環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 環境保全を織り込んだ被災地の復興~グリーン復興~

第3節 環境保全を織り込んだ被災地の復興~グリーン復興~

 東日本大震災で甚大な被害を受けた被災地では、復興に取り組む中で、環境への負荷を低減しつつ経済・社会の再生も行っていくという取組が始まっています。このような取組は今後の我が国の地域づくりの一つの目指すべき方向と考えることができ、このような動きを加速させていく必要があります。

 本節では、このような観点から被災地の復興に当たっての考え方と、持続可能な地域づくりの先進的な事例を紹介します。

1 被災地におけるグリーン復興の取組

(1)持続可能な環境を目指した復興の方向性

ア 「新しい東北」の創造に向けて

 東日本大震災からの復興に当たっては、我が国の社会の課題を抱えたまま単に復旧するのではなく、復興の中で課題を解決し、我が国や世界のモデルとなる「創造と可能性ある未来社会」を形成していくことが重要です。復興推進委員会では、このような観点から新しい東北の創造に関して検討を行い、平成25年6月には中間的な取りまとめを「『新しい東北』の創造に向けて」として公表しました。

 ここでは、地域社会の将来像として5つの社会を取り上げ、そのうちの1つに低炭素・省エネルギー型の社会を目指す「持続可能なエネルギー社会(自律・分散型エネルギー社会)」を掲げています。

 この社会の実現に向けた具体的な施策として、[1]景観や自然環境への影響に留意したバイオマス資源・地熱資源の活用、[2]公共施設・公共交通インフラの低炭素化、[3]地域の取組を環境・社会・経済の3つの価値で評価する評価手法の導入、[4]スマートグリッド等の先進的な環境技術・システムの東北への導入・実装などを進めていくこととしています。

イ 福島復興再生特別措置法に基づく重点推進計画

 平成25年4月に、福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)に基づく「重点推進計画」が内閣総理大臣により認定されました。本計画は、計画に位置付けた重点推進事業を主に福島県が実施することで、福島県全域における新たな産業を創出し、産業の国際競争力を強化しようとするものです。

 重点推進事業の一つには、再生可能エネルギーの推進が掲げられています。具体的には、[1]大学等による再生可能エネルギーの人材育成、[2]福島再生可能エネルギー研究開発拠点における新技術開発、[3]浮体式洋上風力発電実証研究事業の推進、[4]スマートコミュニティの構築などを実施することとしています。

 これらの取組を進めることにより、2040年(平成52年)頃に県内で必要とするエネルギーをすべて再生可能エネルギーでまかなうことを目指しています。

(2)国立公園を核としたグリーン復興の取組

 東日本大震災において大きな被害を受けた東北地方太平洋沿岸地域の復興に貢献するため、環境省では平成24年5月に「国立公園の創設を核としたグリーン復興のビジョン」を策定し、それに基づき、自然とともに歩む復興を目指して7つのグリーン復興のプロジェクトを進めています。主なプロジェクトのこれまでの進捗状況と今後の取組についてご紹介します。

ア 三陸復興国立公園の創設

 国立公園は、自然環境の保護とその適切な利用を推進することとしており、地域の観光振興にも貢献する面を有しています。このことから、環境省では、国立公園をはじめとする自然環境行政が復興に貢献する方策について、震災発生直後から検討を開始しました。東北地方太平洋沿岸は、人工構造物がない自然海岸の割合が高く、全国でも屈指の手つかずの自然が残された地域であり、陸中海岸国立公園をはじめとする複数の自然公園が指定されていました。

 環境省ではこれらの自然公園を三陸復興国立公園として再編成し、自然環境を活かして復興していくこと、自然の恵みと脅威を学ぶ場として後世に引き継ぐことを、被災地で広域にわたって連携して実践していくための基盤を構築することとしました。その第一弾として、地域の暮らしの中で維持されてきたシバ草原の美しい種差(たねさし)海岸やウミネコの繁殖地で有名な蕪島(かぶしま)をもつ種差(たねさし)海岸階上岳(はしかみだけ)県立自然公園(青森県)を陸中海岸国立公園に編入し、平成25年5月に三陸復興国立公園として指定しました(写真2-3-1写真2-3-2)。また、三陸復興国立公園の南側に位置する南三陸金華山国定公園についても同国立公園への編入を検討しています。

写真2-3-1 三陸復興国立公園指定記念式典

写真2-3-2 種差天然芝生地

イ 南北につなぎ交流を深めるみち(みちのく潮風トレイル(東北太平洋岸自然歩道))

