第3節 社会経済のグリーン化の推進に向けた取組


1 経済的措置

(1)経済的助成
 ア 政府関係機関等の助成
 政府関係機関等による環境保全事業の助成については、表7-3-1のとおりでした。


表7-3-1 政府関係機関等による環境保全事業の助成


 イ 税制上の措置等
 平成16年度税制改正において、自動車税のグリーン化及び低燃費車に係る自動車取得税の特例措置については、より排出ガス性能及び燃費性能に優れた自動車に軽減対象を重点化するとともに適用期限を延長、廃棄物処理法に規定する広域的処理に係る環境大臣の認定を受けた者の事業の用に供する施設に係る事業所税の資産割の課税標準の特例措置の新設、新たな狩猟税の創設などが講じられました。

(2)経済的負担
 ア 基本的考え方
 環境への負荷の低減を図るために経済的負担を課す措置については、その具体的措置について判断するため、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制、廃棄物の抑制などその適用分野に応じ、これを講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響及び諸外国の活用事例等につき、調査・研究を進めました。諸外国の温暖化に関する税制の概要について、中央環境審議会資料をもとに整理したものは表7-3-2のとおりです。


表7-3-2 諸外国の温暖化対策税の概要


 イ 具体的な取組事例
 平成16年度においては、経済的措置の検討が深められた事例として以下のようなものがあります。
 (ア)政府における環境関連税の検討状況
 環境省は、平成16年8月末に、環境税の創設要望を提出し、同年11月5日に、環境税の具体案を公表しました。
 これを受けて、税制改正論議において活発な議論が行われ、政府税制調査会では、平成16年11月の「平成17年度の税制改革に関する答申」において、「いわゆる環境税導入の是非については、国・地方の温暖化対策全体の中での具体的な位置付けを踏まえて検討せねばならない。現時点では、他の政策手段との関連において、環境税の位置付けは必ずしも明らかでない。来年3月までに行われる「地球温暖化対策推進大綱」(平成14年3月)の見直し作業を通じ、京都議定書の目標達成を念頭に、環境税の果たすべき役割が具体的かつ定量的に検討されることが必要である。環境税の役割としては、本来、価格インセンティブを通じた排出抑制効果を重視すべきであろう。他方、追加的な温暖化対策の財源確保により重点をおいて環境税を活用することについては、既存の温暖化対策予算との関係、税収の使途を特定することの是非を慎重に検討する必要がある。環境税は、国民に広く負担を求めることになるため、その導入を検討する際には、国民の理解と協力が不可欠である。国民経済や産業の国際競争力に与える影響、既存のエネルギー関係諸税との関係、その他税制全体の中での位置付けなど、多岐にわたる検討課題がある。今後、温暖化対策全体の議論の進展を踏まえ、環境税に関する多くの論点をできる限り早急に検討せねばならない。」と答申しました。
 平成15年12月に設置された中央環境審議会施策総合企画小委員会は、温暖化対策税制とそれに関連する施策について、16年8月に中間取りまとめを公表し、「温暖化対策税制は有力な追加的施策である」としました。また、16年12月27日には、これまでの議論を整理した「温暖化対策税制とこれに関連する施策に関する論点についての取りまとめ」を公表しました。
