環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 地球環境の現状と持続可能な社会の構築に向けて>第1節 気候変動問題の解決に向けて

第1章 地球環境の現状と持続可能な社会の構築に向けて

第1節 気候変動問題の解決に向けて

 オーストリアの経営学者であるP.F.ドラッカーは、「環境の破壊は地球上いずこで行われようとも、人類全体の問題であり、人類全体に対する脅威であるとの共通の認識がなければ、効果的な行動は不可能である」と述べました。地球温暖化、生物多様性の減少、資源の枯渇、酸性雨、水資源の不足や砂漠化など、近年問題となっている環境問題の多くは国境を越えるものであり、人類全体で取り組んでいく必要があります。本節では、地球温暖化を中心とした気候変動の現状を取り上げ、人類の生存にかかわる脅威としての共通認識を深めるとともに、低炭素社会の構築に向けた我が国の取組を紹介します。

1 地球が直面する課題

(1)気候変動に関する政府間パネルからの報告

 温室効果ガスによる気候変動の見通しや、自然や社会経済への影響、気候変動に対する対策など、2,500人以上の科学者が参加し、最新の研究成果に対して評価を行っている「気候変動に関する政府間パネル」(以下「IPCC」という。)において、第4次評価報告書から7年ぶりに公表される第5次評価報告書の作成が、現在進められています。IPCC評価報告書には3つの作業部会報告書がありますが、そのうち地球温暖化などの気候変動に関する自然科学的根拠を評価している第1作業部会報告書が、平成25年9月にIPCC総会にて採択されました。

ア 自然科学的知見に基づいた気候変動の状況(第1作業部会報告書)

 第1作業部会報告書では、地球温暖化については疑う余地がないことを改めて指摘しました。観測事実としては、主に以下の4つがあります。[1] 世界の平均地上気温については、1880年(明治13年)から2012年(平成24年)までの期間で、0.85℃上昇したことが観測されています(図1-1-1)。[2]過去20年にわたってグリーンランド及び南極の氷床の質量が減少し、氷河はほぼ世界中で縮小し続けていると報告しています。[3]海面水位は上昇し続けており、1901年(明治34年)から2010年(平成22年)までの期間で、19cm上昇していると報告されています。[4]1971年(昭和46年)から2010年(平成22年)までの期間で、海洋の表層(0~700m)の水温が上昇したことはほぼ確実であるとともに、また、1992年(平成4年)から2005年(平成17年)の期間に、3,000m以深の海洋深層においても水温が上昇している可能性が高いことが初めて指摘されています。


図1-1-1 観測された世界の平均地上気温(陸域+海上)の偏差(1850~2012年)

 また、地球温暖化の原因としては、1951年(昭和26年)から2010年(平成22年)の間に観測された世界の平均地上気温の上昇の半分以上が、温室効果ガスの排出などの人間活動が気候に与えた影響によりもたらされた可能性が極めて高いと指摘しています。さらに、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(以下「CO2」という。)の累積排出量と世界の平均地上気温の応答(変化)は、ほぼ比例関係にあり、最終的に気温が何℃上昇するかは累積総排出量によって決定づけられると、IPCC報告書において初めて指摘されました。

 そして、地球温暖化の将来予測については、今回新たに代表的濃度経路(RCP)と呼ばれる4つのシナリオが作成されました。可能な限りの地球温暖化対策を前提としたシナリオであるRCP2.6では、2081年(平成93年)から2100年(平成112年)において、20世紀末頃と比べて世界の平均地上気温が0.3~1.7℃上昇し、世界の平均海面水位が26~55cm上昇する可能性が高いと予測されています。一方、かなり高い排出量が続くシナリオであるRCP8.5では、平均気温が2.6~4.8℃上昇し、平均海面の水位が45~82cm上昇する可能性が高いと予測されています。こうした気温の上昇に伴って、ほとんどの陸上で、今後極端な高温の頻度が増加する可能性が非常に高く、中緯度の大陸などにおいて、今世紀末までに極端な降雨がより強く、頻繁となる可能性が非常に高いと指摘されています(表1-1-1)。


表1-1-1 気象及び気候の極端現象

イ 気候変動による社会経済や自然への影響、適応(第2作業部会報告書)

 平成26年3月に横浜で開催されたIPCC総会において採択・公表された第2作業部会報告書は、気候変動に対する社会経済や自然への影響、適応について評価しています。

 ここ数十年、気候変動の影響が全大陸と海洋において、自然生態系及び人間社会に影響を与えており、気候変動の影響の証拠は、自然生態系に最も強くかつ包括的に現れていることが指摘されました。また、気候変動の将来の影響について、複数の分野や地域に及ぶ確信度の高い主要なリスクとして、海面上昇・沿岸での高潮被害、大都市部への洪水による被害、気温上昇・干ばつ等による食料安全保障、沿岸海域における生計に重要な海洋生態系並びに陸域及び内水生態系がもたらすサービスの損失など8つのリスクを挙げています。また、あらゆる分野及び地域にわたるこれらの主要なリスクについて、まとめるための枠組みを提供する包括的な「懸念の理由」(Reasons for concern)を5つ挙げています。これを現在(1986年(昭和61年)~2005年(平成17年)の平均)と比較した気温上昇の程度で見ると、以下のようにリスクが高まることが示されています(図1-1-2)。


