第6節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 国際的取組

(1)生物多様性条約

 ア COP10の開催に向けた取組

 2010年(平成22年)10月に愛知県名古屋市でCOP10が開催されます。COP10に向けた多様な主体間の情報の共有、意見交換、連携の促進などを図るため、21年2月に設置した「生物多様性条約第10回締約国会議及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議に関する円卓会議」を、21年度に3回開催しました。また、COP10に向けて政府が一体となった取組を進めるため、21年12月に関係省庁の副大臣及び政務官からなる「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)関する関係副大臣等会議」を設置しました。さらに、22年1月には、会場設営や運営業務を関係省庁が合同で行うため、「生物多様性条約COP10日本準備事務局」を外務省に設置しました。

 平成21年10月にCOP10のロゴマークとスローガン「いのちの共生を、未来へ」を決定しました。ロゴマークは、多様な動植物と人間の親子の折り紙を円形に配置することで、人類と多様ないきものとの共生と、豊かな生物多様性を将来に引き継いでいこうという思いを表現しています(第1部図3-4-14)。また、22年3月に、日本人女性アーティストのMISIAさんが国連からCOP10名誉大使に任命されたことから、国連本部、生物多様性条約事務局等と連携しながら、COP10名誉大使の活動を支援しました。

 イ 2010年目標の達成状況の評価とポスト2010年目標

 COP10では、「2010年目標」の達成状況の評価と、「ポスト2010年目標」の検討が主要議題の一つになります。生物多様性条約事務局では、2010年目標の達成状況を評価するため、「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」を作成しており、わが国はGBO3の作成に対して5万ドルの拠出を行いました。

 COP10議長国としての国際的な役割を果たすため、有識者、NGO、経済界との意見交換や国民からの意見募集により「ポスト2010年目標に関する日本提案」を決定し、平成22年1月に生物多様性条約事務局に提出しました。日本提案では、中長期目標として、2050年までに「人と自然の共生を世界中で広く実現させ、生物多様性の状態を現状以上に豊かなものとする」ことを目指し、短期目標として、2020年までに「生物多様性の損失を止めるために」具体的な行動を実施することを目指すこととしています。さらに、短期目標を達成するために、分野ごとにより具体化した9つの個別目標を提示し、そのための34の達成手法と19の数値指標もあわせて提案しています。

 ウ SATOYAMAイニシアティブ

 世界的なレベルで進行する生物多様性の損失を減少させるためには、原生的な自然を保護するだけではなく、農林水産業など、人間活動の影響を受けて形成・維持され、世界中に広範囲に分布する二次的な自然地域において人間活動と生物多様性の保全の両立を図ることも重要です。このため、二次的な自然地域における自然資源の持続可能な利用・管理を推進していくための取組を、日本の「里山」を冠した「SATOYAMAイニシアティブ」としてCOP10で提案・発信し、国際パートナーシップの構築を目指しています。平成21年度には、国際パートナーシップの構築に向けた準備会合を、東京、ペナン(マレーシア)、パリ(フランス)で開催しました。準備会合では、世界各地の実情や課題、持続可能で資源循環的な自然資源の伝統的利用の事例や専門的な知見を整理するとともに、SATOYAMAイニシアティブを進めるに当たっての考え方や、国際パートナーシップ構築に向けた検討を行いました。

(2)カルタヘナ議定書

 国内担保法であるカルタヘナ法に基づき、議定書で求められている遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を実施しました。また、第5回締約国会議(COP-MOP5)の主要議題に関する作業会合に出席し、建設的な議論への貢献を行うとともに、条約事務局と協力してバイオセーフティに関する教育と研修についての会合を開催しました。

(3)ワシントン条約

 ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種については、国内での譲渡し等の規制を行っています。また、関係省庁、関連機関が連携・協力し、インターネット取引を含む条約規制対象種の違法取引削減に向けた取組等を進めました。

(4)ラムサール条約

 ラムサール条約に基づき、国際的に重要な湿地として、平成22年3月末現在、全国で37か所が登録されています。これらの条約湿地の保全と賢明な利用に向けた取組を進めるとともに、ラムサール条約湿地候補地の追加に向けた見直しを行っています。また、東南アジア諸国に対する国際的に重要な湿地の特定、保全及び賢明な利用に向けた協力等を行いました。

(5)二国間渡り鳥条約・協定

 米国、オーストラリア、中国、ロシア及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、オオワシ、ズグロカモメ等に関する共同調査を引き続き実施するとともに、渡り鳥保護施策や調査研究に関する情報や意見の交換を行いました。

