環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~>第1節 生物多様性の現状

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用
~豊かな自然共生社会の実現に向けて~

第2章では、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組について記述します。はじめに、生物多様性の現状として、平成24年9月に閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」の進捗状況及び全国的に問題となっている野生生物の適正な保全・管理に向けた取組についてふれ、続いて、生物多様性国家戦略の5つの基本戦略に沿って、それぞれに関連する取組を報告します。また、東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組について記述します。

第1節 生物多様性の現状

1 生物多様性国家戦略の進捗

 平成22年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10、以下締約国会議を「COP」という。)において採択された愛知目標を踏まえ、平成24年9月に「生物多様性国家戦略2012-2020」を閣議決定しました。愛知目標については、平成26年10月に韓国で開催される生物多様性条約第12回締約国会議(COP12)において、その達成状況に関する中間評価が実施されることから、閣議決定から約1年間における生物多様性国家戦略の実施状況について点検を行いました。

 点検ではおおむね平成32年度までの間に重点的に取り組む国の施策の大きな方向性として生物多様性国家戦略2012-2020に示されている5つの基本戦略([1]生物多様性を社会に浸透させる、[2]地域における人と自然の関係を見直し、再構築する、[3]森・里・川・海のつながりを確保する、[4]地球規模の視野を持って行動する、[5]科学的基盤を強化し、政策に結びつける)ごとに達成状況を点検するとともに、愛知目標を踏まえて設定した13の国別目標と48の主要行動目標について達成状況を点検しました。また、政府の行動計画として生物多様性の保全と持続可能な利用を実現するため体系的に網羅した約700の具体的施策について進捗状況や具体的課題等の点検を行いました。このうち、数値目標を設定した50の具体的施策に基づき、基本戦略1から4の達成状況をみてみると(基本戦略5に該当する数値目標の設定はなし)、既に目標を達成したものもありますが、策定から1年ということもあり、多くの項目において、引き続き、目標達成に向けた取組が必要な状況にあります(表2-1-1)。そのほかの具体的な施策についても、おおむね全ての施策に進展がみられていますが、ほとんどの施策が着手・進捗段階にあります。

表2-1-1 数値目標からみた基本戦略の達成状況

 生物多様性国家戦略2012-2020については、COP12における愛知目標の達成状況に関する中間評価を踏まえ、必要に応じて見直しを実施することとしていますが、適切な数値目標の設定も含め、検討を進めていく必要があります。

2 野生生物の適正な保全・管理に向けて

(1)絶滅危惧種保全の推進に向けた取組

ア 世界及び日本の絶滅危惧種

 世界の野生生物の絶滅のおそれの現状を把握するため、国際自然保護連合(IUCN)では、個々の種の絶滅のおそれの度合いを評価して、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧種)を選定し、それらの種のリストを「レッドリスト」として公表しています。平成25年3月に公表されたIUCNのレッドリストでは、既知の約175万種のうち、7万1,335種について評価されており、そのうちの約3割が絶滅危惧種として選定されています。哺乳類、鳥類、両生類については、既知の種のほぼすべてが評価されており、哺乳類の2割、鳥類の1割、両生類の3割が絶滅危惧種に選定されています。また既に絶滅したと判断された種は、799種(動物709種、植物90種)となっています(図2-1-1)。国連で平成13~17年に実施されたミレニアム生態系評価では化石から当時の絶滅のスピードを計算しており、100年間で100万種あたり10~100種が絶滅していたとしています。過去100年間で記録のある哺乳類、鳥類、両生類で絶滅したと評価されたのは2万種中100種であり、これを100万種あたりの絶滅種数とすると5,000種となるため、過去と比較して絶滅のスピードが増していることが分かります。


図2-1-1 世界自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧種の評価状況

 日本の野生生物の現状について、環境省では平成3年に「日本の絶滅のおそれのある野生生物」を発行して以降、定期的にレッドリストの見直しを実施しており、平成24年8月及び25年2月に第4次レッドリストを公表しました。絶滅のおそれのある種として第4次レッドリストに掲載された種数は、10分類群合計で3,597種であり、平成18~19年度に公表した第3次レッドリストから442種増加しました(表2-1-2)。

