第2節 対策の現状と技術の役割

世界全体の2004年(平成16年)の二酸化炭素排出量は265億トンで、国別内訳はアメリカが22.1%で最も多く、次いで中国が18.1%、日本は第4位の4.8%となっています。日本の2005年度(平成17年度)の温室効果ガス総排出量は、13億6,000万トン(二酸化炭素換算)で、1990年(HFC、PFC及びSF6については1995年)と比べて7.8%増加となっています。地球温暖化対策のため、これまで様々な取組が行われてきました。ここでは、当面の我が国の地球温暖化対策の現状を示すとともに、それらの施策において技術が重要な役割を担っていることを見ていきます。

1 地球温暖化対策における各種施策の状況

地球温暖化問題に対応するため、国際的には、1992年(平成4年)5月に気候変動枠組条約、1997年(平成9年)12月には京都議定書(2005年(平成17年)2月に発効)が採択されました。
京都議定書は、先進国全体の2008年から2012年までの温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも5%削減することを目的として、各国ごとに数値化された削減約束を定めており、日本においては、6%の削減約束を確実に達成することが必要です。
このような状況を踏まえ、削減約束を達成するために必要な対策・施策を定めた京都議定書目標達成計画が、平成17年4月に閣議決定されました。京都議定書目標達成計画では、目標達成のための対策・施策として、1)温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策、2)国民運動の展開や公的機関の率先的取組など横断的施策、3)技術開発の推進や国際的連携の確保など基盤的施策、4)京都メカニズムに関する対策・施策が具体的に盛り込まれています(図3-2-1)。1)では、森林吸収源対策について、3)では、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)や適応策などの対策についても言及しています(コラム参照)。この計画に基づき、省エネルギー対策と再生可能エネルギーの導入、国民運動によるライフスタイルの見直しを始めとする各種対策が一体として進められています。

図3-2-1京都議定書目標達成計画の骨子

我が国の温室効果ガス排出量の約9割はエネルギー起源二酸化炭素です。その削減のための対策・施策としては、技術を利用した「エネルギー関連機器の対策」、「事業所など施設・主体単位の対策」や、「都市・地域の構造や公共交通インフラを含む社会経済システムを省CO2型に変革する対策」が挙げられており、更に具体的に見たものが、図3-2-2「エネルギー起源二酸化炭素に関する対策の全体像」で示したものとなります。

図3-2-2エネルギー起源二酸化炭素に関する対策の全体像


コラム 適応策

将来地球温暖化が更に進行すると、我が国のみならず地球規模での海面上昇、農業生産、水資源、生態系とその基盤である生物多様性への影響などが生じると予測されています。温室効果ガスの削減について最大限努力したとしても、ある程度の気温の上昇は避けられません。そうである以上、このような影響に対応するためには従来の温室効果ガス排出削減対策だけではなく、温暖化しつつある気候に合わせてどのように人や社会・経済を調節していくかという「適応策」が重要になってきます。
適応策としては、地球温暖化に伴う乾燥化に対応するための水利用の高効率化、大雨による災害に対応するための防災施設の整備、海面上昇に伴う被害を予防・緩和するための防波堤の建造・かさ上げや海岸防災林の整備、異常気象による農作物の生育阻害に対応するための栽培時期・作物の変更及び品種改良などが挙げられます。


2 地球温暖化対策における技術の重要性

温室効果ガス排出量削減の対策は、それを後押しする制度・仕組みや国民の行動などの改革も併せて進めていく必要がありますが、京都議定書目標達成計画で取り上げている多くの対策・施策において、技術の開発と活用は重要な意義を有します。このうち、我が国の温室効果ガス排出量に占める割合が高いエネルギー起源二酸化炭素に関する対策・施策を中心に、技術との関連を見ていきます。

(1)省CO2型の地域・都市構造や社会経済システムの形成のための対策
地域・都市構造や社会経済システムの形成のための対策としては、例えば省CO2型の都市デザインがあります。この対策を推進するためには、発電と同時に発生した排熱を冷暖房や給湯などに利用することでエネルギー効率の向上を図るコージェネレーションや、ITの活用により室内状況に応じて省エネルギー制御・管理を行うBEMS(Building Energy Management System)及びHEMS(Home Energy Management System)などの技術の活用が期待されています。

