第4節 今後の3R・廃棄物処理技術の発展と国際貢献

これまでに循環型社会を形成する様々な技術や、これらの技術の開発・導入を促してきた政策について見てきました。本節では、3R・廃棄物処理技術の更なる向上に向けた研究開発や技術開発の状況を概観します。そして、我が国が有する優れた3R・廃棄物処理技術を基にした国際貢献と、技術を活用していくための私たちの役割を総説2のまとめとして記します。

1 3R・廃棄物処理技術の更なる向上に向けた研究開発

平成18年3月に閣議決定された第3期科学技術基本計画のもと、平成18年3月に総合科学技術会議において決定された「分野別推進戦略」では、環境分野で今後5年間に重点的に取り組んで行くべき研究領域の一つとして、3R技術研究領域が選定されました。これは、環境分野の個別政策目標の一つである「3Rや希少資源代替技術による資源の有効利用や廃棄物の削減」を実現するための研究領域です。そして、この領域の研究を進めることにより、資源の効率的・循環的利用と廃棄物の適正管理が、新たな物質管理手法によって国民の安全・安心への要求に応える形で行われることを目指すこととしています。具体的な研究開発課題として、「資源循環型生産・消費システムの設計・評価・支援技術」、「有用性・有害性からみた循環資源の管理技術」、「リサイクル・廃棄物適正処理処分技術」の3つのプログラムを挙げ、各プログラムごとに重要な研究開発課題を設定しています。
また、中央環境審議会では、「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」の答申を平成18年3月に取りまとめました。この答申においても、研究・技術開発に関する重点領域として、「循環型社会の構築領域」が設定されました。そして、重要課題として、「3R技術・社会システムによるアジア地域における廃棄物適正管理システムの研究」、「循環型社会への変革を進めるための経済的手法等の政策・手法の研究」、「循環資源に関するリサイクル技術やシステムの高度化・実用化」、「有害性の観点を含めた再生品、再生利用品の規格化・基準化のための研究」、「最終処分場の適切な跡地管理と活用に関する研究・技術」などを挙げています。
こうした方向づけに沿った形で、様々な研究や技術開発が行われています。廃棄物処理等科学研究費補助金では、循環型社会形成の推進及び廃棄物に係る諸問題の解決に資する研究事業、技術開発事業等の推進のため、「廃棄物処理対策研究事業」、「次世代廃棄物処理技術基盤整備事業」、「廃棄物対策研究推進事業」の3事業を実施しています。特に、平成18年度より廃棄物処理等科学研究費補助金の中に、国際的な3Rに関する研究・技術開発を対象にした「3Rイニシアティブ特別枠」が創設されました。この研究プロジェクトは、「アジア地域における環境上適正な国際資源循環・廃棄物適正管理システムの構築」をテーマとしたトップダウン方式のプロジェクトです。そして、3ヵ年の研究期間で表4-4-1に示した研究を実施することとしています。

