第1章 地球とわが国の環境の現状

 私たちの日々の暮らしや、それを支える経済活動は、地球環境という基盤があってはじめて成り立ちます。豊かな地球環境が損なわれてしまえば、暮らしや経済活動を将来にわたって持続することはできません。安定した気候、清らかな水や大気、多様な生態系や自然環境は、人類が健康で文化的な生活を営むために欠かせないものです。地球環境の恩恵を将来にわたって受けられるようにするためには、現在の地球の状況を十分理解する必要があります。本章では、具体的なデータを交えて、私たちを取り巻く地球環境の状況をまとめました。

1 地球温暖化の状況

 現在進行している地球温暖化の状況は、世界の年平均地上気温の平年差から見ることができます。2009年の世界の平均気温は、平年(1971年〜2000年)より0.31℃高く、統計開始(1891年)以降3番目に高い値でした(図1-1-1)。国内は平年より0.58℃高く、統計開始(1898年)以降7番目に高い値となりました(図1-1-2)。世界の平均気温は100年当たり0.68℃のペースで上昇しており、1990年代後半から高温になる年が相次いでいます。世界の年平均気温について、統計開始以降の各年の気温を順位付けすると、21世紀に入ってからの各年は2008年を除いてすべての年が、最も気温の高かった10位までに入っています(表1-1-1)。


図1-1-1 世界の年平均気温平年差


図1-1-2 日本の年平均気温平年差


表1-1-1 世界の年平均気温の順位

 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの大部分は二酸化炭素です。二酸化炭素の大気中の濃度及び人為的排出量は、一貫して増加傾向にあり(図1-1-3)、気温上昇の一因として寄与していると考えられます。日本の平均気温の上昇は100年間で約1.1℃です。東京では同じ期間に約3℃、札幌、名古屋、大阪、福岡といった大都市では約2℃以上上昇していることが分かりますが、これらの都市部の気温上昇は、地球温暖化による気温上昇だけではなく、ヒートアイランド現象の影響も加わって顕著になっていると考えられます(図1-1-4)。


図1-1-3 大気中二酸化炭素濃度と人為的排出量


図1-1-4 日本の大都市の気温、日本の平均気温、日本周辺海域の海面水温の推移

 地球温暖化による影響の可能性がある事象として、氷床の融解が挙げられますが、例えば北極の海氷面積は年々減少傾向にあり、衛星観測によると、平成19年9月には観測史上最小となりました。平成19年に公表されたIPCC第4次評価報告書では、1978年からの衛星観測によると、北極の年平均海氷面積が10年当たり2.7[2.1〜3.3]%縮小し、特に夏季の縮小は、10年当たり7.4[5.0〜9.8]%と大きくなる傾向にあります([ ]の中の数値は最良の評価を挟んだ90%の信頼区間)。また、北極の晩夏の海氷が21世紀後半までにほぼ消滅する予測もあることを指摘しています。さらに、同報告書では、世界平均気温が20世紀末と比べて1〜4℃上昇した状態が継続されれば、グリーンランドや西南極の氷床の融解が数百年から数千年にかけて進み、4〜6mもしくはそれ以上の海面上昇をもたらすことになるとしています。なお、国連環境計画UNEP)の取りまとめによると、IPCC第4次評価報告書における予測よりも、北極海の氷の消失時期、海面上昇幅などで変動が加速しているという指摘もあります。

 日本では、近年の雪の降り方に変化が起きているところもあります。図1-1-5を見ると、年最深積雪はすべての地域において、1980年代はじめの極大期から1990年代はじめにかけて大きく減少しています。それ以降やや増加傾向がみられるものの、1980年以前に比べると少ない状態が続いていることが分かります。1962年〜2004年の10年当たりの長期変化傾向は、北日本日本海側、東日本日本海側、西日本日本海側においてそれぞれ、−4.7%、−12.9%、−18.3%となっており、東日本日本海側、西日本日本海側で有意な減少傾向が認められます。この主な要因として、北日本から西日本にかけて冬平均気温が1980年代後半に顕著に上昇したことが挙げられます。


