第7節 国土の空間特性・土地利用に応じた施策


1 森林・農地

(1)森林
 森林でのさまざまな体験活動を通じて、森林のもつ多面的機能等に対する国民の理解を促進する森林環境教育や、里山林等を活用した健康づくりを行う「健康と癒しの森」づくりの体制整備、里山林等における自然・文化体験活動等、森林の多様な利用を推進します。また、森林の多面的機能を持続的に発揮させるため、重視すべき機能に応じた森林の区分である「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」ごとに多様な森林づくりを推進します。
 保安林制度・林地開発許可制度等の適正な運用により、森林の公益的機能の発揮及び森林の保全の確保に努めます。さらに、森林の状態とその変化を継続的に監視することにより、持続可能な森林経営の推進、地域森林計画の樹立等に必要な基礎資料を得るため、森林資源モニタリング調査を引き続き実施します。
 治山事業においては、豊かな環境づくりに配慮し、荒廃山地の復旧整備、機能の低位な森林の整備等を計画的に推進するとともに、事業の実施に当たっては、必要に応じて周辺の生態系に配慮する等の対策に積極的に取り組みます。また、特に自然環境のすぐれた地域等において、自然環境の保全、改善効果の高い工法等の開発普及を図る環境保全技術開発モデル事業を実施します。保安林については、計画的な指定、適正な維持管理及び整備を推進します。さらに、森林病害虫等の防除については、森林病害虫等防除法等に基づき、松くい虫をはじめとする森林病害虫や野生鳥獣による被害防止・防除対策を、環境の保全に配慮しつつ総合的に実施するとともに、環境負荷の小さい新たな防除手法の実用化に向けた事業等を実施します。保全管理水準の維持・向上を図るべき森林については、森林保全推進員等による森林パトロール等の保全管理活動、防火林道等の整備等を行うとともに、「全国山火事予防運動」の実施等啓発活動を推進します。国民参加の森林づくりについては、森林ボランティア活動等広範な取組を推進します。
 国有林野においては、林木だけでなく下層植生や動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目し多様な森林の整備を行います。その中で育成複層林・天然生林施業の推進や育成単層林の適正な整備、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した森林施業を推進します。また、国有林野を活用して民間団体等が行う自然再生活動や生物多様性の保全等に対する技術的支援等を積極的に推進します。
(2)農地
 土地改良事業をはじめとする農業農村整備事業においては、環境との調和への配慮の基本方針に基づき、原則としてすべての事業で、調査、計画の段階から、環境との調和へ配慮しつつ事業を実施します。また、農地・農業用水等の資源や農村環境を適切に保全管理する施策体系の構築に向けた調査等を実施します。ため池等の周辺において生態系空間(ビオトープ)を保全する事業や生活環境の整備等を生態系の保全に配慮しながら総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進するほか、農村地域に存在する生物の情報を調査・データベース化し、生息・生育地での生態系ネットワーク化等、生物多様性を確保するための手法や水路における生きものの環境評価手法の開発を進めます。また、農林水産省と環境省が連携・協力して、水田周辺水域(農業水路とため池)の生態系の現状把握を行うため「田んぼの生きもの調査」の実施を引き続き推進します。
 農業生産活動と調和した自然環境の保全・再生活動の普及・啓発を図るため、「田園自然再生活動コンクール」を実施します。棚田で農業生産活動が行われることにより生ずる国土の保全、水源のかん養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動を推進するほか、農村地域の美しい景観や環境を良好に整備、管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行います。
 田園自然再生関連対策として、健全で豊かな自然環境の保全・再生と活力ある農業が調和した美しいむらづくりに向け、地域住民や民間団体等による保全活動と連携した生態系保全型の農地、土地改良施設の整備等を進めます。また、農業用排水の水質保全と農業集落の生活環境の改善を図るため、農業集落排水施設の整備を推進するとともに、地域の実情に応じ、特定環境保全公共下水道等の整備を進めます。
 資源の循環的な利用、農業生産活動に伴う環境への負荷の低減及びそれを通じた生物多様性の維持等の自然環境の保全を図る観点から、引き続き、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律に基づき、たい肥等による土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の育成等を図ります。
 また、家畜排せつ物法が平成16年11月に本格施行され、一定の基準に基づく家畜排せつ物の適正管理が義務付けられたことを受け、水環境や大気環境への環境負荷の低減並びに有機性資源の循環利用の促進を図るため、より高い環境保全効果を有する家畜排せつ物処理施設の整備に関する事業を推進するとともに、金融・税制上の特例措置等を講じます。また、未利用資源の利用の促進を図るため、飼料化施設等の整備の推進を図ります。また、都市部の農地においては、緑地としての機能の維持を図るほか、都市住民の交流の場としての活用を図るため、市民農園の整備等を推進します。

