第3節 環境リスクの低減及びリスクコミュニケーションの推進


1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 化学物質審査規制法は、新たな工業用化学物質(新規化学物質)の有害性を事前に審査するとともに、化学物質の有害性の程度に応じて製造・輸入などについて必要な規制等を行うものです。
 平成15年5月の改正により、環境中の動植物への被害の防止が法律の目的に加えられ、分解性、蓄積性、人への長期毒性に加えて、新たに動植物への毒性も考慮した審査・規制が行われることとなりました。また、1)難分解・高蓄積性の既存化学物質に関する規制(第一種監視化学物質の制度)、2)環境中への放出可能性に着目した審査の特例(低生産量新規化学物質(難分解性ではあるが高蓄積性でなく製造・輸入数量が年間10t以下である化学物質)や中間物(他の化学物質の原料として使用され、全量が他の化学物質に変化する化学物質)等の特例)、3)事業者が入手した有害性情報の報告の義務付けの制度も導入されました。この改正法は16年4月に施行されました。
 平成16年度は、新規化学物質の製造・輸入について431件(うち低生産量新規化学物質については194件)の製造・輸入の届出があり、審査を行いました。
 また、昭和49年の化学物質審査規制法公布時に製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)等の安全性点検を行っており、そのうち平成16年度には分解性・蓄積性に関する試験を45物質、人への健康影響に関する試験を35物質、生態影響に関する試験は42物質に対して行いました。
 こうした事前審査等を通じて、平成17年3月末までに、第一種特定化学物質としてPCB等13物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質、第一種監視化学物質として酸化水銀(II)等22物質、第二種監視化学物質としてクロロホルム等842物質を指定し、製造・輸入等について必要な規制を行っています(図5-3-1)。


図5-3-1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の概要


2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 OECDによる加盟国に対するPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)の導入の勧告等を踏まえ、事業者による化学物質の自主的な管理を促すため、PRTR制度とMSDS(化学物質等安全データシート)制度を二つの大きな柱とする、化学物質排出把握管理促進法が平成11年7月に公布されました(図5-3-2)。


図5-3-2 PRTR制度の実施手順


 平成16年度には、同法施行後の第3回目の届出として、15年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。平成16年度の届出から対象となる事業所の年間取扱量の要件が「5t以上」から「1t以上」となり、PRTR制度の本格的な運用が開始されました。そして、17年3月に、事業所からの届出排出量等の集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計値の集計結果を、あわせて公表しました(図5-3-3図5-3-4)。公表日以降、届出された個別事業所のデータについて、国民からの開示請求を受け、そのデータの提供を行っています。



図5-3-3 届出排出量・移動量の排出先・移動先別の内訳(平成15年度分)


図5-3-4 届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量(平成15年度分)


 また、届出対象となる事業所の年間取扱量の要件が変更されたことから、パンフレットの配布やポスターの作成など、事業者への周知に一層努めたほか、届出対象外の排出源からの排出量の推計精度を向上すべく推計方法の改善を進めました。
 MSDS制度については、平成13年1月より施行され、化学物質及びそれを含有する製品を事業者間で取引する際には、化学物質を適切に取り扱うために必要な情報の提供が着実に行われるよう、パンフレットの配布等を行いました。

3 ダイオキシン類問題への取組

(1)ダイオキシン類とは
 ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)では、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に加え、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)をダイオキシン類として定義しています。
 ダイオキシン類は、生殖、脳、免疫系などに対して生じ得る影響が懸念されており、研究が進められていますが、日常の生活の中で摂取する量では、急性毒性や発がんのリスクが生じるレベルではないと考えられています。
 ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで意図せざるものとして生成されます。現在、日本での主な発生源はごみ焼却施設ですが、その他にも金属精錬などにおける熱処理工程などのさまざまな発生源があります。

(2)ダイオキシン類対策の枠組み
 ダイオキシン対策は、現在二つの枠組みに基づいて進められています。一つは平成11年3月に「ダイオキシン対策関係閣僚会議」において策定された「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)であり、もう一つは、同年7月に制定されたダイオキシン法で、12年1月から施行されました。
 基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリーの作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理及びリサイクル対策の推進を定めています。
 一方、ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物処理に関する規制、汚染状況の調査、汚染土壌に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

(3)環境への排出と人への影響
 ア 環境中の汚染状況
 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成15年度にダイオキシン法に基づく常時監視などにより、大気、水質、底質、土壌等の調査が実施されました(表5-3-1)。


表5-3-1 平成15年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)


 イ 排出インベントリー
 平成16年9月にダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)の見直しが行われました(図5-3-5)。それによると、9年の日本のダイオキシン類の年間排出量は約7,680〜8,140g-TEQ、15年は376〜404g-TEQで、9年に比べて約95%の削減がなされたと推計されており、削減目標は達成されました。


