第4節 森・里・川・海のつながりを確保する取組

1 生態系ネットワークの形成

 第3次生物多様性国家戦略及び国土形成計画等に基づき、広域圏レベルなどにおいて生態系ネットワーク形成の推進に向けて引き続き関係各省庁で連携を図り、検討を進めます。

 また、国有林においては、ネットワークの形成の取組として、森林生態系の核となる保護林相互を連結する「緑の回廊」を設定し、生態系に配慮した施業やモニタリング調査を実施することにより、より広範で効果的に森林生態系を保全する取組を必要に応じて民有林とも連携しつつ引き続き推進します。

 都市計画区域マスタープランや都市緑地法に基づく緑の基本計画等に基づき、都市内に残る貴重な自然的環境を計画的かつ効果的に確保・ネットワーク化させ、公園緑地や河川、道路等の緑や水辺空間を総合的に整備・保全を図ることで、都市におけるエコロジカルネットワークの形成を促進してくとともに、COP10ではこれらの取組等について情報発信を図ります。

2 自然再生の推進

 自然再生推進法の円滑な運用を図るため、民間からの相談に適切に対応するための基本的情報基盤の整備、地域における専門家ネットワークの形成及び自然再生に関する情報の収集・提供、ワークショップの開催等による自然再生協議会の設立・技術的課題解決への支援など、地域の自主的な自然再生の取組が継続されるような体制づくりを推進します。

 自然再生事業については、過去に損なわれた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復することを目的とし、河川・湿原・干潟藻場里地里山・森林など様々な環境を対象に全国で取り組まれるよう、関係省庁と連携し着実に推進します。あわせて、自然再生を通じた自然環境学習の推進を図ります。

3 重要地域の保全

(1)自然環境保全地域

 原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域の適正な保全を図るため、引き続き現況の把握やモニタリングを行います。


(2)自然公園

 ア 自然公園の指定、公園区域及び公園計画の見直し

 社会条件等の変化に対応するため、自然保護の強化を基調として、公園区域及び公園計画の全般的な見直しを行います。また、全般的な見直しを終了した公園については、おおむね5年ごとに公園区域及び公園計画の点検を行います。国定公園については、都道府県から申出のある地域について検討を行い、見直し等の作業を進めます。

 また、自然環境や社会状況、風景評価の多様化などの変化を踏まえ、国立・国定公園の指定状況について全国的な見直しの作業を進めます。

 イ 自然公園の管理の充実

 国立公園の管理計画の策定を推進し、自然公園法に基づく許可、認可等の適正な運用を図ります。また、地域密着型の公園管理を行うNPO等の公園管理団体の指定、風景地保護協定の締結等を推進し、管理体制の強化を推進します。

 グリーンワーカー事業では、登山道の補修や清掃作業、サンゴ礁の保護対策、外来種の駆除、湿地等の植生保全、里地里山の維持管理などを引き続き推進します。

 また、専門的な知識を持ったアクティブ・レンジャーを全国に配置して、現場管理の充実に努めます。

 ウ 自然公園における環境保全対策

 国立公園等の利用施設に、太陽光発電などの自然エネルギーを利用した設備の導入を推進します。

 また、荒廃した登山道や周辺の植生復元、シカの食害等から貴重な植生を保護するために必要な施設の整備を推進します。釧路湿原国立公園、琵琶湖国定公園等においては、自然再生の取組を引き続き推進します。

 国立公園の主な利用地域については、関係地方公共団体の協力の下に清掃活動を実施します。また、「自然公園クリーンデー」等の各種行事を実施し、美化活動の普及に努めます。

 また、国立公園等の山岳地域等における環境浄化及び安全対策を図るため、山小屋事業者等によるし尿・排水処理施設等の整備の経費の一部を補助し、自然環境の保全と利用環境の改善を推進します。

 すぐれた自然環境を保全していくため、引き続き民有地買上げの推進を図ります。


(3)鳥獣保護区、生息地等保護区

 鳥獣保護法に基づき、国際的又は全国的な鳥獣の保護の見地から重要な区域について、国指定鳥獣保護区に指定し、保護を図ります。また、種の保存法に基づき、国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域である生息地等保護区の指定を進め、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ります。


