環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第4節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

第4節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

1 生態系ネットワーク

 優れた自然環境を有する地域を核として、これらを有機的につなぐことにより、生物の生息・生育空間のつながりや適切な配置を確保する生態系ネットワーク(エコロジカル・ネットワーク)を形成するため、平成20年度に全国レベルのエコロジカル・ネットワーク構想の検討を開始し、平成21年度に「全国エコロジカル・ネットワーク構想」を取りまとめました。また、国有林野においては、原生的な森林生態系や希少な野生動植物を保護する観点から「保護林」や「保護林」を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」の設定等を進めています。「緑の回廊」は、平成25年4月現在、24か所、約58万3,000haが設定され、生態系に配慮した施業やモニタリング調査等を実施することにより、より広範で効果的な森林生態系保全の取組を推進しています。

2 重要地域の保全

(1)自然環境保全地域

 自然環境保全法(昭和47年法律第85号)に基づく保護地域には、国が指定する原生自然環境保全地域と自然環境保全地域、都道府県が条例により指定する都道府県自然環境保全地域があります。これらの地域は、極力、自然環境をそのまま維持しようとする地域であり、我が国の生物多様性の保全にとって重要な役割を担っています。

 平成26年3月現在、原生自然環境保全地域として5地域(5,631ha)、自然環境保全地域として10地域(2万1,593ha)を指定しています。これらについて生態系の現況把握や標識の整備等を通じて、適正な保全管理に努めました。また、都道府県自然環境保全地域として543地域(7万7,398ha)が指定されています(表2-4-1)。

表2-4-1 数値で見る重要地域の状況

(2)自然公園

ア 公園区域及び公園計画の見直し

 自然公園法(昭和32年法律第161号)に基づいて指定される国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園は、国土の14.4%を占めており(図2-4-1)、国立・国定公園にあっては、適正な保護及び利用の増進を図るため、公園を取り巻く社会条件等の変化に応じ、公園区域及び公園計画の見直しを行っています。

 平成25年度は、三陸復興国立公園の指定や慶良間諸島国立公園の新規指定、伊勢志摩国立公園、山陰海岸国立公園、大山隠岐国立公園の公園区域や公園計画の見直しを実施しました。三陸復興国立公園は、公園計画の点検作業を進めていた陸中海岸国立公園において、平成23年3月11日の東日本大震災により地域社会や自然環境に大きな影響が生じたことを受け、地域の復興に貢献するため、自然の恵みと脅威、人と自然との共生により育まれてきた暮らしと文化が感じられる国立公園として、平成25年5月24日に青森県の種差海岸階上岳県立自然公園を陸中海岸国立公園に編入して新たに誕生しました。慶良間諸島国立公園は、平成26年3月5日に分割や拡張ではない新規指定として1987年(昭和62年)の釧路湿原国立公園の指定以来27年ぶりに指定し、31番目の国立公園となりました。海域を沖合7kmまで指定するこれまでにない国立公園となっており、多島海景観に加え、透明度の高い海域景観、高密度に生息するサンゴ、ザトウクジラの繁殖海域など、海から陸まで多様な生態系を有しています。三陸復興国立公園及び慶良間諸島国立公園は、平成22年10月に公表した国立・国定公園総点検事業(国立・国定公園の資質に関する総点検を行い、国立・国定公園の指定又は大規模な拡張の対象となり得る候補地を選定したもの)により選定した候補地に含まれるものです。

図2-4-1 国立公園及び国定公園の配置図

イ 自然公園の管理の充実

 生態系維持回復事業制度については、7つの国立公園において8つの生態系維持回復事業計画を策定しており、シカや外来種による生態系被害に対する総合的かつ順応的な対策を実施しました。また、外来種による捕食等で固有種が減少するなど深刻な影響が出ており、早急に本来の生態系の維持・回復を図るため重点的な対策を講じる必要がある小笠原国立公園及び西表石垣国立公園において、外来種防除実施計画に基づき防除事業を実施し、外来種の密度を減少させるとともに、生態系被害の調査モニタリングも実施し、本来の生態系の維持・回復を図る取組を推進しました。また、国立・国定公園内の植生や自然環境の復元等を目的とし、釧路湿原国立公園等において、植生復元施設や自然再生施設等の整備を推進しました。

 国立公園のうち自然保護上特に重要な地域を対象に、厳正な保護を図るため知床国立公園36haの民有地の買い上げを行いました。また、アクティブ・レンジャーを全国に配置し、現場管理の充実に努めました。

