第3節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

1 生態系ネットワーク

 全国、広域圈、都道府県、市町村などさまざまな空間レベルにおける生態系ネットワーク形成を促進するための計画手法や実現手法などについて検討を進めます。

 国有林においては、森林生態系の核となる保護林相互を連結する「緑の回廊」の設定等を推進するとともに、生態系に配慮した施業やモニタリング調査等を実施することにより、必要に応じて民有林とも連携しつつ、より広範で効果的な森林生態系保全の取組を推進します。また、渓畔林等の保護樹帯の設定を積極的に推進することにより、上流域から下流域までの森林の連続性を確保し、森林生態系のネットワーク形成を推進します。

2 重要地域の保全

(1)自然環境保全地域

 原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域については、平成21年に改正された自然環境保全法(昭和47年法律第85号)を受け、生態系の現況調査や評価等を行った上で必要な対策を検討するなど、適正な保全管理の充実を図ります。

(2)自然公園

 ア 自然公園法改正に伴う施策の推進

 平成21年に改正された自然公園法(昭和32年法律第161号)の着実な実施を図るため、以下の施策を重点的に進めます。

 イ 自然公園の指定、公園区域及び公園計画の見直し

 社会条件等の変化に対応するため、公園区域及び公園計画の全般的な見直し(再検討)を行います。また、再検討が終了した公園については、おおむね5年ごとに公園区域及び公園計画の点検を行います。特に海域については、平成21年の自然公園法の改正により新たに設けられた海域公園地区の新規指定を進めます。国定公園については、都道府県から申出のある地域について検討を行い、見直し等の作業を進めます。

 国立・国定公園では、自然環境や社会状況、風景評価の多様化などの変化、生物多様性の保全に寄与する観点を踏まえ、平成23年度までを目途に国立・国定公園の選定基準について検討を行うとともに、すべての国立・国定公園の指定状況について全国的な見地から見直しを進めます。

 ウ 自然公園の管理の充実

 平成21年の自然公園法の改正により、新たに創設された生態系維持回復事業制度について、事業計画の策定を進めます。また、事業計画を策定した地域においては、計画に基づき生態系の適切な維持・回復を進めます。

 自然公園法に基づく許可、認可等を適正に運用するとともに、国立公園管理計画の定期的な見直しを行い、国立公園の適正な保護及び利用の推進を図ります。また、利用者に対する質の高い国立公園サービスの提供を目指し、関係者による協議会の設置や運営計画の策定等により、協働型管理運営体制の構築を目指します。あわせて、地域密着型の公園管理を行うNPO等の公園管理団体の指定及び風景地保護協定の締結を推進し、管理体制の強化を推進します。

 すぐれた自然環境を保全していくため、引き続き民有地買上げの推進を図ります。また、専門的な知識を持ったアクティブ・レンジャーを全国に配置して、現場管理の充実に努めます。

 国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業では、登山道の補修や清掃作業、サンゴ礁の保護対策、野生生物の保護、外来生物の駆除、湿地等の植生保全などを引き続き推進します。

 荒廃した登山道の整備、周辺の植生を復元するための対策及びシカの食害等から貴重な植生を保護するための対策を推進します。釧路湿原、サロベツ原野等においては、自然再生の取組を引き続き推進します。

 エ 自然公園における適正な利用の推進

 自然とのふれあいを推進するため、自然観察会等の活動を実施するとともに、自然公園指導員の研修による利用者指導の充実やパークボランティアの養成や活動に対する支援を行います。

 国立公園の主な利用地域については、関係地方公共団体の協力の下に清掃活動を実施します。また、「自然公園クリーンデー」等の各種行事を実施し、美化活動の普及に努めます。

 国立公園等の山岳地域等における環境浄化及び安全対策を図るため、山小屋事業者等によるし尿・排水処理施設等の整備の経費の一部を補助し、自然環境の保全と利用環境の改善を推進します。

(3)鳥獣保護区

 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)に基づき、国際的又は全国的な鳥獣の保護の見地から重要な区域について、国指定鳥獣保護区に指定し、保護を図ります。

(4)生息地等保護区

 種の保存法に基づき、国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域である生息地等保護区の指定を進め、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ります。