(4)保護林、保安林

 わが国の森林のうち、すぐれた自然環境の保全を含む公益的機能の発揮のため特に必要な森林を保安林として計画的に指定し、適正な管理を行います。また、国有林野のうち、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存等を図る上で重要な役割を果たしている森林については「森林と人との共生林」に区分し、自然環境の保全を第一とした管理経営を行います。特に原生的な天然林や貴重な動植物の生息・生育地等特別な保全・管理が必要な森林については、保護林として積極的に指定するなどその拡充を図るとともに、保護林の状況のモニタリング調査等を通じて把握し、必要に応じて植生の回復等の措置を講ずることによる適切な保全・管理を推進します。


(5)景観の保全

 良好な河川、海岸、砂防等の景観の形成・保全の促進を図るため、景観に配慮した取組を推進します。


(6)ナショナル・トラスト活動

 ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制優遇措置、普及啓発等の施策を講じます。さらに、同活動の検証を中心に、自然環境保全のための土地の適切な確保手法に関する検討調査を実施します。

4 農林水産業

 「農林水産省生物多様性戦略」(平成19年7月)に基づき、[1]田園地域・里地里山の保全(環境保全型農業の推進、生物多様性に配慮した生産基盤整備の推進等)、[2]森林の保全(適切な間伐等)、[3]里海・海洋の保全(藻場・干潟の造成、維持・管理等)など生物多様性保全をより重視した農林水産施策を推進します。

 また、これらの関連施策を効果的に推進するため、農林水産業と生物多様性の関係を定量的に計る指標の開発を進め、平成21年度中に指標候補の選抜を目指します。

 さらに、農林水産省生物多様性戦略検討会の提言(平成20年7月)を受け、地域の生きものを通して生物多様性保全の取組を分かりやすく伝える「生きものマーク」を活用し、生物多様性保全に貢献するわが国の農林水産業への理解の促進を図ります。

 これらの取組については、2010年(平成22年)に名古屋市で開催されるCOP10において世界に向けて発信します。

5 森林・農地

(1)森林

 森林の多面的機能を持続的に発揮させるため、重視すべき機能に応じた森林の区分である「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」ごとに多様な森林づくりを推進するとともに、自然環境の保全など森林の公益的機能の発揮及び森林の保全を確保するため、保安林制度・林地開発許可制度等の適正な運用を図ります。また、森林での様々な体験活動を通じて森林の持つ多面的機能等に対する国民の理解を促進する森林環境教育や、市民やボランティア団体等による里山林の保全・利用活動など、森林の多様な利用及びこれらに対応した整備を推進します。

 治山事業においては、豊かな環境づくりに配慮し、荒廃山地の復旧整備、機能の低い森林の整備等を計画的に推進するとともに、事業の実施に当たっては周辺の生態系に配慮します。また、特に自然環境のすぐれた地域等において、自然環境の保全・改善効果の高い工法等の開発普及等を図る森林土木効率化等技術開発モデル事業を実施します。

 松くい虫等の病害虫や野生鳥獣による森林の被害対策の総合的な実施、林野火災予防対策や森林保全推進員による森林パトロールの実施、啓発活動等を推進します。

 国民参加の森林づくりについては、企業、森林ボランティア活動等広範な主体による森林づくり活動、緑化行事の実施、身近な森林や樹木の適切な保全・管理のための技術開発等の支援を推進します。

 生物多様性を含む森林の状態とその変化の動向を継続的に把握することを目的に、全国の森林に4km間隔で設けられたおよそ15,700点の定点観測プロットを5年で一巡する「森林資源モニタリング調査」については、平成21年度より3巡目調査に入ることから、引き続き地況、植生、枯損木、鳥獣の生息痕跡、病虫獣害などに係るデータの収集を行うとともに、時系列的なデータを用いた解析手法の開発を行います。これらの結果は、温帯林等諸国12か国による持続可能な森林経営の「基準・指標」の国際的な取組であるモントリオール・プロセスのもとで作成するわが国の第2回国別森林レポートに反映させます。

 森林の生物多様性の保全については、客観的に生物多様性の状態を表す指標の開発や、里山林における生物多様性に配慮した施業方法の分析等に取り組むとともに、平成20年12月に設置した「森林における生物多様性保全の推進方策検討会」において、農林水産省生物多様性戦略を踏まえた具体的な推進方策をとりまとめることとしています。