 さらに平成17年3月11日には、中央環境審議会は、「地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しを踏まえた新たな地球温暖化対策の方向性について(第2次答申)」を答申しました。京都議定書の目標達成のためには、対策を導入するインセンティブを付与する経済的手法を重視すべきであり、とりわけ環境税は、その価格インセンティブ効果により省エネ機器の導入等を促すほか、幅広く国民に対しライフスタイルやワークスタイルの変革を促す強いメッセージとなるもの、とされました。さらに、京都議定書の目標を達成するために必要な対策の実行を確保するためには、追加的財源を安定的に確保する仕組みが必要であり、その仕組みとしては、二酸化炭素の排出又は化石燃料の消費に対して負担を求める税財源が適当であるとされました。とりわけ、排出量・消費量に応じて公平に負担を求める環境税は早急に検討する必要がある、とされました。
 また、平成17年3月14日に、産業構造審議会環境部会地球環境小委員会は、「今後の地球温暖化対策について京都議定書目標達成計画の策定に向けたとりまとめ」を行いました。とりまとめでは、「化石燃料に課税することによりエネルギー起源CO2の排出量の抑制・削減を企図する、いわゆる環境税については、価格弾力性を通じて各主体の温室効果ガス排出の抑制を図ることが重要であり、京都議定書の約束達成を図る観点から、環境税を手法の1つとして検討すべきとの指摘があった。他方、環境税は、エネルギー消費の増大が著しい民生・運輸部門の対策としての効果が不明確であること、米国や中国等と厳しい競争関係にある我が国産業に対して既存のエネルギー諸税に加えて新たに税負担が増大すれば、国際競争力に悪影響を及ぼすのみならず生産の海外移転を促進し地球規模の温暖化防止に逆行する恐れがあること、温暖化対策のための予算は既存の枠組みの中で十分に確保されておりその有効活用が先決であることなどから、その導入には反対であるとの指摘もなされた。経済的手法としての環境税の取扱いに関しては、こうした意見を十分踏まえるとともに、他の手法との比較や国際的な動向、これまでの地球温暖化対策の実績と評価などを十分考慮しつつ、総合的かつ慎重に検討することが重要である」とされました。
 京都議定書目標達成計画では、環境税については、国民に広く負担を求めることになるため、関係審議会をはじめとする各方面における地球温暖化対策に係る様々な政策的手法の検討に留意しつつ、地球温暖化対策全体の中での具体的な位置付け、その効果、国民経済や産業の国際競争力に与える影響、諸外国における取組の現状などを踏まえて、国民、事業者などの理解と協力を得るように努めながら、真摯に総合的な検討を進めていくべき課題であるとされています。
 (イ)地方公共団体における環境関連税導入の動き
 地方公共団体において、環境関連税の導入の検討が進められています。
 例えば、産業廃棄物の排出量又は処分量を課税標準とする税について、これまで12の地方公共団体で条例が制定され施行されました。税収は、主に産業廃棄物の発生抑制、再生、減量、その他適正な処理に係る施策に要する費用に充てられています。
 また、高知県や岡山県など8つの県では、森林に関する税金が施行されています。例えば、高知県では、県民税均等割の額に500円を加算し、その税収を森林整備等に充てるために森林環境保全基金を条例により創設するなど、実質的に目的税の性格を持たせたものとなっています。