(5)名勝(自然的なもの)・天然記念物

 文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づき、日本の峡谷、海浜等の名勝地で観賞上価値の高いものを名勝(自然的なもの)に、動植物、地質鉱物等で学術上価値の高いものを天然記念物に指定し、保護を図ります。

(6)保護林・保安林

 わが国の森林のうち、すぐれた自然環境の保全を含む公益的機能の発揮のため特に必要な森林を保安林として計画的に指定し、適正な管理を行います。また、国有林野のうち、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存等を図る上で重要な役割を果たしている森林については「森林と人との共生林」に区分し、自然環境の保全を第一とした管理経営を行います。特に原生的な天然林や貴重な野生動植物の生息・生育地等については、保護林として積極的に指定するなどその拡充を図るとともに、モニタリング調査等により状況を的確に把握し、必要に応じて植生の回復等の措置を講ずるなど適切な保全・管理を推進します。

(7)景観の保全

 景観の保全に関しては、自然公園法によってすぐれた自然の風景地を保護するほか、景観法に基づく景観行政団体による景観計画の策定を推進します。また、人と自然の関わりの中でつくり出されてきた文化的景観のうち、特に重要なものを文化財保護法に基づき重要文化的景観に選定し、その保存と活用に努めます。

3 自然再生の推進

 自然再生推進法(平成14年法律第148号)の円滑な運用を図るため、民間からの相談に適切に対応するための基本的情報基盤の整備、地域における専門家ネットワークの形成及び自然再生に関する情報の収集・提供、ワークショップの開催等による自然再生協議会の設立・技術的課題解決への支援など、地域の自主的な自然再生の取組が継続されるような体制づくりを推進します。

 自然再生事業については、河川・湿原・干潟藻場里地里山・森林などさまざまな環境を対象に全国で取り組まれるよう、関係省庁が連携し着実に推進します。あわせて、自然再生を通じた自然環境学習の推進を図ります。

4 農林水産業

 「農林水産省生物多様性戦略」(平成19年7月)に基づき、[1]田園地域・里地里山の保全(環境保全型農業の推進、生物多様性に配慮した生産基盤整備の推進等)、[2]森林の保全(適切な間伐等)、[3]里海・海洋の保全(藻場・干潟の保全活動への支援等)など生物多様性保全をより重視した農林水産施策を推進します。

 これらの関連施策を効果的に推進するため、農林水産業と生物多様性の関係を定量的に計る指標の開発を進めるほか、生物多様性のモニタリングや営農条件等の事例収集を通じ、食料生産と生物多様性保全を両立させる水田農業の取組の全国的な拡大を図ります。

5 里地里山・田園地域

(1)里地里山

 里地里山の保全・活用に向けた取組をさらに全国へと展開していくために、「里地里山保全・活用行動計画(仮称)」策定のための検討を進めます。これに加えて、参考となる里地里山の特徴的な取組を情報発信し、ほかの地域への取組の波及を図ります。また、都市住民等のボランティア活動への参加を促進するため、ホームページ等により活動場所や専門家の紹介等を行うとともに、研修会等を開催し里地里山の保全・活用に向けた活動の継続・促進のための助言等の支援を行います。

 特別緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地方公共団体等とが管理協定を締結し、持続的に管理を行うとともに市民に公開するなどの取組を引き続き推進します。

(2)田園地域

 農業農村整備事業においては、環境との調和への配慮の基本方針に基づき事業を実施するとともに、生態系の保全に配慮しながら生活環境の整備等を総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進します。また、農村地域の生物や生息環境の情報を調査・地理情報化し、生態系に配慮した水田や水路等の整備手法を構築するなど、生物多様性を確保するための取組を進めます。さらに、地域の生態系を代表する種を「保全対象種」として示し、農家や地域住民の理解を得ながら生物多様性保全の視点を取り入れた基盤整備を推進します。

 農林水産省と環境省が連携・協力して、「田んぼの生きもの調査」を引き続き実施するとともに、河川から水田、水路、ため池、集落等を結ぶ水と生態系のネットワークとして「水の回廊」を整備します。生物多様性保全に取り組む活動団体間の交流及び情報共有を図るとともに、活動団体間の全国ネットワークの形成を支援するほか、「田園自然再生活動コンクール」を実施します。