 国有林野においては、下層植生や動物層、表土の保全等森林生態系全般に着目し、育成複層林・天然生林施業の推進、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した多様な森林施業を推進します。また、すぐれた自然環境を有する森林の保全・管理や国有林野を活用して民間団体等が行う自然再生活動を積極的に推進します。

 さらに、国有林野においては、野生鳥獣との棲み分け、共存を可能にする地域づくりに取り組むため、地域等と連携し、野生鳥獣の生息環境の整備と個体数管理等の総合的な対策をモデル的に実施します。


(2)農地

 土地改良事業をはじめとする農業農村整備事業においては、環境との調和への配慮の基本方針に基づき事業を実施します。また、生態系の保全に配慮しながら生活環境の整備等を総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進します。また、農村地域の生物やその生息環境の情報を調査・地理情報化し、農村地域の多様な生物の生息環境を総合的に向上させる技術を構築する等、生物多様性を確保するための手法の開発を進めます。さらに、地域住民や農家等が認識している種を「保全指標種」として示し、農家や地域住民の理解を得ながら生物多様性保全の視点を取り入れた事業を実施し、生物多様性に対応した基盤整備の推進を図ります。またラムサール条約湿地や景観法等の条約や法律に基づき指定された、国内・国際的に将来にわたって良好な環境・景観を保全すべき重要な地域において、重要地域の特性を踏まえた質の高い環境・景観保全に対応した基盤整備等の事業を推進します。

 農林水産省と環境省が連携・協力して、水田周辺水域(農業用水路等)の生態系の現状把握を行うため「田んぼの生きもの調査」を引き続き実施するとともに、河川から水田、水路、ため池、集落等を結ぶ水と生態系のネットワークとして「水の回廊」を整備します。農村地域の自然再生活動については、「田園自然再生活動コンクール」のほか、活動上の新たな課題に対する技術的支援を実施します。棚田における農業生産活動により生ずる国土の保全、水源のかん養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動を推進するほか、農村景観や環境を良好に整備・管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行います。

 田園自然再生関連対策として、地域住民や民間団体等による保全活動と連携した生態系保全型の農地、土地改良施設の整備等を進めるとともに、景観保全、自然再生活動の推進・定着を図るため、地域密着で活動を行っているNPO等に対し支援を実施します。また、農業用排水の水質保全と農業集落の生活環境の改善を図るため、農業集落排水施設の整備を推進するとともに、地域の実情に応じ、特定環境保全公共下水道等の整備を進めます。

 また、農業環境規範の普及・定着を図るとともに、有機農業をはじめとする環境と調和の取れた農業生産活動を推進し、農業の多面的機能の基礎である農地・農業用水等の資源や環境の良好な保全と質的向上を図るため、地域ぐるみの共同活動と先進的な営農活動を一体的かつ総合的に支援します。

 家畜排せつ物については、家畜排せつ物法に基づき適正な管理を確保するとともに、地域におけるバイオマスの有効利用や、環境負荷の低減並びに有機性資源の循環利用の促進を図るため、家畜排せつ物処理施設の整備に関する事業を推進するとともに、金融・税制上の特例措置等を引き続き講じます。また、未利用資源の利用の促進を図るため、飼料化施設等の整備の推進を図ります。また、都市部の農地においては、都市住民への農産物の供給や都市住民の交流の場としての活用を図るため、簡易な基盤整備や市民農園の整備等を推進します。

6 都市緑地等

(1)都市公園の整備等

 都市における緑とオープンスペースを確保し、水と緑が豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、「都市公園整備事業」の推進を図ります。国営公園については、全国17か所において整備を推進します。埋立造成地等における自然的環境の再生や多様な生物の生息生育基盤の確保など環境の向上に資する良好な緑地の整備を行う「自然再生緑地整備事業」等、各種施策に応じた都市公園等の整備を推進します。また、「緑地環境整備総合支援事業」を拡充し、温室効果ガス吸収源対策となる公園緑地の整備に先駆的かつ意欲的に取組む都市について、総合的な公園緑地の保全・創出のための取組を推進します。また、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして樹林帯を形成することにより、土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境と景観を創出するとともに、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与します。


