環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート1第2章>第2節 新たな枠組みを踏まえた緩和策

第2節 新たな枠組みを踏まえた緩和策

1 パリ協定及び我が国の約束草案を踏まえた地球温暖化対策の取組

 2030年度(平成42年度)の中期削減目標の達成に向けては、「日本の約束草案」に基づき、国内の排出削減・吸収量の確保が着実に実行されることが重要です。さらに、その先には、前節で述べたとおり長期削減目標があります。

 我が国では、平成27年12月22日に開催された第32回地球温暖化対策推進本部において、「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について」(以下「地球温暖化対策取組方針」という。)を決定しました。地球温暖化対策取組方針では、2030年度(平成42年度)の中期削減目標の達成に向けて着実に取り組むこと、パリ協定等において、2℃目標が世界の共通目標となり、この長期目標を達成するため排出と吸収のバランスを今世紀後半中に実現することを目指すとされたことなどを踏まえ、我が国としても世界規模での排出削減に向けて長期的、戦略的に貢献することとしています。また、地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画の策定、同計画に即した政府実行計画の策定及びその率先した取組の実施並びに国民運動の強化についての方針が示されています。さらに、パリ協定の署名・締結・実施に向けた取組として、国際的な詳細なルールの構築に我が国としても積極的に貢献していくとともに、我が国の署名及び締結に向けて必要な準備を進めることが決定されました(第1章第2節2参照)。

 この方針を受け、平成28年3月現在、政府においては平成28年春までの策定を目指して、地球温暖化対策計画及び政府実行計画の策定作業を行っています。地球温暖化対策計画は、我が国唯一の地球温暖化に関する総合計画であり、地球温暖化対策の目指す方向として、中期目標(2030年度(平成42年度)削減目標)の達成に向けた取組や長期的な目標を見据えた戦略的取組、世界の温室効果ガスの削減に向けた取組を進めることとしています。また、事業者、国民等が講ずべき措置に関する基本的事項や目標達成のために国、地方公共団体が講ずべき施策等についても記載しています。この地球温暖化対策計画に基づいて、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図っていきます。

 さらに、地球温暖化対策の強化のため、地球温暖化対策計画に定める事項に温室効果ガスの排出の抑制等のための普及啓発の推進及び国際協力に関する事項を追加するとともに、地域における地球温暖化対策の推進に係る規定の整備等の措置を講ずる「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を平成28年3月8日に閣議決定しました。

緩和策と適応策

 緩和策とは、温室効果ガスの排出の抑制や、森林等の吸収作用を保全及び強化することで、地球温暖化の防止を図るための施策です。一方で、適応策とは、地球温暖化がもたらす現在及び将来の気候変動の影響に対処する施策です。

 緩和策と適応策は、気候変動の影響のリスクを低減するための相互補完的な施策であり、言わば車の両輪として推進していくべき施策です。


気候変動と緩和策・適応策の関係

2 地球温暖化対策の基本的考え方

 地球温暖化対策の推進に当たっては、我が国の経済活性化、雇用創出、地域が抱える問題の解決にもつながるよう、地域資源、技術革新、創意工夫をいかし、環境、経済、社会の統合的な向上に資するような施策の推進を図っていきます。具体的には、経済の発展や質の高い国民生活の実現、地域の活性化を図りながら温室効果ガスの排出削減等を推進すべく、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限の導入、技術開発の一層の加速化や社会実装、ライフスタイル・ワークスタイルの変革等の地球温暖化対策を大胆に実行していきます。

 INDCで示した中期目標の達成に向けては、INDCに掲げられた対策が着実に実行されることが重要であり、自主的手法、規制的手法、経済的手法及び情報的手法等多様な政策手段を、その特徴を踏まえ、有効に活用しつつ、着実に施策を実行していきます。

 また、パリ協定の署名及び締結に向けて必要な準備を進め、パリ協定で盛り込まれた目標の5年ごとの提出・更新のサイクル及び目標の実施・達成における進捗に関する報告・レビューへの着実な対応を行います。さらに、パリ協定の実施に向けて国際的な詳細ルールの構築に我が国としても積極的に貢献していきます。

 パリ協定を受け、我が国としても、パリ協定で世界の共通目標となった2℃目標の達成に貢献するため、長期的な温室効果ガスの大幅削減に向け、総合科学技術・イノベーション会議が策定する「エネルギー・環境イノベーション戦略」が示す革新的技術の研究開発はもとより、技術の社会実装、社会構造やライフスタイルの変革等長期的、戦略的取組について、引き続き検討していきます。

