環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第3節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

第3節 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する取組

1 絶滅のおそれのある種の保存

(1)レッドリストとレッドデータブック

 野生生物の保全のためには、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、一般への理解を広める必要があることから、環境省では、レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)を作成・公表するとともに、これを基にしたレッドデータブック(レッドリスト掲載種の生息・生育状況等を解説した資料)を刊行しています。

 レッドリストについては、平成25年2月までに、第4次レッドリストを公表しました。レッドリストに掲載された絶滅のおそれのある種数は10分類群合計で3,597種となっています。また、この第4次レッドリストを基にした、レッドデータブックの作成作業を進め、平成26年度に公表する予定です。

(2)希少野生動植物の保存

 絶滅のおそれのある野生生物の保全に関するこれまでの施策の実施状況について、有識者による会議を開催し、点検を行いました。また、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種は、哺乳類5種、鳥類37種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類15種、植物26種の89種を指定し、捕獲や譲渡し等を規制するとともに、そのうち49種について保護増殖事業計画を策定し、生息地の整備や個体の繁殖等の保護増殖事業を行っています(図2-3-1)。また、同法に基づき指定している全国9か所の生息地等保護区において、保護区内の国内希少野生動植物種の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。

図2-3-1 主な保護増殖事業の概要

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)及び二国間渡り鳥条約等により、国際的に協力して種の保存を図るべき688種類を、国際希少野生動植物種として指定しています。

 絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターを、平成25年3月末現在、8か所で設置しています。

 トキについては、平成24年に引き続き4羽が無事巣立ち、2年連続の野生下で繁殖成功となりました。平成26年1月現在では、97羽の生存を確認しています。放鳥については、平成25年6月に第8回目、9月に第9回目の放鳥を実施しました。

 ツシマヤマネコについては、2010年代前半の推定生息数や分布状況等の生息状況をまとめた第4次特別調査の結果を公表しました。また、飼育下繁殖の技術確立の推進のため、公益社団法人日本動物園水族館協会との連携を強化し、全国の飼育園館9施設等の関係者による技術向上や新たなペアリング計画の取組の検討を進めました。さらに、平成24年度に対馬の下島における野生順化関連施設の拠点施設が完成し、平成25年度は野生順化訓練ケージの整備を進めました。

 絶滅のおそれのある猛禽(もうきん)類については、平成25年12月にタカ科の鳥であるサシバの保護指針である「サシバの保護の進め方」を取りまとめました。さらに、猛禽(もうきん)類の採餌環境の創出のための間伐の実施等、効果的な森林の整備・保全を実施しました。

 沖縄島周辺海域に生息するジュゴンについては、生息状況調査や地域住民への普及啓発を進めるとともに、全般的な保護方策を検討するため、地元関係者等との情報交換等を実施しました。

(3)生息域外保全

 トキ、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナなど、絶滅の危険性が極めて高く、本来の生息域内における保全施策のみでは近い将来種を存続させることが困難となるおそれがある種について、飼育下繁殖を実施するなど生息域外保全の取組を進めています。また、ヒメバラモミのクローン苗を植栽し、遺伝資源林2か所を造成するとともに、適切な保全・管理を行っています。さらに、新宿御苑においては、絶滅危惧植物の種子保存を実施しています。

 平成19年度から体系的な生息域外保全のあり方についての検討を行い、20年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」を、22年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の野生復帰に関する基本的な考え方」を取りまとめました。23年度はそれらを分かりやすく解説したパンフレットとホームページ(http://www.env.go.jp/nature/yasei/ex-situ/(別ウィンドウ))を作成するとともに、24年度は「絶滅のおそれのある野生動植物の生息域外保全実施計画作成マニュアル」を作成しました。25年度以降はこれらの普及に努めるとともに、新たに検討を始めたライチョウ保護増殖事業における生息域外保全実施計画でも基本方針に沿って検討を行っています。

