第6節 調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等


1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1)研究開発の総合的推進
 平成16年5月に総合科学技術会議によって決定された「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中では、環境分野については、国家的・社会的課題に対応した研究開発の分野として、特に重点を置くべき分野とされています。
 この方針の下、地球温暖化、ゴミゼロ型・資源循環型技術、自然共生型流域圏・都市再生技術、化学物質リスク総合管理技術及び地球規模水循環変動の各領域の研究開発を推進することとしており、具体的には、表7-6-1の課題を含む研究開発関連施策を展開します。


表7-6-1 研究開発の総合的推進に関する施策の例


 総合科学技術会議はリーダーシップを発揮しつつ、関連府省との連携のもと、これら課題を中心とした環境分野の研究開発をシナリオ主導型のイニシャティブとして推進していきます。また、平成16年7月に総合科学技術会議において創設することとされた科学技術連携施策群のテーマの一つとして「バイオマス利活用」を定め、各府省の連携の下に積極的に推進します。

(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
 ア 独立行政法人国立環境研究所
 中期計画に基づき、重点研究分野を中心に、重点特別研究プロジェクト、政策対応型調査・研究、基盤的調査・研究、知的研究基盤の整備等の環境研究を推進していきます。また、環境情報の提供を進めます。
 イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関するわが国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなど本章第8節1(1)イ(イ)に掲げた施策を進めます。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
 環境省に一括計上する平成17年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額12億3,270万円です。8省庁20試験研究機関等において、環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現、自然と人間との共生の確保等環境基本計画に定める長期的な目標の達成に資するため、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等幅広い領域にわたり、61の試験研究課題を実施します。その内容は表7-6-2のとおりです。


表7-6-2 公害防止等に関する調査研究


(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
 平成17年度においても「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、調査研究、観測・監視等の総合的な実施体制を確保します。また、地球温暖化の現状把握と今後予想される自然や社会・経済の影響、それらに的確に対応するための各種技術や方策について、政府一体となって戦略的・集中的に調査研究を行います。
 「地球環境研究総合推進費」については、引き続き学際的、国際的な観点から地球環境研究の総合的な推進を図り、新たに温暖化の危険な水準及び安定化レベルに関する政策判断のための科学的知見を提供することを目指した温暖化影響の総合評価プロジェクトを開始します。さらに、地球温暖化の防止に関する研究の中でも、特に政府としての推進・調整が重要である関係行政機関の試験研究機関又は関係行政機関の行う研究を、政府として強力かつ効果的に進めます。
 さらに海色監視衛星の観測データを利用して、沿岸域における赤潮・青潮等の常時監視を行い、閉鎖性水域における水環境の改善に資する調査研究を引き続き推進します。

(5)基礎的・基盤的研究の推進
 環境技術開発等推進費による「基礎研究開発課題」及び「自然共生型流域圏・都市再生技術研究課題」に対して引き続き助成を行うことにより、環境技術の開発・普及の促進を図ります。

(6)地球環境に関する観測・監視
 観測・監視については、世界気象機関(WMO)の全球大気監視(GAW)計画の一環として、温室効果ガス、CFC、オゾン層、有害紫外線等の定常観測を引き続き実施するとともに、日本周辺海域及び西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を継続します。
 災害状況把握等を行うことを目的とした陸域観測技術衛星(ALOS)の打上げ、温室効果ガスの観測等を目的とした温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)及び国際協力の全球降水観測(GPM)計画に貢献する二周波降水レーダ(DPR)の開発等、人工衛星による観測・監視手法等の開発利用を一層推進します。また、文部科学省の海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を引き続き推進するとともに、深海地球ドリリング計画を推進し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進します。さらに、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を引き続き推進します。加えて、地球温暖化・炭素循環分野及びアジアモンスーン地域水循環・気候変動分野において、既存の地球観測システムを補完する観測システムを効率的に構築するため、競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、研究開発事業を推進します。
 第47次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、第46次隊に引き続き、約100万年前の気候や二酸化炭素濃度を解明するために、ドームふじ基地において氷床下3,000mの氷床コアの採取を目指す第二期南極氷床掘削計画(3年計画の3年目)など、各種のプロジェクト研究観測とモニタリング研究観測を実施します。また、南極地域観測の継続のため、南極地域観測船「しらせ」後継船等を平成17年度から5年計画で建造します。
 地球変動予測研究については、引き続き、世界最高性能のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進します。
 全国の気象官署における観測開始以降の観測資料の利用を促進するなど、地球温暖化の状況等に関する調査研究を推進し、地球温暖化予測の精度向上を図ります。また、国内の影響・リスク評価研究のさらなる進展のため、日本付近の詳細な気候変化のより精度の高い予測結果を更新・提供していきます。また、GPS装置を備えた検潮所において精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続します。