表4-4-13R技術研究

また、平成19年4月に、経済産業省において策定された「技術戦略マップ2007」では、環境・エネルギー分野の一つとして3Rが挙げられており、最終処分量の削減及び資源有効利用に資する3R関連技術について、2010年度までの施策目標の実現を目指すとともに、今後30年程度を見据えた技術戦略マップがとりまとめられています。具体的には、特に重要となる課題として、「最終処分量削減」、「建設ストック(建設廃棄物)」、「金属資源3R」、「3Rエコデザイン・再生生産技術」が選定され、これらの課題の解決に必要となる技術が詳細にロードマップ化されています。なお、従来から「技術戦略マップ」に示された技術開発分野のうち国が関与すべき分野を中心に、技術開発戦略として複数の技術開発や実用化に向けた関連施策を「3Rプログラム」としてパッケージ化し、3Rの推進に資する研究開発や実用化技術開発が体系的に実施されています。具体的な取組として、平成18年度には製品の設計・製造段階でのリサイクル阻害物質の使用排除を可能とする技術や建設構造物の長寿命化に資するメンテナンス技術、建築用部材の高強度化技術、自動車鋼板の高度化・易リサイクル化のための技術の開発等が実施されました。
また、3R技術の普及促進のための実用化補助事業(提案公募事業)が実施されました。
さらに、下水道事業で発生する汚泥を対象に、平成17年4月から平成21年3月までを研究開発期間として、下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)が推進されています。これは、下水汚泥の資源化を推進するために、コストダウンを目標とした技術開発プロジェクトであり、スラッジ・ゼロ・ディスチャージ技術(下水汚泥を処分するコストよりも安いコストでリサイクルできる技術)と、グリーン・スラッジ・エネルギー技術(下水汚泥等のバイオマスエネルギーを使って、商用電力価格と同等かそれよりも安いコストで電気エネルギーを生産できる技術)の開発を目指したものです。これまでに、バイオマスと下水汚泥を合わせて消化し、消化ガス発生量を増加させて発電する技術などの開発が進められています。
このほか、農業分野においても、地域におけるバイオマスの賦存状況を把握した上で、飼料・肥料、工業原材料等を資源として循環利用していくためのシステム化技術や、家畜排せつ物等の臭気低減・循環利用技術、食品加工残さ等の有機性廃棄物及び農林水産業施設廃棄物についての循環・利用技術などの開発が進められています。

コラム アジア・太平洋地域における3R廃棄物処理の研究ネットワーク

平成18年11月に北九州市において、中国、韓国、タイ、フィリピンをはじめ海外10カ国2地域から14名の専門家が参加して、第2回アジア太平洋廃棄物専門家会議が開催されました。
この会議は、アジア太平洋地域の各国が経験を共有して廃棄物管理を改善し3Rを推進するために同地域における専門家ネットワークの形成をめざすとともに、廃棄物管理に関する知識を共有し、国際研究協力を促進することを目的に開催されたものです。
会議の成果として、「アジア太平洋廃棄物管理専門家会議(仮称)」(Society of Solid Waste Management Experts in Asia & Pacific Islands: SWAPI)が設立され、3Rも含めた廃棄物管理の分野での協力を進めていくこととなりました。

写第2回アジア太平洋廃棄物専門家会議



2 3R・廃棄物処理技術を基盤とした国際貢献

第1節で見たように、今日、廃棄物を含めた循環資源の移動は国内では完結せず、国境を越えて広がっています。また、資源やエネルギーは地球規模で逼迫の様相を強め、地球温暖化問題に代表される地球環境問題には国際社会が一致して取り組む必要があります。したがって、3Rを通じて天然資源の消費を抑制し環境負荷を低減する循環型社会の構築は、国内にとどまらず国際的に進めていく必要があります。こうした中で、我が国には、循環型社会構築のための国際的な取組の推進に主導的な役割を果たしていくことが求められています。我が国が有する3R・廃棄物処理の技術を国際的に普及させていくことは、こうした国際協力の中心ともなりうるものです。同時に、我が国の強みを活かした技術面での国際貢献は、環境と経済の好循環をもつくり出します。また、3R・廃棄物処理の技術の中には、京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)のプロジェクトとして温室効果ガスの削減に貢献できるものもあります。
3R・廃棄物処理技術の国際的な展開に際しては、次の二点に留意することで、より広く深い展開が進むものと考えられます。まず第一点は、技術の移転にあたっては、知的財産権の利用の保護に留意しつつ、各国の経済社会状況とニーズを事前に把握する必要があります。経済の発展度合いや生産性などが我が国と大きく異なる国において、必要とされる技術は、最先端のものではなくとも環境上適正で、経済的に見合い、社会的に受容される技術が中心になるものと考えられます。このような各国の技術ニーズを把握するために、二国間・多国間の政策対話や情報交換を活発に行うことが有効です。
また、留意すべき第二点は、技術はこれに適したシステムの中で初めて機能するという点です。このシステムには、技術を実際に動かす人材や、技術の導入を促す制度などが含まれます。すなわち、技術の移転に際しては、その運転に関する経験やノウハウの移転、現地国での人材育成が不可欠です。また、第3節で見たように、技術の開発・導入にあたっては、その裏づけやインセンティブとなる制度が多くの場合において必要です。例えば、廃棄物の排出者責任が徹底されていない状況では、排出者は廃棄物の適正処理やリサイクルに必要なコストを負担するよりも、安価で劣悪な処理を選択することが考えられます。このように、国際的な技術の展開にあたっては、システム全体の中で技術を位置付ける視点を有することが重要です。