図1-1-2 世界の平均地上気温の変動(観測値と予測値)と分野横断的な主要なリスクのレベル

 [1]1℃の気温上昇により、深刻な影響のリスクに直面する「独特で脅威に曝されているシステム(生態系や文化など)」の数は増加し、熱波、極端な降水、沿岸洪水のような「極端な気象現象」のリスクも高くなる。

 [2]2℃の気温上昇により、北極海氷システムやサンゴ礁など適応能力が限られている「独特で脅威に曝されているシステム」は非常に高いリスクにさらされる。

 [3]3℃以上の気温上昇により、氷床の消失による大規模で不可逆的な海面水位の上昇の可能性があることから、「大規模な特異現象」が生じるリスクは高くなる(ある値を超える温度上昇が続くと、グリーンランド氷床が千年あるいはそれ以上かけて消失し、平均7mの海面水位の上昇を起こすだろう)。

 さらに、経済的、社会的、技術的、政治的決定や行動の変革が、気候に対してレジリエント(強靱)な社会の実現を可能とすることが示されています。

IPCC第3作業部会報告書について

 平成26年4月に採択・公表された第3作業部会報告書は、温室効果ガスの排出削減(緩和策)に関する科学的な知見の評価を行っています。同報告書では、人為起源の温室効果ガス排出量は1970年(昭和45年)から2010年(平成22年)の間にかけて増え続け、この40年間に排出された人為起源のCO2累積排出量は、1750年から2010年(平成22年)までの累積排出量の約半分を占めていると指摘されています。

 報告書では、900以上の将来の緩和シナリオについて収集・分析を行っており、気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑えられる可能性が高いシナリオ(2100年(平成112年)時点の温室効果ガス濃度:二酸化炭素換算で約450ppm)では、以下の特徴を有すると説明しています。

 [1]2010年(平成22年)の世界の温室効果ガス排出量と比べて、2050年(平成62年)の世界の温室効果ガス排出量を40~70%削減し、さらに、2100年(平成112年)には世界の温室効果ガスの排出量がほぼゼロ又はそれ以下に削減する。

 [2]エネルギー効率がより急速に改善され、再生可能エネルギー、原子力エネルギー、並びに二酸化炭素回収・貯留(CCS)を伴う化石エネルギー並びにCCSを伴うバイオエネルギー(BECCS)を採用したゼロカーボン及び低炭素エネルギーの一次エネルギーに占める割合が、2050年(平成62年)までに2010年(平成22年)の3倍から4倍近くになる。

 [3]大規模な土地利用変化と森林減少の抑制。

 さらに、2030年(平成42年)まで緩和の取組を遅延させると、気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑え続けるための選択肢の幅が狭まると算定しています。持続可能な開発を阻害せずにエネルギー効率性を向上させ、行動様式を変化させることが、鍵となる緩和戦略であるとしています。

 また緩和政策では、温室効果ガスのキャップ・アンド・トレード制度を始めた国や地域が増加しているが、キャップが緩い又は義務的でなかったため、短期的な環境効果は限定されていること、炭素税が技術や他の政策と組み合わさり、国内総生産(以下「GDP」という。)と炭素排出の相関を弱めることに寄与したことなどが挙げられています。さらに、緩和のアプローチ方法として、国際協力の必要性を指摘しています。

(2)その他の国際機関による警鐘

 IPCCの報告以外においても、さまざまな国際機関が地球温暖化による影響について警鐘を鳴らし、早めに対策を講じることが必要だと指摘しています。

 国際エネルギー機関(IEA)は、2013年(平成25年)6月に発表した特別報告書「エネルギーと気候変動の構図を描き直す」において、2012 年(平成24年)の世界のエネルギー起源CO2排出量は前年比で1.4%増加し、過去最高の316 億トンに達しており、2050年(平成62年)までに気温上昇幅を2℃以内に抑えるという国際目標達成の可能性を閉ざさないためには、2020年(平成32年)の国際的取決めの発効を待たずに、徹底的な対策を講じておく必要があると指摘しています。また、対策強化を先送りすれば、2020年(平成32年)までは1兆5,000億ドル(約150兆円)の対策費を負担せずに済むが、その後、望ましい軌道に戻すために5兆ドル(約500兆円)の追加投資が必要になると指摘しています。