表2-1-2 日本の絶滅のおそれのある野生生物の種類

 今回の見直しから干潟の貝類を初めて評価の対象に加えた等の事情はありますが、我が国の野生生物が置かれている状況は依然として厳しいことが明らかになりました。

イ 絶滅危惧種の保全政策の点検と制度改正

 環境省では、平成23年度に、絶滅のおそれのある野生生物の保全について、有識者による点検会議において、これまでの我が国の政策の実施状況を点検しました。点検では、我が国の絶滅のおそれのある野生生物については、絶滅危惧種の保全の優先度の考え方を示すとともに、種の特性や減少要因に応じた効果的な保全の推進や、保全のための情報収集及び連携体制整備等の必要性が提言されました。また、国際的に保護される種を含む希少野生生物の国内流通管理に関しては、基本的な考え方が示されるとともに、罰則や登録制度の運用強化、規制の範囲の検討や普及広報の推進等の必要性が提言されました。

 その後、平成24年11月には中央環境審議会に「絶滅のおそれのある野生生物の保全につき今後講ずべき措置について」諮問し、平成25年3月に答申を得ました。答申では、平成23年度の点検の結果を基本とした検討の上、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)」について登録票の管理方法等の改善や罰則の強化を早期に講じて、希少野生動植物種の国内流通を適切に規制し管理するとともに、我が国の絶滅危惧種の保全の取組を全国的かつ計画的に進めるため、「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略」を作成し、基本的な考え方や具体的な施策の展開方法についても示すものとされました。

 これらを踏まえ、平成25年6月に改正された種の保存法では、違法な捕獲や取引に関係する罰則が大幅に強化されたほか、希少野生動植物種の広告の規制、登録関係事務手続の改善等がなされました。今後、種の保存法に違反して希少野生動植物種の捕獲等、譲渡し等及び輸出入を行った場合には、個人に対し5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金が科され、法人に対し1億円以下の罰金が科されます。

 さらに今般の改正法では、施行後3年に、法の施行状況等を勘案して、登録制度も含めた法規定の検討を加えることとされており、今後、法規定の検討に必要な調査の実施や課題に対する対応策の検討を継続して行っていきます。

ウ 今後の絶滅危惧種の保全のための取組

 種の保存法の改正法案の国会審議の際には、絶滅危惧種の保全のための今後の検討課題について様々な議論がなされ、衆議院及び参議院の改正法案に対する附帯決議では、2020年(平成32年)までに300種を同法に基づく希少野生動植物種に新規指定することを含め、複数の措置を講ずることが求められています。

 環境省では、300種の新規指定を目指す事も明記した「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略」に基づいて、絶滅危惧種の保全に必要な措置を講じていきます(図2-1-2)。

図2-1-2 種の保存法改正の概要

(2)外来種対策の総合的な推進

 戦後に急速に進んだ経済・社会のグローバル化を背景として、人と物資の移動が活発化し、国外又は国内の他地域から、本来有する移動能力を超えて、人為によって意図的・非意図的に自然分布域外に導入され、野生化する外来種が増加しています。

 外来種の中には、在来種の捕食、在来種との生息生育場所・餌等をめぐる競合、交雑による在来種の遺伝的攪乱等による生態系への被害、咬傷(こうしょう)等による人の生命や身体への被害、食害等の農林水産業への被害のほか、文化財や景観等を汚損するなど、さまざまな被害を及ぼすものがいます。

 こうした外来種が我が国に導入されることにより、在来種の絶滅が懸念されることを始め、長い進化を経て形づくられた地域固有の野生生物の遺伝的な特徴の変化や、生態系の改変が深刻化し、もとに戻すことが難しくなる場合があるなど、外来種の影響は、我が国の生物多様性を保全する上で重大な問題となっています。

 このような外来種問題への対策として、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)が平成16年に成立、平成17年6月から施行されました。外来生物法では、海外から我が国に導入される外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業に係る被害を防止することを目的に、被害を及ぼす外来生物を特定外来生物として指定し、輸入・飼養等を禁止するとともに、防除を行うこととしています。

ア 外来生物法の改正

 中央環境審議会からの意見具申を踏まえ、平成25年6月に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、公布されました。この改正では、主に以下の3つの事項について新たな規定が設けられました。

[1]外来生物が交雑することにより生じた生物を規制対象に

 特定外来生物が交雑することにより生じた生物には、特定外来生物と同じような性質を持っており、生態系等に被害を及ぼすおそれがあるものがあります。しかし、これまでの外来生物法における外来生物の定義には、外来生物を人為的に交雑させたり、人為的に国内に持ち込まれて野外で交雑して生まれたりしたものが含まれておらず、特定外来生物として規制することができませんでした。