 地域との連携による公園管理については、自然公園法に基づく公園管理団体に、平成26年3月末現在、国立公園で5団体と国定公園で2団体が指定されています。

 国立公園等の貴重な自然環境を有する地域において、自然や社会状況を熟知した地元住民等を雇用し、シマフクロウやライチョウ等の貴重な野生生物の保護対策、オオハンゴンソウ等の外来種の駆除、景観対策としての展望地の再整備、登山道の補修等の作業を「国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業」により行いました。

ウ 自然公園における適正な利用の推進

 自動車乗入れの増大により、植生への悪影響、快適・安全な公園利用の阻害等に対処するため、「国立公園内における自動車利用適正化要綱」に基づき、平成25年度には、大雪山国立公園の高原温泉や中部山岳国立公園の上高地等の18国立公園において、自家用車に代わるバス運行等の対策を地域関係機関との協力の下、実施しました。

 国立公園等の山岳地域において、山岳環境の保全及び利用者の安全確保等を図るため、山小屋事業者等が公衆トイレとしてのサービスを補完する環境配慮型トイレ等の整備を行う場合に、その経費の一部を補助しており、平成25年度は中部山岳国立公園等の山岳トイレの整備を支援しました。

(3)鳥獣保護区

 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)に基づき、鳥獣の保護を図るため、国際的又は全国的な見地から特に重要な区域を国指定鳥獣保護区に指定しています。平成25年度は風蓮湖(ふうれんこ)、和白干潟(わじろひがた)・多々良川河口(たたらがわかこう)を拡張し、平成26年3月末現在、全国の国指定鳥獣保護区は81か所、58万3,511ha、同特別保護地区は66か所、15万8,853ha、同特別保護指定区域は2か所、1,159haとなっています。

(4)生息地等保護区

 種の保存法に基づき、国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域を生息地等保護区に指定しており、平成26年3月末現在、全国の生息地等保護区は9か所、885ha、このうち管理地区は9か所、385haとなっています。

(5)名勝(自然的なもの)、天然記念物

 文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づき、日本の峡谷、海浜等の名勝地で観賞上価値の高いものを名勝(自然的なもの)に、動植物、地質鉱物等で学術上価値が高く我が国の自然を記念するものを天然記念物に指定しており、平成25年3月現在、名勝(自然的なもの)は157件(うち特別名勝12件)、天然記念物は1,005件(うち特別天然記念物75件)を指定しています。さらに、天然記念物の衰退に対処するため関係地方公共団体と連携して、特別天然記念物コウノトリの野生復帰事業など23件について再生事業を実施しました。

(6)保護林、保安林

 我が国の森林のうち、優れた自然環境の保全を含む公益的機能の発揮のため特に必要な森林を保安林として計画的に指定し、適正な管理を行いました。また、国有林野のうち、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存等を図る上で重要な役割を果たしている森林については、自然環境の保全を第一とした管理経営を行いました。特に、原生的な森林生態系や希少な野生動植物の生息・生育地等について、「保護林」の設定等を推進しました。平成25年4月現在で849か所、約96万5,000haの「保護林」が設定され、モニタリング調査等による適切な保全・管理を推進しました。

(7)特別緑地保全地区など

 都市緑地法(昭和48年法律第72号)等に基づき、都市における生物の生息・生育地の核等として、生物の多様性を確保する観点から特別緑地保全地区等の都市における良好な自然的環境の確保に資する地域の指定による緑地の保全等の取組の推進を図りました。平成24年3月現在、全国の特別緑地保全地区等は472地区、6,129haとなっています。

(8)景観の保全

 景観の保全に関しては、自然公園法によって優れた自然の風景地を保護しているほか、景観法(平成16年法律第110号)に基づき、平成25年9月末現在、399団体で景観計画が定められています。また、文化財保護法により、平成25年3月現在、人と自然との関わりの中でつくり出されてきた重要文化的景観を35地域選定しています。

3 自然再生の推進

 自然再生推進法(平成14年法律第148号)に基づく自然再生協議会は、平成26年3月末現在、全国で25か所となっています。このうち24か所の協議会で自然再生全体構想が作成され、うち20か所で自然再生事業実施計画が作成されています。

 平成25年度は、国立公園における直轄事業7地区、地域自主戦略交付金で地方公共団体を支援する事業8地区の計15地区で自然再生事業を実施しました(図2-4-2)。これらの地区では、生態系調査や事業計画の作成、事業の実施、自然再生を通じた自然環境学習等を行いました。このほか、国立公園など生物多様性の保全上重要な地域と密接に関連する地域において都道府県が実施する生態系の保全・回復のための事業を支援するため、平成24年度に地域自主戦略交付金のメニューとして生物多様性保全回復整備に関する事業を追加しましたが、地域自主戦略交付金の廃止に伴い平成25年度に生物多様性保全回復施設整備交付金を創設しました。同事業により、熊本県が荒瀬ダムの撤去にあわせて実施する球磨川の生態系を回復する事業等を支援しました(写真2-4-1)。

