環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第4節 地球規模の視野を持って行動する取組

第4節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 国際的取組

(1)生物多様性条約

 平成24年10月にインド・ハイデラバードにおいて開催される生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)の議論に貢献するため、引き続き関係省庁間で緊密な連携を図り、愛知目標や名古屋議定書をはじめとするCOP10決定事項の実施に向けた取組を進めます。具体的には、生物多様性国家戦略を改定し、これを踏まえ生物多様性に関する国内施策の充実及び国際的な連携の強化を図ります。また、名古屋議定書の早期締結に向けて国内措置の検討を進めるとともに、議定書の実施に向けた国際的な議論に積極的に参加します。

 わが国はCOP11までの期間、議長国を務めます。議長国として、条約事務局と協力しつつ、COP11に向けた事前交渉を行う条約の作業部会や補助機関会合等において、運営及び議論のとりまとめに貢献するとともに、締約国として積極的に交渉に参加します。

 また、地球規模での愛知目標の達成や条約の実施に向け、途上国の能力養成等を目的とした「生物多様性日本基金」への拠出を行うなど、関連する国際機関との協力のもとに、生物多様性の保全と持続可能な利用にむけた国際的な取組に引き続き貢献していきます。

 二次的な自然環境における持続可能な利用と、それによる生物多様性の保全を推進する「SATOYAMAイニシアティブ」については、国際パートナーシップの参加者と連携し、活動を促進します。

(2)カルタヘナ議定書

 カルタヘナ議定書が適切に実施されるよう、開発途上国の体制整備を支援するなど、議長国としてリーダーシップを発揮します。また、引き続き名古屋・クアラルンプール補足議定書の早期締結に向けた検討を進めます。

(3)ラムサール条約

 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)締約国会議の決議などに則し、条約湿地に関するモニタリング調査や普及啓発等を関係する地方公共団体やNGOなどと連携しつつ実施し、総合的な湿地の保全と賢明な利用を図っていきます。また、2012年(平成24年)に予定されているラムサール条約第11回締約国会議までに、平成22年9月に公表したラムサール条約湿地潜在候補地をもとに、ラムサール条約湿地として登録を行います。

 アジア地域の重要な湿地の保全のため、引き続きアジア諸国の湿地登録の促進に努めるとともに、湿地システムとしての水田の生物多様性の向上を訴えていきます。

(4)ワシントン条約

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)締約国間の、条約の適切な執行に向けた取組を推進するとともに、関係省庁、関連機関が連携・協力して、違法取引の防止、摘発に努めます。

(5)世界遺産条約

 屋久島、白神山地、知床及び小笠原諸島は、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づき、世界遺産一覧表に記載されています。これらの世界自然遺産について、地元の意見と科学的な知見を管理に反映させるための管理体制と保全施策の充実を図ります。また、関係省庁・地方公共団体・地元関係者・専門家の連携により、引き続き適正な保全・管理を進めます。特に、世界自然遺産に新たに登録された小笠原諸島については、外来種対策の実施などの登録時の勧告事項を踏まえた、質の高い保全管理を実施します。

 平成25年の世界遺産委員会において世界遺産一覧表への記載の可否が審議される予定の世界文化遺産候補地の富士山については、関係省庁・地方公共団体等が連携し保全の取組を進めます。

 国内の世界自然遺産候補地である琉球諸島については、世界的に優れた自然環境の価値を保全するため必要な方策を検討し、推薦、一覧表記載に向けた取組を進めていきます。

(6)南極地域の環境の保護

 南極地域の環境保護の促進を図るため、観測、観光、冒険旅行、取材等に対する確認制度等を運用し、南極地域の環境保護に関する普及啓発を行うなど、「環境保護に関する南極条約議定書(以下「議定書」という。)」及びその国内担保法である南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)の適正な施行を推進します。また、平成17年6月の南極条約協議国会議で採択された環境上の緊急事態に対する責任について定めた議定書附属書について、引き続き対応を検討します。また、政府の職員が第54次南極地域観測隊に同行し、基地活動による南極地域の環境への影響を調べ、今後の活動の内容などについて検討します。

(7)砂漠化への対処

 砂漠化対処条約UNCCD)に関する国際的動向を踏まえつつ、同条約に基づく取組を推進します。具体的には、同条約への科学技術面からの貢献を念頭に、砂漠化対処のための技術の活用に関する調査などを進めます。また、二国間協力や、民間団体の活動支援等による国際協力の推進に努めます。