ツシマヤマネコ保護増殖事業の取組

 ツシマヤマネコは長崎県対馬にのみ生息し、最新の2010年代前半の推定生息数は上島を中心に多くても約100頭と推定されています。環境省レッドリストで最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧ⅠA類に選定されており、平成6年に種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されました。平成7年には「ツシマヤマネコ保護増殖事業計画」を策定し、地域住民や地元自治体等と連携して生息状況のモニタリング、生息環境の改善等の取組を進めています。しかし、平成25年度に公表した第四次特別調査では、分布域が広がった等の良い点もありましたが、生息推定数は前回の2000年代前半と比べて横ばいまたはやや減少という結果となり、ツシマヤマネコの生息状況は依然としてよくなったとはいい難い状況です。今後も生息環境の改善等の取組を地道に継続していくことが重要です。

 生息域内保全の取組は時間を要するため、保険としての種の保存等の目的から飼育下繁殖事業も進めています。全国9か所の動物園の協力を得て、これまでに45頭が飼育下で誕生していますが、平成21年から4シーズン続けて繁殖がうまくいかない状況が続いており、繁殖技術が確立しているとはまだいえない状況です。そこで、平成25年度には公益社団法人日本動物園水族館協会との連携を強化し、福岡市動物園と西海国立公園九十九島動植物園を繁殖拠点として、繁殖の可能性の高い年齢の個体を集約するなどの繁殖に向けた取組を行っています。

ツシマヤマネコ

 さらに、平成24年度からは対馬の下島で野生順化関連施設の整備を進めており、日本では初となる哺乳類の野生復帰について技術確立を目指した取組も行っていきます。課題は多くありますが、ツシマヤマネコが本来の生息地で安定的に生息できるよう、今後も多様な主体と連携し保全の取組を進めていきます。

2 野生鳥獣の保護管理

(1)科学的・計画的な保護管理

 長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容を記した、「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。

 狩猟者人口は、約53万人(昭和45年度)から約20万人(平成23年度)まで減少し、高齢化も進んでおり、被害防止のための捕獲などを行う鳥獣保護管理の担い手の育成が求められています。このため、狩猟免許の取得促進へ向けたフォーラムの開催、都道府県職員への研修事業、鳥獣保護管理に係る人材登録事業を実施したほか、地域ぐるみでの捕獲を進めるモデル地域を設定し、先進地づくりを進めました。

 クマ類の出没・目撃情報が各地で多数相次いだことから、関係省庁が連携して都道府県に対する情報提供や注意喚起等を実施しました。

 都道府県における特定鳥獣保護管理計画作成や保護管理のより効果的な実施のため、平成24年度に設置した特定鳥獣5種(イノシシ、クマ類、ニホンザル、ニホンジカ、カワウ)の保護管理検討会を継続して開催するとともに、技術研修会を開催しました。カワウについては、平成16年に作成した「特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル(カワウ編)」について、その後の状況の変化等を踏まえ、大幅に見直し、「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き(カワウ編)」として取りまとめました。

 関東地域、中部近畿地域におけるカワウ、白山・奥美濃地域のツキノワグマ、関東山地のニホンジカについて、広域協議会を開催し、関係者間の情報の共有等を行いました。また、関東カワウ広域協議会においては、一斉追い払い等の事業を実施するとともに、関東山地ニホンジカ広域協議会においては、実施計画(中期・年次)に基づき、関係機関の連携のもと、各種対策を推進しました。

 希少鳥獣であるゼニガタアザラシによる漁業被害が深刻化しているため、種の保全に十分配慮しながら総合的な保護管理手法を検討しました。

 適切な狩猟が鳥獣の個体数管理に果たす効果等にかんがみ、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、連絡会議等を通じて事故及び違法行為の防止へ向けた助言を行いました。

 渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーションにおける鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査等を実施しました。また、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅル等の保護対策として、生息環境の保全、整備を実施するとともに、越冬地の分散を図るための事業を実施しました。

 悪化した鳥獣の生息環境や生息地の保護及び整備を図るため、谷津(千葉県)、鳥島(東京都)、片野鴨池(石川県)、七ツ島(石川県)、浜甲子園(兵庫県)、漫湖(沖縄県)、大東諸島(沖縄県)の各国指定鳥獣保護区において保全事業を実施しました。

 野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として奈良県橿原市において第67回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、小中学校及び高等学校等を対象として野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

ニホンジカの数をかぞえる!?

