第5節 国内における毒ガス弾等に対する取組


 平成14年9月以降、神奈川県寒川町、平塚市において、道路建設現場等において作業員が割れたビンから流出した毒ガス等により被災する事故等が起きました。また、15年3月には茨城県神栖町において、住民から手足のしびれ、ふるえ等の訴えがあり、飲用井戸の水質を検査した結果、旧軍の毒ガス由来の可能性がある有機ヒ素化合物(ジフェニルアルシン酸等)が検出されました。これらの問題を契機として、国内における毒ガス弾等による問題に対応するため、政府が一体となって毒ガス弾等に対する以下のような取組を進めています。

1 全国調査

 平成15年6月の閣議了解に基づき、国内における旧軍毒ガス弾等による被害の未然防止を図るための基礎資料を得ることを目的に、関係省庁及び都道府県等の協力のもと、昭和48年の「旧軍毒ガス弾等の全国調査」のフォローアップ調査(以下、「フォローアップ調査」という。)を実施し、その結果を調査報告書として取りまとめ、平成15年11月に公表しました。
 収集した情報は、保有・廃棄・発見・被災及び掃海等状況に応じて整理し、地域ごとに138事案として取りまとめました(http://www.env.go.jp/chemi/report/h15-02/)。フォローアップ調査の結果、新たに判明した切迫した事案はありませんでした。しかし、情報の確実性が高く、かつ、地域が特定されている「A事案」が神奈川県寒川町と平塚市、茨城県神栖町、千葉県習志野(習志野市及び船橋市)の4事案あり、さらに、情報の確実性が不十分であり、引き続き積極的な情報収集が必要な「B事案」「C事案」が37事案ありました(図5-5-1)。


図5-5-1 旧日本軍の毒ガス弾等に係わる情報の全国分布


2 閣議決定

 平成15年12月に、フォローアップ調査の結果を受けて、政府としての対応方針を「国内における毒ガス弾等に関する今後の対応方針について」として閣議決定しました。これを受け、内閣官房に「国内における毒ガス弾等に関する関係省庁連絡会議」を設置し、関係省庁間の緊密な連携により円滑な施策の実施を図る体制を整えました。この体制のもと、環境省等の関係省庁が連携して関係地方公共団体の協力の下、各事案の分類ごとに対応を実施してきました。
 さらに、同閣議決定に基づき、毒ガス弾等に関する情報を一元的に扱うセンターを同年12月に環境省に設置しました。この情報センターでは、毒ガス弾等に関する情報を受け付ける窓口としての役割を果たすとともに、自ら情報収集を行い、集めた情報を整理し、ホームページやパンフレット(http://www.env.go.jp/chemi/gas_inform/pamph/)等を通じて適切な周知・広報等を行っています。

3 個別地域における事案

(1)茨城県神栖町
 茨城県神栖町において、旧軍の毒ガス由来の可能性がある有機ヒ素化合物による環境汚染と健康影響が生じていることを受け、平成15年6月に「茨城県神栖町における有機ヒ素化合物汚染等への緊急対応策について」が閣議了解されました。
 この閣議了解に基づき、環境省では、神栖町においてジフェニルアルシン酸に暴露したと認められる人たちに対して、健康診査を行うとともに、医療費及び療養に要する費用を支給し治療を促すことなどによって、発症のメカニズム、治療法等を含めた症候や病態の解明を図るための緊急措置事業を実施しています。
 また、有機ヒ素化合物汚染が生じた原因を解明するため、汚染メカニズム解明調査を実施しています。健康影響の発生した井戸から南東90mの地点で掘削調査を行ったところ、平成17年1月に深さ2mの地点から高濃度のジフェニルアルシン酸を含有する巨大なコンクリート様の塊を発見しました。現在、揚水調査等を踏まえた地下水の流動の解析を行い、この塊と健康影響の発生した井戸との関係など、汚染メカニズムの解明に向けた調査を行っています。

(2)神奈川県寒川町・平塚市、千葉県習志野
 寒川、平塚で発生した発見事案への対応は、国土交通省が行い、発掘された毒ガス等も処理されました。環境省では、毒ガス等による被害を未然に防止するために、平成16年1月から毒ガスが発見された地域周辺の裸地(舗装等されていない土地)について環境調査を実施しました。平塚においては、対象地域(旧相模海軍工廠化学実験部跡地)周辺に存在する井戸200か所程度の井戸水を調査し、その結果、9か所からジフェニルアルシン酸及びその関連物質が検出されました。他の事案では、分析したすべての地下水・環境大気・土壌・表層ガスから毒ガス成分は検出されませんでした。

(3)その他の事案
 フォローアップ調査において、毒ガス弾等の存在に関する情報の確実性が不十分であったり地域が特定されていないとされた事案については、閣議決定に基づき、環境省が積極的な情報収集を行うとともに、必要に応じて地下水等の環境調査を行うこととされています。そこで、フォローアップ調査において「B事案」及び「C事案」に分類された事案及び新規の事案について、さらなる情報収集及び地下水調査を行い、その結果を踏まえ、平成17年3月に評価を行ったところです。その結果、切迫した危険性があり緊急対応が必要な事案は、存在しませんでしたが、特に現段階での切迫した危険性はないものの、念のため、日常生活上の安全性の確認をするために、土壌等の環境調査が必要とされた事案が10事案ありました。これらの対応が必要とされた各事案については、今後、専門家の助言を得ながら、土壌等の環境調査など具体的な対応を実施していくこととしています。

前ページ目次 次ページ