 また、アジア開発銀行は、地球温暖化に伴う海面上昇への対策を講じなければ、2050年(平成62年)までに東アジア地域の100万人以上が、移住を強いられるおそれがあると予測しました。最も深刻なシナリオでは、2050年(平成62年)に海面が1990年(平成2年)比で37.8cm上昇し、対策が遅れれば、海岸の水没と浸食によって中国、日本、韓国の3か国で約112万人が移住せざるを得なくなり、1,500億ドル(約15兆円)の費用が必要になると分析しています。

 このように、地球温暖化などの気候変動による影響は、生態系や自然災害などへのリスクのみならず、海面上昇による居住地域の減少などの問題を引き起こし、これら諸問題に対処するための費用の増大が予測されています。

(3)頻発する異常気象と自然災害

 これまで、気候変動の状況やその影響、対策について、IPCCによる報告を中心に概観してきました。一方、近年世界各地で異常気象や大きな自然災害が頻発しており、こうした異常気象の増加と気候変動との関連性について、指摘されるようになっています。豪雨や猛暑などの異常気象は、地球温暖化がなかったとしても発生しますが、地球温暖化によって、豪雨や猛暑などの現れ方が頻繁になるほか、強さが増すことも予想されています。

ア 世界における異常気象と自然災害

 世界気象機関(WMO)は、139か国に行った調査に基づき、2001年(平成13年)から2010年(平成22年)が前例のない異常気象に見舞われた10年間であったと述べています。異常気象による死者は37万人に上り、1991年(平成3年)から2000年(平成12年)に比べて20%増加していると指摘しています。死因別の内訳は、熱波による死亡が13万6,000人と急増しており、洪水など熱帯低気圧による災害が約17万人を占めており、経済的損失は3,800億ドルに達しています。さらに、対象国の94%近くが、2001年(平成13年)から2010年(平成22年)を観測史上最も気温の高い10年間であったと記録していることを報告しています。

 例えば、平成25年に米国の中西部コロラド州で、豪雨により河川の氾濫やダムの決壊が生じ、1万8,000人以上が避難しました。非常事態宣言が発出された本災害による被害総額は、20億ドル(2,000億円)に達するという推計が出ています。また、フィリピンのレイテ島にハイエン(台風第30号)が直撃したことによって、被災者は1,410万人に上り、そのうちの死者・行方不明者は7,900人を超え、約410万人が家を失いました(写真1-1-1)。被害総額は約5,711億ペソ(1兆3,000億円)に達し、復旧には相当な年数がかかると推測されています。


写真1-1-1 フィリピンへの台風被害の様子

 WMOは、気温上昇などの気候変動による海面上昇が、フィリピンに甚大な被害をもたらしたハイエン(台風第30号)のように、台風の被害を増大させていると指摘しています。地球温暖化と個別の暴風雨に直接の因果関係を認めることは難しいとしながらも、温室効果ガスの排出が続けば、一層の気温上昇と異常気象の増加は避けられないと警告しました。

 他方、極端な低温も世界各地で生じています。平成26年には米国国内の広い範囲が、大寒波に見舞われました。米国の一部都市では体感温度が史上最低のマイナス53℃を記録し、寒波による死者は20人以上に上りました。米国における大寒波の原因の一つとして、北極上空の気流の渦である「極渦」が乱れ、通常閉じ込められている寒気が南下したことが挙げられていますが、この「極渦」が乱れた原因の一つとして、米国政府は地球温暖化を挙げています。

 こうした世界各国で生じている気候変動による被害は、我が国に無関係とはいえません。例えば平成23年に、インドシナ半島で平年より長期間多雨が続いたことに伴って、タイで大規模な洪水が発生し、多くの現地日系企業に大きな被害が生じ、そこから部品等を輸入している日本国内の企業の生産にも影響が及びました。また、我が国は多くの食糧を海外から輸入しており、異常気象や自然災害による農作物の生産減少などによって、輸入食糧の価格高騰による影響を受ける可能性があります。

イ 日本における異常気象と自然災害

 我が国は1898年(明治31年)から2013年(平成25年)に100年当たり1.14℃の割合で気温が上昇しており、世界平均の100年当たり0.69℃の割合を上回る上昇速度となっています。平成25年3月に環境省などがまとめた「日本の気候変動とその影響」によると、1931年(昭和6年)から2012年(平成24年)における最高気温が35℃以上(猛暑日)の日数及び最低気温が25℃以上(熱帯夜)の日数は、それぞれ10年当たり0.2日、1.4日の割合で増加しています。一方、最低気温が0℃未満(冬日)の日数は、10年当たり2.2日の割合で減少しています(図1-1-3)。


図1-1-3 日本における気温の変化

 また、独立行政法人国立環境研究所などにより、世界最高水準のスーパーコンピューターである「地球シミュレータ」を用いて、将来の気候変化を予測した結果によると、20世紀末頃と比べて、2100年(平成112年)に日本の夏の日平均気温は4.2℃上昇し、真夏日の日数も約70日増加することが示されました。さらに、日本の夏の降水量は約20%増加し、大雨の頻度も増加すると予測されています。