 また、二国間オフセット・クレジット制度(JCM)等を通じて、優れた低炭素技術等の普及や緩和活動の実施を推進していきます。

 地球温暖化問題は、社会経済活動、地域社会、国民生活全般に深く関わることから、国、地方公共団体、事業者及び国民といった全ての主体が参加・連携して取り組むことが必要です。このため、深刻さを増す地球温暖化問題に関する知見や、削減目標の達成のために格段の努力を必要とする具体的な行動、一人一人が何をすべきかについての情報を、なるべく目に見える形で伝わるよう、積極的に提供・共有し、広報普及活動を行って、国民各界各層における意識の改革と行動の喚起につなげていきます。また、地球温暖化対策の進捗状況に関する情報を積極的に提供・共有することを通じて、各主体の対策・施策への積極的な参加や各主体間の連携の強化を促進していきます。

 最後に、地球温暖化対策の実効性を常に把握し確実にするため、毎年、各対策について政府が講じた施策の進捗状況等について、対策評価指標等を用いつつ厳格に点検していきます。

3 エネルギー起源CO2に関する部門別の緩和策

 2030年度(平成42年度)の中期削減目標の達成に向け、各部門別において必要な緩和策はINDCで既に示されており、地球温暖化対策計画にも盛り込まれることとなります。ここでは、 (1)産業部門(製造業、農林水産業、鉱業、建設業における事業者等)、(2)業務その他部門(業務用ビル等の保有者、入居者等)、(3)家庭部門(住宅等の居住者等)、(4)運輸部門(運輸関係の事業者や自動車等の保有者等)、(5)エネルギー転換部門(電力、ガス、石油等のエネルギーの供給者等)のそれぞれにおいて、どのような取組がどの程度必要かを示すため、我が国の温室効果ガス排出量の約9割を占めるエネルギー起源CO2を取り上げ、それぞれの対策の概要とその削減効果の目安について紹介します。

 その背景として、我が国におけるCO2排出量の部門別の推移を見ると、産業部門や運輸部門からの排出量は省エネ・燃費の改善等により減少傾向(2013年度(平成25年度)で2005年度(平成17年度)比6.0%減(産業部門)、同6.3%減少(運輸部門))にあります。一方、商業・サービス・事業所等の業務その他部門からの排出量は、業務床面積の増加や電力の排出原単位の悪化等により大幅な増加傾向(同16.7%増)にあります。また、家庭部門からの排出量も、世帯数の増加や電力の排出原単位の悪化等の影響を受け、大幅な増加傾向にあります(同11.9%増)。

 部門ごとに示す対策による削減効果は、それぞれの部門における基準年度(2013年度(平成25年度)及び2005年度(平成17年度))と2030年度(平成42年度)のCO2排出量の差で示しています。ここで示すCO2排出量は、発電や熱の生産に伴う排出量を、その電気や熱の消費者からの間接的な排出として計算したもので、電気及び熱消費量に応じて各部門に配分されます。そのため、例えば、家庭部門で電気を使用した場合、家庭部門では直接的な排出は行っていないものの、発電に伴うCO2は間接的な排出として家庭部門からの排出に含まれることになります。各部門のCO2排出量を求めるには、電気や燃料等の最終エネルギー消費量に、エネルギー種別ごとのCO2排出係数(エネルギー消費量当たりのCO2排出量)を乗じてそれらを合計して算定しています。

 例えば、全電源平均で見た電気のCO2排出係数は、後に述べるように再生可能エネルギー等の低炭素なエネルギー源の導入拡大や火力発電の高効率化等を進めて発電のための化石燃料の消費量を低減させることなどにより、2013年度(平成25年度)の0.57kg-CO2/kWhから2030年度(平成42年度)は0.37kg-CO2/kWhと、大幅に低下すると想定されています。

 このように、排出量削減の達成のためには、最終エネルギー消費の削減とCO2排出係数の低減がそれぞれ重要であり、以下で述べる排出量削減には、両方の効果が含まれていることに留意が必要です。省エネを通じて最終エネルギー消費量を減少させるとともに、家庭が再生可能エネルギー発電を行ったり、CO2排出係数の小さい電気を販売する電力会社から電気を購入したりすることで排出係数を低減させることでも、各部門のCO2排出削減に大きく寄与することが期待されます。

