第5節 野生生物の保護管理


1 野生動植物の捕獲・譲渡等の規制、生息・生育環境の整備等


(1)レッドリスト・レッドデータブックの作成
絶滅のおそれのある野生動植物については、各分類群のレッドリストをそれぞれ公表し、これに基づき、平成18年8月までに、対象とする全分類群のレッドデータブックを刊行しました。また、これらのレッドリストを見直すための検討を行い、鳥類等の4分類群について同年12月に公表しました。

(2)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく取組
平成19年3月末現在、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号)に基づき、日本に生息・生育する絶滅のおそれがある種のうち、哺乳類4種、鳥類39種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類5種、植物19種の計73種を国内希少野生動植物種に指定しています。同法に基づき、18年7月に全国で9か所目の生息地等保護区として「善王寺長岡アベサンショウウオ生息地保護区」を新たに指定し、各保護区において、保護区内の国内希少野生動植物の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)並びに二国間の渡り鳥等保護条約等に基づき、国際的に協力して保存を図るべき種を国際希少野生動植物種として約670分類群が指定されています。
保護増殖事業計画は、ツシマヤマネコ、シマフクロウ等に加え、平成18年度は、アホウドリ(変更)及びアカガシラカラスバトの2種について策定し、計画数は38となりました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターが、19年3月末現在8か所に設置されています。主な事業、調査等は表6-5-1のとおりです。

表6-5-1保護増殖事業等の概要


(3)猛禽類保護への対応
絶滅のおそれがある猛禽類のうち、イヌワシ、クマタカ及びオオタカについて、生息状況のモニタリング、好適な生息環境の創出のための実証モデル調査等を実施しました。

(4)海棲動物の保護と管理
北海道沿岸に回遊又は生息するアザラシ類については、地元関係者等の協力を得つつ、生息状況や漁業被害等について調査を実施しました。
平成17年度に引き続き、沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンの全般的な保護方策を検討するため、地元関係者等との情報交換等を実施しました。

2 鳥獣の保護管理の推進


(1)鳥獣保護事業及び鳥獣に関する調査研究等の推進
長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針(以下「基本指針」という。対象期間は平成15年4月16日~19年3月31日。)に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
また、渡り鳥の生息状況等に関する調査として、「鳥類観測ステーション」における鳥類標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査、シギ・チドリ類の定点調査等を実施しました。
また、野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として東京都において第60回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

(2)適正な狩猟と鳥獣管理
狩猟者人口は、昭和45年度の約53万人が平成16年度には約19万人にまで減少しており、しかも高齢化が進んでいるため、被害防止のための捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見受けられます(表6-5-2)。

表6-5-2狩猟免状の交付及び狩猟による鳥獣の捕獲数

狩猟による鳥獣の捕獲等が鳥獣の個体数管理に果たす効果等にかんがみ、適切な狩猟が鳥獣保護管理に資する公的な役割が今後とも期待されることから、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行いました。

(3)鳥獣保護管理制度の見直し
シカやイノシシなどの鳥獣による農林業や自然植生等への被害が深刻な状況であり、一方で、鳥獣の生息環境の悪化、輸入した鳥獣の適切な管理が必要とされているなどの背景を踏まえた、鳥獣保護法の一部改正法案が第164回通常国会において可決され、平成18年6月14日に公布されました。
改正法では、休猟区における特定鳥獣の狩猟の特例や、「網・わな猟免許」の「網猟免許」・「わな猟免許」への分割など、狩猟規制の見直しが図られました。
また、同法の施行令及び施行規則も見直し、狩猟におけるわなの取扱の適正化や猟区における狩猟期間の変更等の措置を講じました。さらに、平成19年度以降の鳥獣保護事業計画のための新たな基本指針を作成し、鳥獣保護管理を適切に進めるための人材育成とともに、特定鳥獣保護管理計画を効果的に実施するための広域的な鳥獣保護管理や、都道府県内の地域ごとの取組の充実を目指した実施計画の作成などを、新たに位置づけました。

(4)鳥獣被害対策
農林業被害の著しい地域において、環境省、農林水産省、林野庁が連携して鳥獣被害対策連絡会議等を引き続き実施するとともに、特定鳥獣保護管理計画等による適切な鳥獣の保護管理を推進しました。関東地域におけるカワウの保護管理については、関係機関等による協議会が作成した広域保護管理指針に基づく事業を実施し、中部・近畿地域においても新たに協議会を設置しました。さらに、適正な技術を有する鳥獣管理の中核的な担い手を育成し、将来にわたる鳥獣管理体制の構築を図るための「野生鳥獣管理技術者育成事業」の実施や、都道府県の特定鳥獣保護管理計画に基づく保護管理実施状況を調査・分析したほか、特定鳥獣保護管理計画の目的推進のため、モニタリング手法等に関する調査を実施しました。
野生獣類の効果的な追い上げ技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、被害防止マニュアルの作成等の対策を推進するとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様な森林の整備等を実施しました。
人里にクマ類が大量に出没した事態を受け、平成18年11月から19年3月にかけて「クマ類の出没に係る対応のあり方等緊急調査専門家会合」を4回開催し、検討を重ねるとともに、ツキノワグマの出没要因等について関係県の協力を得ながら調査を行いました。19年3月、当該会合や調査の結果及びクマ類の人里への出没の背景も踏まえて、生物多様性の保全と持続可能な利用を基本理念とした人と鳥獣の適切な関係を構築するため、クマの出没を減らす、クマによる被害を減らす、有害捕獲数を減らすこと等を目的とするクマ類出没対応マニュアルを作成しました。
また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の強度強化を促進しました。

(5)鳥獣の生息環境の整備
国指定宮島沼鳥獣保護区の周辺において、渡り鳥の渡来地である湖沼の保全と環境学習などへの活用のための拠点施設の整備を平成18年度までの2か年で実施しました。
さらに、鳥獣の生息環境が悪化した鳥獣保護区の生息地の保護及び整備を図るための鳥獣の繁殖施設その他の事業に取り組むため、改正鳥獣保護法において、保全事業の制度化を図りました。

(6)国指定鳥獣保護区における渡り鳥の保護対策
渡り鳥の保護対策として、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルの生息環境を改善し越冬地の分散を図るため、遊休地の確保等の事業を実施しました。

(7)高病原性鳥インフルエンザ対策
高病原性鳥インフルエンザと渡り鳥等の野鳥との関係については、平成16年度より実施している野鳥のウイルス保有状況調査等に引き続き取り組むとともに、17年度より実施している人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査を行いました。
また、平成18年11月に韓国で発生した高病原性鳥インフルエンザへの対応として、大陸方面からの渡り鳥が多いとされている地域を中心に野鳥のウイルス保有状況調査を強化しました。
さらに、平成19年1月以降に宮崎県及び岡山県で発生した高病原性鳥インフルエンザに関する野鳥関係の調査では、発生現場に職員及び専門家を派遣し、野鳥の生息状況の把握及び野鳥のウイルス保有状況調査を緊急的に実施しました。

3 水産資源の保護管理の推進

水産資源の保護・管理については、漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、海洋生物資源の採捕量の管理に加え、漁獲努力量に着目した管理を行ったほか、1)保護水面の管理、調査等、2)「資源回復計画」の作成・実施、3)増殖管理手法の開発、外来魚の駆除等、4)シロナガスクジラ等の生態、資源量、回遊等調査、5)ウミガメ(ヒメウミガメ、オサガメ)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ)及びジュゴンの原則採捕禁止等、6)混獲防止技術等の開発等を実施しました。


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