図2-4-2 環境省の自然再生事業(実施箇所)の全国位置図

写真2-4-1 荒瀬ダム

4 農林水産業

 「農林水産省生物多様性戦略」(平成24年2月改定)に基づき、[1]田園地域・里地里山の保全(環境保全型農業直接支払いによる生物多様性保全に効果の高い営農活動に対する直接支援等)、[2]森林の保全(適切な間伐等)、[3]里海・海洋の保全(生態系全体の生産力の底上げを目指した漁場の整備等)など、農林水産分野における生物多様性の保全や持続可能な利用を推進しました。

 また、農林水産分野における生物多様性の経済評価や、生物多様性保全活動への企業等による支援を促す仕組みについて実地検証を行い、実用性・普及性の高い支援の仕組みを検討し、農林漁業者及び企業等向けの手引きとして取りまとめました。

5 里地里山・田園地域

(1)里地里山

 里地里山は、集落を取り巻く二次林と人工林、農地、ため池、草原等を構成要素としており、人為による適度なかく乱によって特有の環境が形成・維持され、固有種を含む多くの野生生物を育む地域となっています。また、希少種が集中して分布している地域の半数近くが里地里山に含まれています。

 このような里地里山の環境は、これまで農林業生産や生活の場として利用することにより維持されてきましたが、燃料改革や営農形態の変化などに伴う森林や農地の利用の低下に加え、人口の減少や高齢化の進行により里地里山における人間活動が縮小してきており、生物の生息・生育環境の悪化や衰退が進んでいます。こうした背景を踏まえ、都市住民などのボランティア活動への参加を促進するため、ホームページなどにより活動場所や専門家の紹介などを行うとともに、研修会などを開催し里地里山の保全・活用に向けた活動の継続・促進のための助言などの支援を実施しました。これに加え、地域や活動団体の参考となる里地里山の特徴的な取組事例を情報発信し、他の地域への取組の波及を図りました。

 さらに、里地里山の自然資源や生態系サービスを多様な主体が共有の資源として利用・管理する枠組みの構築に向けた自治体向けの手引書を策定し、普及を図りました。

 特別緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地方公共団体等との管理協定の締結による持続的な管理や市民への公開などの取組を推進しました。

 棚田や里山といった地域における人々と自然との関わりの中で形成されてきた文化的景観の保存活用のために行う調査、保存計画策定、整備、普及・啓発事業を補助する文化的景観保護推進事業を実施しました。

(2)田園地域

 農業農村整備事業においては、環境との調和への配慮の基本方針に基づき事業を実施するとともに、生態系の保全に配慮しながら生活環境の整備等を総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進しました。農村地域の生物や生息環境の情報の調査・地理情報化を行い、生物の生息・生育地と水路等の農業用施設との生態系ネットワーク化を図る技術の開発を進めました。また、地域の生態系を代表する種を「保全対象種」として示し、農家や地域住民の理解を得ながら生物多様性保全の視点を取り入れた基盤整備事業を推進しました。

 また、景観保全、自然再生活動の推進・定着を図るため、地域密着で活動を行っているNPO等に対し支援を実施するとともに、農業生産活動と調和した自然環境の保全・再生活動の普及・啓発のため、「田園自然再生活動コンクール」の実施を支援しました。

 棚田における農業生産活動により生ずる国土の保全、水源の涵(かん)養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動を推進したほか、農村の景観や環境を良好に整備・管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行いました。また、地域の創意と工夫をよりいかした「農山漁村活性化プロジェクト支援交付金」により、自然再生の視点に基づく環境創造型の整備を推進しました。

 持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の育成等を推進するとともに、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)に基づく有機農業の推進に関する基本的な方針の下で、栽培技術の体系化の取組等の支援、産地の販売企画力、生産技術力強化、販路拡大、施設の整備に関する支援を行いました。

6 森林

 森林のもつ多面的機能を持続的に発揮させるため、多様な森林づくりを推進しました。また、森林の保全を図るため、特に公益的機能の発揮が必要な森林を保安林に指定し、伐採・転用等の規制を行うとともに、豪雨や地震等による山地災害の防止を図るため、周辺の生態系に配慮しつつ荒廃地等の復旧整備や機能の低い森林の整備等を行う治山事業を計画的に実施したほか、松くい虫等の病害虫や野生鳥獣による森林の被害対策の総合的な実施、林野火災予防対策等を推進しました。また、東日本大震災により被災した海岸防災林の復旧・再生に向けて、平成24年2月に「今後における海岸防災林の再生について」を取りまとめるなど、復旧・再生に取り組みました。