(1)産業部門

 エネルギーを多く使用する業種(鉄鋼、化学、セメント及び紙・パルプ)を始めとして、低炭素社会実行計画の着実な実施と評価・検証を行っていくことが必要です。また、モノのインターネット(Internet of Things、以下「IoT」という。)を活用したFEMS(Factory Energy Management System)等によるエネルギー消費の「見える化」を通じた設備の運用改善や、自動制御等の工場のエネルギー管理の徹底を進めていくことが必要となります。さらに、従来の工業炉と比較して熱効率が向上した低炭素工業炉や高性能ボイラー、産業ヒートポンプ(加温・乾燥)、コージェネレーション等の導入を業種横断的に進めることも必要です。そして、これらに加えて革新的な技術の開発や導入も進めていくことが重要となります。こうした取組により、最終エネルギー消費量は2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)に約6%の伸びにとどまり、CO2排出量は2013年度(平成25年度)4億2,900万トンCO2(2005年度(平成17年度)4億5,700万トンCO2)から、2030年度(平成42年度)に4億100万トンCO2(2013年度(平成25年度)比6.6%削減(2005年度(平成17年度)比 12.2%削減))まで削減させることができると考えられます。

(2)業務その他部門

 規制の必要性や程度、バランス等を十分に勘案しながら、2020年(平成32年)までに、新築建築物については段階的に省エネ基準への適合を義務化するほか、低炭素建築物の普及及びネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実現に向けた取組等による建築物の省エネルギー性能の向上を進めていくことが必要です。また、既存建築物についても省エネ改修を推進していくことが必要となります。さらに、高効率業務用給湯器(潜熱回収型給湯器、業務用ヒートポンプ給湯器、高効率ボイラ)導入やLED等の高効率照明の導入、トップランナー制度等による機器の省エネ性能向上も進めていくことが必要です。加えて、ビル等の建物内で使用する電力等のエネルギー使用量を計測して、導入拠点や遠隔での「見える化」を図り、空調・照明機器等の「制御」を効率良く行うビル・エネルギー・マネジメント・システム(BEMS)を約半数の建築物に導入することや省エネ診断を利用して、業務部門における徹底的なエネルギー管理の実施を推進すること、クールビズ及びウォームビズの実施の徹底、地方自治体の庁舎・建築物の省エネ化の推進により、地域における省エネの先進事例を創出し、その波及効果を含めて地域の省エネ化を実現していくことも必要です。

 こうした取組により、最終エネルギー消費量は2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)に約14%の削減となりますが、業務その他部門は電力消費の割合が高いこともあって電力の排出係数低下の効果が大きく、CO2排出量は2013年度(平成25年度)2億7,900万トンCO2(2005年度(平成17年度)2億3,900万トンCO2)から、2030年度(平成42年度)に1億6,800万トンCO2(2013年度(平成25年度)比39.7%削減(2005年度(平成17年度)比29.7%削減))まで削減させることができると考えられます。

(3)家庭部門

 規制の必要性や程度、バランス等を十分に勘案しながら、2020年(平成32年)までに、新築住宅については段階的に省エネ基準への適合を義務化するほか、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)等の高度な省エネルギー性能を有する住宅の普及を推進していくことが必要です。また、既存住宅についても省エネリフォームを推進し、断熱性能の高い建材・窓等の導入を推進していくことが必要です。さらに、高効率給湯器(CO2冷媒HP給湯器、潜熱回収型給湯器、燃料電池、太陽熱温水器)やLED等の高効率照明の導入、トップランナー制度等による機器の省エネ性能の向上の推進、住宅のエアコンや照明等のエネルギー消費機器と太陽光発電システム等の創エネ機器と蓄電池や電気自動車等の蓄エネ機器等をネットワーク化し、居住者の快適やエネルギー使用量の削減を目的にエネルギー管理を行うホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)等を導入し、エネルギー消費量を削減していくことも必要となります。こうしたHEMSやスマートメーターを利用した徹底的なエネルギー管理は、ほぼ全世帯に導入していくことが必要です。そして、家庭でのクールビズ及びウォームビズといった低炭素なライフスタイルへの転換を進めるとともに、低炭素製品の買換え促進や家庭エコ診断等を進めることも必要です。

 こうした取組により、最終エネルギー消費量は2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)に約27%の削減となり、電力の排出係数低下の効果とあいまって、CO2排出量は2013年度(平成25年度)2億100万トンCO2(2005年度(平成17年度)1億8,000万トンCO2)から、2030年度(平成42年度)に1億2,200万トンCO2(2013年度(平成25年度)比39.4%削減(2005年度(平成17年度)比32.2%削減))まで削減させることができると考えられます。