 平成25年度は、我が国でも多くの異常気象が発生し、特に夏季には記録的な猛暑と少雨、度重なる集中豪雨を記録しました。例えば、高知県の四万十市で最高気温が41.0℃を記録するとともに、九州南部・奄美地方の7月の降水量が統計開始以降最も少雨になる一方、山口県、島根県、秋田県、岩手県の一部地域が過去に経験したことのないような大雨に見舞われるなど、極端な天候が目立ちました。さらに、10月には大型の台風第26号の接近に伴い、記録的な豪雨となった伊豆大島では、大規模な土砂災害が発生し、36人の死者を出す大きな被害が生じました(写真1-1-2)。災害救助のため自衛隊が2万人以上派遣され、被害総額は30億円に上ると推計されています。


写真1-1-2 伊豆大島への台風被害

(4)気候変動に係る科学的知見と対策の必要性

 IPCCの報告書で述べられている科学的知見は、現時点で人類が入手し得る最も確からしい知見であり、今後世界が地球温暖化防止に向けた施策を検討するに当たり、重要な科学的基礎となるものです。前述のとおり、IPCCによって、地球温暖化については疑いの余地はないことが報告されています。しかし、地球環境については解明できていないことが依然多いのも事実です。例えば、大気中の温室効果ガス濃度は増え続けているのにもかかわらず、直近15年において平均気温の上昇は停滞しています。こうした地球全体の平均気温上昇が停滞している状態のことをハイエイタス(Hiatus)と呼びます。ハイエイタスが起きる原因は、太陽活動の低下や海洋による熱吸収など諸説が挙げられていますが、依然解明されていません。しかし、こうした科学的知見の不足を口実に、地球温暖化対策を遅らせるべきではなく、リオ宣言で掲げられている「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」という予防原則に則り、科学的知見の充実に努めながら、予防的な対策を講じていく必要があります。

 さらに、気候変動における不確実性において特に危ぶまれるのが、予測していたよりも、さらに深刻な変化が生じることです。例えば、気候システムにおいて、不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があるといわれており、地球環境の激変をもたらす事象として、海洋深層大循環の停止やグリーンランド及び南極における氷床の不安定化などが挙げられています。こうした変化については、現時点では未解明な部分も多く、さらなる研究が必要ですが、その潜在的なリスクについては認識しておく必要があります。

2 低炭素社会の構築に向けた国際的取組と我が国の貢献

 地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減は、一国が取り組むだけでなく、世界各国も取り組まなければ実現することができません。地球温暖化に歯止めをかけるためには、国内の低炭素化の取組を加速させていくだけでなく、世界全体で取り組んでいくことが不可欠です。

(1)すべての国が参加する新たな法的枠組みの構築に向けたこれまでの経緯

 1997年(平成9年)の国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、以下締約国会議を「COP」という。)で採択された京都議定書では、先進国のみに対し、京都議定書第一約束期間(2008年(平成20年)から2012年(平成24年))における温室効果ガス排出削減の数値目標を定めています。しかし、京都議定書には当時最大の温室効果ガス排出国であった米国が参加せず、また、排出量が急増していた中国やインドなどの新興国や途上国には削減約束が課せられなかったため、途上国からの排出量についても措置を求める声が高まってきました。

 これらを受け、2010年(平成22年)のCOP16では、「カンクン合意」が採択され、先進国と途上国の双方の削減目標や行動が気候変動枠組条約下で位置付けられました。2011年(平成23年)のCOP17では、将来の国際枠組みに関するプロセスとして「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」(以下「ADP」という。)を立ち上げ、2015年(平成27年)にすべての国が参加する新たな法的枠組みに合意し、2020年(平成32年)から発効させるとの道筋に合意しました(図1-1-4)。また、京都議定書については、第二約束期間が採択されましたが、すべての国が参加する公平かつ実効的な枠組みの構築に資さないとの判断から、我が国を含むいくつかの国は第二約束期間には参加しないこととしました。京都議定書は、先進国のみを削減義務の対象としていることから、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は、世界全体の排出量の約4分の1にとどまる枠組みとなってしまいました。削減約束を負っていない途上国による温室効果ガスの排出量は、人口増加や経済発展に伴って急増しており、2011年(平成23年)で世界全体の約6割を占め、今後も増え続けると予測されています(図1-1-5)。


