第2節 温暖化が何をもたらすのか


 地球温暖化問題に取り組むためには、その背景となる科学的知見を正確かつ客観的に把握し、その知見に関する認識を全世界の人々と共有することが必要です。特に、人の活動に伴う温室効果ガスの排出と気温の上昇との関係、地球温暖化とその人間や生態系への影響との因果関係や影響の程度についての知見を共有することが重要です。

1 今、何が起きているのか


 温室効果とは、太陽からのエネルギーで暖められた地球が放射する熱を、大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスが吸収し、再び地表に戻すこと(再放射)をいいます。これにより、地球の平均気温は15℃前後と、生物が生きるのに適した環境に保たれてきました。しかし、産業革命以降、化石燃料を大量に燃焼させるなど、人の活動に伴って排出される量が急速に増えたため、近年は大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けています(図1-2-1)。


図1-2-1 地球温暖化のメカニズム


 平成13年に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書によれば、20世紀の100年間に、世界の平均気温は約0.6℃、平均海水面が10〜20cmそれぞれ上昇し、北半球の中高緯度では大雨の頻度が増加した可能性が高いことなど、さまざまな気候の変化が観測されています。同報告書によれば、過去50年間に観測された温暖化の大部分は人の活動に伴う温室効果ガス濃度の増加が原因となっている可能性が高いと結論づけています(表1-2-1)。


表1-2-1 近年観測された変化


 平成16年に、カナダ、米国、ロシアなど8か国の科学者が参加する北極協議会が取りまとめた報告書によれば、アラスカ及び西カナダの冬季の気温が3〜4℃上昇したこと、過去30年間で北極圏の積雪面積が約10%、夏季の海氷面積が約15〜20%減少したことが示されました。

2 今後、何が起こるのか


 IPCCでは、将来起こり得る地球温暖化の可能性を示すために、温室効果ガス排出シナリオを作成し、将来の温室効果ガス排出量の変化と、それに伴う気温上昇など一連の予測を行っています。さらに、そのシナリオに応じて、どの程度気温が上昇し、どの程度リスクが増加するのかを5つの指標を用いて示しています(図1-2-2)。


図1-2-2 温室効果ガス排出シナリオに対応した気温の上昇と影響のリスクとの関係


 IPCC第3次評価報告書では、地球温暖化の影響による気温の上昇が少ない段階では、一部の地域や分野に好影響をもたらす可能性があるものの、気温の上昇とともにリスクが増加することが示されました。また、影響が現れる程度は世界で一様でなく、国や地域によって異なること、影響に対する備えの程度によって、人や生態系への被害の程度が異なることなども示されました(表1-2-2)。


表1-2-2 地球温暖化に伴う様々な影響の予測


 さらに、平成17年2月に英国で開催された「温室効果ガス安定化に関する国際会議」では、IPCC第3次評価報告書以降の新しい知見が発表され、多くの場合、地球温暖化の影響は以前考えられていたよりも深刻であることが示唆されました。



コラム 「デイ・アフター・トゥモロー」は本当に来るのか

 平成16年に公開された映画「デイ・アフター・トゥモロー」では、長期的な地球温暖化の進行によって海洋大循環が停止し、その結果、北半球で急激に気温が低下してパニックが発生することが描かれています。
 この映画はフィクションであり、科学的に起こり得ない現象も含まれています。しかし、IPCC第3次評価報告書によると、地球温暖化の影響として、海洋の循環が弱まると予測されています。このほか、地球温暖化の進行に伴って、海洋や陸域で吸収されるCO2が減少することが予測されており、このため大気中のCO2濃度がさらに増加すると考えられています。また、グリーンランドで気温が3度以上高い状態が数千年続くと、グリーンランドの氷床は完全に溶け、海面水位が7m上昇するという大規模な特異現象も予測されています。



3 日本でも起こり得る深刻な影響

 日本では20世紀中に平均気温は約1℃上昇しました(図1-2-3)。また、近年、一部の高山植物の生息域の減少、昆虫や動物の生息域の変化、桜の開花日やカエデの紅葉日の変化など、生態系の分布に変化が現れており、豪雨の発生頻度の増加なども観測されています。このような気象や生態系の変化の原因の一つとして地球温暖化が指摘されています。しかし、今のところ、これまで起きている具体的な事象と、人の活動が原因で起こる気候変動との因果関係についての科学的根拠は十分に確立されておらず、今後のさらなる研究の進展が期待されます。


図1-2-3 日本の年平均地上気温の平年差の経年変化(1898年〜2004年)


 このように、科学的な不確実性は残っているものの、将来、日本においても、こうした気候の変化やその影響が、より深刻になるという研究も発表されており、私たちは予防原則に基づき、気候変動問題への対策を世界規模で推し進めていかなければなりません。



コラム 日本では何が起こるのか

 わが国では、ソメイヨシノの平成元年〜12年の平均開花日が平年より3.2日早まり、イロハカエデの紅葉日が過去50年間で約2週間遅くなるなどの生態系の変化が報告されています。
 今後地球温暖化が日本に与える影響について、気象庁気象研究所などは、二酸化炭素の大気中濃度が、毎年、前年比1%ずつ増加するなどと仮定した温室効果ガス排出シナリオを用いて予測を行いました。その結果、日本付近での100年間の年平均地上気温の上昇や、海面水位の上昇は、世界の平均よりもやや大きくなると予測されています。そして、こうした気候の変動は、生態系、農業、社会基盤、人の健康などに多大な影響を与えることが予想され、私たちの生活形態が一変する可能性が指摘されています。
 地球温暖化が日本の気候に与える影響について、東京大学、国立環境研究所、海洋研究開発機構の研究グループが、地球シミュレータによる予測計算を行っています。それによると、今後、日本の猛暑、豪雨の頻度が一層増加することが予測され、100年後には6〜8月の日平均気温が環境重視で国際化が進むシナリオ(2100年の二酸化炭素濃度が550ppm)でも3.0℃、経済重視で国際化が進むシナリオ(2100年の二酸化炭素濃度が720ppm)では4.2℃上昇し、これに伴い、真夏日は50〜70日増加し、降水量も17〜19%増加すると予測されています。




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