(4)運輸部門

 運輸部門の排出の大部分を占める自動車からの排出対策のため、トップランナー制度の燃費基準等により、引き続き車両の燃費向上を図っていくことが必要です。また、低炭素性能に優れた、いわゆる次世代自動車(ハイブリッド自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車、CNG自動車等)等の導入を支援して、2030年(平成42年)までに新車販売に占める次世代自動車の割合が5割から7割になるよう普及拡大を図っていくことが必要です。さらに、このような単体対策に加え、交通流対策の推進や公共交通機関の利用促進を行っていくことが必要です。加えて、積載率が低い自家用トラックを物流企業の営業用トラックに転換する「営自転換」の促進や、車両の大型化等によってトラック輸送の効率化を進めるとともに、共同輸配送やエコドライブ等を推進していくことも重要です。また、隊列走行技術等の自動走行技術を活用し、省エネを図っていくことが必要です。さらに、自動車から鉄道、内航船舶へ輸送モードを転換するモーダルシフトを促進していくことも重要です。

 こうした取組により、最終エネルギー消費量は2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)に約26%の削減となりますが、電気自動車等の普及により電力の割合も増えることとあいまって、CO2排出量は2013年度(平成25年度)2億2,500万トンCO2(2005年度(平成17年度)2億4,000万トンCO2)から、2030年度(平成42年度)に1億6,300万トンCO2(2013年度(平成25年度)比27.4%削減(2005年度(平成17年度)比32.0%削減))まで削減させることができると考えられます。

複数企業の協働による鉄道輸送へのモーダルシフト

 イオングローバルSCM株式会社が主催し、メーカーや運輸業者等が参加するイオン鉄道輸送研究会では、日本貨物鉄道株式会社の企画運行により東京~大阪間で貨物輸送用の共同専用列車を運行しています。通常の列車の運行に支障を来さない空きダイヤを利用し、複数企業の貨物輸送を集約することで専用列車を運行することが可能となり、トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトを進めることができます。


モーダルシフトの概要

 平成27年には、需要が増大するゴールデンウィーク、夏季、年末に8~10社が参加して合計16便を運行し、従来のトラック輸送と比較して年間で約690トンCO2を削減できました。これは、トラックから鉄道への切替え及び荷物の集約による効率的な輸送によりCO2の削減を実現している効果的な事例の一つと考えられます。

 このような複数企業の協働による長距離輸送等における鉄道輸送への転換が他の企業にも浸透し、全国規模で実施されることによって、温室効果ガスの削減がより一層進むことが期待されます。

(5)エネルギー転換部門

 再生可能エネルギーは、発電において温室効果ガスを排出しないことから、その導入拡大はエネルギー転換部門の地球温暖化対策に必要不可欠であり、また、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源です。このため、安定供給面、コスト面及び環境面等の課題に適切に対処しつつ、各電源の個性に応じた最大限の導入拡大と国民負担の抑制の両立を実現することが重要です。具体的には、発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合について、2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)にかけて2倍程度の導入拡大を想定しています(表2-2-1)。このため、太陽光発電については、2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)にかけて、7倍程度の導入拡大を想定しています。また、風力発電については、2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)にかけて、4倍程度の導入拡大を想定しています。さらに、地熱発電については、2013年度(平成25年度)から2030年度(平成42年度)にかけて、4倍程度の導入拡大を想定しています。


表2-2-1 我が国の約束草案における2030年度の電源構成

 他方で、冒頭で示したとおり、上記(1)~(4)の各部門における削減量の数値には本部門から配分されたCO2量も含まれているため、本部門におけるCO2排出量の削減は重要です。そのためには、火力発電の高効率化を進めるとともに、徹底した省エネルギーにより電力消費を最大限効率化した上で非化石電源を拡大していくことで、火力発電の発電電力量を2030年度(平成42年度)に5,970億kWh程度(発電電力に占める割合は56%)にすることを見込んでいます。

 こうした取組により、エネルギー転換部門の排出量は、2013年度(平成25年度)1億100万トンCO2(2005年度(平成17年度)1億400万トンCO2)から、2030年度(平成42年度)に7,300万トンCO2(2013年度(平成25年度)比27.5%削減(2005年度(平成17年度)比29.6%削減))まで削減させることができると考えられます。なお、この排出量は、他部門に分配された排出量を除いた残りとして、発電所において自家消費された電力分や送配電時に損失した電力分の排出量、石油精製等に必要なエネルギー消費に伴う排出量になります。