 ニホンジカ(以下「シカ」という。)は北海道から九州まで多くの地域に生息しています。各地の縄文遺跡から骨片が出土するなど、有史以前から人との関わりが大変深い動物です。肉は重要な動物性タンパク源として、毛皮は衣類、角や骨は釣針や矢じりの材料として利用できることから、盛んに狩猟が行われました。江戸時代の末期には平野部から姿が見えなくなるほど減少したといわれています。

 明治時代以降も、各地でシカの狩猟規制が行われ低密度安定状態が続きましたが、1970年代に入りその数が徐々に回復し始めると、1980年代以降は各地でさらに増加し、農林業被害や自然植生への影響が深刻化していきました。その結果、ある地域ではシカに樹皮を食べられた木々が枯れ、森林が衰退し、そこをすみかとする他の鳥獣や昆虫など多くの動植物に影響が生じています。また、生物多様性の屋台骨である国立公園にも被害が及んでいるほか、土壌侵食や表土流出が発生している地域もあり、生物多様性のみならず国土保全上の懸念も生じています。

ニホンジカによる植生被害

群れで草を食べるシカ

 こうした状況に対し、国や地方公共団体等がさまざまな対策を進めており、シカ捕獲数も増加していますが、依然として被害は拡大傾向にあります。繁殖力が高く毎年安定的に個体数が増加するシカに対し捕獲が十分ではないことが要因の1つと考えられます。

ニホンジカの捕獲頭数の推移

ニホンジカの推定個体数

 シカによる生態系や農林業への被害を軽減・解消するためには、シカ個体数を把握した上で、必要な対策を計画的に実施していくことが重要です。しかし、野外で自由に生息する動物を直接確認して全ての数をかぞえることはできません。これまでさまざまな手法により推定が試みられてきましたが、推定の幅が広いことや、調査手法の性質から推定値が過少となることなど、推定精度の向上が課題となっていました。

 近年、自然界の生き物の数を推定するための研究が進められ、マグロの資源量など、水産資源管理の分野で活用が進んでいます。今回、この統計手法をシカに用いて本州以南の個体数の推定を行いました。その結果、全国のニホンジカ(北海道を除く)の個体数は、中央値で261万頭(平成23年度)と推定されました。なお、この数値は全国的にデータが豊富に存在するシカの捕獲数等から統計的に推定したものであり、結果に幅があることに注意が必要です。

 また、現在の捕獲率を維持した場合のシカの数をシミュレーションしたところ、平成37年度には中央値で平成23年のほぼ倍となる500万頭まで増加する結果となりました。このことは、現行の対策のみでは、生態系等に対しさらに甚大な被害をもたらすおそれがあり、今後緊急かつ大規模な個体数調整(捕獲)が必要であることを示唆しています。

 対策にあたっては、個体数の把握と鳥獣管理の目指すべき姿を明らかにすることが不可欠であり、引き続き、調査体制の整備や推定精度の向上を図っていくこととしています。

ニホンジカの個体数増加の将来シミュレーション
(2)鳥獣被害対策

 野生鳥獣の生態及び行動特性を踏まえた効果的な追い払い技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、捕獲獣肉利活用マニュアルの作成等の対策を推進するとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施しました。

 農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況にあることを背景として、その防止のための施策を総合的かつ効果的に推進することにより、農林水産業の発展及び農山漁村地域の振興に寄与することを目的とする鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)が成立し、平成20年2月から施行されました。この法律に基づき、市町村における被害防止計画の作成を推進し、鳥獣被害対策の体制整備等を推進しました。

 近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、効果的な追い払い手法の実証試験及び被害を受ける刺し網等の改良等を促進しました。