2 都市・公園緑地・道路

(1)都市公園の整備等
 都市の防災性の向上、地球環境問題等への対応、豊かな地域づくり等の課題に対応しつつ、都市における緑とオープンスペースを確保し、水・緑豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、「都市公園整備事業」の推進を図ります。国営公園については、全国17か所において整備を推進します。都市の景観形成・環境改善及び防災機能向上のため、緑化の必要性が特に高い地区において多様な公園緑地の整備や公共公益施設の緑化等を行う「緑化重点地区総合整備事業」、埋立造成地等において自然的環境の再生や多様な生物の生息生育基盤の確保など環境の向上に資する良好な緑地の整備を行う「自然再生緑地整備事業」等、各種施策に応じた都市公園等の整備を推進します。また、緑の基本計画に位置付けられた水と緑のネットワーク計画に基づき、都市公園の整備、緑地の保全、民有緑地の公開に必要な施設整備を総合的に支援する「緑地環境整備総合支援事業」を景観法に基づく景観計画の策定された都市へと対象を拡充し、実施します。がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備を推進します。また、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成等を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与します。

(2)緑地保全・緑化等の推進
 都市における緑地を保全するため、都市緑地法に基づき特別緑地保全地区等の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を推進します。
 また、首都圏近郊緑地保全法及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律に基づき指定された近郊緑地保全区域内において、特に枢要な部分を構成している緑地は、近郊緑地特別保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を推進します。
 さらに、緑化地域制度や緑化施設整備計画認定制度等の民有地の緑化を支援する制度により、都市の民有地における緑化を推進します。

(3)国民公園及び戦没者墓苑
 皇居外苑、新宿御苑、京都御苑及び千鳥ケ淵戦没者墓苑を広く国民の利用に供するため、引き続き施設の改修、園内の清掃、芝生・樹木の手入れ等を行います。

(4)緑化推進運動への取組
 緑化推進連絡会議を中心に国土の緑化に関し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図っているところであり、平成17年度においては、以下のような施策を実施し、運動の一層の展開と定着化を図ります。
1) 全国植樹祭等を開催する事業、森林ボランティアなどの森林づくりを促進する事業、学校林の活用を促進する事業等に助成し、その普及・啓発を推進します。また、巨樹・巨木林や里山林に関する技術開発と緑化技術情報の提供・普及啓発を促進します。さらに、「みどりの週間」(4月23日〜29日)を中心に緑化活動等の全国的な展開を推進するほか、社団法人国土緑化推進機構等による「緑の募金」及び「緑と水の森林基金」を活用した森林整備等への取組を推進します。
2) 都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4〜6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施したほか、緑の相談所(都市緑化植物園)、都市緑化基金の拡充強化等を図ります。

3 河川

(1)河川とダム
 河川環境に関する基礎情報の収集整備のため、河川並びにダム湖及びその周辺における生物の生息状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施します。また、河川環境に関する専門的知識を有する地域の方々の参加を得て、きめ細かな河川環境の管理に資する「河川環境保全モニター制度」を実施します。また、自然環境に配慮した河川管理の取組として、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センター等において、河川湖沼の自然環境保全・復元のための研究を実施します。
 河川環境管理基本計画の策定を推進し、自然環境の保全に配慮するとともに、地域住民と連携しながら渡り鳥等の生物の良好な生息・生育環境を有する自然河川や、湿地・干潟などの再生を進めていきます。良好な潤いのある水辺空間の保全並びに形成等を図る「水系環境整備事業」等を実施します。治水上の安全性を確保しつつ、多様な河川環境を保全し、環境を改変せざるを得ない場合でも最低限の改変にとどめ、良好な自然環境の復元が可能となるように川づくりを行う「多自然型川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」等を踏まえ、全国の河川において魚類の生息環境改善を実施します。また、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境に配慮した災害復旧を実施します。
 都市再生本部において、第三次決定プロジェクトに位置付けられた「水循環系の再生」については、河川の再生(河岸の再自然化、河畔林の整備、水質の改善等)、市街地の雨水貯留・浸透機能の回復等、各領域の施策を総合的に推進することによりその再生を図ります。
 ダム貯水池において整地、法面保護、緑化対策等を図り、ダム湖の活用や親水性の向上を図ったり、ダム下流の河川環境の回復を図るため、「水系環境整備事業」を創設し、実施します。