図1-1-5 日本の年最深積雪平年比の経年変化

 また、降雪量の変化の要因は地球温暖化に伴う気温上昇や長期的、短期的な気候の変化など、複数の要因があると考えられますが、気象庁の地球温暖化予測情報第7巻によれば、21世紀末までの100年間で気温が約2.8℃上昇する場合、北海道を除く地域で降雪量が減少すると予測されています(図1-1-6)。その原因は、東北以南では気温上昇に伴って雪ではなく雨として降る場合が増える一方、北海道では気温が上昇しても雪が降る程度に十分寒冷であり、気温上昇による大気中の水蒸気量の増加によって、降雪量が増加するためとしています。


図1-1-6 100年後の寒候期(12〜3月)における総降雨量の将来変化予測

2 地球環境、大気環境、水環境及び土壌環境の状況

 地球環境問題としては、地球温暖化に加え、オゾン層の破壊、酸性雨・黄砂、海洋汚染、森林減少、砂漠化、南極の環境問題等が挙げられます。オゾン層の破壊の状況の指標として、南極上空のオゾンホール面積の推移を見ると、現在のところ縮小の兆しは見られません(図1-2-1)。なお、これまでの規制の成果により成層圏におけるオゾン層破壊物質の総量は減少傾向にあります。オゾン層破壊物質等の国内における観測結果をみると、CFC等は減少又は横ばい傾向でしたが、一方で、HCFCHFCの濃度が急速に増加していることが分かりました(図1-2-2、3)。


図1-2-1 南極オゾンホールの年最大面積の推移


図1-2-2 北海道における特定物質の大気中平均濃度の経年変化


図1-2-3 北海道におけるHCFC-141b、HCFC-142b 及びHFC-134a の大気中平均濃度の経年変化

 オゾン層の破壊によって懸念されるのは、有害紫外線の増加ですが、現在のところ国内では、人の皮膚に紅斑(赤い日焼け)を引き起こす紫外線量を表す紅斑紫外線量の顕著な増加は報告されていません(図1-2-4)。黄砂については、北東アジア地域で頻度と被害が大きくなる傾向にあります。近年わが国でも観測される日数が多くなっていますが、年々変動が大きく、長期的な傾向は明瞭ではありません(図1-2-5)。


図1-2-4 紅斑紫外線量年積算値の推移


図1-2-5 年別黄砂観測日数

 国内の大気汚染の状況について見ると、平成20年度末現在、1,549局の一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)及び438局の自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)の全国1,987局において常時監視が行われています。平成20年度の大気汚染状況は、環境基準が定められている物質のうち、光化学オキシダントの環境基準達成率が極めて低く、一般局で0.1%、自排局で0%となっており、一層の対策が求められています(図1-2-6)。環境基準を超えた場合に発令される光化学オキシダント注意報等の延べ発令日数は、全国で平成21年度に123日で、20年度(144日)と比べて減少しました(図1-2-7)。


図1-2-6 光化学オキシダント濃度レベル毎の測定局数の推移(一般局と自排局の合計)(平成16年度〜平成20年度)


図1-2-7 注意報等発令延べ日数、被害届出人数の推移(平成12年〜21年)

 二酸化窒素は、一般局では近年ほとんどすべてのか所で環境基準を達成しており、達成率は平成18年度から3年連続で100%となりました。また、自排局では95.5%となっています(図1-2-8)。浮遊粒子状物質環境基準達成率は、一般局で99.6%、自排局で99.3%となり、平成19年度と比較すると一般局、自排局とも改善しました(図1-2-9)。


図1-2-8 二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(平成16年度〜20年度)


図1-2-9 浮遊粒子状物質の環境基準達成状況の推移(平成16年度〜20年度)

 水環境では、水質汚濁に係る環境基準のうち、人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)は、ほとんどの地点で基準を満たしていますが、生活環境の保全に関する項目(生活環境項目)は、湖沼の化学的酸素要求量(COD)の環境基準達成率が53.0%となり、有機物が多すぎる状況にあるなど、依然として達成率が低い水域が存在します(図1-2-10)また、地下水の水質については、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が高い状況が続いています(図1-2-11)。


図1-2-10 環境基準達成率の推移(BOD 又はCOD)


