第7節 野生生物の保護管理


1 絶滅のおそれのある野生動植物の保護


(1)レッドリスト・レッドデータブックの作成
絶滅のおそれのある野生動植物について、各分類群についてそれぞれレッドリストを公表し、これに基づき平成18年2月までに、「爬虫類・両生類」、「植物I(維管束植物)」、「植物II(維管束植物以外)」、「哺乳類」、「鳥類」、「汽水・淡水魚類」、「陸・淡水貝類」及び「クモ形類・甲殻類等」について、改訂版レッドデータブックを順次公表してきました。また、これらのレッドリストを見直すための検討を行っています。

(2)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく取組
平成17年度末現在、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。)では、日本に生息・生育する絶滅のおそれがある種を国内希少野生動植物種として哺乳類4種、鳥類39種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類5種、植物19種の計73種を指定し、また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)並びに二国間の渡り鳥等保護条約等に基づき、国際的に協力して保存を図るべき種を国際希少野生動植物種として約670分類群を指定しています。また、8か所の生息地等保護区を指定しており、保護区内の国内希少野生動植物の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。
保護増殖事業計画については、ツシマヤマネコ、シマフクロウ等37の計画が策定されています。平成17年度は、オオワシ、オジロワシ及びヤシャゲンゴロウの合計3種について、保護増殖事業計画を策定しました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターが、17年度末現在8か所に設置されています。主な事業、調査等は表6-7-1のとおりです。

表6-7-1	保護増殖事業等の概要

日本でのコウノトリの最後の繁殖地があった豊岡市では,兵庫県と文化庁が中心となり、兵庫県立コウノトリの郷公園で野生復帰に向けた事業を取り組んでいます。コウノトリの郷公園では、野生での生活に必要な能力を高めるための飼育個体への馴化訓練、生息地となる周辺環境の整備等について、地域住民等と連携して実施し、平成17年9月に試験放鳥を実施しました。

(3)猛禽類保護への対応
絶滅のおそれがある猛禽類のうち、イヌワシ、クマタカ及びオオタカについて、生息状況のモニタリング、好適な生息環境の創出のための実証モデル調査等を実施しました。また、オオタカについては、これまでの調査で得られた知見の取りまとめを行い、全国の推定繁殖個体数(少なくとも1,824〜2,240羽)や全国分布等を公表しました。

(4)海棲動物の保護と管理
北海道沿岸に回遊又は生息するアザラシ類については、地元関係者等の協力を得つつ、生息状況や漁業被害等について調査を実施しました。
平成16年度に引き続き、沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンの全般的な保護方策を検討するため、ジュゴンや海草藻場の分布等を調査しました。また、ジュゴンのレスキュー技術の確立と普及に関する調査を行いました。

2 野生鳥獣の保護管理


(1)鳥獣保護事業及び鳥獣に関する調査研究等の推進
長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針(平成15年4月16日〜19年3月31日)に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
また、渡り鳥の生息状況等に関する調査として、「鳥類観測ステーション」における鳥類標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査、シギ・チドリ類の定点調査等を実施しました。
また、野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として宮崎県において第59回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

(2)適正な狩猟と鳥獣管理
狩猟者人口は、昭和45年度の約53万人が平成15年度には約19万人にまで減少しており、しかも高齢化が進んでいるため、被害防止のための捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見受けられます(表6-7-2)。

表6-7-2	狩猟免状の交付及び狩猟による鳥獣の捕獲数

適正な管理下での狩猟は、鳥獣を適正な生息数にコントロールする手段として一定の役割を果たすことから、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行いました。

(3)鳥獣保護管理制度の見直し
近年、シカやイノシシなどの鳥獣が地域的に増加し、農林業や自然植生に深刻な被害を与えており、他方、これら鳥獣の捕獲の担い手である狩猟者数の減少が進んでいます。
一方、鳥獣の生息環境の悪化により、渡り鳥の飛来数が減少している事例や、地域的に鳥獣の個体数が減少している事例が見られます。
また、国内で違法捕獲された鳥獣(メジロ等)を輸入した鳥獣と偽って飼養している事例などが見られることから、これら鳥獣の適切な管理が必要とされています。
このような状況を踏まえ、平成17年9月、中央環境審議会に対し「鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき講ずべき措置について」諮問を行い、検討を重ねた結果、狩猟を活用した鳥獣の保護管理及び鳥獣の保護施策の一層の推進等の方策がとりまとめられ、平成18年2月に環境大臣に対して答申がなされました。
これを受け、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部改正法案を第164回通常国会に提出しました。