 さらに、近年の鳥獣による生態系等に係る被害の深刻化及び鳥獣捕獲の担い手の減少を受け、また、鳥獣保護法施行後5年が経過したことから、中央環境審議会自然環境部会において施行状況の検討を行い、平成26年1月に「鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき講ずべき措置について」の答申を得ました。それを踏まえて、集中的かつ広域的に管理を図る必要がある鳥獣の捕獲等をする事業の創設、鳥獣の捕獲をする事業の認定制度の導入等の措置を講ずるため、鳥獣保護法の一部を改正する法律案を第186回国会に提出しました。

(3)鳥インフルエンザ等感染症対策

 平成16年以降、野鳥及び家きんにおいて、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)が確認されていることから、「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」に基づき、渡り鳥等を対象として、ウイルス保有状況調査を全国で実施し、その結果を公表しました。また、人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査や国指定鳥獣保護区等への渡り鳥の飛来状況についてホームページ等を通じた情報提供を行うなど、効率的かつ効果的に対策を実施しました。さらに、その他の野生鳥獣がかかわる感染症について情報収集、発生時の対応の検討等を行いました。

鳥インフルエンザA(H7N9)を含めた野鳥での鳥インフルエンザの調査について

 2013年(平成25年)3月から、中国において、鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)の人への感染・死亡事例が継続して確認されました。鳥インフルエンザウイルスA(H7N9)は、中国の市場で販売されていたニワトリ、ハト等から検出され、さらに同年4月には、江蘇省南京市で捕獲された野生のハトからも検出されたと発表されました。

 環境省では、平時から野鳥での鳥インフルエンザウイルスの保有状況調査を実施しており、当該ウイルスは検出されていませんでしたが、念のため、主に、春から夏にかけて中国から日本に渡ってくる可能性のある鳥類を対象に、国内での調査を追加的に実施しました。

 平成25年4月下旬から5月下旬にかけて、シギ・チドリ類が飛来する干潟、サギ類の集団繁殖地等7か所から、計338検体(口腔・総排泄腔ぬぐい液あるいは糞便)を採取し検査したところ、鳥インフルエンザウイルスは確認されませんでした。

検体採取の様子1(口腔・総排泄腔ぬぐい液を採取しているところ)

検体採取の様子2(糞便を採取しているところ)

 人への感染については、万が一野鳥で検出された場合であっても、日常生活においては死亡した野鳥などには素手で触らず、鳥のフン等に触れた場合は手洗いとうがいをすれば、過度に心配する必要はありません。野生動物との適度な距離を保ち、適切な情報を得ることにより冷静な行動をお願いします。

 環境省では、引き続き、野鳥での鳥インフルエンザウイルスの保有状況調査等を実施するとともに、情報収集及び提供に努め、ホームページ(http://www.env.go.jp/nature/choju/index.html(別ウィンドウ))において調査結果等を公開しています。

3 外来種等への対応

(1)外来種対策

 外来生物法に基づき、107種類の特定外来生物(平成26年1月現在)の輸入、飼養等を規制しています。また、奄美大島や沖縄島北部(やんばる地域)の希少動物を捕食するマングースの防除事業、小笠原諸島内の国有林野におけるアカギ等の外来種の駆除等のほか、アライグマ、オオクチバスやアルゼンチンアリについての防除手法等の検討を進めました。また、湿地等の生態系を改変させるイネ科植物のヒガタアシ(スパルティナ・アルテルニフロラ)等の侵入初期段階の外来種の緊急防除等、具体的な対策を進めました。さらに、外来種の適正な飼育に係る呼びかけ、ホームページ(http://www.env.go.jp/nature/intro/(別ウィンドウ))等での普及啓発を実施しました。

 また、外来生物法の一部を改正する法律が、平成25年6月に第183回国会において成立、公布されました。さらに、この改正を受けた特定外来生物被害防止基本方針の変更について、中央環境審議会自然環境部会において検討が行われ、同年12月に変更案について答申がなされました。この答申をふまえ、平成26年3月に基本方針の変更が閣議決定されました。また、改正外来生物法の施行に向けた政省令の改正等の準備を進めました。