(2)砂防設備周辺等
 土砂災害の防止の実施に当たり、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流・里山の環境等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工などにより、里地里山などの多様な自然共生型の砂防事業を推進します。また、土砂災害の防止とあわせて、すぐれた自然環境や社会的環境を持つ地域等の渓流において、自然環境との調和を図り、緑と水辺の空間等の生活環境の整備、又は、景観・親水性の向上や生態系の回復等を図り良好な渓流環境の再生や歴史的価値を有する砂防設備の活用を踏まえた周辺環境整備など、個々の渓流の特色を活かした砂防事業を展開します。さらに、山麓斜面が市街地に隣接する都市においては、山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成等を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与します。
 がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備崩壊土砂を捕捉する緩衝樹林帯整備を推進します。

(3)総合的な土砂災害
 河川環境等の面から土砂移動について配慮が必要であり、山地部から海岸までの土砂の運動領域を「流砂系」という概念で捉え、ダム堆砂の進行、河床低下、海岸侵食等の土砂管理上の問題が顕在化している流砂系において、砂防、ダム、河川、海岸の各領域が連携を図り、土砂の量と質に関するモニタリング等の取組を実施します。

4 海岸・港湾・海洋

(1)港湾及び漁港・漁場における環境の整備
 漁港漁場整備長期計画に基づき、昭和50年代初頭の沿岸域の漁場環境に回復させることを目標として、重要な漁場であるとともに資源生産の場としての機能や水質の浄化等のさまざまな機能を有している藻場・干潟を保全・創造し海洋の環境を改善するため、漁港区域内の水域における汚泥・ヘドロの除去・覆砂等を行う水域環境保全対策等を推進するほか、藻場・干潟の造成、底質改善等を「水産基盤整備事業」にて実施します。また、磯焼け海域における藻場や機能の低下した干潟の生産力回復のモデル事業を実施します。海水交換機能を有する防波堤、水産動植物の生息、繁殖が可能な防波堤等の整備並びに砂浜の再生に資する漁港の整備など、自然調和・活用型の漁港漁場づくりを積極的に展開します。また、漁港及び周辺水域の水質浄化に資する漁業集落排水施設の整備の促進を図るとともに、水産資源の回復に資する漁港施設整備について調査を行います。
 漁場環境の改善、水産資源の持続的利用に係る技術開発として、閉鎖性汽水域の底質・水質改善技術、海洋深層水の活用による海域の肥沃化技術、二枚貝資源の増殖支援技術等の開発を行い、実海域等における適合可能性や効果等を検証する実証事業を行います。
 自然環境と調和し、アメニティ豊かな環境と共生する港湾(エコポート)の実現を促進し、自然再生型公共事業として、港湾整備事業から発生する良質土砂等を活用して、多様な生物の生息地である干潟・藻場等の保全・再生・創出を計画的に行います。また、廃棄物処分場跡地等を活用し、臨海部において大規模な緑地の整備を行います。自然砂浜の再生等を行うことにより、良質な水辺・沿岸環境を整備するなど、より幅広くかつ効果的な取組を推進します。これらの実施に当たっては、アダプティブマネジメント(順応的管理手法)を積極的に導入しつつ、事業の計画づくりから維持管理までのさまざまな段階において、地域住民や民間団体等の多様な主体の参画を図るとともに、国土技術政策総合研究所、(独)港湾空港技術研究所等による世界最大規模の干潟実験施設の観測や現存干潟の現地調査等を通じて干潟や生態系の研究と連携して行います。
 平成13年12月に都市再生プロジェクトとして決定された「臨海部における緑の拠点の形成」については、自然と共生する社会の実現に向けた自然再生型公共事業の一環として、大阪湾尼崎臨海部、同堺臨港部において大規模緑地を整備し、東京港中央防波堤内側においては大規模緑地整備の実施に向けて検討を行います。また、親水性に富む港湾緑地等の整備を引き続き行うとともに、歴史的港湾施設の保存活用と周辺の環境整備を一体的に進める「歴史的港湾環境創造事業」及び良好な港湾景観の形成を促進する「港湾景観形成モデル事業」を実施します。マリーナ、ボートパーク等を整備し、地域でさまざまな問題を発生させている放置艇の解消を進めるとともに、地方公共団体や民間団体等と連携し、マリーナを拠点とした環境教育活動等の取組を推進します。

(2)海岸における環境の整備
 砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上もすぐれた人と海の自然のふれあいの場を整備する「海岸環境整備事業」を実施します。


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