図5-3-5 ダイオキシン類の排出量の推移


 ウ 人の摂取量
 平成15年度に厚生労働省が実施した調査では、日本における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量の推計値は1.33pg-TEQ/kg/日とされています。そのほか、呼吸により空気から摂取される量が約0.020pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0088pg-TEQ/kg/日と推定され、人が一日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約1.36pg-TEQと推定されています(図5-3-6)。この水準は、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図5-3-7


図5-3-6 日本におけるダイオキシン類の一人一日摂取量(平成15年)


図5-3-7 食品からのダイオキシン類一日摂取量の経年変化


(4)ダイオキシン法の施行
 ア 特定施設の届出状況の把握
 ダイオキシン法に基づく特定施設の届出状況について、大気基準適用の特定施設については、平成15年度末現在、全国で1万3,078施設の届出があり、廃棄物焼却炉が1万2,120施設(4t/h以上の大型炉:1,087、2〜4t/hの中型炉:1,545、2t/h未満の小型炉:9,488)、産業系施設が958施設(アルミニウム合金製造施設:791、製鋼用電気炉:116等)でした。また、15年度に1,116の廃棄物焼却炉が廃止又は排出基準の適用を受けない小さな規模に構造を変更されました。
 水質基準適用の特定施設については、平成15年度末現在、全国で3,726施設の届出があり、その大部分(3,003)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設でした。
 イ 規制指導状況
 ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、平成15年度は大気基準適用施設で158件、水質基準適用施設で5件、合計163件(平成14年度117件)で、前年度に比べ増加しました。これは平成14年12月から強化された排出基準を満足できなかった特定施設が発生したためと推定されます。また、法に基づく命令が発令された件数は、大気関係42件、水質関係4件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係7,522件、水質関係466件でした。
 ウ 監視測定支援
 ダイオキシン法に基づき、都道府県等が実施する大気、水質、底質、土壌の汚染状況の常時監視に対し、助成を行いました。
 エ 土壌汚染対策
 環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに3地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定され、このうち2地域について対策計画が策定されています。この2地域について、都道府県が実施するダイオキシン類による土壌の汚染の除去等について都道府県が負担する経費を助成しました。また、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(5)その他の取組
 ア ダイオキシン類の測定における簡易測定法の導入について
 平成16年11月に中央環境審議会で取りまとめられた「ダイオキシン類の測定における簡易測定法導入のあり方について」答申を踏まえ、ダイオキシン法施行規則の改正を行い、廃棄物焼却炉から排出される排出ガス等の測定の一部に、迅速で低廉な簡易測定法である生物検定法による測定方法を用いることができることとしました。
 イ ダイオキシン類の測定における精度管理の推進
 ダイオキシン類の環境測定における的確な精度管理を推進するために定めた「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」の普及を図るために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を引き続き実施しました。
 ウ 河川等の底質対策について
 河川等の水質、底質に関しては、平成16年に、「河川、湖沼底質中のダイオキシン類簡易測定マニュアル(案)」を策定するとともに、環境基準値を超える底質を除去し、分解・無害化するための対策技術の検討に着手しました。また、港湾においては、「港湾における底質ダイオキシン類対策技術指針」(15年3月策定、同年12月改定)に基づき、ダイオキシン類により汚染された底質の除去対策を推進しています。さらに、「港湾における底質ダイオキシン類分解無害化処理技術データブック」を17年3月に策定しています。また、ダイオキシン類を高濃度に含んだしゅんせつ土砂を大量かつ安全に処理する技術に関する調査研究を実施しています。
 エ 調査研究及び技術開発の推進
 ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性や暴露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、環境中の臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。
 また、ダイオキシン類の各種環境媒体や食物を通じた暴露等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、血液中のダイオキシン類の蓄積量調査や環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。
 さらに、廃棄物の適正な焼却技術、汚染土壌浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、廃棄物焼却炉解体時の周辺環境調査、簡易測定等に関する技術開発等に取り組みました。
 オ 廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 廃棄物の減量化の目標量を踏まえ、循環型社会形成推進基本法をはじめとする廃棄物・リサイクル関連法に基づき、廃棄物等の発生抑制やリサイクル対策を推進しました。

4 農薬のリスク対策

(1)農薬の環境影響の現状
 農薬については、毒性の低い薬剤の開発が進み、毒性及び残留性の高いものは使用されなくなったことなどから、農薬による環境汚染の問題は少なくなってきています。また、農薬取締法(以下「農取法」という。)の改正により使用規制が強化されています。
 しかし、本来、農薬の使用は生理活性を有する物質を環境中に放出するものであり、今後とも、人体や環境に悪影響を及ぼすことのないよう、安全性を評価し、適正に管理していく必要があります。