 環境省では、地域の自然環境や暮らし、震災の痕跡、利用者と地域の人々などをさまざまに「結ぶ道」として、復興のシンボルとなる長距離の自然歩道「みちのく潮風トレイル」を青森県八戸市から福島県相馬市までの約700kmについて平成27年度末までに設定する予定であり、そのための準備を地域との協働で進めています。みちのく潮風トレイルは、東北地方太平洋沿岸を歩いて旅することで、車の旅では見えない風景(自然・人文風景)、歴史、文化(風俗・食)などの奥深さを知り、体験する機会を提供します。旧来の観光名所だけでなく、トレイル全線にわたって旅行者が訪れることで人と人の交流が生まれ、地域が活性化することを目指すとともに、地域の人々にとっても素晴らしい自然や文化を背景とした歩道があることを誇りに思ってもらえるようなトレイルを目指しています(http://www.tohoku-trail.go.jp/(別ウィンドウ))。平成25年11月29日には、八戸市から岩手県久慈市までの約100kmの区間が開通しました(写真2-3-3)。開通までには、地域でのワークショップを何回も実施し、地元の関係者からの意見を聞いて路線を決めたほか、利用のルールやおもてなしについても意見交換を重ねました。今後も各地域でワークショップの開催を進め、全線の開通を目指します。

写真2-3-3 みちのく潮風トレイルを歩く利用者

ウ 復興エコツーリズムの推進

 環境省では、東日本大震災の被災地において、地域の関係者の合意形成を図りつつ、平成24年度から26年度の3年間、「復興エコツーリズム推進モデル事業」を5つの地域(岩手・宮城・福島県内)において実施しています。

 このモデル事業は、[1]自然環境の保全、[2]交流人口の拡大による地域活性化、[3]震災体験の継承による環境教育の推進や災害に強い地域づくり、[4]地域の絆の再構築、[5]主要産業である農林水産業を通じて震災からの復興に貢献するという考えに基づいています。

写真2-3-4 地域のワークショップでの検討

 具体的には、平成25年度は地域の関係者とのワークショップを開催し、自然観光資源の調査を実施しました。また、エコツーリズム推進のための組織強化として、ガイドやコーディネーターなどの人材育成を実施するとともに、自然環境の保全に取り組む大学や団体などのほか、旅行会社など地域内外における協力関係の構築、地域の自然観光資源の特性を生かした多様なエコツアープログラムの検討、モニターツアー(一部の地域)を実施しました(写真2-3-5)。

写真2-3-5 相馬市松川浦でのモニターツアー

エ 公園施設の整備

 従来からの観光拠点の復興を推進するため、地震・津波により被災した国立公園の利用施設の再整備を順次進めており、平成25年には浄土ヶ浜(岩手県宮古市)の海岸部の歩道を復旧・再整備し利用を再開するなど、地域の復興に貢献しています(写真2-3-6)。また、宮古姉ヶ崎(岩手県宮古市)では、被災した公園施設の一部を遺構として保存し、自然の脅威を学ぶ場とするための整備を、三陸復興国立公園に編入された種差海岸(青森県八戸市)においては、地域の自然やくらしを紹介するための施設の整備を進めています(図2-3-1)。

写真2-3-6 浄土ヶ浜(岩手県宮古市)で利用が再開された海岸歩道(平成25年7月)

図2-3-1 種差海岸(青森県八戸市)で整備中の情報提供施設(イメージ図)

オ 地震・津波による自然環境への影響の把握(自然環境モニタリング)

 地震・津波による自然環境の変化状況を把握するため、自然環境保全基礎調査やモニタリングサイト1000に加え、新たに調査を開始しました。平成24年度は、青森県から千葉県までの津波浸水域(面積約576km2)において、震災前後の植生図を基にした植生改変図の作成、海岸線、海岸植生及び海岸構造物の変化状況の把握を行い、砂丘植生が約497ha、海岸林が約829ha減少し、その多くが造成地や荒れ地に変わっているなどの変化が確認されました(写真2-3-7)。また、アマモ場6か所、藻場5か所、干潟16か所、海鳥繁殖地4か所において生態系のモニタリングを行い、底質の変化による干潟生物相の変化、湾奥のアマモ場の消失、海鳥繁殖地の消失などが確認されました。平成25年度は、これらの調査のうち、植生調査や生態系のモニタリングを継続するとともに、震災後新たに出現した湿地の調査なども行っています。また、これまでの調査結果を復興事業や各種保護施策で活用するため、津波浸水域における重要な自然を表したマップ「重要自然マップ」を作成し、平成26年4月に公表しました。さらに、これらの情報やさまざまな主体が行った自然環境調査の情報などを共有するためのウェブサイトをリニューアルし、データの地図表示や検索、震災前後の比較などができるようになりました。