 森林を社会全体で支えるという国民意識の醸成を図るため、企業、森林ボランティア等広範な主体による森林づくり活動、全国植樹祭等国土緑化行事及び「みどりの日」・「みどりの月間」を中心に行う緑化運動、巨樹・巨木林や里山林等身近な森林・樹木の適切な保全・管理のための技術開発及び普及啓発活動を支援するとともに、森林でのさまざまな体験活動を通じて、森林のもつ多面的機能等に対する国民の理解を促進する森林環境教育や、市民やボランティア団体等による里山林の保全・利用活動など、森林の多様な利用及びこれらに対応した整備を推進しました。

 森林の状態とその変化の動向を継続的に把握するための森林資源のモニタリング調査を実施するとともに、これまでのデータを活用して動態変化を解析する手法の検討を行いました。

 COP10の日本開催等を契機として、生物多様性国家戦略2010や平成21年7月に取りまとめられた「森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用の推進方策」に基づき、森林生態系の調査のほか、森林の保護・管理技術の開発など、森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた施策を推進するとともに、我が国における森林の生物多様性保全にかかわる取組を国内外に発信しました。

 国有林野については、公益的機能の維持増進を旨とする管理経営の方針の下で、林木だけでなく下層植生や動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目し、人工林の間伐や長伐期化、広葉樹の導入による育成複層林への誘導を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した多様な森林施業を推進しました。優れた自然環境を有する森林の保全・管理や国有林野を活用して民間団体等が行う自然再生活動を積極的に推進しました。さらに、野生鳥獣との棲(す)み分け、共存を可能にする地域づくりに取り組むため、地域等と連携し、野生鳥獣との共存に向けた生息環境の整備と個体数管理等の総合的な対策を実施しました。

7 都市

(1)緑地、水辺の保全・再生・創出・管理

 緑豊かで良好な都市環境の形成を図るため、都市緑地法(昭和48年法律第72号)に基づく特別緑地保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体等による土地の買入れ等を推進しました。また、平成23年10月、市町村が緑の基本計画を策定する際の参考資料として、「策緑の基本計画における生物多様性の確保に関する技術的配慮事項」を策定し、地方公共団体における都市の生物多様性の確保の取組の促進を図りました。

 首都圏近郊緑地保全法(昭和41年法律第101号)及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和42年法律第103号)に基づき指定された近郊緑地保全区域において、地方公共団体等による土地の買入れ等を推進しました。都市緑化に関しては、緑が不足している市街地等において、緑化地域制度や地区計画等緑化率条例制度等の活用により建築物の敷地内の空地や屋上等の民有地における緑化を推進するとともに、市民緑地契約や緑地協定の締結を推進しました。さらに、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区の指定を推進しました。

 緑化推進連絡会議を中心に、国土の緑化に関し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図りました。また、都市緑化の推進として、「春季における都市緑化推進運動」期間(4~6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、普及啓発活動を実施しました。

 都市における多様な生物の生息・生育地となるせせらぎ水路の整備や下水処理水の再利用等による水辺の保全・再生・創出を図りました。

(2)都市公園の整備

 都市における緑とオープンスペースを確保し、水と緑が豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、都市公園の整備、緑地の保全、民有緑地の公開に必要な施設整備を支援する「都市公園等事業」を実施しました。

(3)国民公園及び戦没者墓苑

 旧皇室苑地として広く一般に利用され親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、その環境を維持するため、施設の改修、園内の清掃、芝生・樹木の手入れ等を行いました。

8 河川・湿原

(1)河川の保全・再生

 河川やダム湖等における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施し、結果を河川環境データベース(http://mizukoku.nilim.go.jp/ksnkankyo/index.html(別ウィンドウ))として公表しています。また、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川や湖沼の自然環境保全・復元のための研究を進めました。加えて、生態学的な観点より河川を理解し、川のあるべき姿を探るために、河川生態学術研究を進めました。

 平成18年10月に策定した「多自然川づくり基本指針」により、多自然川づくりはすべての川づくりの基本として、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境等の保全・創出に取り組んでいるところであり、平成22年8月に通知した「中小河川に関する河道計画の技術基準について」により、治水対策を効率的・効果的に推進するとともに、良好な河川環境の形成に努めているところです。さらに、災害復旧事業においても、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境の保全・復元の目的を徹底しました。

