第2節 大気環境の保全対策

1 微小粒子状物質(PM2.5)対策

 平成21年9月9日に環境基準が設定されたPM2.5については、中央環境審議会答申に示された課題を踏まえ、監視体制の整備を促進するとともに、排出インベントリの作成、大気中の挙動や二次生成機構の解明等、科学的知見の集積を図り、より効果的な対策について検討を行います。また、わが国におけるPM2.5の健康影響に関するさらなる知見の充実を図っていきます。

 さらに、粒径がおおむね50nm以下の極微小粒子(環境ナノ粒子)についても、引き続き諸外国の知見の収集、動物実験、性状把握等の調査を実施し、リスク評価を行います。

2 光化学オキシダント対策

 「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」により、リアルタイムで収集したデータを活用し、光化学オキシダントによる被害の未然防止に努めます。

 光化学オキシダントの原因物質である揮発性有機化合物、窒素酸化物等については、固定発生源からの排出規制を引き続き実施していくとともに、調査研究やモニタリング、国内における削減対策及び日中韓三カ国環境大臣の合意に基づく研究協力など、国際的な取組等について推進していきます。

3 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策

(1)固定発生源対策

 窒素酸化物対策については、総量規制を行っている東京都特別区等、横浜市等及び大阪市等の地域について、引き続き総量規制の徹底を図ります。

 また、大防法対象外の群小発生源からの排出抑制のため、低NOX小規模燃焼機器の普及を推進します。


 浮遊粒子状物質については、原因物質の排出実態の把握、硫黄酸化物、窒素酸化物、揮発性有機化合物等のガス状物質による二次粒子の生成等の発生機構の解明に努めるとともに、これらを踏まえ、環境基準の達成に向けた総合的対策の確立を図ります。

(2)移動発生源対策

 ア 自動車排出ガス対策

 (ア)自動車単体対策と燃料対策

 自動車単体の排出ガス対策については、中央環境審議会の第八次答申に示された「挑戦目標」について引き続き検討を進め、併せて国際的な基準の動向を考慮した重量車の排出ガス試験モードの見直しについても検討を行います。ディーゼル自動車から排出される粒子状物質(PM)については、その粒子数や組成等を測定し、大気中に排出された後の粒子の特性の実態について引き続き調査を行います。また、使用過程車のNOX及びPMの排出実態調査を行い、必要に応じ使用過程車の排出ガスの水準について検討します。

 温室効果ガスの削減に資するため、E10(エタノール10%混合ガソリン)対応自動車が市場に導入される環境を整えることを目的とし、大防法の観点からE10対応自動車の排出ガス基準及び排出ガス基準と密接に関係するE10燃料規格について検討を行います。

 また、排出ガス基準に適合する特定特殊自動車への買換えが円滑に進むよう、政府系金融機関による低利融資を引き続き講じます。

 (イ)大都市地域における自動車排出ガス対策

 大都市地域における二酸化窒素及び浮遊粒子状物質に係る大気環境の改善に向け、自動車NOX・PM法に基づく車種規制、事業者による排出抑制のための措置、局地汚染対策及び流入車対策等の施策を円滑かつ着実に推進します。同法に基づく排出基準適合車への代替促進については、低公害車の普及促進と併せ、政府系金融機関による低利融資等を講じます。

 (ウ)低公害車の普及促進

 地方公共団体や民間事業者等が電気自動車等の低公害車を導入する際の補助、排出ガス性能や燃費性能のすぐれた環境負荷の小さい自動車に係る自動車税のグリーン化、自動車重量税・自動車取得税について時限的に免除・軽減する措置等及び政府系金融機関による低利融資等を通じて、低公害車のさらなる普及促進を図ります。低炭素社会の実現等環境政策やエネルギー政策の方向性を踏まえ、政策目標を含め政策体系を再構築します。

 (エ) 交通流対策

 交通流の分散・円滑化施策としては、道路交通情報通信システムVICS)の情報提供エリアのさらなる拡大及び道路交通情報提供の内容・精度の改善・充実、信号機の高度化を行います。また、違法駐車の取締り強化を始め、ハード・ソフト一体となった駐車対策を推進します。さらに、公共交通機関の利用を促進するため、公共車両優先システムPTPS)の整備を推進します。

 イ 普及啓発施策等

 平成22年度も引き続き、6月の「エコカーワールド(低公害車フェア)」や12月の「大気汚染防止推進月間」におけるマイカーの使用抑制等や適切な自動車の使用等の呼び掛けを行います。また、11月の「エコドライブ推進月間」を中心に、「エコドライブ10のすすめ」の普及啓発を実施します。

4 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)有害大気汚染物質対策

 地方公共団体との連携の下に有害大気汚染物質による大気の汚染の状況を把握するための調査を行うとともに、有害大気汚染物質の人の健康に及ぼす影響に関する科学的知見の充実に努めます。