 「しおかぜ自然ログ」 http://www.shiokaze.biodic.go.jp/(別ウィンドウ)

写真2-3-7 震災直後の海岸林の倒伏の様子(宮城県亘理町荒浜 平成23年4月)

(3)自然環境の保全に資する復興の取組

ア 津波を被った水田の復元による地域の復興

 東北地方の太平洋沿岸の水田は、その多くが東日本大震災の津波によって被災しました。津波を被った水田には多くのがれきが散乱し、海水によって作付できないほどに土壌中の塩分濃度が高まりました。そのような中、宮城県内4か所(気仙沼市、南三陸町、塩竃市、石巻市)と岩手県陸前高田市の水田で活動している特定非営利活動法人田んぼ(以下「NPO法人田んぼ」という。)は、全国から集まった多くのボランティアとともに手作業でがれきを取り除き、「ふゆみずたんぼ」方式により水田の復元に取り組んでいます(写真2-3-8)。

写真2-3-8 復元した水田(南三陸町志津川)

 ふゆみずたんぼとは、稲刈り後の冬期にも水を張った水田のことです。そうすることにより、稲わらなどの有機物が水中で分解され、菌類や藻類、イトミミズなどが増え、それらをエサとする水鳥や小動物などさまざまな生き物が育まれ、生物多様性が高まります。増加した生き物の働きにより、農薬を使わずに稲の害虫や雑草の繁殖を抑えることが可能になるとともに、その排泄物や死骸によってきめ細かな粒子からなる土質へと変わり、施肥を抑えることができ、稲の収量も上がります(図2-3-2)。

図2-3-2 ふゆみずたんぼの四季

 実際にNPO法人田んぼが活動する水田でも、コメの収量が増加するとともに、生物多様性も高まり、さらには土壌中の塩分濃度も下がって稲作を行うことができるようになりました。NPO法人田んぼでは、収穫した無農薬・無施肥の米を「福幸米(ふっこうまい)」と称して販売しており、稲作農業の6次産業化を図ることで地域経済も支えています。

イ 里海の復興

 人が手を加えることで、生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域のことを「里海」と言います。東北地方沿岸では、古くから地域の人々の生活や産業が海と深くかかわっており、豊かな里海が形成されてきました。しかし、東日本大震災の津波により、藻場・干潟などの生物の産卵・生息場が破壊されたほか、海底の地形や地質が大きく改変されました。平成23年度に宮古湾、大槌湾、気仙沼湾などで国が実施した海域モニタリング調査等の結果から、高い水質浄化機能をもつ「アマモ場」の大規模な消失・密度低下が報告されるなど、海域環境に大きな影響が生じていることが明らかとなりました。そのため、国では、「アマモ場の再生」などの里海づくり(人の手による環境再生)の手法を用いた具体的な復興の取組を検討しました。

 岩手県宮古市に位置する宮古湾は、湾奥部にアマモ場(写真2-3-9)が広く分布しており、多くの魚類の産卵・保育の場や稚魚の成育の場として機能していましたが、震災に伴う津波により、その多くが消失しました。そこで、アマモ場の再生・保全を進めることで豊かな海を取り戻すべく、平成25年3月に、宮古湾の現況や再生の目標、再生に向けて実施する活動とその推進体制などを記した「宮古湾里海復興プラン」を策定しました。プランの策定に当たっては、地域住民の方々や漁業関係者、自治体、学識経験者など、さまざまな主体とともに検討し、地域の意見を広く反映しました。平成25年度からは、本プランに基づき、各主体が里海再生に向けた取組を展開しています(図2-3-3)。

写真2-3-9 宮古湾のアマモ場

図2-3-3 アマモ分布状況の観察のイメージ

 こうした宮古湾におけるプラン策定やアマモ場再生の取組を進める過程で得られたノウハウなどをもとに、平成26年3月に「里海復興プラン策定の手引き」を策定しました。本手引きには、課題抽出や事前調査の方法、目標設定や具体的な活動メニューの検討方法、活動を行うための留意点などを実際の事例とあわせて盛り込んでおり、今後は、この手引きを広く普及し、東北沿岸各地での里海復興を支援していきます。

2 グリーン経済を先取りした復興の動き

(1)民間資金を活用した取組

 被災地においては、環境負荷を低減しつつ迅速な復興に資する取組を加速させていく必要があります。そのためには公的資金のみならず民間資金をこのような取組に投入し、地域の自立的な復興に向けた資金サイクルを構築していくことが重要となります。また、地域資源を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入することにより、環境負荷の低減と同時に地域経済の活性化につながることとなります。

