環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 電力需給の逼迫への対応

第2節 電力需給の逼迫への対応

1 震災直後の電力需給の逼迫と対応状況

(1)震災直後の電力需給の逼迫と対応状況

 東日本大震災により、約2,100万kW分の発電所の運転が停止しました。東京電力株式会社管内及び東北電力株式会社管内において、電力供給力が通常と比較して大幅に落ち込み、電力需給が逼迫する事態となりました。

 東北電力株式会社管内では、震災前1,336万kWの設備容量(震災前の点検等による停止分を除く)がありましたが、震災直後、設備容量ベースで約628万kW(内、原子力135万kW、火力・地熱493万kW)が停止しました。東京電力株式会社管内では、震災前5,004万kWの設備容量(震災前の点検等による停止分を除く)がありましたが、震災直後、設備容量ベースで約1,490万kW(内、原子力643万kW、火力848万kW)が停止しました。

 こうした中、震災により原形復旧することが不可能となった自社の発電設備の電気供給量を補うために、東京電力株式会社及び東北電力株式会社が当該発電設備に係る発電所以外の場所で行う発電設備の設置の事業で、災害復旧事業として復旧計画に位置付けられるものについては、環境影響評価法第52条第2項の規定に基づき、同法の適用除外となることを確認しました。これらの事業の実施による環境への負荷をできる限り回避・低減し、環境保全について適正な配慮が行われるよう、当該事業による環境影響を最小化するための実行可能な最大限の配慮を行うことや、関係地方公共団体及びその地域住民に対する説明や意見聴取等の措置をとるよう、政府として指導しました。

(2)節電の取組

 電力需給の逼迫によって、東京電力管内の一部の地域では、計画停電が実施されました。こうした事態を受け、我が国におけるライフスタイルや事業活動のあり方にも踏み込んだ取組の必要性が高まりました。

 政府では、産業界や家庭における節電について広く呼びかけを行いました。平成23年3月下旬には、経済産業省と内閣官房で連携し、新聞広告やテレビCMなどで広く節電を呼びかけた上で、経済産業省において、具体的な節電アクションやその効果試算等をまとめた節電ウェブページも公開されました。

 環境省においても、家庭でできる具体的な節電策として、[1]家電製品のこまめなスイッチオフ、[2]使用していない電気機器の待機電力の削減、[3]エアコンの設定温度や風向きの調整、[4]冷蔵庫の扉の開閉時間を短くすること等の効率的な利用、[5]明るさや消灯時間の調整、[6]テレビの主電源や明るさを調整すること等の効率的な利用、[7]朝型の生活に変えること等生活スタイルの見直しといった7つのポイントを挙げ、節電を呼びかけました。

 平成23年5月13日、政府の電力需給緊急対策本部は、夏期の電力需給対策をまとめました。具体的には、ピーク期間・時間帯(7~9月の平日の9時から20時)、東京・東北電力管内全域において目標とする需要抑制率を前年比-15%としました。また、これを達成するため、大口需要家(契約電力500kW以上の事業者)、小口需要家(契約電力500kW未満の事業者)、家庭の各部門の需要抑制の目標については、均一に前年比-15%とすることとしました。また政府自らの節電への取組として、「政府の節電実行基本方針」に基づき、府省ごとに節電実行計画を策定し、ピーク期間・時間帯(7~9月の平日9時~20時)の使用最大電力を15%以上抑制することとしました。

 平成23年11月1日には、「今冬の需給対策の基本的考え方」が示されました。この中では、供給面として、引き続き供給力の積み増し努力を続けるとともに、電力系統の運用において、各社の需給状況を踏まえつつ、さらに機動的な相互融通を行うことによって、需給が逼迫する地域の需給バランスを確保することとされました。需要面においては、経済社会への影響を最小化するため、電気事業法に基づく電気の使用制限は行わないこと、及び、節電の要請に当たっては、社会経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求めることとされました。

 このような状況は、国民生活や社会経済活動に多大な負担を強いましたが、一面では、エネルギーの希少性・重要性を再認識するきっかけともなったと考えられます。

(3)節電の取組の結果

 経済産業省が行った平成23年の夏期における電力需給対策のフォローアップにおいて、大口需要家・小口需要家・家庭における取組の検証が行われました。

 東京電力管内や東北電力管内においては、節電への協力や気温が低めに推移したこと等により、目標であった最大ピーク需要の15%減少を達成しました。気温が同水準の日同士の昨年比で、東京電力管内では、減少幅が大口需要家で27%、小口需要家で19%、家庭で11%、東北電力管内では、大口需要家で18%、小口需要家で17%、家庭で18%であり、おおむね目標数値を大きく超えています(表2-2-1)。なお、家庭についても、販売電力量(8月)では東京電力管内・東北電力管内いずれも17%の減少となっており、目標以上の減少幅となっています。大口需要家においては、気温の影響にかかわらず確実な需要抑制が実施された一方、減産を回避するための自家発電の活用や生産調整等のためのコストが発生しています。多くの業種では、生産・操業等への影響を最小限に抑えながら節電できる範囲は、空調、照明等の業務部門における対応を中心としたものであり、生産部門の占める割合が大きい企業や、一定期間の通電が不可欠な生産設備等を設置する業種においては、照明や空調、操業日シフトによる対応のみでは目標の達成が困難であったと考えられます。