2 環境配慮型製品の普及等

(1)グリーン購入の推進
 国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)は、国等の各機関(国や独立行政法人等の公的機関)による環境物品等(環境への負荷の低減に資する物品又は役務)の調達の推進、情報提供の充実などにより、環境物品等への需要転換を促進することを目的としています。国等の各機関は、環境保全という公益実現に責任を有するとともに、国民経済の中で大きな購入主体であることから、率先して環境物品等の調達を進めることにより、これを呼び水として日本全体の需要を環境物品等へ転換していくことが期待されます。
 グリーン購入法の仕組みについては、図7-3-1のとおりです。国等の各機関では、基本方針に即して平成16年度の環境物品等の調達方針を定めて公表し、これに基づいて環境物品等の調達を推進しました。また、15年度の調達方針に基づき調達を実施した結果として調達実績を取りまとめ、公表しています。


図7-3-1 グリーン購入法の仕組み


 基本方針に定められた、国等の各機関が特に重点的に調達を推進すべき環境物品等の種類である特定調達品目及びその判断の基準等については、その開発・普及の状況、科学的知見の充実等に応じて適宜品目の追加・見直しを行っていくこととしています。平成16年度においても17年2月に基本方針の変更(変更後、特定調達品目は17分野201品目)について閣議決定しました。
 地方公共団体については、毎年度、環境物品等の調達方針を作成して調達を行うよう努めることが定められているところであり、平成15年度においては、ほとんどすべての都道府県、政令指定都市が調達の方針を作成してグリーン購入に取り組んでいます。その取組をさらに促すため、前記の基本方針の変更について、地方公共団体を対象とした説明会を全国10か所において開催しました。
 グリーン購入の推進のためには、各地域において行政、地元の事業者、住民等によるネットワークが組織されることが重要です。そこで、グリーン購入地域ネットワークの構築を推進するために、地方公共団体、消費者、事業者等に対し、情報提供や啓発のためのセミナーを開催しました。また、環境物品等の情報を購入者に提供するため、製造者等によるグリーン購入法の特定調達物品(基本方針の判断の基準を満たす物品)に関する情報の提供の場として「グリーン購入法特定調達物品情報提供システム」を運用し、随時更新しています。さらに、各主体のさらなるグリーン購入への取り組みを推進するため、さまざまな団体のグリーン購入に関する情報を紹介する「グリーン購入取り組み事例データベース」の運用を新たに平成16年6月から開始しました。

(2)環境ラベリング
 消費者が環境負荷の低い製品を選択する際に適切な情報を入手できるように、環境ラベルその他の手法による情報提供を進めています。日本唯一のタイプI環境ラベル(ISO14024準拠)であるエコマーク制度ではライフサイクルを考慮した指標に基づく新しい商品類型を整備しています。平成17年3月末現在、エコマーク対象商品類型数は43、認定商品数は5,007となっています。
 また、事業者の自己宣言による環境主張であるタイプII環境ラベルや民間団体が行う環境ラベル等の情報提供制度を整理、分析して提供する「環境ラベル等データベース」をインターネットのホームページ上に開設し、随時更新しています。
 さらに、購入者に対して製品やサービスの環境情報を定量的に開示するタイプIII環境ラベルであるエコリーフの普及を進めています。平成17年3月末現在のラベル公開数は、234件となっています。
 また、環境物品を国際的に流通させてグリーン購入の取組を推進するためには、各国の環境ラベル制度における基準の共通化等が必要であるため、我が国のエコマークを中心に、各国環境ラベル間の相互認証に関する調査・分析を行いました。

(3)標準化の推進
 日本の標準化機関である日本工業標準調査会(JISC)は、平成14年4月に策定した「環境JISの策定促進のアクションプログラム」を15年4月及び16年3月に改定し、環境JISの推進に取り組んでいます。
 平成16年度は、「スラグ類の化学物質試験方法」、「コンクリート用再生骨材H」等、33件のJISの制定・改正(平成14〜15年度で90件)を実施しました。

(4)ライフサイクルアセスメント(LCA)
 製品やサービスに関して、投入される資源、エネルギー量と生産される製品及び排出物のデータ収集、定量化などを行うインベントリ分析や、インベントリ分析の結果を各種環境影響カテゴリーに分類し、それを使用して環境影響の大きさと重要度を分析するインパクト評価の手法などライフサイクルアセスメントの手法を調査、研究してきました。その成果を踏まえ、商品やサービスに起因する環境負荷をライフサイクル的視点から定量化し、その結果を分かりやすく消費者に提供する「商品環境情報提供システム」を構築しました。

3 事業活動への環境配慮の組み込みの推進

(1)環境マネジメントシステム
 環境マネジメントシステムの要求事項を定めた国際規格であるISO14001が平成16年11月に改正されたのを受けて、これを翻訳した日本工業規格JISQ14001を16年12月に改正し、この情報提供等を行うとともに、中小企業への環境マネジメントシステムの普及を図るため、環境マネジメントシステム構築融資制度により、事業者のISO14001認証取得及びそれに伴う環境対策投資を支援しました。また、全国各地で講習会を開催しました。こうした結果、国内のISO14001審査登録件数は、16年度末現在で18,869件となり、世界で最も取組が進んでいます(第1部第2章図2-4-3参照)。