図1-1-4 新枠組みに向けた道筋

図1-1-5 主要国別エネルギー起源CO<sub>2</sub>排出量の推移

 こうしたことから、世界の排出削減を実現するためには、すべての国が参加する公平かつ実効的な枠組みを構築することが急務となっています。

(2)COP19の概要と成果

 2013年(平成25年)11月11日から11月23日にポーランドで開催されたCOP19では、2020年(平成32年)以降の法的枠組みについて、締約国会議は、すべての国に対し、自主的に決定する約束草案のための国内準備を開始し、COP21に十分先立ち(準備できる国は2015年(平成27年)第1四半期までに)、約束草案を示すことを招請しました。また、ADPに対し、約束草案を提出する際に必要な「情報」を、COP20で特定することを求めることが決定されるなど、議論の前進につながる成果が得られ、COP21におけるすべての国が参加する新たな法的枠組みの合意に向けた準備を整えるという我が国の目標を達成することができました。

(3)温室効果ガスの削減に向けた国際的取組における我が国の貢献

 京都議定書において、我が国は2008年度(平成20年度)から2012年度(平成24年度)までの5か年平均で、1990年度(平成2年度)と比べて温室効果ガスの総排出量を6%削減することが義務づけられていました。2012年度(平成24年度)の温室効果ガス排出量は13億4,300万トン(CO2換算)となり、前年比2.8%増となりました。これは東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、火力発電の増加に伴って化石燃料の消費量が増えたことが主な原因です。

 京都議定書第一約束期間(2008~2012年度)の総排出量は5か年平均で12億7,800万トン(基準年比1.4%増)、目標達成に向けて算入可能な森林等吸収源による吸収量は5か年平均で4,870万トン(基準年比3.9%)となりました。この結果、京都メカニズムクレジットを加味すると、5か年平均で基準年比8.4%減となり、京都議定書の目標(基準年比6%減)を達成することとなりました(図1-1-6)。


図1-1-6 我が国の温室効果ガス排出量と京都議定書の目標達成状況

 我が国は、こうした京都議定書第一約束期間の目標達成について、COP19で報告するとともに、2020年度(平成32年度)の削減目標を、基準年を2005年度(平成17年度)にした上で、3.8%減とすることを説明しました。この新たな目標は、原子力発電の活用のあり方を含めたエネルギー政策及びエネルギーミックスが検討中であることを踏まえ、原子力発電による温室効果ガスの削減効果を含めずに設定した現時点での目標であり、今後、エネルギー政策の検討の進展を踏まえて見直し、確定的な目標を設定することとしています。また、本目標は、現政権が掲げる経済成長を遂げつつも、世界最高水準の省エネを更に進め、再エネ導入を含めた電力の排出原単位の改善、フロン対策の強化、二国間オフセット・クレジット制度の活用、森林吸収源対策の実施など、最大限の努力によって実現を目指す野心的な目標です。

 また我が国は、2013年(平成25年)11月に攻めの地球温暖化外交戦略「Actions for Cool Earth:ACE(エース)」を発表し、温室効果ガス排出量を2050年(平成62年)までに世界全体で半減、先進国全体で80%削減を目指すという目標を改めて掲げています。この目標を実現するために、イノベーション(技術革新)、アプリケーション(普及)、パートナーシップ(国際連携)という三本柱を立てて、「技術で世界の低炭素化に貢献していく、攻めの地球温暖化外交」を実行していきます。

 具体的には、革新的環境エネルギー技術の開発を推進し、将来にわたって大幅な温室効果ガス排出削減を確実にするとともに、途上国のニーズに応える現地適応型の技術開発を進めることで、早急かつ効果的に途上国に寄り添った温室効果ガス排出削減に貢献します。具体的には、技術革新を推進するため、2020年度(平成32年度)までの国、地方の基礎的財政収支黒字化を前提としつつ、官民あわせて5年で1,100億ドルの国内投資を目指しています。これと同時に、我が国が誇る既存の低炭素技術を世界に展開させていくことで、温暖化対策と経済成長を同時に実現させていきます。さらに、2013年(平成25年)から2015年(平成27年)の3年間で、官民あわせて約1兆6,000億円の途上国支援を行うことにより、技術革新と技術普及の基礎を形づくります。これは今後3年間で先進国に期待されている、計約350億ドルの途上国支援のうち、3分の1を我が国が担うこととなります。このように、技術で世界に貢献する攻めの姿勢を示すことで、実効性のある対策に裏打ちされた地球温暖化の国際交渉を展開し、我が国の存在感を高めることが期待されます。

途上国における地球温暖化対策の動き

 中国やインドを含む一部途上国は、国際交渉において先進国と途上国の差異化を強く主張しています。他方、世界における温室効果ガス排出量に占める途上国の割合は6割近くであり、今後も増加が見込まれます。すべての国が積極的な姿勢を示さなければ、温暖化問題の解決は困難です。

 例えば中国は、急速な経済成長に伴うエネルギー消費量の増加や、一次エネルギー資源の約70%を石炭が占めること、重工業中心の産業構造などによりCO2排出量が急増しています。2001年(平成13年)には3,396百万トンだったエネルギー起源CO2排出量は、2011年(平成23年)には7,955百万トンと2倍以上増加しており、2008年(平成20年)には米国を抜いて世界最大のCO2排出国となりました。