(2)湿地の保全・再生

 湿原や干潟等の湿地は、多様な動植物の生息・生育地等として重要な場です。しかし、これらの湿地は全国的に減少・劣化の傾向にあるため、その保全の強化と、すでに失われてしまった湿地の再生・修復の手だてを講じることが必要です。

 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全に関する条約(以下「ラムサール条約」という。)に関しては、国内では46か所のラムサール条約湿地が登録されています。また、湿原、河川、湖沼、干潟、藻場、マングローブ林、サンゴ礁など、国内の500か所の湿地を「日本の重要湿地500」として平成13年度に選定しています。これらの湿地とその周辺における保全上の配慮の必要性について普及啓発を進めるとともに、選定から10年以上を経た環境の変化を踏まえ、重要湿地の見直しのための情報収集に着手しました。

 過去の開発等により失われた河川などの良好な自然環境の保全・再生を図るため、湿地等の保全・再生に取り組んでいるところです。

(3)土砂災害対策に当たっての環境配慮

 生物多様性を保全しながら土砂災害から住民の安全・財産を守る砂防事業を進めるため、六甲地区等、都市周縁に広がる山麓斜面において、グリーンベルトとして一連の樹林帯を整備しました。また、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流や里山等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工などを実施しました。

9 沿岸・海洋

(1)沿岸・海洋域の保全

 海洋基本計画に基づき明確化された、我が国における海洋保護区の設定のあり方と、これに沿った取組を国内外で発信しました。また、海洋基本計画、生物多様性国家戦略及び海洋生物多様性保全戦略に基づき、生物多様性の保全上重要度の高い海域(重要海域)を抽出するなど、海洋生物多様性の保全に向けた検討を進めました。

 ウミガメの産卵地となる海浜については、自然公園法に基づく乗入れ規制地区に指定されている地区においてオフロード車等の進入を禁止するなどにより保護を図りました。

 有明海・八代海における海域環境調査、東京湾等における水質等のモニタリング、海洋短波レーダーを活用した流況調査、水産資源に関する調査や海域環境情報システムの運用等を行いました。

 サンゴ礁生態系保全行動計画に基づく保全の取組を推進するとともに、行動計画の進捗状況を点検しました。

(2)水産資源の保護管理

 水産資源の保護・管理については、漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づく海洋生物資源の採捕量の管理及び漁獲努力量に着目した管理を行ったほか、[1]保護水面の管理等、[2]「資源回復計画」の作成・実施、[3]外来魚の駆除、環境・生態系と調和した増殖・管理手法の開発、魚道や産卵場の造成等、[4]ミンククジラ等の生態、資源量、回遊等調査、[5]ウミガメ(ヒメウミガメ、オサガメ)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ、コククジラ)及びジュゴンの原則採捕禁止等、[6]希少水生生物に関する現地調査及び保護手法の検討、[7]サメ類の保存・管理及び海鳥の偶発的捕獲の対策に関する行動計画の実施促進、[8]混獲防止技術の開発等を実施しました。

 海洋生物の生理機能を解明して革新的な生産につなげる研究開発と生物資源の正確な資源量の変動予測を目的に生態系を総合的に解明する研究開発を実施するとともに、独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業として海洋生物の観測・モニタリング技術の研究開発を推進しました。

(3)海岸環境の整備

 海岸保全施設の整備においては、海岸法(昭和31年法律第101号)の目的である防護・環境・利用の調和に配慮した整備を実施しました。

(4)港湾及び漁港・漁場における環境の整備

 港の良好な自然環境の市民による利活用を促進し、自然環境の大切さを学ぶ機会の充実を図るため、自治体やNPOなどが行う自然体験・環境教育活動等の場ともなる藻場・干潟等の整備を行いました。また、海辺の自然環境をいかした自然体験・環境教育を行う「海辺の自然学校」等の取組を推進しました。

 漁港・漁場では、水産資源の持続的な利用と豊かな自然環境の創造を図るため、漁場の環境改善を図るための堆積物の除去等の整備を行う水域環境保全対策を22地区で実施したほか、水産動植物の生息・繁殖に配慮した構造を有する護岸等の整備を総合的に行う「自然調和・活用型漁港漁場づくり推進事業」を全国11地区で実施しました。また、藻場・干潟の保全等を推進したほか、漁場環境を保全するための森林整備に46都道府県で取り組みました。さらに、木材利用率が高い増殖礁の開発や漁場機能を強化する技術の開発・実証に全国14地区で取り組みました。加えて、サンゴの有性生殖による種苗生産を中心としたサンゴ増殖技術の開発に取り組みました。