(2)緑地保全及び都市緑化等の推進

 都市における緑地を保全するため、都市緑地法に基づく特別緑地保全地区等の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を引き続き推進します。

 また、首都圏近郊緑地保全法及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律に基づき指定された近郊緑地保全区域内において、近郊緑地特別保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を引き続き推進します。

 さらに、緑が不足している市街地等において、緑化地域制度や緑化施設整備計画認定制度等の活用により建築物の敷地内の空地や屋上等の民有地における緑化を図るとともに、市民緑地の指定や緑地協定の締結を引き続き推進します。また、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区指定の推進を引き続き図ります。


(3)国民公園及び戦没者墓苑

 国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑を広く国民の利用に供するため、引き続き施設の改修、園内の清掃、芝生・樹木の手入れ等を行います。


(4)道路緑化

 CO2の吸収により地球温暖化を防止する等環境負荷を低減するとともに、良好な景観を形成するため、引き続き道路緑化を推進します。


(5)緑化推進運動への取組

 緑化推進連絡会議を中心に、国土の緑化に関し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図ります。都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4~6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施するほか、緑の相談所(都市緑化植物園)、都市緑化基金の拡充強化等、運動の一層の展開と定着化を図ります。

7 河川・湿原等

(1)河川の保全・再生

 河川やダム湖等における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施します。また、自然環境に配慮した河川管理の取組として、自然共生研究センター等において、河川湖沼の自然環境保全・復元のための研究を実施します。

 河川環境管理基本計画の策定を推進し、自然環境の保全に配慮するとともに、地域住民と連携しながら、生物の良好な生息・生育環境を有する自然河川や湿地・干潟などの再生を進めていきます。良好な潤いのある水辺空間の保全及び形成等を図る「水系環境整備事業」等を実施します。河川整備に当たっては、必要とされる治水上の安全性を確保しつつ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、生物の良好な生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観を保全創出する「多自然川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり」を実施します。また、災害復旧事業においても、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境の保全・復元の目的を明確にして、事業を実施します。

 都市再生本部において、第三次決定プロジェクトに位置付けられた「水循環系の再生」については、河川の再生(河岸の再自然化、河畔林の整備、水質の改善等)、市街地の雨水貯留・浸透機能の回復等、各領域の施策を総合的に推進します。

 また、水系を全体的に捉え、河川とダムの連携を図りつつ河川環境の保全を目的とする「水系環境整備事業」を実施し、ダム貯水池においても湖岸の整備や緑化対策等によってダム湖の活用や親水性の向上を図ります。


(2)砂防設備周辺等

 土砂災害の防止の実施に当たり、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流・里山の環境等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工などにより、里地里山などの多様な自然共生型の砂防事業を推進します。また、土砂災害の防止とあわせて、すぐれた自然環境や社会的環境を持つ地域等の渓流において、「砂防関係事業における景観形成ガイドライン」を活用し、自然環境との調和を図った緑と水辺の空間等の生活環境の整備、景観・親水性の向上や生態系の回復等を図った良好な渓流環境の再生、歴史的価値を有する砂防設備を活用した周辺環境整備など、個々の渓流の特色を生かした砂防事業を展開します。

 がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備及び崩壊土砂を捕捉する緩衝樹林帯整備を推進します。


(3)湿地の保全・再生

 渡り鳥の集団渡来地など鳥獣の保護上重要な湿地については、国指定鳥獣保護区への指定等を進めます。さらに、国際的に重要な湿地については、引き続きラムサール条約湿地への登録を進めるとともに、その保全と賢明な利用に向けた取組を推進します。


(4)山地から海岸までの一貫した総合的な土砂管理の取組の推進

 わが国は、地形、地質的な特徴から土砂移動量が多いが、これらの土砂移動が、上流から下流への土砂移動の分断などにより量又は質の面で妨げられ、河川・渓流などの河床や海岸線が大きく変化するなど、河川・海岸環境の変化を生じさせているところが見受けられます。具体的には、河川、渓流における土砂移動、河川からの土砂供給、沿岸域の漂砂、浚渫土砂の活用などの技術開発を推進するとともに、河川・沿岸域における環境・利用状況を踏まえつつ、関係機関などの連携による山地から海岸までの一貫した総合的な土砂管理の取組を推進します。