 中国は、COP16のカンクン合意に基づくCO2削減目標(行動)を、2020年(平成32年)までにGDP当たりのCO2排出量※を、2005年(平成17年)比で40~45%削減するとしています。この目標に沿って2011年(平成23年)に公表した「国民と経済社会発展第12次5カ年計画」では、2015年(平成27年)までにGDP当たりのCO2排出量を、2010年(平成22年)比で17%削減する目標を設定しています。この目標に沿って、2013年(平成25年)は約4%のCO2排出削減を実現していますが、GDPが7%以上で成長しているため、CO2の総排出量自体は増加しています。

G20におけるGDP当たりのCO<sub>2</sub>排出量

 こうした目標に向けて、中国国内では各種温暖化対策が講じられています。2013年(平成23年)11月に公表された「中国の気候変動政策と行動-2013年度報告」(中国国家発展改革委員会)では、気候変動に対する法律の起草、産業構造転換のための施策、天然ガスや自然エネルギーの利用促進、建築物や都市の集中供熱(暖房)の省エネ化などの取組が紹介されています。また、低炭素モデル地域として2012年(平成24年)には北京市、上海市、海南省など29省市を指定しました。さらに、同年(平成24年)より北京市、天津市、広東省などの7省市で排出権取引の実験に取り組み、現在6省市で排出権取引が行われています。このほかにも、炭素回収・利用・貯留(CCUS:Carbon Capture, Utilization and Storage)のモデル試験なども行われています。

 インドにおいても、2001年(平成13年)には970百万トンだったエネルギー起源CO2排出量が、2011年(平成23年)には1,745百万トンに増加しています。カンクン合意に基づくインドの削減目標(行動)では、2020年(平成32年)までにGDP当たりのCO2排出量を、2005年(平成17年)比で20~25%削減(農業部門除く)するとしています。これに向け、2008年(平成20年)に気候変動に関する首相諮問機関により発表された「国家気候変動行動計画」などに基づき、2022年(平成34年)までに2,000万kWの太陽光発電の導入、2014年(平成26年)から2015年(平成27年)までの間に2,300万トン(石油換算)以上の省エネの実現、持続可能な住環境の整備などの対策が進められています。

 ※GDP当たりのCO2排出量とは、1単位のGDPを生産する際に排出するCO2排出量のこと。


地球温暖化防止とサンゴ礁保全に関する国際会議

 環境収容力が小さく、気候変動や生物多様性・生態系サービスの喪失による被害が顕著となる島しょ国においては、気候変動・自然環境・廃棄物の問題についての環境対策が相互に密接な関係をもっています。例えば、海水温上昇により白化しやすくなるサンゴの保全には、気候変動対策や汚水対策が必要です。逆に健全なサンゴ礁が、天然の防波堤として気候変動による海面上昇などを原因とする自然災害の軽減に役立つとともに、サンゴ骨格由来の砂を供給して国土・海岸線を保全し、さらにエコツーリズムや水産物による収入を増加させることが期待されます。そのため、島しょ国においては、特有の生態系や社会経済事情を考慮し、さまざまな環境問題に対して、包括的にアプローチしていくことが重要です。

 2013年(平成25年)6月29日~30日に沖縄県で開催された「地球温暖化防止とサンゴ礁保全に関する国際会議」(主催:環境省、沖縄県)では、「沖縄、島しょ地域における温暖化対策」、「温暖化影響への適応」、「サンゴ礁保全」、「サンゴ礁エリア島しょ地域のエコツーリズムの現状と展望」について横断的に議論を行いました。議論の結果、さまざまな課題は関連しており包括的に取り組むことが重要であること、島しょ国特有の課題について、日本と島しょ国が協力して取り組むことが期待されること、などの認識を参加者間で共有しました。また、この会議の冒頭では、石原環境大臣から、離島を多く抱える島国・日本のこれまでの経験と技術を活かし、島しょ国での気候変動への適応と対策、サンゴ礁の保全や廃棄物といった環境対策などの課題に対して、技術や人材・ノウハウも含め、包括的に支援を行う「島国まるごと支援」が発表されました。


開会挨拶

3 我が国の現状と低炭素社会に向けた取組

(1)我が国の現状

 我が国は、長期的な目標として2050年(平成62年)までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとしています(図1-1-7)。


図1-1-7 我が国の温室効果ガス排出量と長期目標

 しかし前述のとおり、CO2などの温室効果ガスの排出量は増加の一途を辿っています。平成24年度のエネルギー起源CO2排出量の内訳は、産業部門が32.7%、業務その他部門(小売・サービス業などの産業・運輸部門に属さない企業・法人部門)が21.4%、家庭部門が16.0%、運輸部門が17.7%となっています。これを京都議定書の基準年比で見ると、産業部門は13.4%減少していますが、業務その他部門は65.8%、家庭部門は59.7%と大幅に増加しています(図1-1-8)。業務その他部門におけるCO2排出量の増加の背景には、産業構造の転換、延床面積の増加やそれに伴う空調使用の増加、また家庭部門では、利便性や快適性を求めるライフスタイルへの変化や、世帯数の増加などの社会構造の変化があると考えられています。