 そこで、今回の改正では、外来生物の定義を改め、外来生物が交雑することにより生じた生物も含むこととしました。今後専門家による会合等において交雑種についても特定外来生物の指定の検討が行われる予定です(写真2-1-1)。

写真2-1-1 アカゲザルとニホンザルの交雑個体

[2]防除の推進に資する学術研究のための特定外来生物の放出等を許可制に

 これまでの外来生物法では、特定外来生物を野外に放出等することを例外なく禁止していました。一方で、特定外来生物の効果的な防除方法を開発するために、捕獲した特定外来生物に発信器をつけた上で再度放ち、営巣場所や行動範囲等を調べることが有効な場合があります。このため、今回の改正では、防除に資する学術研究の目的で主務大臣の許可を受けて行うなどに限って放出等を許可できることとしました。

[3]特定外来生物等が付着・混入しているおそれのある輸入品等の検査等を実施可能に

 輸入品は、通関時に植物防疫や動物検疫、税関等の検査を受ける必要がありますが、これらの検査において、特定外来生物の付着・混入が発見される場合があります。これまで、特定外来生物のアルゼンチンアリ(写真2-1-2)等が外国産の切り花等に付着している事例がたびたび確認されています。

写真2-1-2 アルゼンチンアリ

 今回の改正では、輸入通関時に特定外来生物が付着・混入しているおそれがある輸入品等を検査することや、特定外来生物の付着・混入が確認された場合には、消毒又は廃棄を命令できるようにするとともに、消毒の方法などの基準を設けることとしました(図2-1-3)。

図2-1-3 外来生物法改正の概要

イ 今後の外来種対策の総合的な推進に向けて

 外来種の中には、古くから家畜、栽培植物、園芸植物、緑化植物、漁業対象種等として利用され、私たちの社会や生活の中で重要な役割を果たしているものもあります。外来種問題は私たちの生活に非常に身近なものであることから、外来種対策を円滑に進めるためには、国民の理解と協力が不可欠です。私たちの社会と外来種との適切な関わり方を考え、生物多様性の保全に向けて、さまざまな主体において対策を行うことが求められています。

 今回、外来生物法の施行状況を点検し、明らかになった課題に対処するための改正が行われました。しかし、法制度に関わることのほかにも、外来種対策については取り組むべき多くの課題があります。このため、改正された外来生物法の適切な運用はもとより、さまざまな主体に適切な行動を呼びかける外来種被害防止行動計画(仮称)と侵略的外来種リスト(仮称)の作成を通じて、外来種対策を推進していくこととしています。

[1]外来種被害防止行動計画(仮称)

 生物多様性条約第10回締約国会議で採択された愛知目標を踏まえ特定外来生物も含めた外来種全般に関する2020年(平成32年)までの中期的な総合戦略として、外来種被害防止行動計画(仮称)(以下「行動計画」という)を作成するため、環境省、農林水産省及び国土交通省において検討を進めています。

 行動計画においては、国・地方自治体・民間団体等の役割と外来種対策における優先度の考え方等を整理するとともに、保護地域における対策、水際におけるモニタリング、予防・早期防除等の対策、普及啓発の推進等の施策の実施方針を明らかにすることとしています。これにより、外来種の取扱いに関する国民全体の認識を深めるとともに各主体による適切な行動を促進していく考えです。

[2]侵略的外来種リスト(仮称)

 中央環境審議会の意見具申においては、対策が必要な外来種を整理する必要性や、外来生物法で規制の対象となっていない国内由来の外来種への対策の必要性等が指摘されました。こうした指摘を踏まえ、環境省及び農林水産省では、侵略的外来種リスト(仮称)の作成について検討を進めています。このリストでは、現時点で法規制のない種類も含めて、特に侵略性が高く、我が国の生態系等への被害を及ぼす、又は及ぼすおそれがある外来種をリスト化し、最新の定着状況や侵入経路、我が国における具体的な対策の方向性、利用上の留意事項などの情報を提示することとしています。

 外来種対策の一層の進展を図るため、さまざまな主体における適切な行動を呼びかけるツールとして活用していく考えです。