第2節 持続的な経済社会活動に向けた循環型社会ビジネス

1 拡大する循環型社会ビジネス

 循環型社会形成推進基本計画(平成20年3月閣議決定)においては、循環型社会を「資源採取、生産、流通、消費、廃棄などの社会経済活動の全段階を通じて、廃棄物等の発生抑制や循環資源の利用などの取組により、新たに採取する資源をできるだけ少なくした、環境への負荷をできる限り少なくする社会」と表しています。こうした循環型社会の構築に貢献するビジネスを循環型社会ビジネスと言います。ここでは、循環型社会ビジネスが拡大している状況を見ていきます。

 環境分野でもデカップリングの考え方が注目されています。デカップリング(decoupling)という言葉は「分離」を意味しています。環境分野で用いる場合は、環境負荷の増加率が経済成長の伸び率を下回っている望ましい状況を表します。これまでの世界、特に20世紀は大量生産、大量消費、大量廃棄といういわば資源の消費拡大と環境負荷の増大によって経済成長してきたといえるでしょう。これまで並行するように増大してきた経済成長と環境負荷のベクトルの向きを分離すること、すなわち物質や資源に着目すれば、天然資源等投入量の増加が経済成長の伸び率を下回るというデカップリングの状況に持っていくことが重要です。

 図5-2-1はわが国のGDP、天然資源等投入量(国産・輸入天然資源及び輸入製品の量)、循環利用率及び最終処分量の各指標、循環型社会ビジネスの市場規模、雇用規模の推移を表したものです。これを見ると、わが国は、着実にデカップリングが進んでいます。循環型社会ビジネスという新たな市場・雇用も生まれ、拡大していることもみてとれます。


図5-2-1 経済指標と3R 指標の伸び推移(平成2年基準)

 循環型社会ビジネスについて環境省が調査した結果、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号。以下「循環型社会基本法」という。)が制定され、循環型社会元年といわれた平成12年度には29兆5855億円(GDPの約5.9%)であった循環型社会ビジネスの市場規模は、平成19年度には38兆644億円(GDPの約6.8%)となり、約1.3倍に拡大していると推計されました(図5-2-2)。また、雇用規模については、約53万人(平成12年度)から約65万人(平成19年度)と約1.2倍に増加していると推計されました。


図5-2-2 循環型社会ビジネスの市場規模と雇用規模の推移

 消費者である国民一人ひとりの意識も確実に変化しています。内閣府が平成21年6月に行った世論調査によると、製品等を購入する際に、その製品の素材に再生された原料が用いられていたり、不要になった後リサイクルがしやすいなど、環境にやさしい製品を買うことについて、どれくらい意識しているか聞いたところ、「意識している」とする方の割合が81.8%でした(図5-2-3)。「意識している」とする方の割合は、性別で見ると女性が、年齢別に見ると50歳代、60歳代が高くなっていました。こうした消費者の意識に合致した商品、サービス等を提供することで新たな需要が生まれる可能性が十分あると考えられます。


図5-2-3 環境にやさしい製品の購入(グリーン購入)の意識

2 ビジネスにおける循環型社会に向けた取組

 さまざまなアイディアを活用しながら循環型社会ビジネスが展開されています。ここでは、消費者の目に触れる形で行われている循環型社会ビジネスの取組を紹介します。

(1)循環型社会に向けた取組を活用して新市場を開拓

○住宅メーカーS社の再生住宅「エバーループ」

 S社は、既存の住宅を再生し、新たに分譲するという、従来の中古住宅流通の概念を変える新しいシステムとして「エバーループ」を提供しています。住宅を壊すことなく、耐震性や外装、設備など最新の性能にして再販することで、住宅の長寿命化と資源の有効活用を促進する循環型の取組です。「新築か」「中古か」ではない「第3の選択」として提供しています。

(2)軽量化

○容器包装の軽量化(図5-2-4


図5-2-4 容器包装の軽量化

 飲料会社N社はペットボトル形状の工夫等により、消費者の使いやすさを損なうことなく、同社従来品に比べ40%の軽量化を図った520mlペットボトル商品を販売しています。飲料会社K社は、外装の角をとったコーナーカットカートンを採用することで持ちやすさと箱の強度アップを実現しながら段ボール使用量を約2%削減しました。その他、さまざまな事業者において容器包装の軽量化の取組が行われています。

(3)静脈産業と動脈産業の連携

○使用済み蛍光管から伝統工芸品の製造(図5-2-5図5-2-6


図5-2-5 使用済み蛍光管の脱水銀化処理


図5-2-6 使用済み蛍光管から製造された再生ガラス(カラフェ)

