第3節 水環境の保全対策

1 水利用の各段階における負荷の低減

(1)汚濁負荷の発生形態に応じた負荷の低減

 工場・事業場については適切な排水規制を行います。排水規制の対象となっていない業種について規制の必要性の検討を進めるとともに、未規制項目について水生生物保全の観点等も含めた調査・検討を行います。また、平成19年6月に見直しを行ったほう素・ふっ素・酸性窒素類の暫定排水基準についても、依然として技術的課題を抱えるめっき業、旅館業、畜産農業界等については、一律排水基準を達成できるよう、各業界による自主的取組の指導及び必要な技術的支援を引き続き積極的に行います。

 生活排水による水質の汚濁の防止を図るため、汚水処理施設の整備を進めるに当たって、近年の人口減少傾向も踏まえた経済性や水質保全上の重要性などの地域特性を十分に反映するよう、汚水処理に係る総合的な整備計画である「都道府県構想」の見直しを推進し、浄化槽、下水道、農業集落排水施設、漁業集落排水施設、コミュニティ・プラントなど各種生活排水処理施設の効率的かつ適正な整備を図ります。

 浄化槽については、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換や、浄化槽の省エネルギー化・高度処理化などを積極的に推進する自治体に対して、国の助成率を引き上げるなど、浄化槽整備に対する支援の一層の充実を図ります。特に水環境へ与える負荷の大きい単独処理浄化槽については、設置状況や使用状況等を把握し、年1回の検査が義務づけられている水質に関する検査の周知・徹底を図ります。また、合併処理浄化槽への転換の推進や水質に問題があった場合の浄化槽の早期改善を図ります。

 下水道整備については、全人口の約7割の汚水処理を担っている一方で、未だに地方都市の郊外部あるいは中小市町村では多くの未普及地域を抱えており、そのうち市街化区域等が約6割を占めています。そのため、未普及地域のうち、人口の集中している地域や水道水源水域等水質保全上重要な地域において重点的に整備を推進するとともに、地域の実状に応じた低コストの整備手法の導入により、機動的な整備を行います。また、流域全体で効率的に高度処理を推進する高度処理共同負担事業の活用等により、引き続き下水道における高度処理を推進します。さらに、下水道整備の進展に伴う施設ストックの増大により老朽化等に起因した道路陥没も増加傾向にあることや、全国各地で発生する大規模地震により下水道施設が甚大な被害を受け、公衆衛生問題等を引き起こす一方で、施設の耐震化は十分進んでいないことを踏まえ、ライフサイクルコストの観点から耐震化及び長寿命化を考慮した計画的な改築による防災対策に加えて、被災を想定して被害の最小化を図る減災を組み合わせることにより、事故発生や機能停止による水環境への影響を未然に防止します。

 非特定汚染源による水質汚濁の実態を把握し、その汚濁負荷の削減対策手法に関する調査を実施します。また、「合流式下水道緊急改善事業」等を活用し、合流式下水道の改善を推進します。湖沼へ流入する窒素・りんの比率変動による水生態系への悪影響や利水障害の未然防止のため、窒素・りんの管理手法の確立に向けた調査を行うとともに、湖沼における水質改善のため、汚濁機構解明のための調査・検討を行います。また、雨天時に宅地や道路等の市街地から公共用水域に流入する汚濁負荷を削減するために、新世代下水道支援事業制度水環境創造事業を引き続き推進します。さらに、農業用用排水路等の水質浄化を図るため、浄化型水路の整備など、水質保全対策事業を引き続き推進します。


(2)負荷低減及び浄化手法の開発、普及等

 下水道や浄化槽、農業集落排水施設等の高度処理技術の一層の開発・普及を推進します。下水道については、合流式下水道改善、高度処理に関する技術の普及を推進します。浄化槽については、有機汚濁物質を高度に除去する処理方式として、膜分離型浄化槽の普及を推進します。さらに、閉鎖性水域の富栄養化防止策として窒素・りん除去型浄化槽の普及を一層推進します。また、農業集落排水事業について、遠方監視システムの活用による高度処理の普及促進を支援します。


(3)水環境の安全性の確保

 有害物質に係る排水規制、地下浸透規制等を適切に実施するとともに、適正な廃棄物処理の推進を図ります。また、水生生物の保全の観点から設定された環境基準の達成及びその維持に必要な環境管理施策についても、引き続き検討を進めます。

 水環境中へ排出される有害物質の種類は今後ますます増えていくことが予想されることから、それらの影響を未然かつ迅速に防止するため、水環境中に含まれる多様な化学物質の総合的な毒性を評価する手法について調査を行います。