図1-2-11 地下水の水質汚濁に係る環境基準の超過率(概況調査)の推移

 土壌環境は、近年、土壌汚染事例の判明件数が増加しており、土壌の汚染に係る環境基準又は土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)の指定基準を超える汚染の判明事例を年度別に調べた結果では、平成20年度には697件となっています(図1-2-12)。


図1-2-12 年度別の土壌汚染判明事例件数

3 廃棄物の発生等に関する状況

 これまでの大量生産、大量消費型の経済社会活動は、結果として大量廃棄に結びついていると考えられ、環境保全と適切な物質循環を構築することが強く求められています。

 廃棄物に関する重要な指標である最終処分場の残余年数は、新規の最終処分場の確保が難しくなっていることに伴い、一般廃棄物が18.0年(平成20年度末時点)、産業廃棄物が7.5年(平成18年度末時点)と厳しい状況が続いています(図1-3-1、2)。


図1-3-1 最終処分場の残余容量及び残余年数の推移(一般廃棄物)


図1-3-2 最終処分場の残余容量及び残余年数の推移(産業廃棄物)

 一方で、一般廃棄物の最終処分量(直接最終処分量と中間処理後に最終処分された量との合計)は553万トン、1人1日当たりの最終処分量は119g(図1-3-3)(いずれも平成20年度末現在)であり、減少傾向が継続しています。


図1-3-3 最終処分量と1人1日当たり最終処分量の推移

 近年、国内の沿岸地域で問題となっている漂流・漂着ゴミの実態について、平成19年度、20年度に全国7県の11海岸にモデル地域を設けて実態調査を行ったところ、モデル海岸で回収されたペットボトルは、対馬(長崎県)、石垣島、西表島(以上、沖縄県)などの離島では外国のものがほとんどを占め、それ以外の地域ではわが国のものが半数以上を占めるという状況でした(図1-3-4)。ゴミの種類としては、日本海側はプラスチック類が3〜4割、山形県、三重県、熊本県は流木・潅木が7〜9割、沖縄県は、多くの種類のゴミが混ざるなど、地域によって漂着物の種類に違いがありました。また、1年を通して行った漂流・漂着ゴミの回収・処理調査から年間の漂着量を推定したところ、図1-3-5のとおりでした。


図1-3-4 ペットボトルの国別集計結果


図1-3-5 1年間に漂着するゴミの量(推定)

4 化学物質と環境リスクの状況

 私たちの身の回りには、さまざまな化学物質や化学物質を利用した製品があり、私たちの暮らしを便利にしています。しかし、化学物質の中には人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものもあり、そのような悪影響を及ぼすおそれ(環境リスク)を評価し、そのリスクの程度に応じて管理を行うことが必要です。

 平成20年度大気汚染状況について(有害大気汚染物質モニタリング調査)の結果、環境基準が設定されている4物質についての大気中の年平均値、環境基準超過地点等については、表1-4-1のとおりです。ベンゼンは1地点(平成19年度:3地点)で環境基準を超過しましたが、その他の3物質は、すべての地点で環境基準を満たしていました。


表1-4-1 平成20年度有害大気汚染物質の環境基準達成状況等

 化学物質が環境中にどの程度排出されているかについては、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号。以下「化管法」という。)の対象物質のうち、環境基準又は指針値が設定されている物質等の大気への排出量の合計は、平成20年度において約22,700トンとなっており、減少傾向にあります(図1-4-1)。同年の公共用水域への排出量は約7,500トンとなっており、減少傾向にあります(図1-4-2)。


図1-4-1 PRTR 法の対象物質のうち環境基準・指針値が設定されている物質等の大気への排出量


図1-4-2 PRTR 法の対象物質のうち環境基準・指針値が設定されている物質等の公共用水域への排出量

 環境リスクが特に高い物質は、製造、輸入、使用が禁止されています。これらのうち、例えばPCB類の環境中の濃度は、水質で0.18ng/L等となっています(表1-4-2)。なお、平成20年度の調査において、人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.94pg-TEQと推定されました。この数値は経年的な減少傾向から大きく外れるものではなく、耐容一日摂取量を下回っています(図1-4-3、4)。


表1-4-2 平成19年度PCB 類に係る化学物質環境実態調査(検出状況表)


図1-4-3 日本におけるダイオキシン類の1人1日摂取量の推移


図1-4-4 日本におけるダイオキシン類の1人1日摂取量(平成20年度)