(2)環境パフォーマンス評価
 事業者が環境関連データを自主的積極的に収集し、環境パフォーマンス指標等の形で活用する状態を創出するには、これらのデータを収集・管理することの効用や効果を明確に示すことが必要です。このため、環境パフォーマンスを把握する範囲や企業の社会的責任(CSR)に関する指標など、新たな方向性について調査・検討を進め、報告書を取りまとめました。

(3)環境会計
 事業者による効率的かつ効果的な環境保全活動の推進に資する環境会計システムの確立に向けて、環境会計ガイドライン2002年版を国内外の調査研究の成果や最新の実務動向も反映し、平成17年2月に「環境会計ガイドライン2005年版」として改訂しました。また、企業経営に役立つ環境管理会計手法の研究を推進し、その報告書を取りまとめました。さらに、環境会計の国際動向を把握するため、国連持続可能開発部環境管理会計専門家会合(UNDSDEMA−EWG)などの国際的な議論に積極的に参画しました。

(4)環境報告書
 さまざまな規模、業種を含め幅広い事業者に環境報告書の作成と公表の取組を広げるため、「環境報告書ガイドライン(2003年度版)」と「GRIサステナビリティレポーティングガイドライン2002」との併用ガイダンスを策定しました。このほか、環境コミュニケーション大賞による表彰や環境コミュニケーションシンポジウムの開催、インターネット上に開設した環境報告書のデータベースの運用などにより、環境報告書への取組支援を行いました。
 また、国による環境配慮等の状況の公表、特定事業者による環境報告書の公表、及び民間の大企業による環境報告書等の自主的な公表、並びに環境情報の利用の促進などを主な内容とする、環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(平成16年法律第77号)が平成16年5月に成立し、17年4月の施行に向けて特定事業者の指定や環境報告書の記載事項等の策定などの整備等を進めました(図7-3-2)。


図7-3-2 環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律


(5)中小企業の取組の促進
 中小企業等においても容易に環境配慮の取組を進めることができるよう、環境マネジメントシステム、環境パフォーマンス評価及び環境報告を一つに統合した環境配慮のツールである「エコアクション21(環境活動評価プログラム)」について、平成16年4月に改訂版を公表しました。また、小規模事業者向けの支援ソフトウェアとして開発した「環境大福帳」を16年7月に公表したほか、エコアクション21や環境大福帳の普及促進を担う人材を育成するための指導者講習会を実施しました。

(6)公害防止管理制度
 工場における公害防止体制を整備するため、特定工場における公害防止組織の整備に関する法律(昭和46年法律第107号)によって一定規模の工場に公害防止に関する業務を統括する公害防止統括者、公害防止に関して必要な専門知識及び技能を有する公害防止管理者等の選任が義務付けられており、約2万の特定工場において公害防止組織の整備が図られています。
 同法に基づく公害防止管理者等の資格取得のために国家試験が、昭和46年度以降毎年実施されており、平成16年度の合格者数は5,805人、これまでの延べ合格者数は29万6,287人です。
 また、国家試験のほかに、一定の技術資格を有する者又は公害防止に関する実務経験と一定の学歴を有する者が公害防止管理者等の資格を取得するには、資格認定講習を修了する方法があり、平成16年度の修了者数は3,050人、これまでの修了者数は24万1,813人です。

4 環境に配慮した投融資の促進

 事業者の環境に配慮した事業活動を促進するためには、従来からの株式投資の尺度である企業の収益力、成長性等の判断に加え、企業が本来持つ社会的責任である法令遵守や雇用問題、人権問題などの社会・倫理面及び環境面から企業を評価・選別し、投資や融資する手法など、環境に配慮した事業者に対する投資の普及促進を図ることが重要です。このため、金融界と環境省との意見交換の場を設置し、金融機関に対する情報提供や意見交換を実施しました。また、平成16年4月から、日本政策投資銀行の投融資項目として環境配慮型経営促進事業を創設し、環境面からのスクリーニング手法を用いた低利融資を実施することにより、環境に配慮した事業活動を行う事業者を支援しました。

