環境白書の刊行に当たって


環境大臣 小池百合子


平成17年、わが国の人口は、明治以降、はじめて減少しました。子どもを生み育てやすい環境づくりを目指して、教育、労働、社会保障の面において取組が進められていますが、今後わが国は、人口減少時代というこれまでにない局面を迎えることとなります。
人口減少とそれに伴う少子高齢化は、地方部における急激な過疎化、都市の拡散などの人口の地域偏在といった様々な社会の変化を引き起こします。
このことは、エネルギー消費量やごみ排出量などの環境負荷に影響を及ぼすほか、里地里山地域の生物多様性の危機や、都市の拡散による環境効率の悪化など、環境の面でも課題を生み出すこととなります。
一方で、人口の減少は、多様な価値観やゆとりある生活環境をつくりだす契機となることが期待され、それは持続可能な社会を構築する大きな好機と見ることもできます。
本白書では、環境面からみて人口減少の“光”と“影”について分析しています。
平成18年4月7日に政府の環境政策の基本的な方針である「第3次環境基本計画−環境から拓く新たなゆたかさへの道−」が閣議決定されました。新しい環境基本計画では、このような今日の経済や社会の状況の変化を踏まえ、“環境、経済、社会の統合的な向上”などの環境政策の新たな展開の方向を示しています。
今後、この計画に基づき、「健やかで美しく豊かな環境先進国−HERB−」を目指した取組を進めていくこととなります。
人口の減少とそれに伴う課題を乗り越えて、ゆとりある環境と持続可能な社会を築いていくためには、私たちみんなのライフスタイルについても見直す必要があります。環境基本計画では、「100年後の世代まで伝えることのできるライフスタイルへの転換」を提案しています。
政府では、京都議定書の目標を達成するための国民的プロジェクトとして、「チーム・マイナス 6 %」を立ち上げ、一人ひとりのライフスタイル・ワークスタイルの変革による、具体的な温暖化防止の行動を呼びかけています。その一環として行った夏の「クールビズ」、冬の「ウォームビズ」は、多くの方に取り組んでいただきましたが、これは、これまでの既成概念にとらわれずに、快適で格好良くすごすビジネススタイルが、幅広く共感を得られたためと思います。

【クール・ビズ】ノーネクタイ・ノー上着ファッションに代表される「クール・ビズ」は、環境省の調査によると認知度は9割以上に達し、オフィスでの二酸化炭素を推計で約46万トンCO2(約100万世帯の1か月分の二酸化炭素排出量に相当)削除する成果をあげました。

私は「もったいないふろしき」を持ち歩いていますが、風呂敷や打ち水など江戸時代から続いてきている環境に配慮した暮らしの知恵など、日本には世界に誇れる環境の「わざ」と「こころ」があります。今後、わが国は他の西欧諸国も経験したことのない急激な人口減少と高齢化を迎えます。私たちが、これらを活かして、この大きな社会の変化を乗り越えて、持続可能な社会を構築することができれば、わが国は、世界に範を示す国際社会のリーダーとして誇りをもって存在していくことができるはずです。
また、本年は環境問題の原点ともいえる水俣病を行政が公式に確認してから50年目の年です。水俣病問題は日本が高度経済成長をする中で生じたものであり、公害を発生させた企業に適切な対応をなすことができなかったために、その被害が拡大しました。今日の社会の繁栄と暮らしの豊かさは、水俣病のような犠牲の上に築かれているとも言えます。私たち一人ひとりは、自らが暮らす社会のこのような成り立ちに思いを致し、水俣病を学び、この経験と教訓を未来にいかしていかなければなりません。

【水俣病犠牲者慰霊式】平成18年5月1日、新しく建立された「水俣病慰霊の碑」の前で水俣病犠牲者慰霊式が行われました。写真は胎児性水俣病患者の方々が祈りの言葉を述べているところ。

公式確認から50年という節目を迎え、水俣病問題が今なお取り組むべき重要な課題であるということを改めて実感しているところです。今後も、すべての被害者の方々が地域社会の中で安心して暮らしていけるようにするため、関係地方公共団体や地域の皆様と協力し、医療対策等の充実や地域福祉と連携した取組を進めていきます。そして、世界で二度とこのような悲惨な公害が起きないようにすることが政府の使命であり、これからも水俣病の経験と教訓を国内外に発信し続けます。
平成18年5月


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