環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート2第1章>第3節 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

第3節 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

 国は、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策も、重要な取組として位置付け、必要な施策を進めています。本項では、その取組の進捗等について説明します。

1 福島県における健康管理

(1)福島県による県民健康調査等

 国は、福島県の住民の方々の中長期的な健康管理を可能とするため、福島県が平成23年度に創設した福島県民健康管理基金に交付金を拠出するなどして福島県を財政的、技術的に支援しており、福島県は、同基金を活用し、平成23年6月から県民健康調査等を行ってきました。

 同調査は、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や住民の避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的としています。具体的には、[1]福島県の全県民を対象とした個々人の行動記録と線量率マップから外部被ばく線量を推計する基本調査、[2]「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の四つからなる詳細調査を実施しています。また、ホールボディ・カウンタによる内部被ばく線量の検査や、市町村に補助金を交付し、個人線量計による測定等も実施しています。

(2)県民健康調査等の進捗

 まず基本調査は、平成27年12月末までに、福島全県民202万人のうち、約46万人の外部被ばく線量を推計し、うち99.8%が5ミリシーベルト未満、うち99.9%以上が10ミリシーベルト未満という結果が得られ、その結果については、福島県によって、県全体の状況を正しく反映しているか否か、その代表性について検証する作業が行われているところです。また、詳細調査について、「甲状腺検査」を見ると、平成23年度~平成25年度に、子供たちの健康を長期に見守ることを目的とし、調査開始時の甲状腺の状態を把握するため、発災当時おおむね18歳以下だった全県民約37万人を対象として、一巡目の検査(先行検査)を行いました。その結果については、福島県が設置した「県民健康調査」検討委員会による「甲状腺検査に関する中間取りまとめ」によって、「先行検査を終えて、これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時5歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくいと評価する。しかし、放射線被ばくの影響評価には、長期にわたる継続した調査が必要である」と評価されています。現在は、上記の評価を踏まえ、先行検査の結果と比較することを視野に、発災当時胎児だった者を対象に加え、約38.5万人に対して、二巡目の検査(本格検査)を実施しているところです。次に、内部被ばく検査は、平成28年2月末までに、約28万人の検査を実施し、その結果はセシウム134及び137による預託実効線量で99.9%以上が1ミリシーベルト未満、最大でも3.5ミリシーベルト未満であり、福島県によれば「全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった」とされています。

 福島県の「県民健康調査」検討委員会は、県民健康調査の開始から5年という区切りの時期を迎え、一定の取りまとめを行った上で次の段階に進むことが必要であるとの考えの下、中間取りまとめについての検討を行いました。同中間取りまとめは平成28年3月30日に公表されたところです。

2 健康管理・健康不安対策の在り方に関する専門的な検討を踏まえた対応

 国は、福島県及び福島近隣県における事故後の健康管理の現状や課題等を把握し、今後の健康管理の在り方を医学的及び科学的な見地から検討するため、平成25年11月より「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」を開催し、計14回の議論を経て平成26年12月に中間取りまとめを公表しました。同中間取りまとめにおいては、「今回の事故による放射線被ばくによる生物学的影響は現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性としては小さいと考えられる」とされています。

 国は、この中間取りまとめを踏まえた当面の施策の方向性(案)について、平成26年12月22日から平成27年1月21日までパブリックコメントを募集し、それを参考に策定した環境省における当面の施策の方向性を公表し、必要な施策に取り組んでいます。具体的には、以下の四つの施策に取り組んでいるところで、これらの施策について、平成27年度における取組の内容を説明します。

[1]事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進

 これまで事故後の外部被ばく線量や内部被ばく線量について、様々な実測や推計結果が地域やグループ単位で報告されているところであり、これらを網羅的に考慮の上、事故後の住民の被ばく線量を包括的に把握する研究を推進しています。

[2]福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握

 福島県及びその他の地域における死亡・死因、がん、循環器疾患、先天異常等の悉皆(しっかい)性の高い統計情報を収集し、地域ごとに経時的な疾病等の有病率、発症率及び死亡率の変化を分析することで、福島県内外での疾病罹患動向の把握を行うことを目的とした研究を推進しています。

[3]福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実

 福島県の県民健康調査「甲状腺検査」は、これまで精密検査(二次検査)までを対象としており、その後の医療に係るフォローアップは実施されていませんでした。そこで、国は、調査内容の充実を図るため、調査のために臨床データ等の提供を受けられるよう福島県への支援を新たに開始しました。福島県は、これを踏まえて平成27年7月より「甲状腺検査サポート事業」に取り組んでいます。

[4]リスクコミュニケーション事業の継続・充実

 地域住民の方々の様々なニーズに応えるため、各地域における研修や少人数制の住民参加型プログラム(車座集会)の充実・強化を図っています。

 国は、今後もこうした取組を推進するとともに、県民健康調査が長期的に行われるよう引き続き必要な支援に努め、その進捗を注視していくこととしています。