5 その他環境に配慮した事業活動の促進

 環境保全に資する製品やサービスを提供する環境ビジネスの振興は、環境への負荷の少ない持続可能な社会の実現を目指す上で、極めて重要な役割を果たすものであると同時に、経済の活性化、国際競争力の強化や雇用の確保を図る上でも大きな役割を果たすものです。
 環境省では、中央環境審議会において、環境と経済の好循環を、国民、事業者、行政が一体となって実現していくための、明確でわかりやすい将来像として「環境と経済の好循環ビジョン〜健やかで美しく豊かな環境先進国へ向けて〜」を答申しました。さらに、自動車業界や電力業界など、さまざまな産業界と環境大臣との懇談会を開催し、環境ビジネス振興のみならず、より幅広い観点から、環境と経済の統合に向けた基本的な考え方、具体的な施策に関する意見交換を行いました。
 企業の社会的責任という観点から環境への取組をとらえる傾向が高まっていることを受けて、持続可能な環境と経済の実現に向けた検討を実施し、環境と企業の社会的責任に関する報告書を取りまとめました。
 また、地域における企業、NPO、市民等が連携した環境に配慮したまちづくりに資する「環境コミュニティ・ビジネス」を発掘し、その展開を支援しました。

6 社会経済の主要な分野での取組

(1)物の生産・販売・消費・廃棄
 ア 全般的な取組
 容器包装廃棄物に関しては、容器包装リサイクル法が平成12年度から完全施行され、紙製容器包装、プラスチック製容器包装及び段ボールが新たに対象容器包装となりました。13年度からは、資源有効利用促進法に基づき紙製容器包装、プラスチック製容器包装について新たに識別表示が義務化されました。
 また、事業者が行う、海外でのエネルギー起源CO2の排出抑制事業、使用済み物品等の副産物の発生の抑制や再生部品の利用を新たな政策支援として追加する等の所要の改正を盛り込んだ、エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法の改正法が平成15年10月に施行されました。
 産業界では、地球温暖化問題への主体的取組として、(社)日本経済団体連合会は、平成9年6月に経済団体連合会環境自主行動計画を策定しました。本計画は、2010年(平成22年)の二酸化炭素排出量を1990年(平成2年)比±0%以下に抑制することを目標としており、また、各業種においても定量的な目標を設定した環境自主行動計画を策定しています。このような事業者による自主行動計画はこれまで成果を上げてきており、政府は、これらの取組の透明性・信頼性及び目標達成の蓋然性が向上するよう、関係審議会等によりその進捗状況を点検しています。また、行動計画を策定していない業種に対し、数値目標などの具体的な行動計画の早期の策定と公表を促すこととしています。
 イ 農林水産業に関する環境保全施策
 環境保全型の農業の一層の推進を図るため、たい肥等による土づくりを基本として化学肥料・農薬の使用の低減を一体的に行う「持続性の高い農業生産方式」の導入を推進し、導入を図ろうとする農業者に対する金融・税制上の特例措置を引き続き講じました。また、面的なまとまりを持った先導的な環境保全対策実践地区の創出及び環境保全型農業技術体系の確立や緑肥作物を組み込んだ輪作体系による環境負荷低減等の実証を支援するとともに、たい肥の施用等に必要な機械・施設等の整備、ほ場レベルにおける炭素収支や脱窒の測定手法の確立等を推進しました。さらに、環境と調和のとれた農業生産活動を促進するため、農業者が環境保全に向けて最低限取り組むべき「環境と調和のとれた農業生産活動規範」を策定しました。また、家畜排せつ物法が平成16年11月に本格施行され、環境への影響の大きい野積みや素掘りを解消するとともにその利活用を促進するため、たい肥化施設等の処理施設の整備等に取り組みました。また、未利用有機性資源等の循環利用・広域流通及び都市近郊から発生する生ごみ等の都市農業における活用の促進を図るため、都道府県におけるマスタープランの策定支援、生ごみの分別収集の啓発、たい肥化施設の整備等を行いました。さらに、生産基盤等の総合的整備の際に周辺環境基盤の造成整備を進めました。
 林業においては、持続可能な森林経営及び地球温暖化対策の推進を図るため、造林、保育、間伐等の森林整備を推進するとともに、計画的な保安林の指定の推進及び治山事業等による機能が低下した保安林の保全対策、多様な森林づくりのための適正な維持管理、二酸化炭素の貯蔵庫となるなどの特徴を有する木材利用の促進に引き続き努めています。
 水産業においては、持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)に基づき、漁協等による養殖漁場の環境保全のための措置を講じました。また、つくり育てる漁業を推進するため、沿岸域の藻場・干潟の造成、底質改善等を実施しました。また、遺伝的多様性の確保、生態系への影響等に配慮しつつ、種苗の生産、放流等を実施し、養殖漁場の環境指標の設定を実施するとともに、内水面、海面における養殖業については、養殖業由来の環境負荷を低減するための実用的技術の開発を行いました。一方、漁協等による「資源管理型漁業」を一層推進することにより、各地域の多種多様な漁業実態に即した水産資源の適切な保存・管理と持続的な利用を図るための事業を実施しました。
 ウ 製造業・流通等に関する環境保全施策
 製造業・流通等においては、適切な環境対策指導を行うほか、省資源・再資源化推進のための環境整備事業を行いました。また、中小企業の公害対策について、実態を把握するとともに、中小企業自身の研究開発を支援しています。
 食品産業においては、生産段階では、環境に係る情報の提供、産業廃棄物管理票制度の普及推進を行いました。流通段階では、飲食店等の食品廃棄物から製造される肥飼料等の特性と効果的利用法を把握するための検討を行いました。また、容器包装リサイクル対策を行うとともに、食品リサイクル法の普及啓発、先進的な食品リサイクルシステムの構築及び食品リサイクル施設の導入を図りました。