表2-2-1 最大ピーク需要の数値目標の達成状況

 小口需要家については、省エネ意識の向上・電気代の節約によるコスト削減などのメリットを感じている企業が多い一方、コスト増や生産量への影響、従業員の負担増、サービスへの影響といったデメリットを指摘する企業も多くなっています。

 また、家庭の節電への取組について、多くの家庭において、照明や空調(28℃設定、扇風機の活用)を中心とした節電が実施されており、その大半の家庭においては無理なく節電を実施できたと考えられます。

 これらの取組の結果を、気温と最大電力との関係を示すグラフで見てみましょう。図2-2-1は、2010年及び2011年の東京の気温と東京電力管内におけるその日の最大電力(万kW)との関係を表したものです。2010年のデータを見ると、気温が25℃を超えたあたりから冷房の需要が増加するため電力の最大値が増加し、15度を下回るあたりから暖房の需要が増加するため電力の最大値が増加する傾向がみられ、全体にV字形のグラフとなっています。一方、2011年について見ると、震災直前の値は2010年の値とほぼ重なるのに対して、震災後、総じて2010年を下回っていることがわかります。


図2-2-1 東京における最高気温と東京電力管内の最大電力との関係

2 電力需給の逼迫による人々の意識・行動の変化

 このような電力需給の逼迫をはじめとする社会経済をとりまく状況の変化は、多くの人々の防災意識やライフスタイルの価値観の変化をもたらしました。このことに関して、環境の側面でどのような価値観の変化があったかを把握するために、環境省において、平成24年2月にウェブアンケートによる意識調査を実施しました。

 図2-2-2に示すそれぞれの行動について、「震災前から取り組んでいたこと」、及び、「現在も取り組んでいること又は取り組もうと思っていること」についての回答を集計した結果、それぞれの行動とも、震災後も引き続き取り組もうとする姿勢が見られます。特に、「窓や壁の断熱性能の向上」や「太陽光発電等の再生可能エネルギーや高効率給湯器の導入」といった、設備の導入に関する取組については、震災前に比べて、震災後、取組をしようと考える人が大きく増加しています。


図2-2-2 「震災前から取り組んでいたこと、現在も取り組んでいること」

 また、図2-2-3に示すような、公共機関等で行われた節電のための取組については、クールビズなどによるノー上着等の軽装の励行に関する行動やワークスタイルの変革等は、震災直後の緊急時の取組としてだけではなく、平常時も実施してよいと考える人が多くなっています。一方、街のネオンや看板照明、地下鉄などの公共機関の照明については、半数程度の人が平常時もある程度暗くなっていてかまわないと考えているものの、自動販売機の停止やエスカレーターの停止については、緊急時の取組としてはやむを得ないが平常時までは実施してほしくないと考える人の割合が、平常時も実施してよいと考える人の割合を上回っています。また、街灯の照明が暗くなるといった、安全に関すると考えられる事項については、緊急時においても実施してほしくないと考える人の割合が比較的高くなりました。


図2-2-3 公共機関等で行われた節電のための取組の今後の実施について

 これらの意識の変化は、人々の消費活動にも影響を与えたと考えられます。震災による節電に伴う不便の解消を望む一方で、先に見た人々の省エネルギー意識の向上を背景に、LED電球の販売数の数量構成比の推移を見ると、震災後の2011年3月以降、LED電球の割合が急激に伸びています(図2-2-4)。


図2-2-4 電球形LED電球、一般照明用電球、電球形蛍光管の販売数量構成比の推移

 また、つる植物を窓際で栽培することにより涼をとる緑のカーテンの設置については、震災後に急速に関心が高まりました。つる植物の販売実績について2008年6月~2009年5月の販売実績を100として、2010年6月~2011年5月の販売実績と比較した場合、ヒョウタン、ゴーヤ、ヘチマ等の伸び率が高くなっています(図2-2-5)。


図2-2-5 つる性の園芸植物の販売数の推移

 これらの省エネ・節電意識の高まりは、地球温暖化対策を進めるに当たって、プラスの要因になると考えられます。今後、これらの省エネルギー・節電の取組を一過性のものにするのではなく、私たちのライフスタイルを根本から見直し、日々の活動の中に定着させるためには、需要家の行動様式や社会インフラの変革をも視野に入れ、省エネルギー・節電対策を抜本的に強化することが重要です。