(2)施設・主体単位の対策
施設・主体単位の対策としては、大きく、需要部門と供給部門とに分けられます。

ア 産業部門、運輸部門等のエネルギー需要側における対策
エネルギーを消費する需要側においては、自らの活動に関連して排出される二酸化炭素の総体的な抑制を目指して、様々な取組を行うことが必要になってきます。例えば、産業部門では、省エネルギー型プロセス技術、計測・制御関連技術が、運輸部門では、エコドライブ管理システム、輸送効率化情報システムが、家庭部門では、断熱資材、太陽光発電システム等の技術が、二酸化炭素排出の削減に重要な役割を果たします。

イ 原子力発電の活用等のエネルギー供給側における対策
供給側においては、二酸化炭素排出係数の少ないエネルギー源の活用が必要になってきます。例えば、発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電については、地球温暖化対策の推進の上で極めて重要な位置を占めます。今後も信頼性の回復と安全確保を大前提に、原子力発電の一層の活用を図るとともに、基幹電源として官民協力して着実に推進する必要があります。太陽光等の新エネルギー、天然ガス等を活用する技術については、今後更なる進展が期待されます。

コラム 二酸化炭素回収・貯留(CCS)

二酸化炭素回収・貯留技術とは、大規模な排出源(発電所や天然ガス鉱山など)で発生する二酸化炭素を他のガスから分離・回収し、安定した地層に貯留又は海洋に隔離することにより、二酸化炭素を大気から長期間隔離する技術です。
二酸化炭素貯留の形態は、大きくは地中貯留と海洋隔離に区分されます。地中貯留は、分離・回収された二酸化炭素を地中に貯留して大気から隔離しようとするものです。海洋隔離は、分離・回収された二酸化炭素を深海底の窪地に貯留して大気から隔離しようとするものです。
地中貯留、海洋隔離ともに研究が進められており、地中貯留についてはノルウェーの石油・天然ガス採掘を行う企業による北海での貯留事業を始め、既にいくつかの商用規模の貯留事業が実施されています。国内では経済産業省の補助事業として、新潟県長岡市において(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)による二酸化炭素の帯水層貯留の実証試験が行われています。本実証試験では、平成15年7月からの18か月間で合計約1万トン(炭素換算)の二酸化炭素を地下約1,100mの帯水層に貯留しており、現在貯留後のモニタリングが行われています。
また、二酸化炭素を他のガスから分離・回収する技術についても、様々な方法が開発され研究が続けられています。


(3)エネルギー機器単位対策
エネルギー機器単位の対策としては、以下のようなものが行われており、ここでも技術が重要な役割を果たしています。
産業部門では、省エネルギー機器、高性能な工業炉やボイラーなどを導入することが燃焼工程を高効率化させ、省エネルギーにつながり施策を支えています。運輸部門では、燃費改善のための車体の軽量化技術、エンジン効率化技術、ハイブリッド自動車における制御技術などが省エネルギーにつながり施策を支えています。民生部門(業務その他・家庭)では、従来は大気中に放出されていた潜熱(水蒸気として大気に放出されていた熱量)を回収して再利用する潜熱回収技術や発光ダイオードなど照明機器における省エネルギー技術がエネルギー利用効率の向上及び省エネルギーに係る施策を支えています。
これ以外にも、多くの技術の活用がエネルギー利用効率の向上や省エネルギーにつながり、エネルギー起源二酸化炭素に関する対策を支えています(表3-2-1)。

表3-2-1エネルギー起源二酸化炭素に関する対策と技術の関連

エネルギー起源二酸化炭素の削減のみならず、排出量・吸収量の計測や将来の予測等にも技術は欠かせません。その他、間接的に技術が貢献して効果を発揮する例も少なくありません。例えば、アイドリングストップ車の普及によりアイドリングストップをする運転手が増加すること、LRT(Light Rail Transit)の導入に伴う利便性の向上により公共交通機関利用者が増加すること、コンセントを抜かずに接続された機器の電源をオフにできる製品(エコタップやタイマー付きコンセント)の使用により待機電力の削減を促進することなど、国民の意識やライフスタイルの変革にも技術が貢献します。
これまでに見てきたように、技術の開発と活用、更にはその間接的な効果は、京都議定書目標達成計画における対策の多くにおいて重要な役割を果たしています。今後の地球温暖化対策においても引き続き、制度の改革やすべての主体の意識や行動の改革等に係る各種の対策と並び、技術の開発・普及は大きな要素の一つであると言えます。


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