(2)エネルギーの供給と消費
 環境への負荷の少ないエネルギー供給構造の形成、汚染物質排出等に係る規制的措置を適切に実施するとともに、エネルギー消費効率向上に向けた取組を進めました。
 環境への負荷の少ないエネルギー供給構造を形成するため、発電部門、都市ガス製造部門等のエネルギー転換事業部門におけるエネルギー効率の向上や、環境への負荷の少ない新エネルギーの導入拡大を積極的に進めました。具体的には、燃料電池・太陽光等の新エネルギーの低コスト化・高効率化のための技術開発・実証試験や、事業者や地方公共団体等が新エネルギー設備を設置する際の補助を通じた導入促進等の支援措置を実施しました。また、海水・河川水・下水・ごみ焼却廃熱等の未利用エネルギーやコージェネレーション排熱を活用する熱供給システムの建設に対する支援等により、未利用エネルギー等の活用を進めました。さらに、平成15年4月に電気事業者に一定割合以上の新エネルギー等を利用して得られる電気の利用を義務付ける、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(平成14年法律第62号。以下「RPS法」という。)が完全施行されました。施行後1年目の15年度は、各電気事業者の義務履行が達成されました。電力分野における新エネルギーの導入拡大に努めました。
 原子力については、供給安定性等エネルギー政策の観点のみならず、発電過程で二酸化炭素を排出することがなく、地球温暖化対策に資することから、エネルギー基本計画においても、安全の確保を大前提に、国民の理解を得つつ、核燃料サイクルを含め、原子力発電を基幹電源として推進することとしています。平成16年度においては、原子力立地の推進の観点から施設と地域の末長い共生を実現するため、15年度に拡充した電源立地地域対策交付金の柔軟な運用を行いました。また、原子力発電及び核燃料サイクルについては、所要の技術の開発等を進めるとともに、特にバックエンド事業について、エネルギー基本計画等に基づき、経済的措置等の具体的な制度・措置のあり方について検討を行い、使用済核燃料再処理準備金制度の改組を行いました。
 また、さらなる二酸化炭素排出量削減のため、石炭等を燃料とする産業用ボイラー等における天然ガスへの燃料転換等を支援しました。
 省エネルギー対策については、トップランナー基準の対象機器の拡大(平成16年10月にガス調理機器のグリル部及びオーブン部並びに暖房機能を有するガス温水機器を追加)を実施しました。また、高効率給湯器の導入補助事業の実施、包括的な省エネルギーサービスを提供するESCO事業の普及促進、複数の主体間の連携によるエネルギーの有効活用の推進等を実施しました。
 総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油製品品質小委員会の答申(平成15年8月)を踏まえ、サルファーフリー(硫黄分10ppm以下)ガソリン・軽油の早期普及を促すため、当該燃料を規制(軽油は平成19年から、ガソリンは20年から強制規格化の予定)に先駆けて供給する事業者に対する支援措置を実施しました。
 エネルギー・環境を取りまく国内外の構造変化を踏まえ、平成15年12月から総合資源エネルギー調査会需給部会において、2030年(平成42年)を見通した長期エネルギー需給見通しについて審議し、16年10月に中間取りまとめを行いました。
 さらに、エネルギー等の特別会計のグリーン化が一層促進され、新エネルギー対策、省エネルギー対策、京都メカニズムの活用等の取組が強化されました。

