環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート1第1章>第2節 新たな国際枠組みを踏まえた今後の課題

第2節 新たな国際枠組みを踏まえた今後の課題

1 パリ協定に基づく取組の推進(具体化・実現)に向けて

 パリ協定は、2016年(平成28年)4月22日から2017年(平成29年)4月21日まで米国・ニューヨークにある国連本部において、各国の署名のために開放されます。2016年(平成28年)4月22日には、ハイレベル署名式も予定されており、全ての締約国はできるだけ速やかに批准書等を寄託するよう招請されているところです。

 パリ協定の発効要件は、「国数(55か国以上)及び温室効果ガス排出量(全排出量の55%以上)」の二つの要件が規定されており、双方の要件が満たされた30日後に発効することとされています。

 パリ協定の実施に関する詳細ルールの多くはパリ協定の第1回締約国会合(パリ協定発効後最初のCOPの機会に開催予定)で決定されることとなっており、それまでの間、COP21決定により新たに設置が決定された「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」や条約補助機関会合等の場で検討が進められることとなります。透明性枠組みに関する手続等や市場メカニズムに関する指針等、パリ協定を効果的に実施するためのルールを設定していく必要があります。

 COP21決定により、IPCCに対して産業革命前の水準から1.5℃の気温上昇の影響及び関連する排出経路に関する特別報告書を2018年(平成30年)に提供することが招請されています。また、2018年(平成30年)の促進的対話を経て、2020年(平成32年)までに、2025年目標を掲げている国は次のNDCを提出し、2030年目標を掲げている国は現在のNDCを提出・更新することを招請されています(図1-2-1)。なお、締約国は、関係する締約国会議に少なくとも9~12か月先立って、事務局に目標を提出することとなっています。さらに各国は、パリ協定に基づき策定する長期の低排出開発戦略を2020年(平成32年)までに提出することも招請されています。


図1-2-1 パリ協定に関する今後のスケジュール

2 パリ協定を踏まえた今後の地球温暖化対策について

 我が国のINDCに示された対策の実施等については第2章で説明しますが、ここでは、パリ協定全体に対する我が国の重要な取組について記します。

(1)地球温暖化対策推進本部における決定

 安倍総理は、平成27年12月13日に「国連気候変動枠組条約第二十一回締約国会議の合意に関する内閣総理大臣の談話」として、地球温暖化問題について内閣の最重要課題として取り組むことを表明しました。また12月22日には、地球温暖化対策推進本部において、パリ協定を踏まえ、我が国の地球温暖化対策の取組方針を決定しました(図1-2-2)。


図1-2-2 地球温暖化対策推進本部決定(平成27年12月22日)

 同本部では安倍総理から、世界は地球温暖化対策について、今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収をバランスさせることを目指し、新たなスタートを切ったこと、我が国は、[1]イノベーション、特に革新的技術による解決を追求すること、[2]国内投資を促し、国際競争力を高めること、[3]国民に広く知恵を求めることという三つの原則に沿って、経済成長と地球温暖化対策を両立させ、国際社会を主導すること、地球温暖化対策は内閣の最重要課題であり、全力を挙げて取り組んでいくことなどが表明されました。

(2)世界の気候変動対策への我が国の貢献

 本章冒頭でも述べたように、COP21首脳会合において、安倍総理はACE2.0を発表しました。途上国支援及びイノベーションを柱としており、前者については、2020年(平成32年)に官民合わせて現状の1.3倍(約1.3兆円)の気候変動対策支援を行うことを表明しています。イノベーションについては、平成28年春までに「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定し、有望分野を特定して革新的技術の研究開発を強化していくこととしています。以下では、関連する具体例を2点紹介します。

ア 途上国の適応に関する政策立案・計画策定の支援

 2014年(平成26年)9月の国連気候サミットにおいて、安倍総理は「適応イニシアチブ」の考え方を提唱しました。これは、気候変動は全大陸と海洋において、自然生態系及び人間社会に影響しており、海面上昇、沿岸での高潮被害や大都市部への洪水による被害等による将来リスクが存在するとし、日本は産官学のオールジャパンで、計画策定から対策実施まで首尾一貫して途上国における適応分野の支援に取り組むという考え方です。

 COP21首脳会合で安倍総理が提唱したACE2.0では、途上国支援の具体策として、地熱や太陽光等の再生可能エネルギー発電、太平洋島嶼(しょ)国における早期警戒システムの構築、都市間の連携等を挙げています。

イ JCMプロジェクト形成

 二国間オフセット・クレジット制度(以下「JCM」という。)は、途上国への優れた低炭素技術等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガスの排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用する制度です(図1-2-3)。現在、16か国との間でJCMを構築しており、10件のJCMプロジェクトが登録されているほか、51件の環境省JCM資金支援事業及び9件の新エネルギー・産業技術総合開発機構実証事業による登録に向けたプロジェクトが実施されています。JCMを構築・実施していくことにより、民間ベースの事業による貢献分とは別に、毎年度の予算の範囲内で行う日本政府の事業により2030年度(平成42年度)までの累積で5,000万~1億トンCO2の国際的な排出削減・吸収量が見込まれるとしています。今回のパリ協定においても、JCMを含む市場メカニズムの活用が位置付けられたところです。


図1-2-3 JCMのスキーム(概念図)

 また、COP21期間中には、JCMのパートナー国16か国の閣僚級が一堂に会する「第3回JCMパートナー国会合」を開催し、JCMの進捗を歓迎し、引き続き協力してJCMを実施していくことを確認しました(写真1-2-1)。


写真1-2-1 第3回JCMパートナー国会合

 またアジア等の途上国において、JCMを活用した優れた低炭素技術の普及に加え、我が国政府や自治体が有する知見やノウハウをアジア各都市と共有し、マスタープランの作成等を含めた都市間の連携・協力も推進しています。平成27年度はアジアの都市を対象に合計14の実現可能性調査を実施しました。例えば、神奈川県とカンボジア・シェムリアップ州が、電動車両の導入等、低炭素観光都市づくりに向けた連携を進めています。

 今後は、具体的な排出削減・吸収プロジェクトの更なる実施に向けて、MRV(測定・報告・検証)方法論の開発を含む制度の適切な運用、都市間連携や国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)と連携したJCM特別金融スキームの活用を含む途上国におけるプロジェクトの組成や実現可能性の調査、本制度の活用を促進していくための国内制度の適切な運用、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や独立行政法人国際協力機構(JICA)、アジア開発銀行(ADB)等の関係機関との連携も含めたさらなるプロジェクト形成のための支援等を行っていきます。

(3)パリ協定の実施に向けて

 我が国が、これまで京都議定書の履行を含む様々な地球温暖化対策によって培ったMRV等の経験や知識は、今後のパリ協定の詳細ルールの交渉のみならず、NDCや履行状況の検証のためにも役立つものと考えられます。そのためにも我が国は今後の交渉においても積極的に働き掛け、またこうした知見を積極的に提供し、パリ協定に基づく気候変動対策の更なる深化に寄与していきます。