環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第2節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

第2節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

1 里地里山及び里海の保全活用に向けた取組の推進

 里地里山の保全活用の効果的な促進及び全国各地への展開に向け、生物多様性保全の観点から、特に保全の必要性が高い地域として選定した「生物多様性保全上重要な里地里山」を環境省ウェブサイトなどにより情報発信し、生物多様性保全の観点から重点的に保全すべき対象を明らかにするとともに、里地里山の魅力や重要性の普及を図ります。これに加えて、地域や活動団体の参考となる里地里山の特徴的な取組事例の発信や都市住民などのボランティア活動への参加促進に向けた活動場所や専門家の紹介などを環境省ウェブサイトにより行い、里地里山の保全・活用に向けた活動の継続・促進のための支援を行います。

 特別緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地方公共団体等との管理協定の締結による持続的な管理や、市民への公開などの取組を引き続き推進します。

 里海に係る取組は、第4章第3節3を参照。

2 野生鳥獣の保護及び管理の推進

(1)鳥獣の管理の強化

 平成26年に鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)が改正され、名称が鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)に改められました。この鳥獣保護管理法により創設された指定管理鳥獣捕獲等事業を推進するため、都道府県が実施する当該事業を支援し、指定管理鳥獣(ニホンジカ及びイノシシ)の管理を推進します。また、全国的な指定管理鳥獣の管理を促進するため、都道府県による捕獲事業等に係る取りまとめ・評価や、効率的な捕獲技術及び迅速な捕獲情報収集システムの開発、捕獲個体の有効活用等の方策の検討などを行います。

(2)科学的・計画的な保護及び管理

 「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に進めます。

 鳥獣保護管理の担い手を育成するため、都道府県と連携した狩猟免許取得者の能力向上に向けた取組や、都道府県職員等への研修事業及び鳥獣保護管理に係る人材登録事業を実施します。また、鳥獣保護管理法により導入された認定鳥獣捕獲等事業者制度の普及を図るため、新たに作成するウェブサイト等による制度の周知や、鳥獣の捕獲に従事する事業者や従事者の技術・知見の向上のための講習会等を実施します。

 都道府県における特定鳥獣保護管理計画作成や保護管理のより効果的な実施のための検討を行うとともに、技術研修会を開催します。

 また、関東地域、中部近畿地域、中国四国地域におけるカワウ及び関東山地のニホンジカについては広域協議会を、白山奥美濃地域のツキノワグマについては連絡会議を開催し、関係者間の情報の共有等を行うとともに、関東山地ニホンジカ広域協議会においては、実施計画に基づき、関係機関の連携の下、引き続き各種対策の実施を推進します。

 希少鳥獣であるゼニガタアザラシによる漁業被害が深刻化しているため、種の保全に十分配慮しながら総合的な保護管理手法を引き続き検討します。

 福島県の帰還困難区域及び居住制限区域において、生活環境の保全や帰還に向けた環境整備の円滑な実施のため、イノシシ等野生鳥獣の捕獲等の対策を行います。

 適切な狩猟が鳥獣の個体群管理に果たす効果等に鑑み、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行います。

 渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーションにおける鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査等を実施します。また、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルの保護対策として、生息環境の保全、整備を実施するとともに、越冬地の分散を図るための事業を実施します。

 悪化した鳥獣の生息環境や生息地の保護及び整備を図るため、ユルリ・モユルリ(北海道)、谷津(千葉県)、鳥島(東京都)、七ツ島(石川県)、浜甲子園(兵庫県)、舟志ノ内(長崎県)、大東諸島(沖縄県)の各国指定鳥獣保護区において保全事業を実施します。

 野生生物保護についての普及啓発を進めるため、愛鳥週間行事の一環として東京都において「全国野鳥保護のつどい」を開催するほか、小中学校及び高等学校等を対象として野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催します。

