環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第4章>第2節 大気環境の保全対策

第2節 大気環境の保全対策

1 大気環境の監視・観測体制の整備

(1)国設大気測定網

 大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、国設大気環境測定所(9か所)及び国設自動車交通環境測定所(9か所)を設置し、測定を行っています。これらの測定所は、地方公共団体が設置する大気環境常時監視測定局の基準局、大気環境の常時監視に係る試験局、国として測定すべき物質等(有害大気汚染物質)の測定局、大気汚染物質のバックグラウンド測定局としての機能を有しています。

 加えて、国内における酸性雨や越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的として、「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画(平成26年3月改訂)」に基づくモニタリングを離島など遠隔地域を中心に全国24か所で実施しています。

(2)地方公共団体の大気汚染監視体制

 都道府県等では、一般局及び自排局において、大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「大防法」という。)に基づく大気の汚染状況を常時監視しています。

 また、我が国は、そのデータ(速報値)を「大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)」によりリアルタイムに収集し、インターネット及び携帯電話用サイトで情報提供しています(http://soramame.taiki.go.jp/(別ウィンドウ))。

 PM2.5に関しては、平成21年9月に環境基準を設定し、平成22年度からは、地方公共団体により、大防法に基づく大気の汚染状況の常時監視が開始されました。また、常時監視に用いるPM2.5の自動測定機について、標準測定方法との等価性の評価を行っています。

(3)放射性物質の常時監視体制

 平成25年6月の大防法の改正に伴い、我が国は、関係機関が実施している放射性物質モニタリングを含めて、全国308地点で空間放射線量率の測定を行う等、放射性物質による大気の汚染の状況を監視し、その結果を専門家による評価を経て公表しています。

2 ばい煙に係る固定発生源対策

 大防法に基づき、ばい煙(窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん等)を発生し、及び排出する施設について排出基準を定めて規制等を行っています。加えて、施設単位の排出基準では良好な大気環境の確保が困難な地域においては、工場又は事業場の単位で窒素酸化物及び硫黄酸化物の総量規制を行っています。

3 移動発生源対策

(1)自動車単体対策と燃料対策

 自動車の排出ガス及び燃料については、大防法に基づき逐次規制を強化してきています(図4-2-1図4-2-2図4-2-3)。


図4-2-1 ガソリン・LPG乗用車規制強化の推移

図4-2-2 ディーゼル重量車(車両総重量3.5トン超)規制強化の推移

図4-2-3 軽油中の硫黄分規制強化の推移

 中央環境審議会では、国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラムにおいて策定された乗用車等の世界統一試験サイクルの導入について審議が行われ、新たな排出ガス許容限度目標値について、平成27年2月に第十二次答申を行いました。(表4-2-1)。


表4-2-1 中央環境審議会での審議状況

 また、公道を走行しない特殊自動車(以下「オフロード特殊自動車」という。)に対する排出ガス規制を行う特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(平成17年法律第51号。以下「オフロード法」という。)に基づき、平成18年10月から原動機の燃料の種類と出力帯ごとに順次使用規制を開始する等、排出ガス対策に取り組むとともに、中央環境審議会「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」第九次答申及び第十一次答申の提言を踏まえ、ディーゼル特殊自動車の窒素酸化物(NOx)の規制値の強化等を行うため、平成26年1月にオフロード法及び道路運送車両法(昭和26年法律第185号)に基づく関係法令の改正を行い、平成26年10月から当該規制が開始されました。そのほか、平成23年度以降順次強化している排出ガス基準に適合するオフロード特殊自動車等への買換えが円滑に進むよう、税制の特例措置、政府系金融機関による低利融資、ハイブリッドオフロード特殊自動車等を導入する際の補助を講じました。

(2)大都市地域における自動車排出ガス対策

 自動車交通量が多く交通渋滞が著しい大都市地域の大気汚染状況に対応するため、自動車NOx・PM法(図4-2-4)に基づき大都市地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府及び兵庫県)において各都府県が「総量削減計画」を策定し、自動車からのNOx及びPMの排出量の削減に向けた施策を計画的に進めています。さらに、同法による車種規制の円滑な施行を図るため、政府系金融機関による低利融資等の普及支援策を講じるとともに、排出ガス低減性能の高い自動車の普及や排出基準に適合している全国のトラック・バス等であることが判別できるように「自動車NOx・PM法適合車ステッカー」の交付等に取り組みました。


図4-2-4 自動車NO<sub>x</sub>・PM法の概要

(3)低公害車の普及促進

 平成32年までに、新車販売に占める次世代自動車の割合を5割~7割にするとの目標に基づき、次世代自動車等の普及に取り組んだ結果、平成25年度における新車販売に占める次世代自動車の割合は、約23%となりました。

 低公害車の普及を促す施策として、車両導入に対する各種補助、自動車税のグリーン化及び自動車重量税・自動車取得税の免除・軽減措置等の税制上の特例措置並びに政府系金融機関による低利融資を講じました。