(8)二国間渡り鳥条約・協定

 アメリカ、オーストラリア、中国、ロシア及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、ズグロカモメなどの希少種をはじめとする種について共同調査を引き続き進めるとともに、渡り鳥保護施策や調査研究に関する情報や意見の交換を行います。

(9)アジア太平洋地域における渡り性水鳥の保全

 平成18年11月に発足した「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ」に基づき、同地域における渡り性水鳥とその生息地の保全のため、ネットワーク参加地における普及啓発、調査研究、研修、情報交換などの活動を進めるとともに、ネットワークの拡充を進めます。また、中国、韓国との間で、黄海とわが国の間をわたり、特に保全の必要性の高い種について情報共有などを進めます。

(10)国際サンゴ礁イニシアティブ

 韓国で第8回ICRI東アジア地域会合を開催し、東アジア地域サンゴ礁保護区ネットワーク戦略2010に基づく活動を進めます。

(11)持続可能な森林経営と違法伐採対策

 森林原則声明アジェンダ21及び気候変動問題における森林の重要性などを踏まえ、世界の森林の保全と持続可能な経営の推進を目指し、[1]国連森林フォーラムUNFF)における国際的な検討に積極的に参加し、「すべてのタイプの森林に関する法的拘束力を有さない文書(NLBI)」及び多年度作業計画(MYPOW)の着実な実施を目指すとともに、[2]アジア森林パートナーシップAFP)、森林法の施行及びガバナンス(FLEG)、2011年に設置が合意されたAPEC違法伐採及び関連する貿易に係る専門家グループの関係会合等を通じた地域的取組の推進、[3]国際熱帯木材機関(ITTO)国連食糧農業機関FAO)等の国際機関を通じた協力の推進、[4]国際協力機構JICA)、世界銀行の「森林炭素パートナーシップファシリティ(FCPF)」等を通じた二国間・多国間の技術・資金協力の推進、[5]熱帯林の保全等に関する調査・研究の推進、[6]民間団体の活動の支援による国際協力の推進等に努めます。

2 情報整備・技術開発

(1)生物多様性の総合評価

 国土全体の生物多様性の状態や変化の状況を示した生物多様性の評価地図を公表し、国や地方公共団体の政策決定のための基礎資料等として活用するとともに、今後の生物多様性の総合評価に向けた情報整備の仕組みづくり、地域での具体的な保全活動等への活用に向けた検討を行います。

(2)自然環境調査

 自然環境保全基礎調査の一環として、植生調査等、わが国の生物多様性に関する情報の収集整備を行います。植生調査では、縮尺2万5千分の1植生図の整備を引き続き進めます。また、砂浜の面積等の変化状況を把握する調査を引き続き行います。

 モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁)、小島嶼の各生態系について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査手法により、引き続き合計約1,000か所の調査サイトでのモニタリング調査を実施します。

(3)地球規模生物多様性モニタリングなど

 アジア太平洋地域の生物多様性モニタリング体制の推進を目的として、地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、当該地域の生物多様性観測モニタリングデータの収集・統合化等を推進するアジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)への支援を引き続き行います。また、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上に貢献するための東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)において、当該地域で特に施策上重要と思われる生物多様性情報を整備するとともに、分類学の能力向上のための研修を引き続き実施します。

 生物多様性に関する科学及び政策の連携の強化を目的とした「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の平成24年4月の設立を受け、わが国としては、IPBES事務局とも連携を図りつつ、技術的な支援や情報共有の促進など、IPBESの本格稼動に向けて積極的に貢献していきます。

(4)研究・技術開発など

 愛知目標の達成や、生物多様性の主流化を視野に、引き続き生物多様性の価値評価手法の検討や関連する調査研究を進めます。

 独立行政法人国立科学博物館において、「日本海周辺域の地球表層と生物相構造の解析」、「生物多様性ホットスポットの特定と形成に関する研究」などの調査研究を推進するとともに、約403万点の登録標本を保管し、これらの情報を引き続きインターネットで広く公開します。また、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)の日本ノード(データ提供拠点) である国立科学博物館及び国立遺伝学研究所と連携しながら、引き続き生物多様性情報を国際的に提供します。さらに、様々な企画展や講座、体験教室など展示・学習支援活動を実施します。