(7)廃棄物処理等科学研究の推進
 総合科学技術会議の「ごみゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブ」に基づき、引き続き競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、研究事業及び技術開発事業を実施します。
 研究事業については、「社会におけるマテリアルフロー分析、循環型社会の評価手法に関する研究」「経済的インセンティブを用いた3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進に関する研究」「地域における最適な資源循環システムの構築に関する研究」「安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」を重点テーマとし、社会的・政策的必要性に応じた廃棄物処理等に係る研究を推進します。
 技術開発については、「廃棄物適正処理技術」「廃棄物リサイクル技術」「循環型設計・生産技術」の各分野において実用性、経済性が見込まれる次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図ります。
 また、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を引き続き推進します。

(8)環境保全に関するその他の試験研究
 環境保全に関する試験研究では、他にも下記のようなものがあります。
 環境省では、ナノテクノロジーを活用した環境技術開発を引き続き推進し、5年程度での実用化を目指します。
 総務省では、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究については、GPM搭載降水レーダの開発、宇宙からの雲観測技術、宇宙からの風観測のためのライダ技術、宇宙からの大気微量成分の三次元観測技術、極域大気環境の総合計測技術に関する国際共同研究、高分解能映像レーダによる地表面の高精度観測技術、亜熱帯環境計測技術の研究開発を実施します。
 国土交通省では、下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)においては、下水汚泥有効利用の新技術開発を図る下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)を平成17年度から20年度の最大4年間で集中的に技術開発を行います。
 また、次世代内航船(スーパーエコシップ)の普及を図るとともに、より環境負荷低減効果の大きいスーパーエコシップフェーズ2船の研究開発を、環境省との主体間連携モデル推進事業により引き続き実施します。また、超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)について、引き続き普及促進を図ります。さらに、SOx排出量の低減効果の高い活性炭素繊維(ACF)を活用した高機能排煙処理システムやNOx及びCO2の排出量削減に資する超臨海水を活用したディーゼル燃焼技術といった新たな環境負荷低減技術の開発を引き続き実施するとともに、クリーンエネルギーである天然ガスの供給拡大に寄与する天然ガスハイドレート(NGH)輸送船の開発を推進します。
 農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発として、バイオマスの変換・利用技術について、畜産臭気の低減技術等の開発とバイオマスの総合利用による地域循環システムの実用化に関する取組を強化するとともに、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能の解明による流域圏環境の総合的管理手法の開発、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発、農林水産生態系における有害化学物質の動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動を考慮した食料需給モデルの開発、水循環変動の影響を評価・予測、変動の影響を最小化するための対策シナリオの策定等を引き続き推進します。
 経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料を生産する技術開発、廃棄物や汚染物質の生分解・処理技術の開発を引き続き実施するとともに、生物機能を活用した物質生産に係る実用化開発を推進する観点から、「バイオプロセス実用化開発プロジェクト」を実施します。また、これらの開発を支える基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、バイオテクノロジーの産業利用における安全管理充実のための遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を引き続き実施します。さらに、愛・地球博において、バイオマス由来プラスチックの利活用の実証を行います。

2 調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保等

(1)戦略的な地球環境の調査研究・モニタリングの推進
 平成16年4月の東京での第2回地球観測サミットで採択された地球観測10年実施計画の枠組み文書、また17年2月の欧州での第3回地球観測サミットで採択された実施計画をもとに、日本における地球観測システムの構築を推進します。また、16年12月に総合科学技術会議により取りまとめられた「地球観測の推進戦略」に基づき、関係府省の連携の下、地球観測を積極的に推進します。
 統合地球観測戦略(IGOS)パートナーシップにおいて、現在、8つの「テーマ」(海洋、大気化学、炭素循環、水循環、陸域災害、沿岸/サンゴ礁、雪氷圏、陸域)のもと、全球海洋観測及び全球水循環観測等が実施段階となっており、熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び米国地球観測衛星(Aqua)の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)等による観測データを活用し、積極的に国際的な観測・監視計画に貢献します。
 WMO温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてアジア・南西太平洋地域における観測データの品質向上に関する業務を、さらにWMO全球大気監視較正センターとしてメタン等の観測方法などについての国際的な統一を図る業務を引き続き実施します。さらに、黄砂に関する情報の発表を継続するとともに、平成17年度からの有害紫外線に関する情報発表の開始に向けて、体制を整えます。
 全球気候観測システム(GCOS)等が推進する気候変動の検出、影響監視等のための総合的な観測システム構築に積極的に参加するほか、世界の地上月気候値気象通報(CLIMAT報)のリアルタイム収集やその品質などを監視するGSN監視センター(GSNMC)の業務をドイツ気象局と共同で実施しています。
 アジア太平洋気候センターを通じて、アジア太平洋地域各国気象機関に対し基盤的な気候情報を引き続き提供するとともに、その内容の改善と拡充を図っていきます。また、気候業務に関する研修・ワークショップ等の開催を通じて、域内各国の人材育成に協力していきます。
 さらに、VLBIや、GPSによる国際共同事業に参画し、グローバルな地殻変動等を観測するほか、これと験潮・絶対重力観測等を組み合わせて地球規模の海面変動の監視等を推進します。
 化学物質についても、東アジア地域における残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態の把握を目的としたモニタリングの連携を引き続き推進強化します。