(3)運輸・交通
 運輸・交通分野における環境保全対策については、自動車1台ごとの排出ガス・騒音規制の強化を着実に実施しました。また、自動車NOx・PM法に基づく自動車使用の合理化等の指導を進めるとともに、冬季における高濃度の大気汚染に対応するため、入出荷貨物車台数の抑制等を内容とする「季節大気汚染対策」を実施しました。さらに、12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施しました。
 ア 低公害車の導入等
 国等の各機関では、グリーン購入法に基づき低公害車の優先的な調達を推進しているところですが、特に政府の一般公用車については平成13年に内閣総理大臣から、原則として14年度以降3年を目途にすべて低公害車に切り替えることの指示があったことから、積極的な取組を進め、政府のすべての一般公用車について16年度末までに低公害車に切り替えられました。
 次世代低公害車の技術開発としては、低公害性の抜本的な改良を目指すジメチルエーテル自動車、次世代ハイブリッド自動車、及び大型CNG自動車の開発・試作を実施するとともに、予混合圧縮燃焼エンジン技術、革新的後処理システム技術等の基礎開発構築を促進し、従来の大型ディーゼルエンジンよりも排出ガスを大幅に低減したスーパークリーンディーゼルエンジンを開発・試作しました。また、燃料電池自動車について、燃料電池自動車を大量生産するために必要な型式指定等の取得が可能となるよう世界に先駆けて安全・環境に係る基準を整備しました。さらに、自動車税のグリーン化や新長期規制適合車に対する自動車取得税の軽減措置等の税制上の特例措置を講じ、低公害車のさらなる普及促進を図りました。
 また、日本全国をアイドリングストップ機能付き自動車で横断し、信号待ちや渋滞時におけるアイドリングストップの著しい省エネ効果を確認するとともに、各地におけるシンポジウムや試乗会開催のほか、交通の方法に関する教則により、アイドリングストップの普及啓発を図りました。
 イ 交通管理
 道路交通公害の防止に資する以下の対策を講じました。
1) 新交通管理システム(UTMS)の一環として、交通管制システムの高度化等により、交差点における発進・停止回数を減少させるとともに、光ビーコン等を通じて交通渋滞、旅行時間等の交通情報を迅速かつ的確に提供しました。また、交通公害低減システム(EPMS)を神奈川県、静岡県、兵庫県において運用しました。さらに、3メディア対応型道路交通情報通信システム(VICS)車載機の導入・普及等を積極的に推進しました。
2) 都市部を中心に、各種交通規制を効果的に実施することにより、その環境の改善に努めました。具体的には、大型車を道路の中央寄りに走行させるための通行区分の指定を行うとともに、大量公共輸送機関の利用を促進し、自動車交通総量を抑制するため、バス優先・専用通行帯の指定、公共車両優先システム(PTPS)の整備等を推進しました。
3) 都市における円滑な交通流を阻害している違法駐車を防止し、排除するため、駐車規制の見直し、悪質・危険性・迷惑性の高い駐車違反に重点を置いた取締り、違法駐車抑止システム、駐車誘導システム等の運用、違法駐車防止条例の制定の働きかけ等のハード・ソフト一体となった駐車対策を推進しました。
4) 大気汚染・騒音・振動等の原因ともなっている過積載運転に対しては、荷主等の背後責任追及を積極的に実施するなど、取締りを一層強化しました。
5) 道路交通情報通信システム(VICS)の推進や交通安全施設の整備等による交通流対策及び公共車両優先システム(PTPS)等の整備による公共交通機関の利用促進により、交通渋滞の緩和を図り、自動車からの人工排熱の低減を目指したヒートアイランド対策に努めました。
 ウ 物流の効率化
 物流の効率化を図り、環境負荷の少ない物流体系を形成するため、平成13年7月に策定された「新総合物流施策大綱」においても、地球温暖化問題や大気汚染等の環境問題への対応が重要な課題とされています。
 環境負荷が小さく効率的な物流体系を構築するため、荷主・物流事業者等の関係者が協力して環境負荷低減策に取り組む場合に一定の効果が認められる実証実験について補助金を交付しました。
 また、静脈物流システムの構築を図るための調査検討を実施しました。
 エ 公共交通機関利用の促進
 自家用自動車に比べ環境負荷の少ないバス・鉄道などの公共交通機関利用への転換を促進するため、軌道改良・曲線改良等の幹線鉄道の高速化等を行う一方、三大都市圏における都市鉄道新線の整備、複々線化等の輸送力増強による混雑緩和や、速達性を向上させるとともに、空港アクセス鉄道整備による都市の競争力向上を図っています。また、貨物線の旅客線化、駅施設や線路施設の改良などの既存ストックの高度利用を推進するとともに、乗継円滑化等に対する支援措置を講じることによる利用者利便の向上に加え、交通事業者が行う先進的な「広域的な公共交通利用転換に関する実証実験」等に対する支援を通じて、ICカードの導入等情報化の推進、乗り継ぎ改善やシームレスな公共交通の実現等によるサービス・利便性の向上による利用促進に努めています。
 また、通勤交通マネジメントや低公害車等によるカーシェアリングの実施等、事業者による主体的な取組を推進するため、平成17年3月に「公共交通利用推進等マネジメント協議会」を立ち上げました。

