第5節 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策


1 固定発生源対策


(1)ばい煙発生施設
 大気汚染防止法では窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん等のばい煙を発生する施設について排出規制等を行っています。平成15年度末現在におけるばい煙発生施設の総数は約214千施設で、種類別にみると、ボイラーが140千施設(65%)と最も多く、次いでディーゼル機関が30千施設(14%)です(図2-5-1)。ばい煙発生施設に対し、平成14年度には、改善命令が1件行われました。


図2-5-1 種類別のばい煙発生施設数(平成15年度末現在)


(2)窒素酸化物対策
 大気汚染防止法では、ばい煙発生施設の種類及び規模ごとに排出規制がなされており、昭和48年以降、逐次、排出基準の強化・規制対象の追加等の見直しが行われています。
 さらに、工場・事業場が集合し、施設ごとの排出規制では二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域(本章第1節3(2)参照)においては、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき工場単位で規制する総量規制が実施されています。
 平成14年度における固定発生源からの窒素酸化物総排出量は、年間423百万m3N(869千t)でした(図2-5-2)。これらの固定発生源から排出される窒素酸化物については、低NOx燃焼技術(2段燃焼法、排ガス再循環法、低NOxバーナー等)や排煙脱硝技術等による対策が講じられています。14年度末現在における排煙脱硝装置の設置基数は1,765基、処理能力は380百万m3N/hでした(図2-5-3)。



図2-5-2 平成14年度窒素酸化物排出量内訳(固定発生源)

図2-5-3 年度別排煙脱硝装置設置状況(昭和47年度〜平成14年度)


 また、大気汚染防止法で規定するばい煙発生施設に該当しない業務用小型ボイラー等の小規模燃焼機器についても、特に大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないことから、優良品推奨水準としての窒素酸化物排出濃度に係るガイドライン値を定め、これに適合する低NOx型燃焼機器の普及に努めています。

(3)粒子状物質対策
 大気汚染防止法では、固定発生源から排出される粒子状物質について、ばいじん粉じんに区別しており、粉じんはさらに一般粉じんと、特定粉じん(石綿)(本章第6節2参照)に分けられています。
 ばいじんについては、ばい煙発生施設の種類及び規模ごとに排出基準が定められており、さらに、施設が密集し、汚染の著しい地域における新増設施設には、より厳しい特別排出基準が定められています。平成14年度における固定発生源からのばいじんの年間総排出量は、61千tでした(図2-5-4)。ばいじん対策としては、適切な燃焼管理や集じん装置の設置等の対策が講じられています。


図2-5-4 平成14年度ばいじん排出量内訳(固定発生源)


 一般粉じんを発生する一般粉じん発生施設に対しては、構造、使用及び管理に関する基準が定められています。平成14年度末現在における一般粉じん発生施設の総数は約65千施設で、種類別にみると、コンベアが最も多く37千施設(58%)です(表2-5-1)。


表2-5-1 種類別一般粉じん発生施設数(平成14年度現在)


 浮遊粒子状物質(本章第1節4参照)は、工場等から排出されるばいじん、自動車から排出される粒子状物質などのほか、工場、自動車等から排出される窒素酸化物、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状物質が大気中での光化学反応等によって粒子化するものもあることから、原因物質の排出実態、二次粒子生成機構等を盛り込んだ大気汚染予測モデル等を通じて、環境基準の達成に向けた総合的対策について検討しています。
 特に工場から排出されるVOCについては平成16年5月からの大気汚染防止法改正により、排出口における濃度規制が行われています(本章第4節2参照)。

(4)硫黄酸化物対策
 硫黄酸化物については、大気汚染防止法において、K値規制による施設単位の排出規制に加え、国が指定する24地域において、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき、工場単位の総量規制が実施されています。
 平成14年度における、固定発生源からの硫黄酸化物の年間総排出量は、208百万m3N(596千t)でした(図2-5-5)。これら固定発生源から排出される硫黄酸化物については、重油の脱硫や排煙脱硫装置の設置等の対策が講じられており、14年度末現在における排煙脱硫装置の設置基数は2,077基、総処理能力は209百万m3N/hです(図2-5-6)。