(2)国際的な各主体間のネットワーキングの充実、強化
 アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)の枠組みを活用し、平成11年に神戸市内に開設したAPNセンターを中核として、地域内の研究活動等の支援を積極的に行います。特に、日本がヨハネスブルグ・サミットにおけるパートナーシップ・イニシアティブの一つとして提唱した「持続可能な開発のための科学的能力向上プログラム(CAPaBLE)」を着実に推進します。
 また、アジア地域の国家地図作成機関と協力し、引き続きアジア地域の地球地図を整備・提供します。さらに、国連アジア太平洋地図会議の決議に基づき、アジア太平洋地域の各国と協力しつつ、引き続き基盤的地理情報の整備、国際共同観測プロジェクト等を推進していきます。
 また、アジア太平洋環境イノベーション政略プロジェクト(APEIS)については、第IIフェーズを開始し、持続可能な開発に資する政策オプションの研究を推進します。このほか、アジア太平洋気候センターを通じて、アジア太平洋地域各国気象機関に対し基盤的な気候情報を引き続き提供するとともに、その内容の改善と拡充を図っていきます。また、気候業務に関する研修・ワークショップ等の開催を通じて、域内各国の人材育成に協力していきます。

3 技術の振興

(1)環境技術の開発支援
 環境省では、「環境技術開発等推進費」において、複数の環境問題を統合的に扱うことにより、ベストミックスの効果が期待される環境技術開発等を対象とする「統合型研究開発」の領域を創設するとともに「実用化研究開発課題」に対して、引き続き助成を行い、環境技術の開発の促進を図ります。
 また、平成17年度も、地球温暖化対策に資する技術開発事業を引き続き実施し、新たな地球温暖化対策技術の開発・実用化・導入普及を進めます。
 「地球温暖化対策技術開発事業(競争的資金)」においては、「IT分野における省エネ対策技術の実用化開発」、「水素・燃料電池社会の構築に関する対策技術の実用化開発」、「バイオマス燃料の製造・利用システムの技術開発」、「地域におけるエネルギーネットワークシステムの構築に関する技術開発」を重点テーマとして、技術開発事業を実施します。
 「環境技術実証モデル事業」では、一部の対象技術分野について受益者負担を導入し、望ましい技術実証の手法・体制を確立することで、引き続き先進的環境技術の普及に向けた取組を推進します。
 また、さらなる環境測定分析の精度向上等を目指して、引き続き地方公共団体の環境測定分析機関等を対象とした環境測定分析統一精度管理調査を実施します。

(2)技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応
 先端技術に関する環境保全施策を推進するため、引き続き、バイオテクノロジーと環境保全に関する基礎的な調査を行います。また、一層のバイオレメディエーション事業の健全な発展とバイオレメディエーションの利用の拡大を通じた環境保全を図るため、平成16年度に告示された「微生物によるバイオレメデーション利用指針」に基づき、適切な制度の運用を行います。

4 国による基盤整備等

 文部科学省においては、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が地球環境問題の解決に向けて実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトなど、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設の整備・充実への支援を図ることとしています。さらに、科学研究費補助金、私立大学との環境分野等の共同研究を支援する学術フロンティア推進事業等により、環境に関する基礎研究を推進します。
 環境省においては、大気粉じん等の環境試料や絶滅のおそれのある生物の細胞・遺伝子を長期保存し、環境研究の知的基盤としていくための「環境試料タイムカプセル化事業」を引き続き実施します。

5 地方公共団体、民間団体等における取組の推進

 地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。
 また、これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、平成17年度においても、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するほか、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図ります。

6 成果の普及等

 地球環境保全等試験研究費及び地球環境研究総合推進費等の競争的研究資金により実施された研究成果について、引き続き、広く行政機関、民間企業等に紹介し、その普及を図ります。


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