 近年、各国で子どもの健康悪化が指摘され(図1-4-5、6)、周辺環境との関係を解明しようとする努力が続けられています。わが国でも「子どもの健康と環境に関する全国調査」が平成22年度から本格的にスタートし、出生時から13歳頃までの追跡調査によって、子どもの健康に悪影響を及ぼす環境要因を突き止めようとしています。


図1-4-5 わが国における児童等のぜんそく被患率の推移


図1-4-6 わが国における先天異常発生頻度の推移

5 生物多様性の状況

(1)世界の生物多様性の状況

 地球上には、未知の生物も含めると約3,000万種の生物がいるともいわれていますが、私たちが知っているのは、このうちの約175万種にすぎません。2009年(平成21年)11月に国際自然保護連合IUCN)が公表したレッドリストでは、評価を行った47,677種の野生生物のうち、約36%にあたる17,291種が絶滅のおそれのある種に選定されています。このうち、ほかの分類群に比べて評価が進んでいる両生類、哺乳類、鳥類でみると、それぞれ30%、21%、12%に当たる種に絶滅のおそれがあります(図1-5-1)。


図1-5-1 世界の絶滅のおそれのある野生生物の種の割合

 2010年(平成22年)5月に、生物多様性条約事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」では、2002年(平成14年)に生物多様性条約第6回締約国会議(COP6)で採択された「世界は生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という、いわゆる「2010年目標」は、達成されなかったと結論づけました(図1-5-2)。また、生息地の変化、乱獲・乱開発、汚染、侵略的な外来種、気候変動の影響は、現在も継続しており、これによって生じる熱帯林の減少、湖沼の富栄養化、海水温の上昇や漁業資源の乱獲などは、将来においても、人類の生存を脅かすものになると指摘しています。


図1-5-2 地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)における生物多様性条約2010年目標に関する指標の傾向

(2)日本の生物多様性の状況

 わが国は四方を海に囲まれ、6,800余りもの多くの島々からなっています。国土面積は約38万km2であり、海岸線は延長が約35,000kmもあり、地球1周の9割弱もの距離になります。海岸から深山幽谷にいたる複雑な地形を有していることも特徴です。全国的に降水量に恵まれ、多くの地域で四季が存在し、南北約3,000km、標高差約3,800mの中に、亜寒帯から亜熱帯にいたる幅広い気候帯が存在します。多様な自然環境の中に約9万種以上の生物種がおり、わが国でのみ確認されている固有種は陸上の哺乳類の約4割、両生類の約8割を占めています。また、環境省のレッドリストによると、わが国の絶滅のおそれのある野生生物は3,155種で、日本に生息、生育する爬虫類、両生類、汽水・淡水魚類、貝類の3割強、哺乳類、維管束植物の2割強、鳥類の1割強に当たる種が、絶滅のおそれがあります(図1-5-3)。


図1-5-3 日本の絶滅のおそれのある野生生物の種の割合(評価対象種に占める割合)

 環境省が設置した「生物多様性総合評価検討委員会」が平成22年5月に取りまとめた「生物多様性総合評価報告」では、過去50年間のわが国の生物多様性の状況について評価を行った結果、生物多様性の損失はすべての生態系に及び、その傾向は今も続いているとしています。特に、河川・湖沼、沿岸・海洋、島嶼では、この50年で生物多様性が大きく損なわれ、現在も影響が続いているうえに、今後、さらに取り返しのつかない影響が及ぶおそれがあるとしています(表1-5-1)。


表1-5-1 1950年代後半から2010年までの日本の生物多様性の損失

 損失の要因としては、1950年代から70年代にかけての高度成長期を中心に、「第1の危機(開発・改変、直接的利用、水質汚濁)」の影響で生物多様性は大きく損なわれましたが、現在は、この速度はやや緩和されています。一方、「第2の危機(里地里山等の利用・管理の縮小)」は、現在もなお緩やかに影響が増大しており、また、近年は「第3の危機(外来種・化学物質)」のうち、特に外来種による影響が顕著となっています。さらに、地球温暖化の危機は、特に、高山、サンゴ礁、島嶼などで影響が懸念されています。



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