環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>むすび

むすび

我が国が歩むグリーン経済の道


 昨年、我が国は夏季に記録的な猛暑と集中豪雨を経験しました。高知県四万十市で最高気温が41.0度を記録し、山口県、島根県、秋田県、岩手県の一部で過去に経験したことのないような大雨がありました。「過去に経験したことのないこと」-我が国は近年まれな経験をしました。世界に目をやると、フィリピンに上陸した強力な台風、アメリカを襲った大寒波など多くの死者すら出す異常気象が発生しています。

 このようなことがあると、私たち人類の生活は良好な環境を前提にして成り立っているものであり、その前提が崩れると私たちの生活はもろくも崩れ去ってしまうことを改めて認識せざるを得ません。

 過去を振り返ると、我が国はかつて悲惨な公害を経験しました。公害の発生原因は様々ですが、環境が破壊され、多くの方々が健康を害し、良好な社会生活を送ることができなくなってしまうだけではなく、貴重な命さえも失われてしまう事態が生じました。また一方では、急速な開発と自然環境の破壊により、生態系から得られるさまざまな便益(自然の恵み)の低下が著しかった時代もありました。環境規制の中にはこのような公害の発生や自然環境の破壊が契機となったものもあります。


 環境問題はかつては「外部不経済」という言葉とともに市場がうまく機能しない例として語られ、そのために規制が必要と考えられてきました。近年ではそのような側面だけではなく、産業界から技術的可能性を聞き取った上で将来の環境技術開発の実現性を見据えて適切かつ明確な目標を設定することにより、技術の進歩を促すことが可能になるという面にも着目されています。また、自然環境を経済活動も含めた人間生活への便益の供給源のストックとして捉え、自然資本という概念を用いて企業会計や国家勘定に組み入れていこうという動きもあります。先の公害のような悲惨な事態を二度と起こさないよう、我が国では環境負荷を低減させたり環境を再生させる新たな技術が開発されてきましたが、それによって関連する産業が発展してきたという面もあります。さらには、自然環境を保全し、それを観光や生産活動の場として持続的に利用することで、地域経済の基盤となっている地域もあります。そのような技術や産業が社会に普及していけば、環境負荷も低減し、自然と共生する地域経済を支えることにより、経済成長も実現できることになります。

 このような状態を本年の白書では「グリーン経済」としました。経済活動なくして我が国の社会は成り立ちませんが、環境があってこその経済であり、社会であるはずです。それは、これまでは「過去に経験したことのないこと」かもしれません。しかしそれは、人類が目指すべき状態として今まさに我が国が歩み始めなければならないのではないでしょうか。