(4)情報通信の活用
 テレワークSOHO、テレビ会議、高度道路交通システム(ITS)、電子商取引などさまざまな情報通信システムが普及することにより、交通の代替、交通流の円滑化、生産・流通の効率化やペーパーレス化などを通じて大きな環境負荷の低減効果が期待できます。
 テレワーク・SOHOの普及を図るため、総務省において次のような施策を講じました。
1) 「テレワークセキュリティガイドライン」の公表
 企業による情報セキュリティ水準の高いテレワーク環境の導入を支援するため、「テレワークセキュリティガイドライン」を公表しました。(http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041227_10.html

2) 国家公務員のテレワークの試行の実施
 職員6人が自宅のパソコンからブロードバンド回線及びVPNにより本省LANへ接続し、職場と変わらない環境で業務を実施しました。
 また、国土交通省では、企業や地域へテレワークを普及する観点からテレワーク推進上の課題把握、必要な支援方策の検討、推進方策の取りまとめ等を行いました。

(5)戦略的環境アセスメント
 平成12年12月に閣議決定された環境基本計画において、上位計画や政策における環境配慮のあり方について、現状での課題を整理した上で、内容、手法などの具体的な検討を行うとともに、国や地方公共団体における取組の実例を積み重ね、その有効性、実効性の検証を行い、それを踏まえてガイドラインの作成を図ることが定められています。
 これを踏まえ、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)や政策における環境配慮の具体的なあり方についての内容、手法等の検討を進めました。


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