 外来種全般に関する中期的な総合戦略である外来種被害防止行動計画(仮称)や、我が国の生態系等に係る被害を及ぼす、又は及ぼすおそれのある外来種のリストである侵略的外来種リスト(仮称)の作成に向けた会議を開催し、検討を進めました。

やんばる地域・奄美大島におけるマングース対策

1 豊かな生物多様性

 沖縄島北部やんばる地域や奄美大島の亜熱帯照葉樹の森には、多くの固有種が育まれています。ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどは、その代表です。平成25年1月、このようなすばらしい自然を人類共通の宝として将来に引き継いでいくため、「奄美・琉球」を我が国の世界遺産暫定一覧表に記載することを政府として決定しました。環境省では、世界自然遺産登録を目指して、外来種対策などさまざまな取組を関係者とともに進めています。


2 マングースの侵入と被害

 フイリマングースは、もともと南アジアに広く生息する哺乳類ですが、明治43年、ハブなどの駆除を目的として沖縄島に放されました。奄美大島には、昭和54年に30頭が放されたとされています。しかし当初の想定とは異なりマングースはハブの天敵とはならず、代わりに沖縄島(特にやんばる地域)・奄美大島に生息する多くの動物を捕食することになってしまいました。奄美大島では、ピーク時にマングースの個体数が1万頭まで増えたと推定されています。

フイリマングース(Herpestes auropunctatus)


3 組織的なマングース対策

 環境省は、平成12年から奄美大島で、平成13年からやんばる地域で本格的なマングース駆除に着手し、平成17年からは「やんばる地域・奄美大島からのマングースの完全排除」を目標に、外来生物法に基づく防除事業を進めています。この事業の中心を担うのが、マングース捕獲のための専門チーム「やんばるマングースバスターズ」と「奄美マングースバスターズ」です。山中に計画的に設置されたそれぞれ3万個を超えるマングース捕獲わなの点検、自動撮影カメラによるマングース生息情報の収集、マングース探索犬によるきめ細かな探索など、組織的な防除を進めています。なお、やんばる地域では、固有の生物相を有する地域への中南部からのマングース侵入を防止するために、沖縄県により北上防止柵も設置されています。

奄美マングースバスターズ

マングース探索犬

 マングース防除事業が始まって9年目を迎える現在、このような日々の根気強い取組が実を結び、マングースの完全排除に向け着実な成果が現れています。両地域ともに、マングースの捕獲数は年々減少し、その生息数はやんばる地域では150頭前後、奄美大島では300頭程度と推定されるまでになりました。分布域も狭まり、局所的な排除が達成されつつある地域も出てきています。最近では、マングースの減少に伴って、ヤンバルクイナ、アマミノクロウサギやアマミトゲネズミなど在来種の回復も確認されるようになりました。

マングース捕獲数(上)と捕獲地点(下)の経年変化

 このような成果を踏まえ、平成25年に「10年後までのやんばる地域・奄美大島からのマングースの完全排除」を目標とした新たな防除実施計画をそれぞれの地域で策定しました。特に奄美大島は、これほど大きな島でのマングースの完全排除は、世界的にも例がありません。マングースが低密度化しているため、根絶に向けてはより一層効果的な手法での捕獲が求められるなどの課題もありますが、目標の達成に向け、一つひとつ適切な対策を講じて進めています。

(2)遺伝子組換え生物への対応

 バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき、平成26年3月末現在、277件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウス(http:www.bch.biodic.go.jp/(別ウィンドウ))を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な3つの輸入港周辺の河川敷において遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査等を行いました。