(3)鳥獣被害対策

 防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、捕獲鳥獣の食肉利用の促進等の対策を進めるとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施します。

 農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況の中、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)に基づき市町村が作成する被害防止計画により、生息環境管理、被害防除、個体数調整の地域一体で取り組む対策を総合的に支援し、鳥獣被害対策の体制整備等を進めます。

 また、トドによる漁業被害防止対策として、出現状況等の調査や漁具被害軽減のための実証試験等を行います。

(4)鳥インフルエンザ等感染症対策

 「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」に基づき、高病原性鳥インフルエンザウイルス保有状況調査を全国で実施し、結果を公表します。さらに、平成17年度から行っている人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査を継続するとともに、国指定鳥獣保護区への渡り鳥の飛来状況について新たに作成するウェブサイト等を通じて情報提供を行います。また、その他の感染症について情報把握・分析等を行い、対応を強化します。

3 生物多様性の保全に貢献する農林水産業の推進

 「生物多様性国家戦略2012-2020」及び「農林水産省生物多様性戦略」(平成24年2月改定)に基づき、[1]田園地域・里地里山の保全(環境保全型農業直接支払による生物多様性保全に効果の高い営農活動に対する直接支援等)、[2]森林の保全(適切な間伐等)、[3]里海・海洋の保全(生態系全体の生産力の底上げを目指した漁場の整備等)など、農林水産分野における生物多様性の保全や持続可能な利用を推進します。

 また、企業等による生物多様性保全活動への支援等について取りまとめた農林漁業者及び企業等向け手引き等を活用し農林水産分野における生物多様性保全活動を推進します。

(1)農業

 水田や水路、ため池等の水と生態系のネットワークの保全のため、地域住民の理解・参画を得ながら、生物多様性保全の視点を取り入れた農業生産基盤の整備を推進します。また、生態系の保全に配慮しながら生活環境の整備等を総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進します。さらに、新たな技術的知見等を踏まえ生態配慮の技術指針の改定を行うとともに、農村地域の生物や生息環境の情報を調査・地理情報化し、生態系に配慮した水田や水路等の整備手法を構築するなど、生物多様性を確保するための取組を進めます。

 生物多様性等の豊かな地域資源をいかし、農山漁村を教育、観光などの場として活用する集落ぐるみの取組を支援します。

 棚田における農業生産活動により生ずる国土の保全、水源の涵(かん)養等の多面的機能を持続的に発揮していくために、地域の創意と工夫をよりいかした「農山漁村活性化プロジェクト支援交付金」により、自然再生の視点に基づく環境創造型の整備を推進します。

 持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の普及推進を図るとともに、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)に基づく有機農業の推進に関する基本的な方針の下で、栽培技術の体系化の取組等の支援、産地の販売企画力、生産技術力強化、販路拡大、施設の整備に関する支援を引き続き行います。

(2)森林・林業

 第3節2を参照。

(3)水産業

 第3節5を参照。

4 地域固有の野生生物を保全する取組の推進

(1)絶滅のおそれのある野生生物種の保全

 引き続き、絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略に基づき、絶滅危惧種の保全に関する様々な施策を幅広く推進していきます。

ア レッドリストとレッドデータブック

 第5次レッドリストの作成に向けた調査・検討作業を進めます。

イ 希少野生動植物種の保存

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づき、希少野生動植物種を指定し、個体の捕獲・譲渡等の規制、器官・加工品の譲渡等の規制を引き続き実施します。国内希少野生動植物種については、2020年(平成32年)までに300種の新規指定に向けた作業や、生息地等保護区の指定を推進するとともに、種の保存法に基づく保護増殖事業計画に基づき、野生生物保護センター等を中心として、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナ、アホウドリ、ミヤコタナゴ等の生息環境の改善・整備や繁殖の促進のための事業を進めます。また、国内希少野生動植物種に指定された種について、必要に応じて保護増殖事業計画を策定します。トキについては、今後とも野生復帰に向けて野生順化訓練と放鳥に関する事業を継続します。また、ツシマヤマネコについては、野生復帰の技術確立を視野に入れた取組を進めます。チュウヒ等の希少な猛禽(もうきん)類等については、保護方策の調査・検討を引き続き行います。さらに、猛禽(もうきん)類の採餌環境の創出のための間伐の実施等、効果的な森林の整備・保全を行います。