 また、低公害車普及のためのインフラ整備については、国による設置費用の一部補助、燃料等供給設備に係る固定資産税の軽減措置等の税制上の特例措置を実施しました。

(4)交通流対策

ア 交通流の分散・円滑化施策

 道路交通情報通信システム(VICS)の情報提供エリアの更なる拡大を図るとともに、スマートウェイの一環としてETC2.0サービスを推進し、道路交通情報の内容・精度の改善・充実に努めたほか、信号機の高度化、公共車両優先システム(PTPS)の整備、総合的な駐車対策等により、環境改善を図りました。また、環境ロードプライシング施策を試行し、住宅地域の沿道環境の改善を図りました。

イ 交通量の抑制・低減施策

 交通に関わる多様な主体で構成される協議会による都市・地域総合交通戦略の策定及びそれに基づく公共交通機関の利用促進等への取組を支援しました。また、交通需要マネジメント施策の推進により、地域における自動車交通需要の調整を図りました。

(5)船舶・航空機・建設機械の排出ガス対策

 船舶からの排出ガスについては、国際海事機関(以下「IMO」という。)の排出基準(船舶による汚染の防止のための国際条約(以下「MARPOL条約」という。)附属書Ⅵ)を踏まえ、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号。以下「海洋汚染等防止法」という。)により、窒素酸化物、燃料油中硫黄分濃度等について規制されています。航空機からの排出ガスについては、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準を踏まえ、航空法(昭和27年法律第231号)により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等について規制されています。

 建設機械のうちオフロード特殊自動車については、オフロード法に基づき平成18年10月より順次使用規制を開始し、平成23年及び平成26年に規制を順次強化するとともに、「建設業に係る特定特殊自動車排出ガスの排出の抑制を図るための指針」に基づきNOx、PM等大気汚染物質の排出抑制に取り組んでいます。

 一方、オフロード法の対象外機種(発動発電機や小型の建設機械等)についても、オフロード法の平成18年基準と同等の排出ガス基準値に基づき策定した「排出ガス対策型建設機械の普及促進に関する規程」等により、排出ガス対策型建設機械の使用を推進しました。また、これら建設機械の取得時の融資制度を設置しました。

(6)普及啓発施策等

 低公害車(次世代自動車等)やエコドライブに関する意識調査を目的として、平成26年5月に「エコ&セーフティ神戸カーライフ・フェスタ2014」を実施しました。また、エコドライブ普及連絡会では、エコドライブの普及推進を図るため、行楽シーズンであり自動車に乗る機会が多くなる11月を「エコドライブ推進月間」とし、シンポジウムの開催や全国各地でのイベント等を連携して推進し、積極的な広報を行いました。あわせて、当該連絡会が策定した「エコドライブ10のすすめ」の普及・推進に努めました。

4 微小粒子状物質(PM2.5)対策

 PM2.5は、原因物質と発生源が多岐にわたり、生成機構は複雑であるなど解明すべき課題が残されています。

 平成25年12月に取りまとめた「PM2.5に関する総合的な取組(政策パッケージ)」に基づき、排出抑制対策の基盤となる発生源情報の整備や生成機構の解明等、シミュレーションモデルの高度化等を進めつつ、国民の安全・安心の確保、環境基準の達成、アジア地域における清浄な大気の共有を目標とした取組を進めています。

 今後、適切なPM2.5対策を進めていくために、中央環境審議会の微小粒子状物質等専門委員会において、平成27年3月に、PM2.5の国内における当面の排出抑制策の在り方について、中間取りまとめが行われました。

 PM2.5濃度が上昇した場合における注意喚起等については、環境省が設置した「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」において、「注意喚起のための暫定的な指針」が取りまとめられ、この指針に基づき、都道府県等において注意喚起の運用や情報提供が実施されています。平成26年11月に、注意喚起の解除に関する判断方法の追加等、運用の一部見直しを行いました。

 国際的には、平成25年に開催された第15回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM15。以下、日中韓三カ国環境大臣会合を「TEMM」という。)において、我が国の提案により大気汚染に関する三か国政策対話を設置することが合意され、以後、毎年開催しています。

5 光化学オキシダント対策

(1)光化学オキシダント緊急時対策

 都道府県等では、大防法に基づく大気の汚染状況の常時監視において、光化学オキシダントの濃度が高くなり、被害が生ずるおそれがある場合に、光化学オキシダント注意報等を発令しています。その際には、ばい煙排出者に対する大気汚染物質排出量の削減及び自動車使用者に対する自動車の走行の自主的制限を要請するほか、住民に対する広報活動と保健対策を実施しています。また、気象庁では光化学スモッグに関連する気象状況を都道府県等に通報し、光化学スモッグの発生しやすい気象状況が予想される場合にはスモッグ気象情報や全般スモッグ気象情報を発表して国民へ周知しています。

 加えて、「大気汚染物質広域監視システム」により、都道府県等が発令した光化学オキシダント注意報等発令情報を、リアルタイムで収集し、これらのデータを地図情報などとして、ウェブサイト等で一般に公開しています(http://soramame.taiki.go.jp/(別ウィンドウ))。