 以下では、このような先進的な取組を紹介します。

ア 県民参加型ファンドの創設による太陽光発電事業の推進に向けた取組

 福島県は、平成24年3月に策定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)」にもとづき、福島県内における再生可能エネルギーの導入拡大を図るとともに、県民の再生可能エネルギーへの関心を高め、地域経済にも貢献するための施策として、県民参加型のファンド「福島空港ソーラーファンド」を設立しました。

 このファンドは、地域の資金で再生可能エネルギーの導入を推進するべく、福島県設立の会社が福島空港敷地内に設置する1.2MWのメガソーラー(写真2-3-10)による太陽光発電事業を投資対象とし、そこで得られる利益を出資者である県民、企業などの地域に還元することで、資金が地域内で循環する仕組みとなっています。このファンドの設立・運営事業は、民間の金融系企業が担っています。

写真2-3-10 福島空港メガソーラー完成イメージ

 福島県では、本取組を「ふくしまから はじめよう。」を実践する福島県復興のシンボルとし、再生可能エネルギー先駆けの地の実現を目指しています。

イ 宮城県気仙沼市における地域通貨を活用した取組

 宮城県気仙沼市の気仙沼地域エネルギー開発株式会社は、気仙沼市震災復興計画に再生可能エネルギーの活用が盛り込まれたことを機に市内の森林に着目し、森林施業の際に発生する間伐材を通常価格の2倍で林家などから買い取っています。買取金額の半分を同社が発行する地域通貨「リネリア」で支払い、支払われたリネリアは、市内約180の商店などで金券として利用されています。買い取った間伐材は、同社の木質バイオマス発電プラントの原料として発電に利用する予定です。同施設を用いて発電した電気を「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を活用して東北電力株式会社に売電するとともに、発電時に発生した熱を地元ホテルの温泉施設に供給することで得た収入をもとにリネリアを発行する予定です。

 この仕組みは民間の出資金のみで運営されており、地域通貨を媒介とすることで地域経済が活性化するとともに、環境面でも森に管理の手が行き届くことにより山が豊かになり、海に豊かな養分を供給することができます(図2-3-4)。また、木質バイオマスという再生可能なエネルギー源を市内で調達することが可能となり、化石燃料の使用が抑制されることとなります。

図2-3-4 リネリアの仕組み

(2)自立・分散型エネルギー社会の構築に資する取組

 被災地において地域資源を活用した自立・分散型のエネルギー社会を構築していくことにより、化石燃料の抑制などの環境負荷の低減とともに、地域内の地域資源に関連した産業の育成につながります。また、エネルギーの自給によって、地域外から電気を購入する必要がなくなれば、地域内に留保される資金が増加するため、地域内の経済の活性化にもつながります。

 ここでは、被災地において自立・分散型のエネルギー社会を構築しようとする取組を紹介します。

ア 再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業(グリーンニューディール基金)

 我が国では、東日本大震災の被災地域における復興のため、再生可能エネルギーなどの地域資源を活用した自立・分散型のエネルギーシステムを地域に導入し、災害に強く環境負荷の小さい地域を形成していくことが課題となっています。そのため、東北地方などの被災地において、災害時における避難所や防災拠点に対する再生可能エネルギーや蓄電池、未利用エネルギーの導入等を支援する「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業(グリーンニューディール基金)」を創設し、平成23年度において地方公共団体(東北地方の自治体含め8団体)に補助金を交付しています。交付を受けた地方公共団体は、交付から5年の間に基金を取り崩しながら、図2-3-5に示す4つの事業を実施しています。

図2-3-5 グリーンニューディール基金の事業構造

 東日本大震災により、最大震度6強の揺れを観測し、津波によって多大な被害を受けた茨城県では、本基金を活用し、公共施設などで再生可能エネルギーの導入を進め、環境にやさしく、災害に強い安全・安心なまちづくりを推進しています。県内でも比較的大きな被害を受けた日立市では、市内15か所の交流センター(公民館)において、蓄電池(約8kWh)と併せて両面受光型と片面受光型の2方式の太陽光パネル(約8kWh)を施設の状況に合わせて設置しています(写真2-3-11)。両面受光型パネルは地面に立てる形で設置し、片面受光型パネルは屋根などの上に寝かせて設置することで、太陽光の効率的な受光と敷地の有効活用の両立を図っています。

写真2-3-11 日立市田尻交流センターにおける設置状況

イ 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト(微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発)