 棚田における農業生産活動により生ずる国土の保全、水源のかん養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動を推進するほか、農村景観や環境を良好に整備・管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行います。さらに、地域の創意と工夫をより生かした「農山漁村活性化プロジェクト支援交付金」により、自然再生の視点に基づく環境創造型の整備を推進します。

 持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の育生等を推進するとともに、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)に基づく有機農業の推進に関する基本的な方針に即し、産地の販売企画力、生産技術力強化、販路拡大、栽培技術の体系化の取組等を支援します。

6 森林

 森林の多面的機能を持続的に発揮させるため、重視すべき機能に応じた森林の区分である「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」ごとに多様な森林づくりを推進するとともに、自然環境の保全など森林の公益的機能の発揮及び森林の保全を確保するため、保安林制度・林地開発許可制度等の適正な運用を図ります。また、森林でのさまざまな体験活動を通じて森林の持つ多面的機能等に対する国民の理解を促進する森林環境教育や、市民やボランティア団体等による里山林の保全・利用活動など、森林の多様な利用及びこれらに対応した整備を推進します。

 治山事業においては、豊かな環境づくりや周辺の生態系に配慮しつつ、荒廃山地の復旧整備、機能の低い森林の整備等を計画的に推進します。また、特に自然環境のすぐれた地域等において、自然環境の保全・改善効果の高い工法等の開発普及等を図る森林土木効率化等技術開発モデル事業を実施します。

 松くい虫等の病害虫や野生鳥獣による森林の被害対策の総合的な実施、林野火災予防対策や森林保全推進員による森林パトロールの実施、啓発活動等を推進します。

 企業、森林ボランティア活動等広範な主体による森林づくり活動、緑化行事の実施、身近な森林や樹木の適切な保全・管理のための技術開発等の支援を推進し、国民参加の森林づくりを進めます。

 「森林資源モニタリング調査」を引き続き実施するとともに、時系列的なデータを用いた解析手法の開発を行います。これらの結果は、モントリオール・プロセスの下で作成するわが国の第2回国別森林レポートに反映させます。

 COP10の日本開催等を契機として、生物多様性国家戦略2010や平成21年7月に取りまとめられた「森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用の推進方策」に基づき、森林生態系の調査のほか、森林の保護・管理技術の開発など、森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた施策を推進するとともに、わが国における森林の生物多様性保全に係わる取組を国内外に発信します。

 国有林野においては、育成複層林・天然生林施業の推進、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した多様な森林施業を推進します。また、すぐれた自然環境を有する森林の保全・管理や国有林野を活用して民間団体等が行う自然再生活動を積極的に推進します。さらに、野生鳥獣との棲み分け、共存を可能にする地域づくりに取り組むため、地域等と連携し、野生鳥獣の生息環境の整備と個体数管理等の総合的な対策を実施します。

7 都市

(1)緑地、水辺の保全・再生・創出・管理

 都市における緑地を保全するため、都市緑地法に基づく特別緑地保全地区等の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を引き続き推進します。また、首都圏近郊緑地保全法(昭和41年法律第101号)及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和42年法律第103号)に基づき近郊緑地の保全を図ります。さらに、緑が不足している市街地等において、緑化地域制度や緑化施設整備計画認定制度等の活用により建築物の敷地内の空地や屋上等の民有地における緑化を図るとともに、市民緑地の指定や緑地協定の締結を引き続き推進します。加えて、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区指定の推進を引き続き図ります。

 都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4月~6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発にかかる各種活動を実施するほか、「緑の相談所(都市緑化植物園)」の設置等、取組の推進を図ります。

 都市における多様な生物の生息・生育地となるせせらぎ水路の整備や下水処理水の再利用等による水辺の保全・再生・創出を図ります。

(2)都市公園の整備

 都市における緑とオープンスペースを確保し、水と緑が豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、都市公園の整備、緑地の保全、民有緑地の公開に必要な施設整備を支援する「都市公園等事業」を実施します。