図1-1-8 我が国の部門別 CO<sub>2</sub> 排出量の推移(1990−2012年度)

(2)低炭素社会構築に向けた我が国の取組

ア 産業部門における取組

(ア)代替フロンの削減に向けた取組

 オゾン層を保護するための国際的な取り決めであるモントリオール議定書に基づいて、オゾン層を破壊する特定フロンについて製造が禁止されている一方で、オゾン層を破壊しない代替フロンが開発されました。代替フロンは、オゾン層は破壊しないものの、CO2の数百から1万倍以上という強力な温室効果を有しており、フロンの代替品としてエアコンや冷蔵庫などにおける使用が増加したことで、2010年(平成22年)の世界のフロン類(特定フロン及び代替フロン)の排出量は、2002年(平成14年)に比べて倍増しました。

 こうした排出量の増加を受けて、代替フロンへの国際的な規制の動きがみられる中、我が国は、特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(平成13年法律第64号)を改正し、フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(以下「改正フロン類法」という。)を策定しました。改正フロン類法では、これまで規制されていなかった製造・輸入業者も対象となり、製品のノンフロン化や、より温室効果の低いフロン類への代替化を促進するなど、排出削減の対策を強化しており、温室効果ガスの削減が一層促進されることが期待されます(図1-1-9)。


図1-1-9 改正フロン類法の概要

(イ)低炭素社会実行計画の策定

 日本経済団体連合会(以下「経団連」という。)を中心とする我が国産業界は、平成9年に「自主行動計画」を策定し、地球温暖化対策に主体的に取り組んできました。結果として、[1]多くの業種において厳しい目標が掲げられ、政府によるフォローアップを受けつつ、地道な省エネ努力によって目標が達成されたことや、業種間のベストプラクティスの共有が図られたこと、計画策定業種の着実な増加も見られたこと等、総体として十分な実効性を上げていること、[2]短期的に投資回収が可能な対策にとどまらず、中長期的に投資回収が行われる競争力の強化のための対策も行われたこと、[3]弛まぬ技術開発・導入によって世界最高水準のエネルギー効率が維持されたことなど、これまで十分に高い成果を上げてきたと評価されます。

 経団連は、自主行動計画に続く平成25年以降の新たな計画として、平成25年1月に「低炭素社会実行計画」を発表しました。低炭素社会実行計画においては、各業種が設備の導入・更新時に利用可能な最先端技術(Best Available Technology、以下「BAT」という。)の最大限の導入などを前提として、国内の事業活動における2020年(平成32年)のCO2排出削減目標を立てるとともに、低炭素製品・サービスなどによる、業務・運輸・家庭など他部門での削減、技術移転などを通じた国際貢献、革新的技術の開発といった取組についても、「削減ポテンシャル」として可能な限り定量的に示して、世界のCO2排出削減に貢献することを促しています。

 平成26年4月までに経団連傘下の業種を含め85業種が計画を策定し、平成24年度の国内のエネルギー起源CO2排出量に占める割合は、産業部門・エネルギー転換部門の約8割、日本全体の約5割に達しています。高い成果を上げた自主行動計画のより一段の実効性の向上に向け、今後より多くの業種の参加促進や、BATの導入促進などを通じた取組の充実が求められます。

イ 運輸部門における取組

(ア)高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems)

 高度道路交通システム(以下「ITS」という。)は、最先端の情報通信技術や制御技術を用いて、人・道路・車両をネットワークで結ぶことにより、交通事故や渋滞などを解決するとともに、自動車の実走行燃費の向上を通じてCO2排出量を低減できるという利点を有しています。京都議定書目標達成計画において、ITSの推進によるCO2排出削減効果は、2010年(平成22年)で約370万トンあると見積もられていました。我が国では、電子料金収受システム(ETC)などの導入により、年間約21万トンのCO2排出量を削減してきました。

 また近年は、貨物車の隊列走行によるCO2排出削減の研究も行われています。車体が大きいトラックなどの貨物車は、走行時の空気抵抗が大きく、特に高速走行時には燃料消費が増えます。そこで、自動的に追従走行制御を活用した隊列走行によって、後続車の空気抵抗を減らすことで、無駄なエネルギーを削減すべく、その研究に取り組んでいます(写真1-1-3)。実証実験などにより、3台での隊列走行(空積時)では、約16%の省エネ効果があることが分かっています。今後もITSの高度化によって、CO2排出量の低減を図っていくことが期待されています。