3 技術を活用していくための私たちの役割

この総説2で取り上げた、循環型社会を支える3R・廃棄物処理技術、その開発・導入を促した政策や制度、そしてこれらを実際に動かす各主体の取組と連携は、「循環型社会の日本モデル」ともいえるものです。特に、3R・廃棄物処理の技術は、我が国の貴重な財産です。こうした技術の開発・導入の陰には、様々な技術的課題を克服した幾多の技術者や専門家の地道な取組がありました。また、こうした技術者や専門家の努力の底流には、ものの本来の値打ちを無駄にすることなく生かしていこうという「もったいない」という考え方に根ざした、日本の文化があったとも考えられます。
我が国の関係者は、このような技術の開発・導入を含めた3Rの取組を更に前進させるための礎として、「3R活動推進フォーラム」(会長 小宮山 宏 東京大学総長)を発足させ、様々な活動を行っているところです。
今後、我が国は、人口減少や生活意識の変化などに伴い、より成熟した国になっていくものと思われます。今後は、成熟した国にふさわしい、より効率的で効果的な3R・廃棄物処理技術の開発・導入を図ること、そのための仕組みをつくることが重要です。さらに重要なことは、こうした社会においては、技術万能主義に陥ることなく、「技術」を適切に活用していくことです。すなわち、何でも技術が解決してくれるという意識ではなく、私たち自身が持続可能なライフスタイルを実行していくことが求められています。例えば、リサイクル技術をより有効に活用するためには、リサイクル施設に投入される循環資源の質が安定していることが望ましく、そのためには私たちが排出段階で廃棄物を適切な形で分別することが重要な意味を持ちます。また、3Rの中で優先順位が高いリデュースやリユースに関する技術も、私たちの経済社会活動やライフスタイルを変革することによって活用されるようになります。こうした私たちのライフスタイルの変革は、技術本来の価値をより引き出し、優れた技術を新たに世に送り出すことでしょう。
平成13年6月に、循環型社会形成推進基本法に基づく、初めての循環型社会白書が公表されてから、約6年が経過しました。その初めての循環型社会白書では、序章の最後において、「真に豊かな21世紀、人類の飛躍的な発展を可能とする二千年紀に向けて、私たちはこれまでの大量生産、大量消費、そして大量廃棄という一方通行型の経済社会の構造をまず根本から見直し、そして社会のあらゆる主体の適正な役割分担の下で、総力を挙げて循環型社会の構築に取り組んでいかなければならない」と結んでいます。
この原点に立ち返って6年間の歩みを検証したとき、循環型社会の構築は進んでいるといえるでしょうか。確かに、循環型社会形成推進基本計画の三つの指標(資源生産性、循環利用率、最終処分量)は数値が向上しており、一定の進展が見られます。一方、産業廃棄物の排出量をみると、平成16年度の排出量(4億1700万トン)は、ピーク時(平成8年度)の排出量(4億2,600万トン)からは約2%減少しているものの、平成13年度の排出量(4億トン)と比べて、約4%増加しており、3Rの中で最も優先順位が高い廃棄物の発生抑制(リデュース)は、必ずしも十分とは言えず、引き続き取組を進める必要があります。また、リユースの取組は、かつてはビールびんなどでのリターナブルびんの使用が一般的でしたが、国民のライフスタイルの変化などに伴い、最近は使用数量の後退が見られます。リユースの取組は、国民一人ひとりがものを大切にするといった意識と取組から始まるものであり、人々がライフスタイルを見直し、モノの再利用を促進していくことが求められています。
この総説2で紹介したように、循環型社会を支える技術は既に存在しています。これらの技術の本来の価値を引き出して循環型社会を実現するためには、社会経済活動のあり方や私たちのライフスタイルを見直し、私たちが日頃から不断の努力を積み重ねていくことが必要です。


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