8 沿岸・海洋域

(1)沿岸・海洋域の保全

 海洋基本法(平成19年法律第33号)に基づき、わが国における海洋保護区の設定のあり方の明確化や、海洋の生物多様性の保全など海洋環境保全に関する施策を推進します。特に、干潟藻場、サンゴ礁などの生物多様性の保全上重要な海域については、関係機関との調整も踏まえ、必要に応じて国立公園などの保護区の充実を図ります。サンゴ礁については、総合的な保全施策を推進するため、サンゴ礁保全行動計画を策定します。

 また、海洋の生物多様性に関する基礎的データの一層の充実を図るとともに、保全施策の立案及び実施のため、海洋自然環境情報図を作成します。

 「モニタリングサイト1000」において、砂浜、干潟、藻場、サンゴ礁等の調査を引き続き実施します。沖縄県では、降雨による赤土等の流出がサンゴ礁等の生態系等に悪影響を与えていることから、「赤土等に係る環境保全目標」の策定に向けた赤土等の堆積状況などの調査や赤土等の発生源での流出を防止するための対策の普及・啓発を推進します。


(2)水産資源の保護管理の推進

 漁業法及び水産資源保護法に基づき、採捕制限等の規制を行います。また、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律に基づき、漁獲可能量や漁獲努力可能量の管理を行うほか、[1]保護水面の指定、管理等、[2]「資源回復計画」の推進、[3]外来魚の駆除、環境・生態系と調和した増殖・管理手法の開発、魚道や産卵場の造成等、[4]ミンククジラ等の生態、資源量、回遊等の実態把握及び資源回復手法の解明に資する調査、[5]ウミガメ(ヒメウミガメ等)、鯨類(シロナガスクジラ等)及びジュゴンの原則採捕禁止等、[6]減少の著しい水生生物に関するデータブックの掲載種に係る現地調査及び保護手法の検討、[7]サメ類の保存・管理及び海鳥の偶発的捕獲の対策に関する行動計画の実施促進等、[8]混獲防止技術の開発等を実施します。


(3)港湾及び漁港・漁場における環境の整備

 漁港・漁場では、水産資源の持続的な利用と豊かな自然環境の創造を図るため、海水交換機能を有する防波堤、水産動植物の生息・繁殖に配慮した護岸等の整備及び砂浜の再生に資する施設の整備など、自然調和・活用型の漁港漁場づくりを積極的に展開します。また、藻場・干潟の保全等を推進するとともに、漁場環境を保全するための森林整備に取り組みます。さらに、効果的な磯焼け対策の順応的管理手法を示した磯焼けガイドラインを活用した講演会や技術サポートを実施し、対策の普及・啓発に取り組みます。加えて、サンゴの有性生殖による種苗生産を中心としたサンゴ増殖技術の開発に取り組みます。漁業者と地域住民等による藻場・干潟等の維持・管理等の環境・生態系保全活動を支援します。

 港湾においては、港湾の開発・利用と環境の保全・再生・創出を車の両輪として捉えた「港湾行政のグリーン化」を図ります。汚泥その他公害の原因となる物質の除去、覆砂による水質・底質の改善に取り組みます。また、港湾整備により発生するしゅんせつ土砂等を活用して、多様な生物の生息場となる干潟・藻場等の保全・再生・創出を計画的に行います。これらの実施に当たっては、自然環境の不確実性等を考慮し、事業着手後においても状況を継続的にモニタリングして、その結果を計画等に反映させる順応的管理手法の導入を図ります。さらに、東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、同尼崎臨港部における大規模緑地の創出を推進します。また、海洋環境整備船による漂流ゴミや油の回収を行うほか、景観に悪影響を及ぼす放置艇の解消を図るため、船舶等の放置等禁止区域の指定により規制措置の強化に取り組むとともに、既存の静穏水域等を活用した簡易な係留・保管施設(ボートパーク)等の整備を推進します。加えて、海辺の自然環境をいかして自然体験・環境教育を行う「海辺の自然学校」等の取組を推進します。


(4)海岸における環境の整備

 砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上もすぐれた人と海の自然のふれあいの場を整備する「海岸環境整備事業」を実施します。また、海岸保全施設の機能障害となる大規模な海岸漂着ゴミや流木等を緊急的に処理する「災害関連緊急大規模漂着流木等処理対策事業」を実施します。



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