 農薬については農薬取締法に基づき、水質汚濁に係る農薬登録保留基準と水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について引き続き個別農薬ごとの基準値を設定していきます。

 地下水に関しては、水質汚濁防止法に規定されている浄化措置命令制度等に基づき、地下水浄化対策の着実な推進を図ります。硝酸性窒素による地下水汚染については、総合的な対策手法について引き続き検討します。また、有害物質に汚染された海域等の底質については、除去等の対策を適切に実施します。

 内分泌かく乱化学物質による水産生物への影響評価を可能とする手法の開発及び魚介類への影響実態把握調査等を実施します。また、水産生物中における有害化学物質等の蓄積状況のモニタリング手法の開発等を行います。加えて、新規貝毒による二枚貝等の毒化状況の実態調査などを行います。さらに、内湾域における発電所の取放水を活用した、貧酸素水塊等による漁業被害の軽減について検討等を行います。

2 閉鎖性水域における水環境の保全

 閉鎖性水域における水環境の保全を図るため、水質汚濁防止法等に基づく排水規制、下水道や浄化槽、農業集落排水施設等生活排水処理施設の整備や住民参加等による生活排水対策、河川及び農業用用排水路等における浄化対策や流量の確保等の各種の施策を総合的に実施します。また、富栄養化対策として、富栄養化しやすい湖沼及び閉鎖性海域を対象とした窒素・りんの排水規制を行うとともに、富栄養化等の状況の把握及び窒素・燐の発生源対策に関する調査を行います。さらに、閉鎖性水域等における既存の単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換については、先駆的な取り組みを行う自治体について、国の助成率を引き上げるなど、支援のより一層の充実を図ります。また、閉鎖性水域における窒素及びりんの削減を図るため、引き続き閉鎖性水域に係る流域別下水道整備総合計画の見直しを推進します。

 湖沼については、湖沼水質保全特別措置法に基づく「湖沼水質保全計画」の策定されている琵琶湖や霞ヶ浦等11湖沼について、同計画に基づき、各種規制措置のほか、下水道及び浄化槽の整備その他の事業を総合的・計画的に推進します。このほか、水質悪化が著しい湖沼においては、底泥からの栄養塩類の溶出等を抑制するため、底泥しゅんせつを実施するとともに、湖沼に流入する汚濁負荷の削減を図るため、流入河川における直接浄化施設、農業用用排水路等における浄化施設の整備を実施します。また、湖沼の自然環境と地域のつながりを再生し、湖沼における水位操作や水辺エコトーンの再生により水質改善を図る新たな取組を実施します。

 東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海においては、平成19年6月に関係都府県により策定された水質総量削減計画に基づき、化学的酸素要求量(COD)、窒素及びりんを対象とした水質総量削減対策を引き続き実施するとともに、次期総量削減に向けた検討を行います。また、今後の閉鎖性海域が目指すべき水環境の目標とその達成に向けたロードマップを明らかにする閉鎖性海域中長期ビジョンを策定します。瀬戸内海については、瀬戸内海環境保全特別措置法及び「瀬戸内海環境保全基本計画」等に基づき、水質や、自然景観の保全等の諸施策を引き続き推進します。有明海及び八代海については、有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律に基づき、また、平成18年12月の有明海・八代海総合調査評価委員会報告の提言を踏まえつつ、貧酸素水塊発生対策、底質改善、汚濁負荷の削減その他の当該海域の環境の保全及び改善のための施策、水産資源の回復等による漁業の振興のための施策等を引き続き推進します。また、多様な魚介類等が生息し、人々がその恩恵を将来にわたり享受できる自然の恵み豊かな豊穣の里海の創生を推進します。

 港湾及びその周辺海域においては、環境モニタリング等による汚染原因解明のための調査、赤潮・貧酸素水塊対策、汚泥しゅんせつ、覆砂干潟藻場の創出、環境整備船による漂流ごみ・油の回収など総合的な水質改善に取り組みます。

 都市再生プロジェクト(第3次決定)「海の再生」の実現に向けて、東京湾、大阪湾及び伊勢湾においてそれぞれの再生行動計画に基づき、関係機関との連携のもと、陸域からの汚濁負荷の削減、海域における環境改善、環境モニタリング等の各種施策を推進していきます。さらに、広島湾においても「全国海の再生プロジェクト」として、三大湾と同様に行動計画に基づき、各種施策を推進していきます。