(2)揮発性有機化合物排出抑制対策

 VOCは光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質の生成の原因物質の1つであり、その排出削減により、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質による大気汚染の改善が期待されます。

 VOCの排出抑制対策については、平成22年度までに全国のVOC総排出量を平成12年度に比べて3割程度削減させることを目標に、法規制と自主的取組を適切に組み合わせること(ベストミックス)により実施しました。平成22年度のVOC総排出量は平成12年度に対し4割以上削減されたことから、平成24年4月に環境大臣から中央環境審議会に「今後の揮発性有機化合物の排出抑制対策の在り方について」について諮問を行い、平成24年12月に中央環境審議会から答申されました。答申では法規制と自主的取組を組み合わせた現行のVOC排出抑制制度はこのまま継続することとなっています。

(3)環境改善効果を適切に示すための新たな指標

 平成24年4月に閣議決定された第四次環境基本計画において、光化学オキシダントについては、「広域大気汚染や気象条件の変化などの影響を大きく受けやすい注意報等とは別に、環境改善効果を適切に示す指標について検討を行い、結論を得ることを目指す」とされました。これを踏まえ、平成26年8月、中央環境審議会の微小粒子状物質等専門委員会において、環境改善効果を適切に示すための新たな指標(日最高8時間平均値の年間99パーセンタイル値の3年平均値)やその活用方法について中間取りまとめが行われました。

6 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)有害大気汚染物質対策

 大防法に基づき、地方公共団体との連携の下に、有害大気汚染物質による大気の汚染の状況を把握するため、平成25年8月に改正した「大気汚染防止法第22条の規定に基づく大気の汚染の状況の常時監視に関する事務の処理基準」に基づき、PRTR(化学物質排出移動量届出)データ等を用いた効率的なモニタリング地点を選定し、有害大気汚染物質モニタリング調査を行いました。

 また、優先取組物質のうち、環境目標値が設定されていない物質については、迅速な指針値設定を目指すこととされており、科学的知見の充実のため、有害性情報等の収集を実施しました。このうち、科学的知見の収集・整理の状況を踏まえ、マンガン及びその化合物について指針値の設定に向けた検討を行い、中央環境審議会において「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について」(第十次答申)(平成26年4月)がなされ、マンガン及びその化合物について指針値を設定しました。

(2)石綿対策

 大防法では、吹付け石綿や石綿を含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材を使用する全ての建築物その他の工作物の解体等作業について作業基準等を定め、石綿の大気環境への飛散防止対策に取り組んでいます。また、石綿の飛散防止対策の更なる強化を図るため、大防法を改正し、特定粉じん排出等作業を伴う建設工事の届出義務者の変更、事前調査を義務化しました。

7 酸性雨・黄砂に係る対策

(1)酸性雨

 東アジア地域において、酸性雨の現状やその影響を解明するとともに、酸性雨問題に関する地域の協力体制を確立することを目的として、日本のイニシアティブにより、平成13年から東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(以下「EANET」という)が本格稼働しており、現在、東アジア地域の13か国が参加しています。EANETでは、共通手法による酸性雨モニタリングによって、信頼できるデータの集積等を実施しています(図4-2-5)。


図4-2-5 EANET地域の降水中pH(2010年から2013年の平均値)

 EANETでは、EANETへの財政的貢献のための健全な基礎を提供する文書についての議論の結果、平成22年11月に開催された第12回政府間会合において「EANETの強化のための文書」の採択と署名が行われ、平成24年1月から同文書の運用が開始されました。平成26年11月には、第16回政府間会合において、昨今東アジア地域において光化学オキシダントや粒子状物質等による大気汚染が顕在化しつつあること等を踏まえ、モニタリング対象物質及び活動範囲の拡大等について、意見交換が行われました。

 また、国内では、越境大気汚染及び酸性雨による影響の早期把握、大気汚染原因物質の長距離輸送や長期トレンドの把握、将来影響の予測を目的として、「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画」に基づき、国内の湿性・乾性沈着モニタリング、湖沼等を対象とした陸水モニタリング、土壌・植生モニタリングを行っています。

(2)黄砂

 日中韓三カ国黄砂局長会合等において、北東アジア地域における黄砂対策の地域協力について検討が行われており、平成19年12月に開催されたTEMM9における合意を受けて、平成20年に黄砂共同研究を開始しました。

 また、国内では、黄砂の物理的性質(黄砂の粒径)や化学的性質(黄砂の成分)を解明するため、平成14年度より黄砂実態解明調査を実施しています。また、我が国への黄砂の飛来状況を把握するとともに、国際的なモニタリングネットワークの構築にも資するものとして、独立行政法人国立環境研究所と協力して、高度な黄砂観測装置(ライダー装置)によるモニタリングネットワークを整備しています。さらに、平成19年度より、国内外のライダー装置によるモニタリングネットワークの観測データをリアルタイムで提供する「環境省黄砂飛来情報(ライダー黄砂観測データ提供ページ)」(http://soramame.taiki.go.jp/dss/kosa/(別ウィンドウ))を運用しています。