4 分野横断的な施策

 前項で述べた部門別の対策・施策のほか、分野横断的な施策についても進めていくことが必要です。

 地球温暖化対策推進法に基づき、温室効果ガス排出抑制等指針に基づく取組を推進していきます。また、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度を着実に実施し、排出者自らが排出量を算定することにより国民各層にわたる自主的な地球温暖化対策への取組の基盤を確立するとともに、排出量情報の可視化による国民・事業者全般の自主的取組の促進へのインセンティブ・気運を高めていきます。

 また、国民各界各層への地球温暖化防止行動の働き掛けを行うべく、国民運動を展開していきます。そのため、地球温暖化の危機的状況や社会にもたらす影響について、IPCC評価報告書や気候変動の影響への適応計画等で示された最新の科学的知見に基づく内外の信頼性の高い情報を、世代やライフスタイル等に応じて、分かりやすい形で国民に発信していきます。また、次項に示す「COOL CHOICE(クールチョイス)」を推進するほか、生活者との距離が近い「伝え手」を募集・研修し、国民に身近な場面で地球温暖化に関する情報を発信していきます。

 優れた低炭素技術等の普及等を通じて排出削減・吸収を実施することは、相手国のみならず我が国も含めた双方の低炭素成長に貢献することができます。このため、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するため、JCMを構築・実施していきます。

 環境関連税制等のグリーン化については、低炭素化の促進を始めとする地球温暖化対策のための重要な施策です。このため、環境関連税制等の環境効果等について、諸外国の状況を含め、総合的・体系的に調査・分析を行うなど、地球温暖化対策に取り組んでいきます。

 また、平成24年10月から施行されている地球温暖化対策のための石油石炭税の税率の特例(いわゆる「地球温暖化対策のための税」)の税収を活用して、省エネルギー対策、再生可能エネルギー普及、化石燃料のクリーン化・効率化等のエネルギー起源CO2排出抑制の諸施策を着実に実施していきます。

 温室効果ガスの大幅削減を実現し、低炭素社会を創出していくには、必要な温室効果ガス削減対策に的確に民間資金が供給されることが必要です。また、世界的にも機関投資家が企業の環境面への配慮を投資の判断材料の一つとして捉える動きが急速に拡大しています。このため、金融を通じて環境への配慮に適切なインセンティブを与え、グリーン経済を形成していくための取組(金融のグリーン化)を進めていきます。

 温室効果ガスの排出者の一定の期間における排出量の限度を定めるとともに、その遵守のために、他の排出者との排出量に係る取引等を認める排出量取引制度については、我が国産業に対する負担やこれに伴う雇用への影響、海外における排出量取引制度の動向とその効果、国内において先行する主な地球温暖化対策(産業界の自主的な取組等)の運用評価等を見極め、慎重に検討を行います。

 国内の多様な主体による省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用等による排出削減対策及び適切な森林管理による吸収源対策を引き続き積極的に推進していくため、低炭素社会実行計画の目標達成やカーボン・オフセット等に活用できるクレジットを認証するJ-クレジット制度を着実に実施していきます。

 都市・地域構造や交通システムは、交通量や業務床面積の増減等を通じて、中長期的にCO2排出量に影響を与え続けることから、従来の拡散型からの転換を目指し、都市のコンパクト化と公共交通網の再構築、都市のエネルギーシステムの効率化を通じた低炭素化等による低炭素型の都市・地域づくりを推進していきます。

 また、水素を日常の生活や産業活動で利活用する社会(水素社会)を実現していくための技術面、コスト面、制度面、インフラ面の課題を一体的に解決するため、多様な技術開発や低コスト化を推進し、実現可能性の高い技術から社会に実装していくべく、戦略的に制度やインフラの整備を進めていきます。さらに、水素・燃料電池の利用の在り方について技術開発・実証等を進めていきます。加えて、将来に向けた水素需要の更なる拡大に向けて、低コストで安定的な水素製造・輸送等について技術開発を進めていくとともに、再生可能エネルギーからの水素製造、未利用エネルギーの水素転換等、CO2を極力排出しない水素製造・輸送・貯蔵技術についても、技術開発・実証等を進めていきます。

