様性の危機の一つとして、外来種による危機が挙げられています(外来種への対応に関する全般的な取組は、第3節5(1)を参照)。特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)に基づき指定した特定外来生物について、輸入、飼養等を規制することで、一定の効果は出ているものの、現在も侵略的外来種の導入は依然として生じています。ここでは、身近な外来種であるアカミミガメと緊急的な対策を進めているツマアカスズメバチ(特定外来生物)について、紹介します。

 ミシシッピアカミミガメは、1950年代から「ミドリガメ」の名前で輸入された北米大陸原産のカメです。手に入れやすい価格ということもあり、かつては年間100万匹以上が輸入され、最近でも年間10万匹ほどが輸入されています。それらの一部が逃げたり、放されたりして各地に定着・繁殖し、今では日本全国で約800万匹ものアカミミガメが生息していると東邦大学の長谷川雅美教授及び神戸市立須磨海浜水族園らにより推計されています(写真2-1-1)。さらに、現在、日本各地で観察される淡水性のカメ類の6割以上がミシシッピアカミミガメであったことが、平成25年の公益財団法人日本自然保護協会の市民調査により公表されています。


写真2-1-1 侵略的外来種アカミミガメ

 これらのアカミミガメは、雑食性で、水生動物や水草を食べ、ため池等の貴重な里地里山の生態系を破壊しており、環境省の調査では、1週間で約40グラムの水草を食べていることが分かっています。これは、水草だけを食べると仮定した場合、日本全体で1週間に約320トンの水草がアカミミガメにより失われていることになり、生態系への影響は計り知れません。

 このような状況を解決するため、環境省では、平成27年7月に「段階的な規制」、「野外からの排除」、「終生飼養の推進」等からなる「アカミミガメ対策推進プロジェクト」を立ち上げ、アカミミガメ対策を強化していくこととしました。また、アカミミガメは多くの人に飼育されていることから、「外来種被害予防三原則」を周知し、理解し、行動につなげていくことで被害を防止することが重要です(図2-1-7)。


図2-1-7 アカミミガメ対策推進プロジェクトの概要

 ツマアカスズメバチについては、東南アジアを中心に分布しているスズメバチ属の一種ですが、韓国(平成15年)、フランス(平成16年)において、定着が確認されています。我が国では、平成24年に初めて対馬で確認されました。平成26年の分布調査によると、対馬の上島を中心にほぼ全域に定着し、分布は拡大しています。さらに、平成27年9月には、対馬以外で初めて福岡県北九州市で1巣確認されました(図2-1-8)。なお、その後のモニタリングでは、北九州市及び隣接する下関市において、定着している情報はありません。


図2-1-8 ツマアカスズメバチの分布拡大の状況

 本種は、少数の定着であっても急速に個体数や分布域が拡大する可能性があるため、平成28年度以降も農林水産省、地方自治体、スズメバチ等の駆除業者等と協力し、港湾等における侵入監視及び生息状況の把握に努めていきます。また、グローバル化等により物の輸送が国内外で増加していくことに伴い、外来種の脅威もますます増加していくことは避けられず、侵入の監視、防除等の対策を強化していくため、外来種に対する国民の理解の向上も求められています。