第6章 自然環境の保全と自然とのふれあいの推進


第1節 自然環境等の現状


1 自然環境の現状

 ここでは自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)(以下「基礎調査」という。)の最近の調査結果を中心に国土の自然環境を概観します。

(1)哺乳類分布調査について
 基礎調査は、全国的な観点から自然環境の現状を的確に把握すること等を目的に昭和48年から開始しています。第6回基礎調査(平成11〜16年度)においては、全国的な中大型哺乳類の生息状況の変化を調査しました。この調査は、ニホンジカ、ニホンザル、ツキノワグマ・ヒグマ等の8種を対象に行いました。5kmメッシュ(5km×5km)を一区画として全国分布メッシュを作成し、都道府県ごとに対象とする種が生息するかどうか、野生生物の生息状況に詳しい調査員の目撃情報等を集計し、さらに現地調査や既存文献で情報を補足し、全国分布メッシュ図として集計しました。さらに、第2回基礎調査(昭和53年)の結果と比較し、約20年前との全国的な分布状況の変化を把握しました。

(2)調査結果について
 ツキノワグマは、絶滅したとされている九州を除き、本州、四国の山地に生息する種で、今回の調査では、東北地方では、生息区画率が増えていますが、中国、四国地方では一部にしか分布しておらず、下北半島、西中国、紀伊半島、四国の地域個体群は、分布域が孤立しています。ヒグマは、北海道に生息する種で、前回調査と比較すると、生息区画率は増加しました。
 調査を行った種については、全国的に分布域が拡大する傾向にある一方で、ツキノワグマやニホンザルについては、西中国などの地域個体群の分布域の孤立が見られ、今後ともその動向に注意する必要があります(表6-1-1図6-1-1)。



表6-1-1 自然環境保全基礎調査


図6-1-1 哺乳類全国分布メッシュ比較図(ヒグマ・ツキノワグマ)


(3)中大型哺乳類の分布が拡大した要因
 中大型哺乳類の主たる生息地である山地から平野部までの地域は、過去20年間で全国的に、集落人口の減少・高齢化と、これに伴う耕作地の放棄や集落の活動域の縮小が進んでいると言われており、放棄された耕作地は、中大型哺乳類に好適な環境を作り出していると考えることができます。全国を自然林、二次林、植林地、農耕地、市街地などに区分した植生調査(基礎調査)と今回調査の結果を重ね合わせると、サル、ツキノワグマ、イノシシなどいずれの種も、特に農耕地・樹園地や、植林地・二次林として区分された地域において、分布が拡大しているということからも、この傾向を読み取ることができます。また、東北地方などの多雪地帯においては、近年、積雪量が減少しており、こうした社会的・気象的要因が重なり、分布域の拡大につながっているものと考えられます。

2 野生生物種の現状

(1)絶滅の危機にさらされている野生動植物
 絶滅のおそれのある野生生物の種を「哺乳類」「鳥類」等の分類群ごとに取りまとめたレッドリストでは、種の絶滅の危機の高い順に「絶滅危惧IA類」、「絶滅危惧IB類」、「絶滅危惧II類」、「準絶滅危惧」のカテゴリーに分類しています(表6-1-2)。日本に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類、維管束植物の2割強、爬虫類の2割弱、鳥類の1割強に当たる種が、絶滅のおそれのある種に分類されています。


表6-1-2 わが国における絶滅のおそれある野生生物の種類(レッドデータブック・レッドリスト掲載種数表)


(2)鳥獣の保護管理
 西中国山地のツキノワグマ等のように生息域の分断などにより地域的に絶滅のおそれがある鳥獣や、ニホンジカなどのように地域的に増加又は分布域を拡大して、農林業被害や自然生態系のかく乱など人とのあつれきをおこしている鳥獣もいます。

(3)水産資源
 水産物の海面漁業生産量は平成元年以降減少傾向で推移しています。水産資源が減少した原因としては、水温等の海洋環境の影響に加え、藻場・干潟の埋立て等の沿岸域の開発や漁獲能力の向上等が大きく関与していると考えられます。

3 自然環境保全調査の推進

(1)自然環境保全基礎調査
 第6回基礎調査では、新たに種の多様性調査、植生調査、生態系多様性調査(浅海域生態系調査)等に取り組み、最終年度の平成16年度は、種の多様性調査のうち哺乳類生息分布調査、鳥類生息分布調査を取りまとめました。なお、従来は植生原図の作成に縮尺5万分の1の地形図を用いていましたが、第6回基礎調査からは新たに縮尺2万5千分の1の地形図を用いた作成を始め、16年度末時点で全国の約3割の作成が終了しています。(表6-1-3


表6-1-3 関係府省が実施する生物調査


 また、沿岸域の生物相を把握するため、「生態系多様性調査(浅海域生態系調査)」で全国の干潟及び藻場の調査を実施しており、調査結果は順次ホームページで公開しています(干潟調査http://www.higata-r.jp/、藻場調査http://www.moba-r.jp/)。また、砂浜を中心とする海浜部の生物の生息・生育状況の実態の把握と生息・生育基盤環境に関する情報取得のためには「海辺の生物国勢調査」を平成15年度から実施しています。

(2)モニタリングサイト1000
 全国の自然環境の変化を把握するため、基礎調査に加え、全国の生態系を長期的にモニタリングする「モニタリングサイト1000」という調査について、平成15年度から5年間の予定で調査箇所の設定と調査を開始しました。調査サイトは、森林、里地、湖沼、湿地、河川、海岸のさまざまな生態系を網羅するように1000か所程度を目安に配置していきます。16年度は、生態系のタイプごとに調査項目を設定して試行調査を始めました。

(3)自然環境調査における各省庁連携
 各事業法において環境への配慮等が規定されるにつれ、各省庁が実施する生物調査についても充実しつつあり、表6-1-3に示すように、各省庁の調査を加えると調査箇所数が数千を超えるものもあります。しかし、調査データについての連携はとられておらず、調査データの相互利用の検討等を行う枠組みの整備が必要です。このため、平成15年度に設置された環境省自然環境局、農林水産省農村振興局、林野庁森林整備部、国土交通省河川局、同港湾局からなるワーキンググループを引き続き開催しました。各省庁の生物調査データはGIS情報として使用可能なことを基本としており、16年度はGISデータとして相互に利用可能かどうかを検証するため、岡山県南部を対象に試行的に関係省庁のデータの整理を進めました。



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