 電気の需要家側が電力消費のコントロールを行うことで、電力需給の調整に貢献するディマンドリスポンスについては、特に、電力会社等の要請に応じて需要家が節電した電力量を電力会社が買い取る「ネガワット取引」を推進します。また、太陽光発電設備や蓄電池、ディマンドリスポンス等の電力グリッド上に散在する需要家側のエネルギーリソースをIoTにより統合的に管理・制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる実証を実施することで、新たなエネルギービジネス(エネルギーアグリゲーションビジネス)を創出し、再生可能エネルギーの導入促進や更なる省エネルギーの実現を目指していきます。

 このほか、エネルギーの面的利用の拡大や、ヒートアイランド対策による熱環境改善を通じた都市の低炭素化、事業活動における環境への配慮の促進等も進めていきます。

5 緩和対策に関する近年の動向

 パリ協定等で示された2℃目標の達成のためには、中長期の低炭素化に向けて更なる取組強化が必要となります。例えばIPCCが2014年(平成26年)に公表した第5次評価報告書の統合報告書政策決定者向け要約では、温室効果ガス濃度が2100年に約450ppm CO2換算濃度(工業化以前と比べて2℃の気温上昇に抑える可能性が高い)に達する緩和シナリオに関し、「そのような緩和目標を達成するための主要な対策には、開発を妥協することなくベースラインシナリオに比べてエネルギー需要を削減するための、効率性の強化並びに行動の変化とともに、発電における脱炭素化(すなわち炭素強度の低減)が含まれる」としています。上記低濃度安定化シナリオの大多数で、低炭素発電(再生可能エネルギー、原子力及びCO2回収・貯留(CCS)付バイオエネルギーを含むCCSで構成)の大幅な増加が必要となることが示唆されています。同報告書は、再生可能エネルギーについて、「第4次評価報告書以降多くの再生可能エネルギー技術が性能向上や費用低減を相当進めてきた。また大規模に普及させることが可能となる成熟度に達した再生可能エネルギー技術も増えている」、原子力エネルギーについて、「原子力エネルギーは成熟した低温室効果ガス排出のベースロード電源であるが、世界における発電割合は低下している(1993年(平成5年)以降)。原子力エネルギーは低炭素エネルギー供給への貢献を増加し得るが、各種の障壁とリスクが存在する。(中略)安全性と廃棄物処分についても研究開発が進められてきた」と評価しています。加えて、同報告書は、消費様式の変化、省エネルギー措置の採用等を通して排出を十分に低下させることができるとしています。

 これらを踏まえ、前項で示した各部門の取組のうち、近年の緩和に関する動向や特筆すべき取組について、以下にご紹介します。

(1)COOL CHOICEの推進

 家庭部門や業務その他部門等における地球温暖化の緩和策を推進するため、地球温暖化対策に係る環境教育に加え、平成27年7月より「COOL CHOICE(クールチョイス)」が開始されました。COOL CHOICE(賢い選択)は、第1節で述べた新しい中期削減目標に向け、産学官民が一致団結して取り組んでいく国民運動です。平成27年6月に開催された第29回地球温暖化対策推進本部では、安倍晋三総理自身が先頭に立って、COOL CHOICEを旗印として政府を挙げて国民運動を展開するとの発言がありました。COOL CHOICEは、政府が旗振り役となって地球温暖化防止国民運動を強化するとともに、地方公共団体、産業界、事業者、国民、全国地球温暖化防止活動推進センター、NPO等の多様な主体が連携しつつ、情報発信、意識改革及び行動喚起を進めていくための有用な手段です。定量的な目標、評価指標を設定し、進捗状況を把握しながら毎年度のPDCAを徹底します。COOL CHOICEのロゴマークは、省エネ・低炭素型の製品やサービス、行動等を選びやすいよう、分かりやすい矢印マークとなっています(図2-2-1)。これにより、国民一人一人がすぐにでも自主的に、地球温暖化対策に取り組むことができます。


図2-2-1 COOLCHOICEのマーク

 こうした手段により、国民一人一人がすぐにでも自主的に、省エネ・低炭素型の製品やサービス、行動等を賢く選択(COOL CHOICE)することで、更なるCO2の削減や環境負荷の低減が期待できます。