(2)農薬の環境リスク対策の推進
 農薬は、農取法に基づき規制されており、農薬の登録を保留するかどうかの基準(農薬登録保留基準)等に基づいた農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬登録保留基準のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物に対する毒性及び水質汚濁に関する基準を環境大臣が定めています。平成16年度においては、水質汚濁に係る基準として6農薬(うち基準値改正1農薬を含む。累計133農薬。)について基準値を設定しました。
 平成15年3月に生態系保全を視野に入れた取組を強化するために改正した、水産動植物に対する毒性に係る農薬登録保留基準については、17年4月の円滑な施行に向け、登録申請の際に必要な試験法の整備等の体制づくりを行いました。さらに、農薬登録保留基準については、国内外の知見や国際的な動向を考慮して、その充実を図るための検討を行いました。
 特定農薬については、平成15年3月に策定した「特定防除資材(特定農薬)指定のための評価に関する指針」に基づき特定農薬指定の評価に必要なデータの作成・収集を行いました。
 さらに、農薬の環境リスク対策の推進に資するため、農薬使用基準の遵守状況の確認、農薬の各種残留実態調査、農薬の生態影響調査、内分泌かく乱作用を考慮した農薬の環境リスク管理に関する調査研究を実施しました。
 その他、POPs条約を踏まえ、過去に埋設されたPOPs廃農薬について、埋設現場の実態を踏まえた無害化処理技術の検証調査を実施するとともに、平成17年3月には、「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル」の改定を行いました。

5 リスクコミュニケーションの推進

 化学物質やその環境リスクに対する国民の不安に適切に対応するため、これらの正確な情報を市民・産業・行政等のすべての者が共有しつつ相互に意思疎通を図るというリスクコミュニケーションを推進しています。
 環境省では、情報の整備のため、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」の作成・配布や、化学物質の情報データベースのホームページでの設置などを進めており、平成16年10月には、専門的で分かりにくい化学物質の情報を分かりやすく整理し、専門家以外の方にもよく理解していただけるよう簡潔にまとめた「化学物質ファクトシート」を作成・公表しました。また、これら関連情報を掲載した「リスクコミュニケーションホームページ」(http://www.env.go.jp/chemi/communication/)を設置しています。さらに、化学物質と環境に関する学習関連資料の利用促進を図るため、同ホームページ内に「化学物質と環境に関する学習関連資料データベース」を設置しており、パソコン上で遊びながら学べる学習関連資料として、16年10月に新たに「ケミストリーカードゲーム(正式版)」を作成・公表しました。経済産業省では、事業者向けに作成・配布している「化学物質について正しく理解してもらうために」やリスクコミュニケーションのホームページにて情報の提供を行いました。
 また、対話の推進には、対話を円滑に進める人材等が必要です。環境省では、化学物質アドバイザーの育成・活用を推進するため、研修・登録・派遣を試行的に行うパイロット事業を平成14年度より着手して15年度には派遣を開始し、PRTR制度についての講演会講師等として16年度には延べ42件の派遣を行いました。このほか、環境省では、場の提供として、市民、産業、行政等の代表による情報の共有及び相互理解のための「化学物質と環境円卓会議」を16年度には4回開催しました。

6 その他の取組

(1)有害大気汚染物質対策
 有害大気汚染物質対策については、大気汚染防止法に基づき、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを指定物質に指定し、指定物質排出施設を定めるとともに、指定物質抑制基準を設定し排出抑制を図っています。さらに、有害大気汚染物質の排出抑制に係る事業者の自主管理取組を促進しています。(自主管理については第2章第6節1参照)

(2)PCB対策
 PCBについては、昭和47年から新たな製造がなくなり、さらに49年に事実上製造・輸入禁止となって以降、約30年間にわたって保管が続けられてきましたが、国はポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(平成13年法律第65号。以下「PCB特別措置法」という。)に基づき、PCB廃棄物の拠点的処理施設の整備を推進しています。また、これとは別に電力会社等の多量のPCB廃棄物を所有している事業者の中には、自社でPCB廃棄物を処理する取組もあり、PCB特別措置法に定められた平成28年7月までのすべてのPCB廃棄物の処理を目指して取り組んでいます。
 また、使用中のPCBを含む電気工作物及び保管されているPCB廃棄物の紛失・不適正処理等を未然に防止するため、事業者は電気事業法(昭和39年法律第170号)及びPCB特別措置法に基づき、保管・使用状況について届出を行うこととなっています。


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