ウ 生息域外保全

 絶滅危惧種の生息域外保全については、動物園、水族館及び植物園など関係者との連携を深め、特に公益社団法人日本動物園水族館協会と締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」に基づく取組を一層進めるとともに、「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」や「絶滅のおそれのある野生動植物種の野生復帰に関する基本的な考え方」に沿って生息域外保全の取組を進めます。

(2)外来種等への対応

ア 外来種対策

 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)に基づく特定外来生物の輸入、飼養等の規制、防除事業を引き続き実施します。また、平成27年3月に公表された「外来種被害防止行動計画」や「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」が策定されたことを踏まえ、外来種被害防止三原則をはじめとした外来種問題への認識と理解の促進、侵略的外来種の効果的・効率的な防除の推進、特定外来生物の適切な追加指定、外来種の適正な管理の促進等の対策を進めます。さらに、外来種の適正な飼育に係る呼び掛け、ウェブサイト(http://www.env.go.jp/nature/intro/(別ウィンドウ))等での普及啓発を引き続き進めます。

イ 遺伝子組換え生物への対応

 カルタヘナ議定書を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づき、遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講じ、生物の多様性の確保を図ります。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウス(http://www.bch.biodic.go.jp/(別ウィンドウ))を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行うほか、遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査などを行います。

5 遺伝資源等の持続可能な利用

(1)遺伝資源の利用と保存

 農林水産分野では、農業生物資源ジーンバンク事業などにより、関係機関が連携して、動植物、微生物、DNA、林木、水産生物などの国内外の遺伝資源の収集、保存、評価等を行っており、植物遺伝資源22万点をはじめ、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行います。

 また、新たに災害に強い保管施設等を整備し、公設試験研究機関や民間等、国内外の遺伝資源の安全な保存についても支援します。また、海外から研究者を受け入れ、遺伝資源の取引・運用制度に関する理解促進や保護と利用のための研修等支援を行います。国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得するために必要な情報の収集・提供や、相手国等との意見調整の支援を行うとともに、途上国に対して遺伝資源の取引・運用制度に関する理解促進や遺伝資源の探索及び機能解析等に関する能力向上を図ろうとする取組を支援します。

(2)微生物資源の利用と保存

 独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との生物多様性条約の精神に則った国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、我が国の企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを引き続き行います。

 我が国の微生物などに関する中核的な生物遺伝資源機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)において、生物遺伝資源の収集、保存などを行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能などに関する情報)を整備し、生物遺伝資源と併せた提供を引き続き行います。

(3)遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)

 第4節1(2)を参照。

6 動物の愛護と適正な管理

 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)の改正を踏まえて見直された、動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(平成18年環境省告示第140号。以下「基本指針」という。)に基づき、平成35年度までの犬猫の引取り数の75%減(平成16年度比)や殺処分率の更なる減少等を目指し、適正飼養に関する普及啓発、収容動物の返還・譲渡促進の支援等を進めます。また、基本指針に基づく取組及びその実施状況の評価等を行います。さらに、幼齢の犬猫を親等から引き離す理想的な時期に関する調査研究、販売される犬猫へのマイクロチップ装着の義務化に向けた検討を行うとともに、引取り数や殺処分の大幅な削減を図るため、モデル事業の実施やガイドラインの作成の検討等を進めます。

 また、ペットフードの安全性の確保については、引き続き、関係省庁や関係団体等と連携し、ペットフードによる健康被害等の情報共有を図り、ペットフードの安全性に関する情報の提供に努めます。