図2-5-5 平成14年度硫黄酸化物排出量内訳(固定発生源)

図2-5-6 年度別排煙脱硫装置設置状況(昭和45年度〜平成14年度)


2 移動発生源対策


(1)自動車排出ガス対策
 大都市地域では、自動車保有台数の増加に伴う走行量の大幅な伸びなどにより、自動車排出ガスに起因する二酸化窒素、浮遊粒子状物質等による大気汚染は依然として厳しい状況であり、自動車排出ガス対策が求められています。
 ア 自動車単体対策と燃料対策
 新車の排出ガスについては、昭和48年以降、大気汚染防止法に基づく規制を逐次強化し、自動車からの大気汚染物質の排出量を大幅に削減してきています(図2-5-7図2-5-8)。また、自動車の燃料の品質を確保することは、自動車側の対策と同様、自動車排出ガスによる大気汚染防止に必要な対策の一つであり、大気汚染防止法に基づき燃料中の硫黄分を大幅に低減させる等、逐次規制を強化してきています(図2-5-9表2-5-2)。





図2-5-7 ガソリン・LPG乗用車規制強化の推移

図2-5-8 ディーゼル重量車(車両総重量2.5t超)規制強化の推移

図2-5-9 軽油中の硫黄分規制強化の推移

表2-5-2 燃料品質項目への追加とその許容限度設定目標値


 特に、平成8年5月以降は、中央環境審議会で今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について継続的に審議が行われてきており、17年4月には、ディーゼル自動車等の規制強化に関する第八次答申が取りまとめられました(表2-5-3表2-5-4図2-5-10)。




表2-5-3 中央環境審議会での審議状況

表2-5-4 新たな排出ガス低減目標値

図2-5-10 規制地の各国比較図(ディーゼル重量車)


 第六次答申を受け、平成16年6月には、二輪車の排出ガス規制の強化を行い、17年3月には、これまで未規制であった公道を走行しない特殊自動車に対する排出ガス規制を新たに行うため、「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案」を第162回国会に提出しました。
 また、大気環境の改善には使用過程車の排出ガス低減も重要であることから、事業者や地方公共団体によるディーゼル微粒子除去装置(DPF・酸化触媒)の装着について補助を行い、普及を促進しています。
 イ 大都市地域における自動車排出ガス対策
 自動車交通量が多く交通渋滞が著しい大都市地域を中心とした、厳しい大気汚染状況に対応するため、関係機関が連携して総合的な取組を行っています。なかでも自動車NOx・PM法(図2-5-11)により関係8都府県が平成15年度に策定した「総量削減計画」に基づき、自動車からのNOx及びPMの排出量の削減に向けた施策を計画的に進めています。また、14年10月から開始された、同法による車種規制の円滑な施行を図るため、排出基準非適合車を廃車して排出基準適合車を取得する際の自動車取得税の軽減措置の拡充や、担保要件の緩和を含む政府系金融機関による低利融資等の普及支援策を講じています。