4 動物の愛護と適正な管理

 それまで動物の愛護と管理を目的とした総合的な法律がなく、国民の間で動物の愛護と管理への関心が高まってきたことから、昭和48年に動物の保護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)が制定されました。この法律は、動物の所有者やペットショップ等の動物を取り扱う事業者に対する動物の適正な飼養や取扱について定めています。これまで、平成11年、17年、24年に改正し、動物の取扱の規制や罰則の強化等を図るとともに、普及啓発等を行い、動物の愛護と適正な管理の推進を図ってきました。平成24年の改正では、人と動物の共生する社会の実現や、動物の所有者の責務としての終生飼養が明確にされるとともに、ペットショップ等の動物取扱業者に対する規制強化、愛護動物をみだりに殺傷・虐待・遺棄した場合の罰則の強化等がなされたことから、その周知を図るために自治体や事業者に対する説明会の開催、パンフレットの作成、配布等を行いました。

 動物の愛護及び管理に関する法律の改正を踏まえ、政省令の改正や各種基準、動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)が見直されました。基本指針においては、平成35年度を目処に都道府県等に引き取られる犬猫の数を、平成16年度に比べ75%減となるおおむね10万頭を目指すとともに、引き取られた犬猫の殺処分率のさらなる減少を図ること等の見直しがなされました。また、これらの施策の進捗については毎年点検を行っており、このうち、平成24年度に飼育放棄等によって都道府県等に引き取られた犬猫の数は平成16年度に比べ約50%減少し、返還・譲渡数は約64%増加しました。殺処分数は毎年減少傾向にあり、約16万頭(調査を始めた昭和49年度の約8分の1)まで減少しました(図2-3-2)。また、マイクロチップの登録数は、年々増加しており、平成26年3月末現在累計約90万件ですが、犬猫等の飼養数全体の4%程度と推測されています。

図2-3-2 全国の犬猫の引取り数の推移

 こうした収容動物の譲渡及び返還を促進するため、都道府県等の収容・譲渡施設の整備に係る費用の補助を行いました。また、適正な譲渡及び効果的な飼い主教育に関する自治体の取組を推進することを目的に、自治体向けの適正譲渡講習会及び適正飼養講習会を実施しました。また、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成20年法律第83号)について普及啓発を行いました。

 広く国民が動物の虐待の防止や適正な取扱などに関して正しい知識と理解を持つため、関係行政機関、団体との協力の下、“捨てず、増やさず、飼うなら一生”をテーマとして、上野恩賜公園等で動物愛護週間中央行事を開催したほか、多くの関係自治体等においてさまざまな行事が実施されました。

 平成25年11月より、犬猫の殺処分がなくなることを目指した今後の対策を検討するために「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」を始めました。

5 遺伝資源等の持続可能な利用

(1)遺伝資源の利用と保存

 医薬品の開発や農作物の品種改良など、生物資源がもつ有用性の価値は拡大する一方、世界的に見れば森林の減少や砂漠化の進行などにより、多様な遺伝資源が減少・消失の危機に瀕しており、貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、これを積極的に活用していくことが重要となっています。

 農林水産分野では、関係機関が連携して、動植物、微生物、DNA、林木、水産生物などの国内外の遺伝資源の収集、保存などを行っており、植物遺伝資源22万点をはじめ、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行っています。また、海外から研究者を受け入れ、遺伝資源の保護と利用のための研修を行いました。

 さらに、国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得し利用を促進するために必要な情報の収集・提供や、相手国等との意見調整の支援等を行いました。

 ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等の生物遺伝資源のうち、マウス、シロイヌナズナ等の29のリソースについて、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」により、大学・研究機関等において、生物遺伝資源の戦略的・体系的な収集・保存・提供等を行いました。また、「大学連携バイオバックアッププロジェクト」により、途絶えると二度と復元できない実験途上の貴重な生物遺伝資源を広域災害等から保護するための体制を強化し、受入れを開始しました。

(2)微生物資源の利用と保存

 独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との生物多様性条約の精神に則った国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、我が国の企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを行いました。

 我が国の微生物などに関する中核的な生物遺伝資源機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源センターにおいて、生物遺伝資源の収集、保存などを行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能などに関する情報)を整備し、生物遺伝資源とあわせて提供しました。

(3)遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)

 第5節  1  (  2  )を参照。