 先述の「『新しい東北』の創造に向けて」では、成長戦略等に基づいて関係省庁が実施する研究開発などの施策を、東北で重点的に展開していくこととしています。

 東日本大震災により被災した宮城県仙台市では、震災以前は他都市の同種の施設同様に多くのエネルギーを消費して下水を処理していました。震災によって沿岸部にある市内最大の下水処理場が壊滅的な被害を受けましたが、そのことがきっかけとなり筑波大学、東北大学と連携し、平成24年度から国の支援の下で、オイル生産性の藻類を用いた下水処理とバイオマス燃料生産の研究・開発による復興を推進しています。

 本プロジェクトは、仙台市内の約7割の下水を処理している下水処理場を実証試験サイトとして進められています。筑波大学が発見・培養した「オーランチオキトリウム」と「ボトリオコッカス」という2種の微細藻類を用い、筑波大学と東北大学が開発する「藻類バイオマスの生産技術」と「濃縮・収穫-抽出・精製プロセスの最適化技術」を下水処理の一部に応用することとしています(写真2-3-12)。

写真2-3-12 ボトリオコッカス(上)、オーランチオキトリウム(下)

 オーランチオキトリウムとボトリオコッカスは、重油に相当する高純度の炭化水素(オイル)を生産します。オーランチオキトリウムは光合成を行いませんが、オイルの生産能力が極めて高く、仮に大規模培養が実現できれば、日本の石油輸入量を賄うオイルを得ることが理論上は可能といわれています。下水中に含まれる有機物を用いてオイルを生産するため、沈殿槽内の汚泥処理に利用できます。ボトリオコッカスは、光合成をして増殖します。その過程で下水に含まれる窒素やリンを吸収し、オイルを生産します(図2-3-6)。

図2-3-6 藻類バイオマスの培養イメージ

 これら2種類の藻類を適切に使い分けるとともに、下水処理の過程で発生する排熱や二酸化炭素を利用して藻類の増殖等を促すことにより、効率的にオイルを生産することができます。また、処理の過程で残存する余剰汚泥を、抽出したオイルを用いて燃焼することで、化石燃料の利用や二酸化炭素の排出を抑制することに繋がります。

 将来的には、本プロジェクトの成果を国内外各地の下水処理施設に応用していくことを目指しています。

ウ 福島県川俣町における過疎型スマートコミュニティの構築

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により被災した福島県川俣町は、戸田建設株式会社と共同で、再生可能エネルギーを過疎地に導入することで環境保全と経済的な活力の両立を目指す「過疎型スマートコミュニティ」の構築に取り組んでいます。実現に向けては、再エネ発電事業、地域全体でのエネルギー管理システム(CEMS)の導入、エネルギー制御機能を付加した公共施設の再整備などの事業を推進することとしています。その中で、メガソーラーを中心とした再エネ発電施設の設置を行い、環境保全に加えて、コミュニティを形成する交流施設や診療所などの医療施設が一体となった複合型施設の整備や、新たな産業と雇用の創出も図っていくことを計画しています(図2-3-7)。

図2-3-7 過疎型スマートコミュニティのイメージ

 川俣町では、この事業の成果を「川俣モデル」として名づけ、過疎に直面した地域の再生モデルとして全国に発信していくこととしています。

福島県飯舘村の「までい」な復興

 福島県飯舘村は阿武隈山系北部の高原に位置し、豊かな自然に恵まれた美しい村です。村は、地域の言葉である「までい」の理念の下、「までいライフ」をスローガンに、飯舘流のスローライフを営んできました。「までい」とは、「手間暇を惜しまず」「丁寧に」「じっくりと」「心を込めて」という意味の方言で、持続可能性の概念を含む言葉です。

 しかし、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質に土地が汚染され、村は一変しました。全村避難を強いられ、村民は計り知れない不安と心労を抱える生活を余儀なくされています。

 そのような困難な状況の中、飯舘村は「みんなで創ろう 新たな『いいたて』を」を合言葉に、「いいたて までいな復興計画」を作成し、村民一人ひとりの復興を目指して歩み始めています。計画では、村内の徹底的な除染を最優先に位置付けた上で、「生命(いのち)をまもる」「までいブランドを再生する」「原子力災害をのりこえる」など5つの基本方針を打ち出しています。基本方針に基づいた具体的な取組として、メガソーラー発電施設や風力発電施設などの再生可能エネルギー施設を整備し、発生した電気や熱を村内で有効活用することとしています。さらに、再生可能エネルギーを活用するスマートビレッジや花卉栽培施設を設け、雇用や産業の創出も目指すこととしています。

 飯舘村は、復興計画の中で「これからは、より力強く、より明るく、よりしたたかに、『までい』に生きていく新たな『いいたて』を目指します。」と宣言しています。

飯舘村の風景

「いいたて までいな復興計画」のイメージ