図2-5-11 自動車NOx・PM法の概念


(2)低公害車の普及促進
 平成13年7月に策定された「低公害車開発普及アクションプラン」に基づき、実用段階にある低公害車について、22年度までのできるだけ早い時期に1,000万台以上の普及を目指すこととしています。16年9月末現在での低公害車(軽自動車等を除く)の普及台数は、全国で約829万台です。
 また、次世代低公害車の本命と目される燃料電池自動車については、平成14年に、経済産業省、国土交通省及び環境省の副大臣で組織する「副大臣会議燃料電池プロジェクトチーム」により、燃料電池自動車の実用化・普及を加速化させるための戦略的技術開発、規制の再点検等の施策の強化・拡充等について提言が行われました。また、14年12月には、市販第1号となる燃料電池自動車を政府公用車として5台導入し、17年3月末現在で8台導入しています。
 ア 普及促進のための補助施策等
 自動車税のグリーン化、低公害車の取得に関する自動車取得税の軽減措置、所得税・法人税についての特別償却又は税額控除措置を講じています。また、地方公共団体や民間事業者等による低公害車導入に対し、各種補助を行っています。
 また、低公害車普及のためのインフラ整備については、国による設置費用の一部補助と燃料等供給設備に係る固定資産税等の軽減措置を実施しており、平成15年度末までに319か所の燃料等供給施設(エコ・ステーション)が設置されています。
 イ 政府による低公害車の導入
 国の各機関においても国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)に基づき、公用車への低公害車の導入が進められており、平成16年度末には政府の一般公用車はすべて低公害車に切り替えられました。

(3)交通流対策
 ア 交通流の分散・円滑化施策
 バイパス、環状道路をはじめとする道路網の体系的整備、交差点及び踏切道の改良を推進しました。平成16年度には、ETCの整備・普及を促進するとともに、道路交通情報通信システム(VICS)の情報提供エリアのさらなる拡大及び道路交通情報提供の内容・精度の改善・充実に努めたほか、信号機の高度化、公共車両優先システム(PTPS)の整備、総合的な駐車対策等により、環境改善を図りました。環境ロードプライシング施策を試行し、住宅地域の沿道環境の改善を図りました。
 イ 交通量の抑制・低減施策
 「新総合物流施策大綱」等に基づき、共同輸配送の推進や物流拠点の整備等を行いました。都市における公共交通機関の整備やサービス・利便性の向上、さらに約180か所の交通結節点の整備を進め、公共交通機関の利用促進を図りました。交通需要マネジメント施策の推進を図り、地域における自動車交通の調整、交通サービスの改善等を行う実証実験に対して、事業費の一部を補助しました。

(4)微小粒子状物質に関する検討
 近年、浮遊粒子状物質(SPM)の中でも微小粒子状物質(PM2.5)と健康影響との関連が懸念されつつあることから、PM2.5の測定法について調査・検討を実施しました。さらに、PM2.5の健康影響の評価を進めるため、当該物質についての疫学調査、実測調査、動物実験等を実施しました。また、ディーゼル排気粒子(DEP)については引き続き実測調査を実施しました。さらに、粒径がおおむね50nm以下の極微小粒子(環境ナノ粒子)についても、生体影響が懸念されていることから、動物実験等の調査を開始しました。

(5)船舶・航空機・建設機械の排出ガス対策
 窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等の排出規制等を内容とするMARPOL73/78条約の1997年の議定書の締結に向けて、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号)、並びに揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年法律第88号)の一部改正を行いました。平成17年5月の施行を控え、16年11月から船舶からのNOx、SOx等大気汚染物質の排出抑制に向けた取組を着実に進めています。また、同条約では、5年ごとにNOx排出規制値が見直されるなど、今後さらに規制が強化されることが見込まれます。このため、革新的な環境負荷低減技術の開発と国際海事機関(IMO)における船舶からの排出ガスに関する規制の見直しへの対応についての検討を併せて行う総合的対策を開始しました。
 航空機からの排出ガスについては、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準を踏まえ、航空法(昭和27年法律第231号)により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等について基準が定められ規制されています。ICAO航空環境保全委員会(CAEP)において合意された、平成20年以降に開発されるエンジンに対する窒素酸化物の排出基準の強化については、17年2月にICAO理事会で採択されたところです。
 建設工事に伴う排出ガスについては、公共事業を中心に窒素酸化物等を低減している排出ガス対策型建設機械の使用を推進するとともに、さらなる排出ガス低減施策について検討しています。また、建設機械のうち公道を走行しない自動車については、17年3月に第162回国会に提出した「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案」の規制対象としています((1)参照)。


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