 S1社は使用済み蛍光管のリサイクル技術(脱水銀化処理)を開発し、ガラス製品の原材料となるカレット(ガラス屑)を製造しています。ガラス製造会社S2社では、当該カレットを原材料として、東京都伝統工芸士やすみだマイスターとして認定された職人の手により再生ガラスを製造しています。使用済み蛍光管1本分から約1個の再生ガラスが作られており、グラスとしては日本初のエコマーク認定を受けています。また当該カレットは、名古屋市上下水道局との企画によりカラフェ(水差し)の原材料として水道水の安全性やおいしさを伝えるキャンペーンや脱ペットボトルの取組にまで活用されています。

(4)循環型社会と低炭素社会、自然共生社会の統合的取組

○太陽光発電パネルのリユース図5-2-7図5-2-8


図5-2-7 リユースされる中古パネル


図5-2-8 今後の結晶Si 太陽電池モジュールのリサイクル・リユースの予測

 長野県にあるN社は、太陽光発電の普及に伴って将来顕在化すると見込まれる太陽光発電パネルの廃棄・処理問題に先行し、中古の太陽光発電パネルのリユースを行い、循環型社会と低炭素社会の統合的取組を行っています。

○森林酪農(図5-2-9


図5-2-9 森林酪農

 A社は、放置された里山において自然放牧を行う「森林酪農」に取り組んでいます。放牧され、森林の下草を食べている乳牛から、牛乳を生産します。乳牛は地ならしもし、ふん尿は森に還元されるという循環を成立させ、循環型社会と自然共生社会の統合的取組を行っています。

(5)コミュニティビジネス

○自転車レンタルと放置自転車対策の融合(図5-2-10


図5-2-10 自転車レンタルと放置自転車対策の場合

 B社は、大学や商業施設などの放置自転車を整備して再び使えるようにリサイクルして、全国で120校程度の大学において学生を対象にレンタルを行っています。これは循環型社会づくりに向けた取組と放置自転車対策とを融合させた取組といえます。

(6)循環型社会ビジネスを活用した地域活性化

○信州型木製ガードレール(図5-2-11


図5-2-11 木製ガードレール

 長野県は、[1]地球温暖化防止対策に寄与する、[2]県産間伐材を使用する、[3]廃棄後のリサイクル等循環型社会構築に寄与する、[4]環境保全や景観改善に寄与する、[5]新たな県内産業の育成による雇用創出に寄与するといった特徴を有する木製のガードレールを信州型木製ガードレールとして認定し、県内の観光地等で使用を開始しています。これにより鋼材の利用削減と間伐材の利用促進にもつながっています。

○地域特産物から生じる循環資源の有効利用(図5-2-12


図5-2-12 地域特産物から生じる循環資源の有効利用

 岡山県倉敷市児島は江戸時代から「繊維の町児島」といわれており、日本でジーンズの生産が始まった「国産ジーンズの誕生」の町です。現在日本で販売されているジーンズの約50%がこの児島で生産されています。これらの生産時に廃棄されるデニムの残反を活用したデニムエコバッグを作成し、販売することで、廃棄物の発生抑制と地域活性化に貢献しています。


 ここまで見てきたように、全国でさまざまな形、規模の循環型社会ビジネスが始まっています。循環型社会ビジネスに投資することで、資源の使用量と廃棄物の排出量を減少させ、コスト削減につながり、さらには、新たな需要の創造も期待されます。その一歩は、世界最高の技術の獲得や世界初のビジネスモデル構築につながるチャンスです。環境と経済の好循環を生みだし、循環型で持続可能な社会を構築していくことが重要です。


資源循環プロセスにおけるエコタウンの役割


 エコタウン事業は、「ゼロ・エミッション構想」(ある産業から出るすべての廃棄物を新たにほかの分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す構想)を地域の環境調和型経済社会形成のための基本構想として位置付け、併せて、地域振興の基軸として推進することにより、先進的な環境調和型のまちづくりを推進することを目的として、現在までに全国26地域のエコタウンプランが承認されています。

 環境省がエコタウンにおける資源循環プロセスについて調査した結果、全国のエコタウンに投入された循環資源は約220万トンとなっており、このうち約91%が製品・原料化又はエネルギー利用(減量化を含む)されており、高い効率での利活用が行われていることが確認されました。地域別にみると、エコタウン施設が調達する循環資源のうち約59%が同一エコタウンプラン内から調達され、またエコタウン施設が供給する製品・エネルギーのうち約40%は製品等として同一エコタウンプラン内に供給されており、地域循環の中核としての機能を担い得ることが明らかになりました。

 また、全国のエコタウン全体での環境負荷削減効果を試算したところ、最終処分量で約100万トン、二酸化炭素排出量で約42万トンとなり、一定の削減効果を挙げていることが明らかになりました。


エコタウンの可能性



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