写真1-1-3 隊列走行によるCO<sub>2</sub>排出削減

(イ)低炭素な移動・輸送

 一人が1km移動する時のCO2排出量は、マイカーでは170g、バスでは51g、鉄道では21g、自転車や徒歩は0gと、移動手段により大きく異なります。これからは状況に応じた最適な移動方法を選択することにより、環境負荷を削減する「スマートムーブ(smart move)」が重要です。例えば、公共交通機関が発達している地域では、公共交通機関や徒歩の積極的な利用、そうでない地域では自動車の利用方法の工夫(エコドライブの実践など)や、カーシェアリング、コミュニティサイクルなど、さまざまな手段からベストミックスで地球にやさしい移動を選ぶことが望ましいといえます。

 こうした環境負荷の少ない「スマートムーブ」を促進させるため、我が国では平成22年よりウェブサイト上で、「スマートムーブ」の取組などを紹介しています。例えば公共交通機関について、富山市では、今後本格化する人口減少や超高齢社会に対応した持続可能なまちづくりを進めるため、「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を目指しており、鉄道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務などの都市の諸機能を集積させることにより、車がなくても安心して生活ができる集約型都市構造へと改変を進めています。こうしたまちづくりの中軸として、平成18年に我が国で初めてLRT(Light Rail Transit)という次世代型路面電車を導入した富山ライトレール株式会社が開業しました(写真1-1-4)。LRTは、電気バスや自動車に比べてCO2排出量が少なく、振動が少ないという快適性や、低床式車両の活用による乗降の容易性などの利点を備えているため、自動車からの転換が期待される交通システムです。富山ライトレールは、新駅の設置や運行本数の増加などによって利便性向上と利用者増を図ったことから、平日平均約5,000人の方に利用されており、平成24年には、累計の実利用者が1,000万人を超えました。


写真1-1-4 富山のLRT

 また、物流でも低炭素化の取組が進められています。政府は、JR博多駅構内などの消費者が利用しやすい場所に設置した宅配ボックスによる不在時荷物受け取りサービスや、宅配便を行う集配車への電気自動車導入などについて実証するとともに、それぞれのCO2削減の効果等を検証しました。こうした人や物の移動・輸送における低炭素化の取組が、一層進むことが期待されます。

ウ 民生部門における取組

(ア)低炭素な暮らし方

 近年、地球温暖化問題への関心が高まっていますが、こうした関心を普段の暮らしの中で、省エネなどの行動に結び付けることが必要です。暮らしのエネルギー消費について削減行動を促すには、自分自身の生活行動とエネルギー消費の関係について、正しい認識をもつことが重要になります。そこで、商品・サービスのライフサイクル全体(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)における温室効果ガス排出量を、CO2排出量に換算して表示するカーボンフットプリント制度など、エネルギー消費量やCO2排出量などの情報を提示し、「見える化」することで、消費者の省エネ・省CO2意識を喚起し、行動を促す取組が実施されています。

 また、生活におけるエネルギー消費量を「見える化」する家庭用エネルギー管理システム(Home Energy Management System、以下「HEMS」という。)の活用が、近年注目されています。エネルギー管理システムとは、ITやセンサーなどの技術を活用して、冷蔵庫や空調、照明などの電機製品とシステム連携することによって、電力消費量を「見える化」するとともに、一括してコントロール可能となるなど、効率的にエネルギーを管理・制御できるシステムです。我が国は、省エネ意識を喚起するHEMSの普及を図るため、HEMS対応機器への設備導入支援を行うとともに、設備導入後も継続的に省エネ行動を促す仕組みの構築を行っています(図1-1-10)。


図1-1-10 HEMSによる「見える化」の一例

(イ)低炭素な住宅・建築物

 暮らしの場となる住宅についても、環境の面から見直そうとする視点が重要です。住宅が建設から建て替えで取り壊されるまでの平均経過年数(住宅の寿命)について日本と欧米を比べると、米国は約67年、英国は約81年であるのに対し、日本は約27年しかありません。これからの住宅は、「つくっては壊す」というフロー消費型から、「いいものをつくって、きちんと手入れして長く大切に使う」というストック型への転換が求められています。

 低炭素な住宅・建築物の普及を加速させるため、我が国はエネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49号)に基づく住宅・建築物の省エネルギー基準を改正するとともに、都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24年法律第84号)を制定し、低炭素建築物認定制度を創設しました。本制度により、認定を受けた低炭素建築物は、所得税等の特例が認められるほか、独立行政法人住宅金融支援機構のフラット35Sにより融資金利の引き下げを受けることができます。低炭素建築物に認定されるためには、エネルギーの使用の合理化に関する法律の省エネ基準に比べて、一次エネルギー消費量がマイナス10%以上になることなどが要件となっており、こうした建築物の低炭素化を誘導する基準を設定することにより、低炭素水準の高い住宅・建築物の普及・拡大が期待されます(図1-1-11)。


図1-1-11 省エネ基準と低炭素建築物認定基準の関係