環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第5章>第3節 化学物質の環境リスクの管理

第3節 化学物質の環境リスクの管理

1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 化学物質審査規制法に基づき、平成23年度は、新規化学物質の製造・輸入について764件(うち低生産量新規化学物質については311件)の届出があり、事前審査を行いました。

 また、昭和48年の化学物質審査規制法公布時に製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)等については安全性点検を行っており、この既存化学物質の安全性点検を加速するため、国と産業界が連携し、国内製造・輸入量が1,000t/年以上の既存化学物質について、安全性情報を収集し、国民に対し分かりやすく情報発信することを目的とする「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称:Japanチャレンジプログラム)」を推進しました。具体的には、事業者からの情報収集に係る協力が得られていない化学物質については引き続き公開し、本プログラムへの事業者の参加を促進したほか、本プログラムで得られた情報の発信を行うデータベース(J-CHECK)のさらなる充実を図りました。

 さらに、持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)における「2020年までに、化学物質による人の健康や環境への著しい悪影響を最小化する」という目標を踏まえて、平成21年5月に化学物質審査規制法が改正されたことを受け、優先評価化学物質の環境リスク評価の方法について、検討を行いました。平成23年度には既存一般化学物質のうち、人健康影響の観点から55物質、生態影響の観点から37物質について先行的にスクリーニング評価を行い、審議の結果、8物質を優先評価化学物質に指定することとなりました(図5-3-1)。


図5-3-1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律のポイント

2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)については、同法施行後の第10回目の届出として、平成22年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、平成24年3月に公表しました(図5-3-2図5-3-3図5-3-4)。事業者間で化学品を取引する際の情報伝達について、化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)との整合性を図り、確実でわかりやすいものとするため、化学物質排出把握管理促進法に基づく省令等の改正に向けた作業を進めました。さらに、平成22年度から、個別事業所ごとのPRTRデータをインターネット地図上に分かりやすく表示し、ホームページ上に公開しています。


図5-3-2 化学物質の排出量の把握等の措置(PRTR)の実施の手順


図5-3-3 届出排出量・届出外排出量の構成(平成22年度分)


図5-3-4 届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量(平成22年度分)

3 ダイオキシン類問題への取組

(1)ダイオキシン類による汚染実態と人の摂取量

 平成22年度のダイオキシンに係る環境調査結果は表5-3-1のとおりです。


表5-3-1 平成22年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)

 また、平成23年度の一日摂取量調査において、平成22年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.83pg-TEQと推定されました(図5-3-5図5-3-6)※食事からのダイオキシン類の摂取量は0.81pg-TEQです。この数値は経年的な減少傾向から大きく外れるものではなく、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています。


図5-3-5 日本におけるダイオキシン類の1人1日摂取量(平成22年度)


図5-3-6 食品からのダイオキシン類の1日摂取量の経年変化

(2)ダイオキシン法等に基づく対策

 ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)の2つの枠組みにより進められています。

 平成11年3月に策定された基本指針では、排出インベントリー(目録)の作成、測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進などを定めています。

 ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、土壌汚染に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

 ダイオキシン法及び基本指針に基づき国の削減計画で定めたダイオキシン類の排出量の削減目標が達成されたことを受け(図5-3-7)、平成17年に国の削減計画を変更し、新たな目標値として22年までに15年に比べて約15%の削減をすることとしました。平成24年3月のインベントリーでは、平成22年の排出総量の推計は、15年から約59%の削減がなされており、排出削減目標は達成されたと評価されます。


図5-3-7 ダイオキシン類の排出総量の推移

 ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、平成22年度は大気基準適用施設で58件、水質基準適用事業場で2件、合計60件(平成21年度68件)で、前年度に比べ減少しました。また22年度において、法に基づく命令が発令された件数は、大気関係20件、水質関係0件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係2,297件、水質関係107件でした。

 ダイオキシン類による土壌汚染対策については、環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに5地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定されています。これら5地域では、対策計画に基づく事業が完了しました。さらに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(3)その他の取組

ア ダイオキシン類の測定における精度管理の推進

 申請に係る負担軽減に配慮しつつ、引き続き「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」又は「ダイオキシン類の環境調査に係る精度管理の手引き(生物検定法)」に基づいて実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、測定に係る精度管理を推進するために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。

イ 調査研究及び技術開発の推進

 ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性やばく露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。

 また、環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。

4 農薬のリスク対策

 農薬は、生理活性を有し、意図的に環境中に放出されるものであり、正しく使用しなければ、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、農薬取締法に基づき規制されており、農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬の登録を保留するかどうかの要件のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る基準(農薬登録保留基準)を環境大臣が定めています。

 特に、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準は、個別農薬ごとに基準値を設定しており、平成23年度には、水産動植物の被害防止に係る登録保留基準については25農薬、水質汚濁に係る農薬登録保留基準については54農薬に基準値を設定しました。また、農薬登録保留基準については、国内外の知見や国際的な動向を考慮して、その充実を図るための検討を行いました。

 特定農薬については、「特定防除資材(特定農薬)指定のための評価に関する指針」に基づき、個別資材の指定に向けた検討を行いました。

 さらに、農薬の環境リスク対策の推進に資するため、農薬使用基準の遵守状況の確認、農薬の各種残留実態調査、農薬の生態影響調査、農薬の飛散対策に関する調査、農薬の吸入毒性に関する調査等を実施しました。