(3)国民公園及び戦没者墓苑

 国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑を広く国民の利用に供するため、引き続き施設の改修、園内の清掃、芝生・樹木の手入れ等を行います。

8 河川・湿原

(1)河川の保全・再生

 河川やダム湖等における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施し、結果を河川環境データベース(http://www3.river.go.jp/)として公表します。また、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川や湖沼の自然環境保全・復元のための研究を進めます。加えて、生態学的な観点より河川を理解し、川のあるべき姿を探るために、河川生態学術研究を進めます。

 河川整備に当たっては、必要とされる治水上の安全性を確保しつつ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、生物の良好な生息・生育環境及び多様な河川景観を保全・創出する「多自然川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり」を実施します。また、災害復旧事業においても、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境の保全・復元の目的を明確にして、事業を実施します。

(2)湿地の保全・再生

 平成13年度に選定した「重要湿地500」について、引き続きこれらの重要湿地とその周辺における保全上の配慮の必要性について普及啓発を進めます。

(3)土砂災害対策に当たっての環境配慮

 生物多様性を保全しながら土砂災害から住民の安全・財産を守る砂防事業を進めるため、六甲地区等、都市周縁に広がる山麓斜面において、グリーンベルトとして一連の樹林帯を整備します。また、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流や里山等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工等を実施します。

9 沿岸・海洋

(1)沿岸・海洋域の保全

 海洋基本法(平成19年法律第33号)に基づく海洋基本計画の策定を受けて、海洋生物多様性保全戦略を策定するとともに、わが国における海洋保護区の設定のあり方の明確化等の施策を推進するため関係省庁と連携して検討を行います。

 ウミガメの産卵地となる海浜については、自然公園法に基づく乗入れ規制地区に指定されている地区においてオフロード車等の進入を禁止するなどにより保護を図ります。

 有明海・八代海における海域環境調査、東京湾における水質等のモニタリング、海洋短波レーダーを活用した生物調査、水産資源に関する調査や海域環境情報システムの運用等を行います。

 サンゴ礁保全の総合的な取組を推進するためのサンゴ礁生態系保全行動計画を策定します。

(2)水産資源の保護管理

 漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づき、採捕制限等の規制を行います。また、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、漁獲可能量や漁獲努力可能量の管理を行うほか、[1]「資源回復計画」の推進、[2]外来魚の駆除、環境・生態系と調和した増殖・管理手法の開発、魚道や産卵場の造成等、[3]ミンククジラ等の生態、資源量、回遊等の実態把握及び資源回復手法の解明に資する調査、[4]ウミガメ(ヒメウミガメ等)、鯨類(シロナガスクジラ等)及びジュゴンの原則採捕禁止等、[5]減少の著しい水生生物に関するデータブックの掲載種に係る現地調査及び保護手法の検討、[6]サメ類の保存・管理及び海鳥の偶発的捕獲の対策に関する行動計画の実施促進等、[7]混獲防止技術の開発等を実施します。

(3)海岸環境の整備

 海岸保全施設の設備においては、海岸法の目的である防護・環境・利用の調和に配慮するなど、海岸環境の保全に取り組みます。

(4)港湾及び漁港・漁場における環境の整備

 良好な海域環境を保全・再生・創出するため、藻場干潟等の整備を推進するとともに、港の環境保全の重要性を認識・理解し、環境保全のための行動が習慣となるよう、環境保全活動及び環境教育活動を支援します。

 漁港・漁場では、水産資源の持続的な利用と豊かな自然環境の創造を図るため、海水交換機能を有する防波堤、水産動植物の生息・繁殖に配慮した護岸等の整備及び砂浜の再生に資する施設の整備など、自然調和・活用型の漁港漁場づくりを積極的に展開します。また、藻場干潟の保全等を推進するとともに、漁場環境を保全するための森林整備に取り組みます。さらに、効果的な磯焼け対策の順応的管理手法を示した磯焼けガイドラインを活用した講演会や技術サポートを実施し、対策の普及・啓発に取り組みます。加えて、サンゴの有性生殖による種苗生産を中心としたサンゴ増殖技術の開発に取り組みます。漁業者と地域住民等による藻場・干潟等の維持・管理等の環境・生態系保全活動を支援します。



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