(4)農林漁業被害の防止対策
農林業被害の著しい地域において、環境省、農林水産省、林野庁が連携して鳥獣被害対策連絡会議等を引き続き実施しました。また、特定鳥獣保護管理計画等による適切な鳥獣の保護管理を推進するとともに、関東地域におけるカワウの保護管理について、関係機関等と協議会を設置し、広域保護管理指針を策定しました。さらに、適正な技術を有する鳥獣管理の中核的な担い手を育成し、将来にわたる鳥獣管理体制の構築を図るための「野生鳥獣管理技術者育成事業」の実施や、都道府県の特定鳥獣保護管理計画に基づく保護管理実施状況を調査・分析したほか、特定鳥獣保護管理計画の目的推進のため、モニタリング手法等に関する調査を実施しました。
鳥獣を適正に管理し、農林業被害を軽減する農林生態系の管理技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備等の対策を推進するとともに、新たに農業被害防止に必要な知識の普及を図り、鳥獣との共生にも配慮した多様な森林の整備等を実施しました。
また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の強度強化を促進しました。

(5)鳥獣の生息環境の整備
国指定宮島沼鳥獣保護区の周辺において、渡り鳥の渡来地である湖沼の保全と環境学習などへの活用のための拠点施設の整備を平成18年度までの2か年で実施しています。
渡り鳥の保護対策としては、生息状況調査を実施したほか、出水(いずみ)平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルについて、その生息環境を改善し、越冬地を分散するために遊休地の確保等の事業を実施しました。また、ツル類について、集中して越冬することで生じる伝染病などの発生による種の絶滅の危惧や農業被害を軽減するために調査を実施し、分散化などについて学識経験者やNPO、地域の関係者等と具体策を検討しました。

(6)高病原性鳥インフルエンザ対策
高病原性鳥インフルエンザと渡り鳥等の野鳥との関係について、渡り鳥を含む野鳥のウイルス保有調査等を実施しました。

3 水産資源の保護管理の推進

水産資源の保護・管理については、漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、海洋生物資源の採捕量の管理に加え、漁獲努力量に着目した管理を行ったほか、1)保護水面の管理、調査等、2)「資源回復計画」の作成・実施、3)魚類の遡上を円滑にした地域用水環境の整備、増殖管理手法の確立、外来魚の駆除等、4)シロナガスクジラ等の生態、資源量、回遊等調査、5)ウミガメ(ヒメウミガメ、オサガメ)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ)及びジュゴンの原則採捕禁止等、6)混獲防止技術等の開発等を実施しました。

4 外来生物等への対応


(1)外来生物対策
平成17年6月に施行された特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。)に基づき、第一次指定において37種類、第二次指定において43種類の生物を特定外来生物に指定し(表6-7-3)、奄美大島や沖縄やんばる地域の希少動物を捕食するマングースの捕獲事業のほか、アライグマ、カミツキガメ、オオクチバス等についての防除モデル事業等、具体的な対策を進めています。

表6-7-3	外来生物法に基づく特定外来生物のリスト

また、平成17年には野外における外来生物の発見事例が相次いだことから、外来生物の適正な飼育に係る環境大臣談話の公表、外国産カブトムシ、クワガタムシについての「逃がさないで・捨てないで緊急キャンペーン」、ホームページ等での普及啓発活動を進めました。
河川においては、平成17年8月に、川やその周辺でよく見られる外来生物をまとめた「河川の外来種図鑑」を作成・配布するなど、外来生物問題の普及・啓発に努めています。

(2)遺伝子組換え生物対策
カルタヘナ議定書を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づき、平成18年3月現在、66件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウスhttp://www.bch.biodic.go.jp/)を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な輸入港周辺等において遺伝子組換えナタネの監視調査などを行いました。


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