 また、三重県英虞湾(あごわん)では、水産基盤整備事業によりしゅんせつを行い、漁場環境の改善を図ります。

3 環境保全上健全な水循環の確保

(1)水環境に親しむ基盤作り

 住民が水辺環境に関心を持ち、生活の中で水と人との関係を考えていくことができる基盤づくりや、自発的に環境保全活動に参加できる環境づくりの施策を展開します。特に、住民が水辺環境に関心を持ち、生活の中で水と人との関係を考えていくことができる基盤づくりや、自発的に環境保全活動に参加できる環境づくりの施策を展開します。特に、多くの人が訪れ、地域のシンボル及び憩いの場である都市域の水環境の再生や身近な水辺空間の再生・創造により、住民による自発的な水環境保全活動を支援します。

 また、地域住民の参加を得て、全国の河川において水生生物による簡易水質調査を推進するとともに、市民団体と協働して、身近な水環境の一斉調査を実施します。

 さらに、河川水質を、[1]人と河川の豊かなふれあいの確保、[2]豊かな生態系の確保、[3]利用しやすい水質の確保、[4]下流域や滞留水域に影響の少ない水質の確保、の4つの視点で総合的に分かりやすく評価する新しい指標に基づき、全国で一般市民の参加を得て、調査を実施します。

 新世代下水道支援事業制度水環境創造事業により、雨水渠等の下水道施設や下水処理水を活用したせせらぎ水路などの水辺空間の再生・創出を推進します。


(2)環境保全上健全な水循環の確保

 水質汚濁に係る環境基準の項目、基準値、水域類型の指定及び見直しに関し、必要な調査検討を行います。さらに、水環境保全施策を有効適切なものとして機能していくよう、最新の知見を踏まえ、水環境の目標や効果的な監視手法等について検討を行います。環境基準の達成・維持に向け、地下水の水質保全対策を推進します。また、流域別下水道整備総合計画等水質保全に資する計画を策定し、効率的な汚濁負荷削減施策を推進します。

 水質面のみならず、水量、水生生物、水辺地を含めた総合的な取組を進めるため、引き続き水循環に関する調査、連携の在り方や施策の推進方策等についての検討を行います。特に水環境の悪化している河川や湖沼において、市町村や地域住民等の取組と一体となって清流回復を図る河川事業、下水道や浄化槽、農業集落排水施設等の生活排水処理施設整備事業、農業用用排水路等の水質を浄化する水質保全対策事業を重点的に実施します。水循環の調査では、モデル流域において、水循環の悪化による問題発生の実態の調査を行い、必要なデータ・知見の整備を進めつつ、環境保全上健全な水循環計画の策定など流域単位の取組を推進・支援します。また、地域の湧水を保全・復活させるための活動を推進するため、湧水保全ガイドライン(仮称)の策定にむけた検討を行います。

 「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」では、健全な水循環系の構築に向けた施策の推進のため、引き続き情報や意見の交換及び施策相互の連携や協力の推進を図ります。また、地域の地下水管理や保全計画の支援のための「地下水管理手法」の検討や新たな社会的ニーズに対応した「環境用水の確保方策」の検討なども引き続き行います。

 河川、湖沼における自然浄化能力の維持・回復のための、水質、水生生物等の生息環境、水辺地植生等の保全、水量の確保、都市域における水循環再生構想の策定を行います。下水処理水等の効果的な利用や雨水浸透ますの設置等により適正な地下浸透を進めるとともに、森林の適切な管理・保全や、自然海岸、干潟藻場、浅海域の適正な保全や人工干潟・海浜の整備の推進等を通じ、環境保全上健全な水循環機能の維持・回復を推進します。

 琵琶湖・淀川流域圏の再生計画に基づき、特定非営利活動法人(以下「NPO」という。)等の活動団体で構成する「琵琶湖・淀川流域圏連携交流会」と関係行政機関で構成する「琵琶湖・淀川流域圏再生推進協議会」とが連携し、琵琶湖・淀川の生態系の保全・再生や健全な水循環系再生等、流域全体での一体的な取組を引き続き推進します。

4 環境基準の設定及び水環境の効率的・効果的な監視等の推進

 水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、基準項目以外の項目の水環境中での存在状況調査や有害性情報等の知見の集積を引き続き実施します。

 生活環境項目については、国が類型指定する水域に対する類型指定及び見直しに向けた検討を推進するとともに、従来からのBODCOD等の基準に対し、今後の在り方に関して基礎的な調査を推進します。

 全国の一級河川の主要な地点について水質監視を行います。また、公共用水域の水質及び地下水質の適正な監視が行われるよう、地方公共団体に対し技術的な助言等を行います。



前ページ 目次 次ページ