 また、ほかの化学物質関連施策との整合性を図りつつ、有害大気汚染物質対策の必要な見直しに努めます。

(2)石綿対策

 石綿(アスベスト)による大気汚染を未然に防止する観点から、大防法に基づき、吹付け石綿等が使用されている建築物等の解体等に伴う石綿の飛散防止対策の徹底を図ります。

 また、より信頼性の高い測定結果を得るために、環境モニタリング手法について検討を行います。

5 地域の生活環境に係る問題への対策

(1)騒音・振動対策

 ア 騒音に係る監視体制の強化等

 地方公共団体と連携しながら、騒音に係る監視体制を充実させます。また、騒音及び振動に関するより適切な評価や規制のあり方についての検討、低周波音に関する実態把握及び知見の収集を行います。

 イ 工場・事業場及び建設作業騒音・振動対策

 低騒音社会を目指し、低騒音型の機械・機器の普及を目指した制度について検討していきます。さらに、振動については、最新の知見を踏まえ作成した振動測定マニュアルを用いて人が生活の場でばく露されている振動の状況を把握していきます。

 ウ 自動車交通騒音・振動対策

 自動車単体から発生する騒音の低減対策について、平成20年12月18日の中央環境審議会中間答申「今後の自動車単体騒音低減対策のあり方について」を受けて、自動車の走行実態及び騒音の実態、タイヤ単体から発生する騒音の実態を調査し、その結果及び国際的な基準の動向を踏まえ、自動車騒音の大きさの許容限度及び試験方法の見直しについて引き続き検討を行います。

 エ 航空機騒音対策

 低騒音型機の導入、騒音軽減運航方式の実施等を促進します。また、住宅防音工事、移転補償事業、緩衝緑地帯の整備等の空港周辺環境対策事業を推進します。

 自衛隊等の使用する飛行場周辺の航空機騒音に係る環境基準の早期達成に向けて、消音装置の設置・使用、飛行方法への配慮等の音源対策、運航対策に努めるとともに、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律等に基づき、周辺対策を推進します。

 オ 鉄道騒音・振動対策

 新幹線鉄道の騒音・振動については、発生源対策及び低減技術開発等を計画的に実施し、環境基準等の達成に向けて対策を推進するため、75デシベル以下とすることが必要な区間について、住宅の立地条件、鉄道事業者の取組状況等を勘案しつつ、引き続き音源対策が計画的に推進されるように関係機関に要請していきます。また、新幹線鉄道騒音防止の観点から沿線土地利用の適正化を図ります。

 在来鉄道の騒音・振動問題については、関係機関と連携し適切に対処します。新線又は大規模改良の計画に際しては、「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針」に基づき騒音問題の発生を未然に防止するための対策を実施するよう鉄道事業者に要請していきます。

 カ 近隣騒音対策(良好な音環境の保全)

 各人のマナーやモラルを向上させ、近隣騒音対策を推進するため、「近隣騒音防止ポスターデザイン」を一般公募し、引き続き普及啓発活動を行います。

 キ 低周波音対策

 風力発電施設等からの低周波音について調査・研究を行い、低周波音の人への影響評価について検討します。また、地方公共団体職員を対象として、低周波音問題に対応するための知識・技術の習得を目的とした低周波音測定評価方法講習を引き続き行います。

(2)悪臭対策

 悪臭防止法(昭和46年法律第91号)の事務を担当する地方公共団体職員を対象に、臭気指数規制の周知を図るための講習会、嗅覚測定法の信頼性の確保を目的とした嗅覚測定法技術研修等を引き続き実施します。臭気指数規制の円滑な導入、運用に必要な取組も併せて実施します。

 また、国内での現場対応に加え、アジア諸国での悪臭対策にも資するための簡単な現場対応型の嗅覚測定・評価手法の開発を行います。

(3)ヒートアイランド対策

 ヒートアイランド対策大綱に基づき、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善の4つを柱とするヒートアイランド対策の推進を引き続き図ります。

 具体的には、ヒートアイランド現象に関する調査・観測や、熱中症の予防情報の提供とWBGT(暑さ指数:湿球黒球温度)のモニタリング、地下水・地中熱の利用等環境技術を活用したヒートアイランド対策の検証等クールシティ実現に向けての調査・検討をを引き続き実施します。

(4)光害(ひかりがい)対策等

 光害対策ガイドライン、地域照明環境計画策定マニュアル及び光害防止制度に係るガイドブック等を活用して、地方公共団体における良好な照明環境の実現を図る取組を支援します。また、「全国星空継続観察」(スターウォッチング・ネットワーク)を引き続き実施します。

6 大気環境の監視・観測体制の整備

 国設大気環境測定所、国設自動車交通環境測定所(及び国設酸性雨測定所)を引き続き運営していきます。また、「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」等により全国の大気汚染常時監視データをリアルタイムで収集し、監視体制の充実を図ります。環境放射線等モニタリング調査については、離島等(全国10か所)において引き続き大気中の放射線等のモニタリングを実施します。

 また、有害大気汚染物質について、測定方法の開発を体系的かつ計画的に進めます。

 さらに、揮発性有機化合物に関して、現在の状況と今後の排出抑制効果を把握するため、全国において環境濃度の継続的なモニタリングを行います。

自動車騒音の常時監視を適切かつ円滑に行い、全国の自動車交通騒音状況を把握し、広く情報提供します。



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