(6)東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ等

 日豪政府のイニシアティブにより、平成18年11月に発足した「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」の活動として、アジア太平洋地域におけるツル、ガンカモ、シギ・チドリ類等の渡り性水鳥の保全を進めました。

(7)国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)

 平成21年12月に、ベトナム(ホイアン)で第5回ICRI東アジア地域会合を開催し、22年度を目途に策定する東アジアを中心とした海域における重要サンゴ礁ネットワーク戦略について関係各国で話し合いました。

(8)世界遺産条約

 世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づく世界遺産一覧表に、屋久島、白神山地及び知床が記載されています。これらの世界自然遺産について、関係省庁・地方公共団体・地元関係者・専門家の連携により適正な保全・管理を実施しました。屋久島については、科学的な保全・管理を進めるために、平成21年6月に専門家で構成される科学委員会を立ち上げました。白神山地については、市民参加による過去10年のモニタリング成果の取りまとめを行うとともに、マナー向上のために巡視を強化しました。知床については、世界遺産委員会からの勧告に適切に対応するとともに、管理計画の見直しを行いました。

 世界遺産暫定一覧表に記載された小笠原諸島については、関係省庁・地方公共団体・地元団体が連携し、外来種対策を進めるとともに、保全・管理のあり方を検討しました。それらの成果を踏まえて、平成22年1月に世界遺産センターに推薦書を提出しました。また、国内候補地である琉球諸島(トカラ列島以南の南西諸島が検討対象)については、関係する地域の人たちの協力を得ながら世界的にすぐれた自然環境の価値を保全するための方策を検討しました。

2 情報整備・技術開発

(1)生物多様性の総合評価

 わが国の生物多様性の現状と傾向を社会的な側面も含めて総合的に評価・分析するため、平成20年度より生物多様性総合評価検討委員会を設置しており、21年度は、22年5月の報告書の公表に向けた取りまとめ作業を行いました。また、生物多様性の保全上重要な地域(ホットスポット)の選定に向けた検討を行いました。

(2)自然環境調査

 わが国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査や、さまざまな生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査するモニタリングサイト1000等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化状況を把握しています。

 自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した植生図を作成しており、わが国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。平成21年度は、全国の約50%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。

 モニタリングサイト1000では、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁)、小島嶼の各生態系タイプに設置した合計約1000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施しています。平成21年度は、特に地球温暖化の影響を受けやすい脆弱な生態系である高山帯について、南アルプス、白山の2サイトで試行調査を開始し、また、沿岸域においては、新たに4サイトでモニタリングを開始しました。

 平成20年度から地球温暖化等の影響を受けていると思われる身近な生き物の発現日や分布の情報を全国から収集する、市民参加による調査(愛称「いきものみっけ」)を実施しています。21年度は、観察情報を収集するホームページに見つけた生き物の写真やコメントも投稿できる機能を追加したほか、対象となる生き物30種の観察ポイントをまとめた「いきものみっけ手帖」を配布し、自然観察会や学校の授業等を通じて多くの方に参加いただきました。

(3)地球規模生物多様性モニタリングなど

 アジア太平洋地域の生物多様性モニタリング体制の推進を目的として、地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、当該地域の研究者間のネットワークの構築支援を行いました。また、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする事業である東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブに関する戦略と作業計画を作成し、当該地域の政府関係者及び関係機関を集めた会合において合意を得ました。

 生物多様性に関する科学及び政策の連携の強化を目的とした「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームIPBES)」の創設に向けた国際的な議論に積極的に参画しました。

(4)研究・技術開発など

 生物多様性と生態系サービスの損失に関する経済分析を行う国際的取組である「生態系と生物多様性の経済学TEEB)」と連携し、生物多様性の経済評価に関する政策研究を実施しました。

 生物多様性保全に必要な技術開発や応用的な調査研究の推進を目的として、平成21年度より「生物多様性関連技術開発等推進事業」を開始し、「自然環境モニタリングネットワーク及び野生鳥獣行動追跡技術の研究開発」及び「侵略的外来中型哺乳類の効果的・効率的な防除技術の開発」の2件を採択しました。

 独立行政法人国立科学博物館において、「アジア・オセアニア地域の自然史に関するインベントリー構築」、「生物多様性ホットスポットの特定と形成に関する研究」などの調査研究を推進するとともに、約380万点の登録標本を保管し、これらの情報をインターネットで広く公開しました。また、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)の日本ノードとして、国内の自然史系博物館と協働で、標本資料情報を国際的に発信しました。さらに、さまざまな企画展や講座、体験教室の開催など、展示・学習支援活動を実施しました。



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