ラベリングやシステムによるCO2削減効果

 国民にとって分かりやすいマークが付された製品によるCO2削減の効果はいろいろありますが、その事例として、「エコマーク」及び「どんぐりマーク制度」を紹介します。

 「エコマーク」は公益財団法人日本環境協会が運営・認定している環境ラベルです。平成26年の一年間に市場に投入されたエコマーク認定商品のうち、家具や日用品、テレビ等の32品目、約2,600製品について、そのライフサイクルにおけるCO2削減効果を環境ラベルの付されていない一般的な製品等を想定して比較・算出したところ、その削減量は合計約101万トンCO2と推計されました。これは、約44万人分の家庭からの一年間分のCO2排出量に相当します。そして、その内訳は再生材の利用等、原材料の変更によるものが約23万トン CO2、原材料の低減によるものが約0.2万トンCO2、使用電力量の削減等によるものが約78万トンCO2となっています。


エコマーク

 「どんぐりマーク制度」は、商品(製品・サービス)について、そのライフサイクル(作る・使う・捨てる)で排出される温室効果ガスの量を、「J-クレジット制度」(第2部第1章第3節2参照)等で認証されたクレジットでオフセットしたことを国が認証するものです。平成26年度に本制度に参加した企業は46社、97製品で、約1.3万トンCO2のクレジットが活用されました。


どんぐりマーク
(2)浮体式洋上風力発電の進展状況

 地球温暖化対策を進める上で、再生可能エネルギーの導入の推進は非常に重要です。我が国は、排他的経済水域世界第6位の海洋国であり、洋上は陸上に比べて大きな導入ポテンシャルを有すること、洋上の風速は陸上に比べて高く、安定的かつ効率的な発電が見込まれることから、とりわけ、洋上風力発電はその実用化が期待されています。

 こうした背景を踏まえ、環境省では、長崎県五島市の椛島(かばしま)沖において洋上風力発電の実証事業を平成27年度まで実施しました(写真2-2-1)。また、経済産業省においても、東日本大震災の被災地である福島県において風力発電を推進し、復興を後押しすべく、福島県沖において浮体式洋上風力発電に関する取組を進めています。洋上風力発電設備には、水深50m以浅の海底に固定する「着床式」とより深い海域に浮かべる「浮体式」があり、浅い海域の少ない我が国にとっては後者が有効です。椛島(かばしま)沖の浮体式洋上風力設備は国内初の最大出力2MWの商用スケールの発電設備であり、平成25年10月に設置、運転を開始しています。また、浮体がパヤオ(浮き魚礁)のような役目を果たすという魚集効果も確認されており、地元の漁業者の理解も得られています。本事業において発電・信頼性・安全性の評価や気象・海象への対策等を実施した結果、耐久性が高く、環境にも配慮した浮体式洋上風力発電の実用化に向けた技術が確立されました。


写真2-2-1 椛島沖の浮体式洋上風力発電施設

 また、環境省では平成27年度に、この浮体式洋上風力発電から発生する余剰電力(発電した電気のうち、椛島(かばしま)等に供給される分を除いた電気)から効率的に水素を製造して貯蔵し、それを輸送して地域で活用する、自立・分散型エネルギー社会のモデル実証にも取り組みました。具体的には、浮体式洋上風力発電設備で発生した余剰電力で水を電気分解し、得られた水素をトルエンと反応させメチルシクロヘキサン(MCH)に変換して、隣接する福江島に船で運搬後、MCHから水素を取り出し、水素利用設備等に供給するものです(図2-2-2)。これにより、余剰電力を直接送電線がつながっていない離島にも供給することができるほか、災害時の自立的な電源として、防災の観点からも役立ちます。


図2-2-2 余剰電力による水素の製造及び利用

 さらに、環境省では平成28年度より、本技術の普及を促進するためのコスト削減技術等に関する事業を実施することとしています。今後、海域を有する各地方公共団体において、このような洋上風力発電の普及が進むことで、再生可能エネルギーの活用によるCO2の大幅な削減、各地における非常災害時の電源確保等、様々な効果が期待できます。

(3)国内における火力発電に関する近年の動向

 電力部門はCO2排出量が多い部門であり、また電力部門におけるCO2排出係数が相当程度増加することは、企業や家庭における省エネの取組(電力消費量の削減)による削減効果に影響を与えることが懸念されるため、電力部門の温暖化対策を計画的に進めることは極めて重要です。電力部門の温室効果ガスの排出は、火力発電所において発電時に化石燃料を燃焼する際に発生するものです。化石燃料の中でも、石炭は他の化石燃料に比べて安価で地政学的リスクも低いことから、安定供給が見込めるものとして、我が国のベース電源の一つとして活用することとされています。しかし、CO2排出係数は、内閣官房「コスト等検証委員会報告書」、資源エネルギー庁「電力需給の概要」、環境省「最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BATの参考表)」より環境省が推計したところ、最新型のLNGガスタービン複合発電(GTCC)の320~360g-CO2/kWhに比して、最新型の石炭ガス化複合発電(IGCC)であっても約2倍の710g-CO2/kWhとなっています。このため、その経済性の評価に当たっては、CO2の排出に伴う地球温暖化により生じ得る様々な問題のコストが、適切に反映されていく必要があると考えられます。

 我が国の足下の状況として、環境影響評価法(平成9年法律第81号)対象規模未満のものを含め、過去10年の立地・運転開始のペースを大きく上回る石炭火力発電所の立地・運転開始が計画されています。これらの計画が全て実施されるかは定かではなく、また、発電効率や利用率等によりCO2排出量は異なることから、CO2排出係数への定量的な影響を算出することは困難ですが、今後、このようなCO2排出量が多い石炭火力発電所の立地・運開が進んだ場合には、電力部門におけるCO2排出係数が相当程度増加することは否定できません。

 我が国では、エネルギーミックスにおいて、2030年度(平成42年度)の電源構成に占める石炭火力発電の割合を「26%程度」(約2,810億kWh)としており、石炭火力発電、LNG火力発電を含めた電力全体からのCO2排出量は約3.6億トンCO2となるとされています。一方で、2014年度(平成26年度)実績(一般電気事業用)においては、石炭火力発電の電力量(約2,850億kWh)が既にこれを上回っている状況です。

 このような状況において、国の目標・計画と整合を取るためには、「燃料調達コスト引き下げ関係閣僚会合(四大臣会合)」(平成25年4月26日)で承認された「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」(平成25年4月25日経済産業省・環境省)(以下「局長級取りまとめ」という。)において、電力業界全体の実効性ある取組が確保されることが必要であり、局長級取りまとめにおいて示した要件を満たすCO2排出削減に取り組む実効性のある枠組み(以下「枠組み」という。)の構築を促すとされています。局長級取りまとめでは、環境影響評価において、事業者が利用可能な最良の技術の採用等により可能な限り環境負荷低減に努めているかどうか、また、国のCO2排出削減の目標・計画と整合性を持っているかどうかについて、必要かつ合理的な範囲で国が審査することとされています。中期削減目標との関係として、国の目標・計画との整合性については、当該枠組みに参加し、当該枠組みの下でCO2排出削減に取り組んでいくこととしている場合に、その整合性があると認めることができることとされています。

 平成27年7月17日に電気事業連合会加盟 10 社、電源開発株式会社、日本原子力発電株式会社及び特定規模電気事業者(新電力)有志 23 社が策定した電気事業分野の「自主的枠組みの概要」及び「電気事業における低炭素社会実行計画」が公表されました。しかし、当該自主的枠組みには詰めるべき課題があり、「日本の約束草案」及びエネルギーミックスの達成に向け、石炭火力発電所の建設に係る環境影響評価法に基づく環境大臣意見を勘案して、経済産業大臣が、「早急に具体的な仕組みやルール作り等が行われるよう努めること」と同法に基づき意見を述べました。また、環境省と経済産業省が連携して、政策的な対応について検討を行ってきました。

 こうした検討を踏まえ、環境大臣と経済産業大臣が合意した内容について、平成28年2月9日に両大臣からそれぞれ公表しました(表2-2-2)。すなわち、電力業界の自主的枠組みに対しては、引き続き実効性・透明性の向上等を促していくとともに、政府における政策的対応として、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(昭和54年法律第49号。以下「省エネ法」という。)やエネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72 号)の基準・運用を強化し、電力自由化の下で、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしました。さらに、2030年度(平成42年度)の削減目標や、エネルギーミックスと整合する、2030年度(平成42年度)に排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標の達成に向けて、これらの取組が継続的に実効を上げているか、毎年度、その進捗状況を評価し、省エネ法等に基づき必要に応じて指導等を行うこととしました。また、電気事業分野からの排出量や排出係数等の状況を評価し、目標の達成ができないと判断される場合には、施策の見直し等について検討することとしました。


表2-2-2 電気事業分野における地球温暖化対策について

 また、2030年(平成42年)以降を見据えて、CCSについては、局長級取りまとめや「エネルギー基本計画」等を踏まえて取り組みました。